■音楽劇『ライムライト』vol.3■
石丸幹二ら名優たちの手でチャップリンの名作が蘇る、音楽劇『ライムライト』。
げきぴあでは顔寄せ、本読み稽古とご紹介していますが、もう少し日にちが進んだ稽古場にもお邪魔してきました!
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この日公開されたのは、ちょうど前回・本読み稽古の記事でご紹介した冒頭のシーン。
名曲『エターナリー』も美しく響いています。
演出の荻田浩一さんが豊かな語彙で語っていた情景が、立体的になっているのがダイレクトに伝わってきます!
作品が息づき、動き出していく段階を目の当たりにするのは、ワクワクしてしまいますね。
物語は、石丸幹二さん扮する老芸人カルヴェロと、野々すみ花さん扮する足が動かなくなった若きバレリーナ・テリーの恋が軸ですが、1910年代のロンドンの暗い世相、舞台芸術へ情熱をかける人々の思い、といったものが複層的に織り込まれた作品になりそう。
そしてやっぱり、古き良き時代の映画のような、ノスタルジックな手触りがどこかにあります。
カルヴェロを演じる石丸さんからは、そんな"ノスタルジー"が、伝わってくる気がしますし...
テリー・野々さんは、透明感があるとともに、なんだか悲しみも湛えているようで。
前回、荻田さんが話していた「行き場のないふたりが出会ってしまった」という切なさがある、ふたりなのです。
もちろん石丸さん、野々さんだけでなくほかのキャストの皆さんからもそんなムードはにじみでており、ぐぐっと引き込まれる空気感のある舞台。
良知真次さん
吉野圭吾さん
植本潤さん
保坂知寿さん
荻田さん曰く、キャストの皆さんは「ロンドンの人々を演じている一座の人」ということで、物語に絡んでいない間も舞台上にいるようです。
そんな皆さんが投げかける鋭い視線が、シリアスな空気感を煽ります。
シリアスなのは当然で、時代は1914年、まさに第一次世界大戦が勃発せんとしている...という時期。
喜劇王・チャップリンの作品とはいえ、陽気でコミカルなだけではないのです。
「このぶんじゃ戦争だ!」と良知さん演じる町の男。
...と思いきや、ご陽気な展開へ!
その急激な変化は、陰鬱な空気を無理やりにも払拭したいというような当時のロンドン市民の姿のようでもあり、このあたりの味わいはぜひ本番の舞台で感じたいところですが、単純に音楽やダンスが楽しい! というシーンでもあります。
そんな喧騒の中、カルヴェロは倒れたひとりの少女を助け、自分のフラットへ運びます。
さてこの作品、劇中劇も織り込まれ、作品を色付けていきます。
吉野さん扮するポスタント氏。
陽気な登場で場の空気をガラリと変えるのは、さすが芸達者な吉野さんという感じ!
ポスタント氏は劇場の支配人にして、舞台のMC的存在です。
石丸カルヴェロは、チャップリンを彷彿とさせるようなユーモラスな動きで、舞台を大いに沸かせてくれそうな予感...!
保坂さんのコメディエンヌっぷりも炸裂です。
佐藤洋介さん、舞城のどかさんのダンサーコンビの華麗な踊りも...。
カルヴェロの鉄板ネタ・"いわし"の歌を存分にどうぞ。
しかし成功の裏には転落が...。
失敗をしたカルヴェロに、客は容赦なく背を向けるのです。
この話、バックステージものとしての面もあり、舞台芸術のシビアな裏側を描いています。
一方、石丸さんと野々さんは、カルヴェロとテリーが少しずつ、不器用そうに距離を縮めていく様子を、もどかしくも繊細に演じています。
それにしても、こんな悲しそうなテリーを目の前にしたら...
カルヴェロだって、こんなことして彼女を笑わせてあげたくなるの、わかりますよね。
かつてコメディアンとして名声を得ていたものの、表舞台から遠ざかり仕事もなかなかやってこないカルヴェロ。
バレリーナの命である足が動かなくなってしまったテリー。
大きな欠落を抱えたふたりが、些細なことで心を動かし微笑み、少しずつ心を通わせていく姿は温かく優しく、この物語の本質がここにあるような気がしました。
1950年代に作られた郷愁あふれる名画の世界と、繊細な"荻田ワールド"が見事に融合し、新しい味わい深い『ライムライト』が生まれつつあります。
本番舞台をお楽しみに!
取材・文・撮影:平野祥恵(ぴあ)