■浦井健治ソロコンサート『Wonderland』#5■
浦井健治さんのデビュー15周年を記念したソロコンサート『Wonderland』、いよいよ開催が来週に迫ってきました。
浦井さんの15年のヒストリーをたどるものになりそうなこのコンサート、稽古場取材や、過去出演作品の振り返りなどで、その開催への道のりを追っている当連載ですが、本日は浦井さんのロングインタビューをお届けします!
★ 浦井健治 ロングインタビュー ★
――デビュー15周年、おめでとうございます。この15年は浦井さんにとってどんな年月でしたか?
「15年たったんだなぁという気持ちと、まだ15年しかたっていないんだなという気持ちの両方があります。その中には、本当にたくさんの人との出会いがありました。そしてたくさんの作品、楽曲と出会ったことにより、自分の人生さえも豊かに感じるようになった。つまりとても充実していました。振り返れば振り返るほど、すべての出会いが自分に与えてくれた影響を考えずにはいられない。かけがえのない時間だったなと思います」
――今回は、その15周年を記念したコンサートですね。
「はい。充実していた15年をぎっしりと、ギュッと詰めたコンサートになります。タイトルの『Wonderland』は、8月に出した初のソロアルバムと同じなのですが、これはおもちゃ箱をひっくり返したような、何でもアリで、とにかくお客さまに楽しんでもらえるようなものしたいという意味を込めています」
――15周年を記念してコンサートをやろうというのは、浦井さん発ですか?
「まわりの皆さんのご助言や、やってみないかというお話を頂いたことからなのですが...。実は僕、ソロでのコンサートをやろう、何を歌いたい? 例えばどんなアーティストのコンサートのようなものがやりたい? と訊かれた時、まったく何も浮かばなくて。そうではなくて、僕は「こういう俳優さんの、こういった芝居歌を歌いたい!」という思いで、そこに近づきたくて、今までやってきたんだ。それに気付いた瞬間、「あ、自分は役者なのか」と自分でも改めて発見しました。芝居の中の歌というものを、もっともっと深めていきたいし、今回お客さまには"役者がコンサートをやる"というところを徹底して楽しんでもらいたい。それによって、ミュージカルをより愛する、楽しむきっかけになってもらえたら最高ですね。そして自分にとっても、このコンサートでのトライから、芝居の中で歌う歌により説得力が増したり、声色が豊かになったり、お芝居の中での歌の重みがどんどん膨らんでいければと思っているんです」
――すごく深く"やる意義"を見出していらっしゃるんですね!
「僕もそろそろ若手ではなく"中堅どころ"になってきましたし(笑)、質を高めてきたねって思ってもらえるようにならないと。このコンサートを今やることは、これから先の自分を見据えることにもなると思います。過去・今・未来という3つが集約された一夜になるんじゃないかな」
――浦井さんは以前より"芝居歌"ということをよく仰っています。シンガーの歌ではなく、俳優が歌う歌を深めたい、と。ただ今回はコンサートです。歌い方は普段の芝居の中での歌唱と違ってきそうでしょうか?
「実は僕も、そこがどうなるんだろう?っていうワクワクした状態なんです。実はソロコンサートは初めてですし。ただ、今お稽古をしていて思うのは、例えば『エリザベート』、例えば『蜘蛛女のキス』...その楽曲を歌うと、体と喉が、細胞レベルでその役を覚えているんです。その当時の喉で、エネルギーで歌ってしまう。その曲のまわりにあった楽曲すべて、対峙していた役、共演していたみんなの顔も見えて、その作品の3時間、その空間の認識込みで1曲が歌える。これは役者ならではだと思うんです。面白いですよね」
――1曲に、その背景にある3時間なりの作品すべてのエネルギーが込められる! それはすごいです。でも、体力を消耗しそうです...。
「いや、それは大丈夫です! むしろ楽しいので。使う喉も、例えばシャルル(『薔薇とサムライ』『ZIPANG PUNK』)の歌と、夜神月(『デスノート The Musical』)の歌では、全然違う部分を使うんです。だから逆に消費が少ない。歌によって違うアプローチが出来るというのは、体力配分的にも助かるんです」
――今回、初のソロコンサートではありますが、コンサート自体はStarS等でもやっています。それとも心持ちは違いますか?
「お客さまに楽しんでいただくという点では、まったく変わりはありません。ただ、ソロというのは未知の世界なので...。と言っても、稽古場でもAKANE LIVさん、照井裕隆さん、加賀谷真聡さんたちが、すごくアットホームに存在してくださっているので、ひとりという感触がないんですよ」
――演出・構成の荻田浩一さんの存在も心強いですね。
「はい。『王家の紋章』からすぐにこのお稽古でしたので、気持ち的にも自然な流れで出来ますし、相談もたくさんしています。荻田さんとはたくさんの作品を一緒に作ってきているので、例えば『アルジャーノンに花束を』の楽曲だったら「どのタイミングでのチャーリーとして歌うのがいいだろうか」とか、お互いすぐ投げかけて、すぐに返せる。そこに(音楽監督の)かみむら周平さんが「こういうアプローチはどうだろう」「でもこういう風にやった方が今の浦井君の魅力が出る」とか、編曲する立場から仰ってくださる。その場でどんどん変えて、作っていくことができる現場です。贅沢な時間を過ごしています」
――ちなみに、先ほどから"役を通して歌う"という話をされていますが、新曲『Color of Dream』はその意味では作品背景を纏っていない曲です。これはどういう気持ちで歌いますか?
「これは逆に、素の僕が、お客さまひとりひとりに改めて「ありがとうございます」という思いを伝えられる曲になっているんじゃないかなと思います。
この曲は、15周年の記念に小坂明子さんに書き下ろしていただきました。小坂さんは、僕が初めて舞台に立った『美少女戦士セーラームーン』(2001年)で、「浦井君がタキシード仮面をやるなら新曲を書くよ」と仰って、『Tuxedo Versus』という曲を書いてくださったんです。今回は"僕のこれまで、今、そしてこれから"をひっくるめたアルバム・コンサートなので、その小坂さんに新曲を書いて頂いたというのは、僕にとっても大きな意味があります。そしてそれに自分で詞を付けないかと言われ、今の僕が思っていることをすべて詰めてみようと『Color of Dream』の歌詞が完成しました。メッセージはお客さま、ファンの皆さまひとりひとりに向けての思いです。ですので本当に、今の僕が思っていることを素直に表現しています。だからコンサートでは一緒にペンライトを振って、笑顔で盛り上がっていただければ」
――コンサート開催を目前にした気持ちは、気負うというよりワクワクでしょうか。
「気負いは...もちろんあるんです。ソロコンサートも、浦井にこんなことをさせてみたいと思って動いてくださっている方がいるからこそ出来ることだし、関わってくださる皆さんの気持ちにしっかり応えたい。そして自分にとっても15周年の結晶になるはずですし、新たに大きな一歩を自分が踏み出すんだと、強く感じています。僕の思いとしては、役者のやるコンサートで、こういう楽しみ方が出来るんだということを、今の僕のポジションでしっかり見せられたら最高です」
――役者である浦井さんのコンサート、ですね。浦井さん、役者という職業は楽しいですか?
「楽しいです! 楽しいし、苦しいし...」
――ご自分の天職でしょうか。
「それはおこがましい、かな。でも自分がその役をやらせてもらえる意味と、"役者は時代を映す鏡である"というところをちゃんと合致して、何かを提示できる役者でいたいです。なぜ今、浦井をその作品で使うのか。僕にこういうものを演じさせたい、この役をやらせたい、というのは、何か意図があるはず。自分はそこを流さず、ちゃんと理解して、一歩一歩踏みしめていきたいと思います」
――ありがとうございました。最後に、コンサートに来るお客さまへメッセージを。
「ダンスあり、歌あり、ちょっと面白いトークもありの"作品"となれば素敵だなと思って、いまお稽古に励んでいます。お客さまにとって、体がちょっと軽くなったり、笑顔になったり、明るい気持ちになってもらえるコンサートになれば嬉しいです」
取材・文:平野祥恵(ぴあ)
撮影:福井麻衣子
【浦井健治『Wonderland』バックナンバー】
【浦井健治『Wonderland』公演情報】
・9月29日(木) 東京国際フォーラム ホールA