あの宝塚歌劇団に、終戦直後9年間だけ存在した"男子部"。その実話をもとに、宝塚の舞台に立つことにすべてを捧げた男子たちの熱い青春を描いた舞台『宝塚BOYS』。
2007年に初演され、その後も上演を重ねるこの人気作が現在、東京芸術劇場 プレイハウスにて上演中です。
5年ぶり・5度目の上演となる今回は、これまでにもこの作品に出演経験のあるメンバーを中心とした「team SEA」と、フレッシュな「team SKY」の2チーム制での上演ですが、先に上演された兄貴分の「team SEA」に続き、いよいよ8月15日(水)からフレッシュな「team SKY」が登場。
そのゲネプロレポートをお届けします。
【ゲネプロレポート】
言わずと知れた "女の園" 宝塚歌劇団にかつて終戦直後の9年間だけ実在していた「男子部」の顛末を記録した本『男たちの宝塚』(辻則彦・著)を原案にした舞台『宝塚BOYS』。脚本に人情味ある喜劇を描かせたら随一の中島淳彦、演出に作品の核を追求しジャンルを問わぬ活躍を続ける鈴木裕美という演劇界の職人が組んだこの作品は、2007年に初演。以来変わらず愛され、男子部員を演じるBOYSのキャストを変えながら、再演を重ねてきた。そして今夏、5度目の上演が実現。初の試みとして、これまで本作に出演経験のあるキャストを中心としたteam SEAと、本作には全員初登場の期待の若手からなるteam SKYの2チーム制で行われている(宝塚風にいえば「海組」と「空組」といったところか)。先陣を切った兄貴分のSEAが全9回(8月4日~11日・東京芸術劇場プレイハウス)の公演を見事に務め上げ、フレッシュな弟分にバトンタッチ。いよいよ15日から、team SKYのバージョンが初お目見えする(8月15日~19日・東京芸術劇場プレイハウス、ほか地方公演もあり)。その初日に先立って行われたゲネプロを見学した。
なお出演は永田崇人、溝口琢矢、塩田康平、富田健太郎、山口大地、川原一馬、中塚皓平(以上BOYS)、本作の紅一点、寮のまかない担当・君原役とBOYSの世話役となる歌劇団の社員・池田役も新キャストとなり、それぞれ愛華みれと山西惇が演じる。
幕開きのシーンは、おそらく初演から変わっていない。BOYSの中心となる上原がただひとり舞台上にたたずむ中、空襲警報のサイレンや爆撃音が響き渡る。怯え、逃げ惑う上原。やがて玉音放送が聞こえてきて日本の敗戦が告げられ、上原は顔をくしゃくしゃにしながら涙に暮れる。そこに静かに流れてくる、清らかな乙女の歌声。宝塚を象徴する歌「すみれの花咲く頃」だ。それまで苦悶と悲嘆しかなかった上原の表情がみるみる明るくなり、生きる希望を得たことが手に取るように伝わる。一切台詞のない、ほんの数分のシークエンスだが、戦争と敗戦で心身ともに傷ついた当時の若者たちにとって、エンタテインメントがどれほどその先の "生きる希望" と直結していたか。70年以上を経た今の私たちにもそのことがダイレクトに届く、演劇的で上質なシーンだ。上原演じる永田は、舞台でメインの役どころを演じるのは本作が初。大げさに見せたり技巧に走ったりすることをせず受け止めたまま、そのときの上原の感情の流れを素直に表現。好感の持てる上原像を冒頭から印象づけることに成功している。
その上原はあろうことか宝塚歌劇団の創始者・小林一三に、歌劇団への男性登用を訴える手紙を送る。いずれ男子も含めた"国民劇"の上演を考えていた小林の意にも運良く沿い、終戦と同年の1945年に宝塚男子部が設立。「宝塚BOYS」はそれからの、上原を中心とする7人の男子部員たちの9年間に渡る奮闘と挫折を、涙と笑いを交えて描き出す。
中島らしいカラッと明るいタッチの人情ドラマであり、BOYSもいかにも "男子" な、ちょっとおバカで愛すべき面々。思春期的な清々しい青さをSEAよりも感じさせるのは、年齢的にも若いSKYの特徴だろう。一番の陽気者で時に空回りするのもご愛嬌の太田川(塩田)が、それを象徴するポジションといえそうだ。だがひと皮むけばそれぞれ複雑なバックボーンを抱えており、戦争が残した深い爪痕が見え隠れする。終戦後、別人のようになってしまった元特攻隊員の兄を受け入れられない山田(山口)、長崎でキノコ雲を目撃した星野(中塚)、父の生死がいまだわからない竹田(川原)らが秘めていた心情を吐露する場面にハッとする。
そんな彼らが生まれ変わったような気持ちで全身全霊託したものがエンタテインメントであり、宝塚大劇場の舞台に立つという夢であった。"女の園" として君臨する今日のタカラヅカを知っている私たちは、その夢が実現しないことを知っている。知りながらいつしか彼らのファンとなり、どうにかその夢を実現させてあげたいと沸々湧き上がる感情を抱えながら観るのが、この舞台の観客としての醍醐味だ。完全に夢が潰えた瞬間、それまで端正な芝居を続けていた竹内役の溝口が誰よりも乱れ、感情を爆発させる。その落差が、彼らがただ純粋に懸命に夢を追ったことを物語っている。
舞台はここで終わらない。叶えられなかったはずの "夢" がラスト、華やかなレビューシーンとして実現するのだ。キラキラの照明を浴び、燕尾服に大きな羽根飾りを背負った彼らが大階段を下りてくる姿に、ファン(観客)は胸熱くせずにいられないはず。バレエに長けたダンスリーダーの星野や、旅芸人の息子・長谷川(富田)らキャラクターの個性がそこでも際立つ。切なくも粋なこの展開には、(過去のバージョン含め)何度観ても心を締め付けられる。幻の晴れ舞台に精一杯の拍手を贈りたい。
折りしも世間では、女性差別に関わる話題が連日報じられている。この舞台で描かれるのはそれとは逆の、"男性だからこそ" なし得なかった夢の残骸。そんなタイミングでの「宝塚BOYS」が投げかけるものは、5度目の上演にしてなおも多い。だが山西演じる池田――彼も夢を追う8人目のBOYSだ――の絶叫まじりの「人生に無駄なことはひとつもない!」というシンプルなフレーズこそが耳を離れない。
取材・文:武田吏都
撮影:平野祥恵(ぴあ)
▽ 上原金蔵役の永田崇人
▽ 竹内重雄役の溝口琢矢
▽ 太田川剛役の塩田康平
▽ 長谷川好弥役の富田健太郎
▽ 山田浩二役の山口大地
▽ 竹田幹夫役の川原一馬
▽ 星野丈治役の中塚皓平
開幕に際し、永田崇人さん、溝口琢矢さんからのコメントも到着しました!
●永田崇人
僕ら六期目のBOYSは、平均年齢が今までで一番若く、その分戦争から最もかけ離れている人間たちの集まりです。ですが稽古場では、皆で"苦い飯を食う"というような経験もして、それが舞台に表現されているんじゃないかとも思います。僕らにしかできない『宝塚BOYS』があると改めて感じましたし、team SEAのお兄さん達とは違う僕らのBOYS、それを発見する楽しさもあると思います。「この作品に出会えた人は幸せだ」と仰った方がいるのですが、それはご覧になる方も、そして、僕らのように関わることが出来た人間もそうだと思います。
本当に幸せだなと思える、大好きな作品です。
是非、劇場に足を運んで、一緒に青春をして頂きたいと思います。
●溝口琢矢
こんにちは、溝口琢矢です。『宝塚BOYS』、今回2チームあり、僕たちは"6th BOYS(ろくボーイズ)"となるのですが、とにかく緊張しております。チームでは僕と富田が最年少なんですが、メンバーはみんな凄く優しくて、崇人君含め皆で支えて下さっていて、本当にいいチームが出来上がっているんじゃないかと思っています。この若さとエネルギーは、舞台で盛大に発揮される筈ですので、是非皆様楽しみに、そしてワクワクしながらお越し頂ければと思います。
よろしくお願いします。
【『宝塚BOYS』バックナンバー】
・2008年版稽古場会見
・2010年版開幕レポート
・2013年版
# 稽古場レポート
# 開幕レポート
・2018年版
#良知真次&藤岡正明インタビュー
#team SEA開幕レポート
#team SEAアフタートークレポート
【公演情報】
・8月4日(土)~19日(日) 東京芸術劇場 プレイハウス
・8月22日(水) 日本特殊陶業市民会館 ビレッジホール(愛知)
・8月25日(土)・26日(日) 久留米シティプラザ ザ・グランドホール(福岡)
・8月31日(金)~9月2日(日) サンケイホールブリーゼ(大阪)