■『ロンドン版 ショーシャンクの空に』vol.3■
『ロンドン版 ショーシャンクの空に』の開幕も近づいてきました!
本日は演出を担当する白井晃さんのインタビューをお届けします。
●演出家・白井晃 INTERVIEW●
――最初に、この作品について。『ショーシャンクの空に』というのは映画が非常に有名ですが、この舞台は映画の舞台化ではなく、原作『刑務所のリタ・ヘイワース』の舞台化なのですね?
「私のニュアンスだと、タイトルが『ショーシャンクの空に』となっているように、映画から触発された部分もすごく大きいと思います。スティーヴン・キングの原作をもとに映画『ショーシャンクの空に』が作られて、その映画からインスパイアされた部分も大きいのではないかなと、そんな感じがしています」
――なるほど、ではまず映画についてお伺いします。ファンも多くいる映画です。白井さんご自身はこの作品について何か思い出はありますか?
「歴代の映画の人気投票でもたびたび上位に入る作品ですよね。ものすごく率直に言っちゃうと...「え、そこまで!?」と思ったりはするんですが(笑)。ただ、僕も20代か、30代の前半の頃に観たんですが、確かに印象には残っている映画でした。モーガン・フリーマンとティム・ロビンスという役者さんが非常に魅力的だったなと。それからあの映画音楽を作曲しているトーマス・ニューマンはとても好きな作曲家だったので、そういったイメージも残っていました」
――ストーリーの表面を単純化すると刑務所からの脱出なのですが、いわゆるスリリングな脱出劇、というわけではない物語です。
「そうですね、例えば『パピヨン』のような、脱出することが爽快さに繋がる作品とはまた違って、刑務所内に押し込められた、非常に不条理な状況下での人間を描いている映画です」
――ファンの方は色々な受取り方をする作品のようですね。例えば様々なシーンにキリスト教のモチーフや暗喩を見つけ出したり。
「キリスト教の問題は、例えば聖書の一節をとっても日本人にとっては疎遠な部分もありますので、そこをどうやって盛り込んで、もしくはぼやかしてやるかというのはひとつの課題ではあるかと思っています。大きく見れば、あの中に押し込められているということは、人間が神から与えられた試練であり、それを象徴している題材なんだとも取れます。それがキリスト教の教えとクロスして、人間が生きているということはつまり苦しみなんだという発想にリンクできる。だからよけい、海外の、特にアメリカの観客からすれば強く印象に残るんだと思いますが、そのあたりのシンクロ性というのはなかなか日本では難しいと思っています」
――製作発表で白井さんは「キーワードは<刑務所とは僕たちにとって何なのか>です」と仰っていました。
「この作品では刑務所というわかりやすい形態をとっていますが、我々が日本で生きていても、不条理な状況に置かれているというのは同じだと思うんです。例えば福島の現状のこともそうですし、経済状況もそうかもしれない。近隣諸国との関係の中でなんとなくザワついている感覚もそうかもしれません。それは平和な時代...例えばバブルの時期だとしても、その中で浮かれている連中もいたけれど、何か取り残されてる感覚がある人間だっていた。常にどの時代でも起こりえること。"壁のある意識"とでも言うんでしょうか。僕らが演劇を始めた70年代・80年代はまだベルリンの壁があった時代ですから、常に見えない壁が我々の前には立ちはだかっているという意識はあったんですけれど、それは今の時代もなんら変わっていないような気がするんです。むしろ今の若者には、闘っても、闘う相手がどこにいるのかすらわからないような壁、というものがあるかもしれない。そんな壁の存在を気にかけつつ、結局は自分たちが生きていくためのすべとして忘れるしかない。ショーシャンクの中に置かれている彼らの状況というのは、本当に我々に非常に近い感覚であるような気がするんです。だからむしろそういう風に演劇として捉えていくことの方が意味があるかなと思っています」
――刑務所を演劇として捉える、ですか?
「ショーシャンク刑務所というものをリアルに考えていくと、不思議なことはいっぱいあるんですよ(笑)。そこまで囚人たちに許されていることがあるのかとか。國村さんが演じるレッドは調達屋として疑いをかけられているのに、リタ・ヘイワースのあんな大きなポスターを持ち込んだらバレるだろう、とか、囚人が部屋でハーモニカを吹いていていいのか、とか。金属製品やひも状のものの持ち込みなんて絶対許されない、それをみんな平気で持ち込んでいる(笑)。そういったことを考えるとある意味であの場所はフィクションだと思うんです。むしろレッドが語っている、"人間というのはこういうもんだよね"というもののひとつの象徴として作り上げた虚構の空間という風に、"演劇屋"の僕としては捉えたがるんですね。もちろんそんなことを強調するつもりはないですが、でもどこかでふっと出てくればいいなと思ってる。先ほどのキリスト教との関係などが我々には意識として希薄な分、むしろこの場所というのはもしかしたら我々が今住んでいる場所となんら変わりがないんじゃないかと思っていただけるような、そういうようなものになればいいなと思います」
――キャストについてお伺いします。アンディ役の佐々木蔵之介さん、レッド役の國村隼さんに期待することは。
「全面的に期待してます! 佐々木さんとは一度一緒にやらせてもらっていますし(『幽霊たち』2011年)、彼が劇団(惑星ピスタチオ)を辞めて東京に出てきたばかりの頃から僕の芝居を観に来てくれたり、僕がやっていた遊◎機械/全自動シアターを好きだと言ってくれていたりと、お話する機会もよくありました。今はたくさん映像でのお仕事をするようになっていらっしゃるけど、でも基本的には演劇スタートの人間。やっぱり演劇というのは自分にとっては大切な場だという意識がある方。そこは國村さんも同じなんですよね。國村さんもベースが演劇にある方なので、そういった意味での信頼はふたりともとてもあります。演劇というものの枠組み、演劇たるものが何を伝える力があるのか、ということが、言わずもがなで互いにわかっているというところからスタートできるという安心感がありますよね。共通言語があり、共有できる感覚もあるので、信頼感もありますし、僕自身が"もっといい方法がないか"と模索しながらやっていくことを、一緒に模索していただける関係にはなるだろうと思っています」
――キャストは男性のみですね。
「刑務所内ですから、そうなりますよね。ショーシャンクの刑務所内ということではワンシチュエーションですが、その中でも中庭だったり運動場だったり独房だったり懲罰房だったり食堂だったり...と、いろいろ変わるので、限られた空間の中でどうやって変化をつけようかと苦労しています」
――映画と大きく異なる部分はあるのでしょうか?
「筋道が大きく違うということはないです。ただディテールの部分では演劇の要素の中に組み込むための変更はあります。映像は2時間2・30分と、最近の映画の中では長いですし、その中に時間の変遷を見せられるし、カットが変わることでシチュエーションも変えられるんですが、演劇はそこまでシーンをポンポン変えられない。時間の経緯も映画ほど早く見せられませんので、要素をギュッと凝縮しなければならい工夫を、象徴的にしたり強調したりという手法をとって施しています」
――稽古場にはバケツなど"鳴り物"がありましたし、栗原務さんがパーカッションとしてクレジットされているのも気になるところですが...
「脚本に途中で演奏するシーンがありますので、確かにそれは映画とは違うシーンですね。ただそれとは別に僕、閉塞状況という意味合いで、この舞台をまるで檻みたいに全部取り囲もうかなと思っているんです。みんなが檻をがちゃがちゃ鳴らしたり、食器をガンガン叩いたりすることで、彼らのこの中でのうめきや苛立ちの象徴として構成していけたらと思っています。そういった意図でパーカッショニストの栗原さんに入っていただいています」
――白井さんがこの作品で最終的に描きたいものはどういう世界なのでしょうか。例えば、映画では"希望"だったりが最後に残る印象がありますが。
「あえてひと言で言ってしまえば、我々が見えない壁、見えない牢獄の中にいるということをもう一度観る方が認識して、我々もそうなんだよなと感じてほしい。さらにそこからどうやって自己解放していくかというのは自分の問題なんだなということを思い出していただく、そんな作品になっていけたらと思います。最後の方で、外の世界の話をするアンディにレッドが「二度とそういうことを俺に吹き込むな、希望なんてものはここでは危険物だ」というようなことを言いますよね。それが結局、生きていく上では楽な考え方なんだと思います。忘れる、もしくは知らないことの方が。でもアンディはあえてそれを、社会を変革するとかではなく、自分の中での解放を...個人的な解放を求めて、外に出て行く。僕がこの作品でむしろ救いだと思っているのはそこなんです。アンディは最初はショーシャンク刑務所を改革しようとする。だけどそれを諦め、ほったらかし、自分ひとりのために飛び出すという道を選ぶ。みんながそういう風であれば、結果的に社会は変わるかもしれない。ひとつの組織、社会を政治的に解決しようとしたところで、結局パワーゲームの中に埋もれてしまったりします。そうではなくこの本は、非常に個人なこと、個人の改革や解放が積み重なっていけば結果的には変わるかもしれないということを言っている気がします。そこがこの物語の中で僕は面白いと思うところだし、救い、希望だと思っています」
――白井さんが特に大事にしたいシーンはどこでしょう?
「今お話ししたところ...現状を選ぶレッドと、解放を選ぶアンディ、そこでのやりとりというのが一番重要なシーンであろうかと思いますし、ポイントだと思っています。あとはアンディの語る"記憶のない場所"という言葉がすごく印象に残っていますので、やはりその言葉は、観る方の印象にも残るようにしたいですね。我々が前に向かうためには過去を引きずっていてもしょうがないという、その感覚が見えるようなシーンにできたらいいなと思っています」
【公演情報】
12/11(木)~29(月) シアタークリエ(東京)
1/7(水) 東京エレクトロンホール宮城(宮城)
1/10(土)・11(日) 名鉄ホール(愛知)
1/14(水) アステールプラザ 大ホール(広島)
1/16(金)~18(日) 森ノ宮ピロティホール(大阪)
1/20(火)・21(水) キャナルシティ劇場(福岡)