■『ロンドン版 ショーシャンクの空に』vol.6■
開幕が目前に迫ってきました『ロンドン版 ショーシャンクの空に』。
本日は、W主役を務める佐々木蔵之介さんと國村隼さんのインタビューをお届けします。
佐々木さん演じるアンディは妻とその愛人を殺害した罪でショーシャンク刑務所に収監された元銀行家。
刑務所という理不尽な環境の中でも希望を持ち続ける男です。
一方で國村さん扮するレッドは刑務所生活も長く、調達屋として暗躍するなど、刑務所という理不尽な居場所に折り合いをつけ落ち着いてしまっている男。
そんな彼も、アンディの存在に影響されていくことになります。
映画でもよく知られるこの物語、おふたりはどんな思いで作品に向き合っているのでしょうか。
● 佐々木蔵之介&國村隼 INTERVIEW ●
――映画でも非常に有名な作品です。この作品に出演が決まった時のお気持ちは?
佐々木「まず戯曲がとても面白かった、魅力的だったのが第一なのですが、多くの方が知っている作品に出演できるということは僕の中で大きかったですね。映画でもよく知られている作品というのは、わりと演劇の入門的にはいいんじゃないかと思って、それは楽しいことだなと思いました」
國村「入門的に...?」
佐々木「演劇作品を観たことがない方でも、あの作品だったら知ってる、と劇場に来ていただける可能性があるというか。門戸が広く、敷居が低い作品だなと思ったんです」
國村「ああ、なるほど。僕は単純に、映画の『ショーシャンクの空に』が大好きだったし、皆さんが映画でよくご存知の作品の舞台、というのはすごく面白いなと。しかも自分の役は、モーガン・フリーマンがやっていたレッドというキャラクター! レッドという男はやっぱり魅力的やなと思いますので、やりたいなと思いました」
――それぞれの演じるアンディ、レッドという役柄をどう捉えていますか?
佐々木「この『ロンドン版 ショーシャンクの空に』に参加するにあたって、映画も改めて観ましたし、原作も初めて読みました。そういう素材、材料があるのは役を作るにあたり興味深いです。そして今、それらからのアプローチも出来ますが、実際稽古場に入って、毎日肉体的に殴られ蹴られ...を体験すると、原作や映画で感じた以上に「ここまで感じるか!」とアンディの置かれた理不尽さを感じています。そのシーンを稽古で返すというだけで、ドーンと気持ちが落ちるんですよ、あぁまた殴られるんだなぁ、稽古だけど理不尽だな、と(苦笑)。毎日家に帰って寝て、翌日も身体中あちこち痛いなあと思いながら稽古場に来るんです。実際のアンディの身にふりかかったものは想像したらもっとすごいんだろうなというのは、稽古場で僕が感じている肉体的痛みを通して感じますね」
國村「僕の中では、レッドは普通の人。ショーシャンク刑務所という理不尽な状況の中で、理不尽なことを受け入れる、理不尽なことの中に生きるすべを見出そうとする。現実的で実践的で前向き。そこにやって来るアンディは、その理不尽な状況に風穴をあけてしまう。ある意味スーパーマンなんですよ。だから"普通"の代表者としてのレッドは、「こいつはなんか俺たちと違うぞ、何が違うんだろう」とアンディを定点観測している観察者なんです。その観察をしていく中で、彼の持っている、絶対に失わない希望というものにどんどん自分も引き寄せられるように影響されていく。さらに自分の中のそういう変化も俯瞰している、レッドはそういう人間じゃないかと思っています。それはそのまま、このお芝居全体をも俯瞰する、お客さんにとってみれば水先案内人にもなると思います」
――特にアンディは理不尽な状況におかれているのに希望を失わない。なぜそういられたと思いますか?
佐々木「何故でしょうね...。僕の希望を話しますと、1月、地方公演が終わったらシワタネホという温泉に行こうかなと...」
(※シワタネホ...メキシコにある町。劇中アンディはシワタネホで小さなホテルを経営することが夢だと語る)
國村「どこにあるの!」
佐々木「福岡で(全国公演が)終わるから、きっと九州の南の方にあるんですよ、そこには温泉があると思うんです(笑)」
國村「九州を勝手にシワタネホにしてるんだ」
佐々木「この大変な稽古の中、温泉に行きたいなというのを希望に乗り切ろうかと...(笑)。というのは冗談ですが、何よりもこの作品をいいものにしたなという思いで僕はやっています。...アンディが何故希望の灯火を灯し続けていたのか、ということは、今考えているところです。でも彼は刑務所に入る前から、すでに偽名で口座を開設している。2回の終身刑をくらっているのに、もしここから出られたらということを、一歩先一歩先を考えてやっていた、そういう男なんです。でもそれがあったとしても(自分だったら)挫けてしまうとは思うんですが、なぜ挫けなかったのか、それは今も考えています」
國村「レッドは希望なんて持っていたら、絶対にこんな理不尽な社会では生きていけないと思っていた男。希望というものとは一番対極にあったはずなんですよ。それがアンディの存在によって、あれ、ひょっとして...?と思い、変わっていく。最後はその希望を(観る人に)託す。レッドの最後のセリフが「それが、俺の希望」というんですよ。ただそれはあくまでも希望であって、実現するかどうかはわからない、というのもまた面白いところで、演出家(白井晃)ともそんな話をしていたんです。ひょっとしたら映画のラストシーン...綺麗な海岸線が俯瞰で映る中ふたりは再会しますが、あれはレッドのそうあってほしいという妄想かもしれないね、現実にそれが起こったかどうかはわからないよ、と。...今回の舞台も、そういう感覚になると思います」
――映画版と舞台版で違うところはどのあたりになりそうですか?
國村「演出家も言ってますが、理不尽な状況というのをお客さんにも共有してもらいたい。自分も僕らと同じように、檻の中に放り込まれている感覚を共有してもらいたい。ですからショーシャンク刑務所の中の理不尽さ、佐々木君がいま稽古であっている"エライ目"、そういうところが今回はリアリスティック。映画における刑務所の描写はだいぶ距離があるものでしたから、今回は観ているお客さんもぞっとするくらいに身近に感じると思います」
佐々木「そうですね。やっぱりその時間その場所を共有する演劇は、同じように体験していただくということですから、目の前で起こっていることを共有する、一緒に体験する感じになるのではないかと思います。演出家も「劇場自体を鉄格子にしたかった」と言うくらいですので、皆さんも多分"囚人体験"が出来るのでは(笑)」
――おふたりは舞台では初共演とのことですが、今回ガッツリ組んだ印象は?
國村「佐々木君はピッチャーで言ったらストレートピッチャー。あまり変化球使わないタイプかな。まっすぐ来るタイプ。同じ関西人だからベースが一緒やなというところもあるね。それは白井さん含め、考えていることがあまりギャップなく、通じるところがありますね」
佐々木「そうですね、関西のノリといいますか、なんとなく肌で感じる部分はありますね。それは面白いということだけでなく、芝居に関してここはこうしたい、というのが。あと先輩に言う言葉ではないのですが、國村さんは演出に対して、的確に応えられる方なんですよ」
國村「いや、佐々木君だって"するん"と来ますからね、相乗効果なんですよね」
――キャストは男性のみですね。
國村「非常に個性的な人ばかりで面白いですよ。みんな淡々とそれぞれの役割を果たすべく稽古を重ねている。ほんとに役者さんもスタッフもきちっと同じ方向をみて、こつこつ積み重なっている現場という感じがします。そんな中でも人気というか、みんなに愛されているのは意外なことに鬼監守のハドリー(粟野史浩)。彼のキャラはなかなか面白い。突拍子もなくボケたことをするんですよ。本人は一生懸命なんですが」
佐々木「なんかオモロいんですよね。あたまから最後までどーんと、よくあんだけ大きい声でずっとしゃべってられるなって思う。あとこの間はリコ(斉藤悠)が穴だらけのジャージ着てました。まあみんなそんなんですけど。毎日同じTシャツ着てるんじゃないか自分ら、みたいな。三浦(涼介)君だけですよ毎日いろんな服着てくるのは」
國村「彼はファッショナブルやね」
佐々木「毎日違う服着てね! あと男だらけだからか、稽古場の更衣室が狭いんですよ! お前ら外で着替えてもいいやろみたいに思われてるんですよ、なんやこれは(笑)!」
國村「それは稽古場のスペースの問題やろ」
佐々木「いや、もし女優さんいたらこんなことないですよ、スペースなかったらもっと大きい稽古場になってますよ。この際文句言っておきましょうよ(笑)!」
――最後に、この舞台『ロンドン版 ショーシャンクの空に』で、お客さまにどんなことを伝えたいですか?
國村「多分この作品の一番の大きなキーワードは"希望"。僕が演出家が言ったことで面白いなと思ったのは、「このショーシャンクというのは刑務所として登場するけど、ひょっとしたら自分たちの住んでいる社会にそのまま置き換えて、それの一番極端な形、象徴としての刑務所と捉えられるんじゃないかな」ということなんです。自分たちがリアルな社会で暮らしている中で、果たして希望というものをちゃんと持ち、それに向かって生きているんだろうかという疑問にのっとった上で、この『ショーシャンクの空に』をやってみるのはどうだろうと。この芝居の中で特にアンディはものすごく強く希望を持ち、アンディに触発されたレッドも、信じちゃいけないと思ってた希望を信じてみようかなと思うようになる。そこを明確にお客さんに伝えられたら、希望というものの意味も伝えられると思う。ここで起きている話は何も刑務所だけのことではないかもね、と見ているお客さんが思ってくれればと思います」
佐々木「そうですね。白井さんからショーシャンク刑務所というのはこの社会の極限であるという風に考えたら、という提案があった時に同じように思いました。僕がレッドに希望を渡し、それをレッドが掴んだように、僕らのこの芝居を観てお客さんが何かを受けとってくれればという思いです。今生きていることの希望でも、小さな灯火でもいいので...」
國村「映画は名作ですが、映画と比べるというより多分、映画の『ショーシャンクの空に』が大好きで、舞台はどんなもんかなと来はったお客さんが、もういっぺん映画が観たくなるような舞台になると思います。で、もう一回映画を観た時に、違う見方が出来るような舞台を僕たちは今、作っているつもりです。...先ほどお話した、ラストシーンも違う見方が出来るよね、というところとか、ね」
【公演情報】
12/11(木)~29(月) シアタークリエ(東京)
1/7(水) 東京エレクトロンホール宮城(宮城)
1/10(土)・11(日) 名鉄ホール(愛知)
1/14(水) アステールプラザ 大ホール(広島)
1/16(金)~18(日) 森ノ宮ピロティホール(大阪)
1/20(火)・21(水) キャナルシティ劇場(福岡)