来年2014年に創立100周年を迎える宝塚歌劇団。
日本を代表する劇団にして、世界にも名高いレビュー劇団である。
なんといっても一番の特色は、劇団員が女性のみ、というところ。
女性が演じる男性、"男役"が醸し出す色気は世の多くの女性の心を掴み、ここにしかない独特で美しい世界に熱狂的なファンも多数いるのはよく知られている。
だがかつて、この宝塚歌劇団に、「男子部」が存在した――
その驚くべき事実に迫った辻則彦のノンフィクション小説『男たちの宝塚~夢を追った研究生の半世紀』を原作に、明日のスターを夢見てレッスンに励むも、ついに宝塚大劇場に立つことが叶わなかった男たちの青春を描いた作品が、『宝塚BOYS』。
おかしくも切ないこの青春グラフィティは好評を博し、2007年、2008年、2010年と公演を重ね、この夏、4度目の上演が決定。
4代目のBOYSも、個性的で実力があり、そして愛らしいメンバーが揃ったようだ。
7月某日、そんな新生BOYSが汗を流す稽古場を取材した。
↑稽古場にはすでに本格的な舞台セットが組まれていました
稽古場に入ると、彼らはダンスの自主稽古をしている様子。上山竜司、小林大介が入野自由をリフトしている。どうやら入野は、初風諄扮する寮のおばさん、君原佳枝のポジションを務めているよう。隣でそれを見守っているのは、吉沢悠。全体を見て積極的に指示を出しているのは、中河内雅貴だ。「プリエした力を利用して持ち上げて」「もっと肩を入れて、腕を伸ばしきった方がツラくないよ」等々、具体的にアドバイスしていく。持ち上げられる入野が、掴まれる腕が痛いと言うと、中河内と良知真次のダンス巧者ふたりがリフトする側にまわり、実践。「うん、今の方が痛くない」と入野。そんな彼らの姿を見て、稽古場に入ってきた初風が「わぁ、高いのねぇ」とおっとりと言う。ここで実際に上山・小林が初風をリフトしてみることに。何度か繰り返し、「君ちゃん、大丈夫でした!?」と心配気なBOYSに、「大丈夫、大丈夫。ふわっとしてるわ~」と初風。"君ちゃん"と呼びつつも敬語を使う男子たちが微笑ましい。一方、お役御免(?)の入野は、続けて板倉チヒロとともに別の振りの確認をしだした。止まらず動き続ける彼らの姿は、夏の暑さと相まってか、学校の部活動にも似た"青春"を思い起こさせる。
しばらく後、演出の鈴木裕美も稽古場に登場。すると中河内がやってきて、「芸名、決めました!」と鈴木に申告した。劇中で彼らが名乗るステージネームは、俳優自身が考えたもののようだ。中河内が告げた名前が、現代の宝塚スターにも通用しそうな名前だということで、ひとしきり盛り上がる。そんなカッコイイものから、ネタのようなものまで、芸名ひとつとっても個性が出ていて面白い。
この日稽古にあたったシーンは、訓練を積むもなかなかステージに立つチャンスがない彼らのもとに、男女合同公演の台本の準備稿が届く場面。やっとステージに立つことが現実味をおび、彼らが浮かれながら、その台本を実際に演じるシーンだ。喜びを爆発させる彼らが即興でパリの街の雰囲気を強引に作り上げていく姿がコントのようで楽しい。テンポの良いやりとりが笑いを誘うが、鈴木は「扱っているネタ自体が、大ネタなんです。ベタベタのネタなの。ここまでやったら、クスクス笑いじゃなくてドカンと笑って頂きたい。ハマらないなら、外した方がマシ。何がネタで、何がツッコミかを認識して」と言い、セリフの強弱、間合いなどを、その裏にあるキャラクターの心情を丁寧に説明しつつ、こと細かに演出をしていく。「強くツッコミながら言うパターンと、あえて無感情で流すパターン両方やってみて」等、トライアルも繰り返す。BOYSもその鈴木に応え、ハイテンションで"大ネタ"をかっ飛ばす。鈴木からはそれなりに厳しい言葉も飛び出たが、彼女も「今の、イイ!それで行こう!」と笑い転げるシーンも多々あった。
その後、くだんの君原さんとのダンスシーンも、精一杯感はありつつもなんとか通し終えたBOYS。お互い「こうしてみればいいんじゃない」と、助け舟を出しあったりもしていて、そんなところも"青春"の言葉がそこはかとなく滲む。BOYSに必要な最重要ポイントであろう懸命さは充分、笑顔と汗が弾ける稽古場に、新生BOYSの誕生が楽しみになった。
【公演情報】
7月23日(火)~8月11日(日) シアタークリエ(東京)
8月13日(火)愛知県芸術劇場 大ホール
8月24日(土)・25日(日)兵庫県立芸術文化センター 阪急 中ホール
9月11日(水)新潟市民芸術文化会館 劇場