【『ビッグ・フェラー』vol.1】森新太郎インタビュー

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いまイギリス演劇界で"久々に登場した硬派な「Work Play」(労働の演劇)の書き手"として人気を集めている劇作家、リチャード・ビーン『THE BIG FELLAH ビッグ・フェラー』が5月から7月にかけ、日本で初上演されます。

演出を手掛けるのは森新太郎
1976年生まれと若手ながら、真っ向からテキストに対峙する緻密な舞台を作り上げる手腕に評価が高く、また上演機会の少ない古典や海外の注目作など、戯曲を選ぶセンスも光る演出家です。
つい先日には、第21回読売演劇大賞において大賞および最優秀演出家賞を受賞!

そんな日英の才能がぶつかる今回の上演、キャストも内野聖陽浦井健治明星真由美町田マリー黒田大輔小林勝也成河と、魅力的な面々が集結。
森さんも「これ以上のベストキャストはないんじゃないかというくらい、ベストキャスティング」と語るこの顔ぶれで送るのは、1972年から2001年までの30年にわたる、在NYのIRA活動家たちの姿です。


●ものがたり●

1972年、ニューヨークのアイリッシュレストランではブラッディー・サンデーの追悼集会が開かれていた。アイルランド共和軍(IRA)のNY支部リーダーのコステロ(内野聖陽)は対イギリスへの報復と組織強化への思いを熱く語る。
彼らIRAの活動家たちの隠れ家はマイケル(浦井健治)のアパートメント。しかし活動家と言っても彼らの日常はごく普通のNY市民であり、その中にはマイケルのような消防士もいれば警察官もいた。アイルランドからやって来たお調子者のルエリ(成河)は、バーで親しくなった女性をマイケルのアパートに連れ込むが・・・。
1972年からの30年間にわたるIRA活動家たちの日々の暮らしを描きながら、報復は新たな報復しか生み出さないという、"負の連鎖の虚しさ"を、徐々に浮き彫りにしていく。物語の終盤、彼らは、それぞれの生きるべき道を模索し始める。その結果、彼らが手にしたものとは?そして失ってしまったものとは? (公式HPより)


IRAといえば、アイルランド独立闘争の名のもとに対英テロを行ってきた武装組織。
平和な(とされる)日本においては少し遠い題材ですが、時代的には実は意外なほど近いんですね...。
そしてそんなシリアスなテーマを内包しつつも、生々しく息づく登場人物たちのスピーディなやりとり、ユーモア、先が読めないスリリングな展開...と、とても躍動感ある面白い戯曲になっています。

げきぴあでは、演出を手がける森新太郎さん、出演の浦井健治さん成河さんにお話を伺ってきましたので、短期連載としてお届けします!
第1回は、森さんのインタビューです。


●森新太郎(演出)インタビュー●


BigFellah01_02.JPG――2010年に発表された、リチャード・ビーンの話題作の日本初演です。森さんは以前もビーン作品を演出していますが、今回の戯曲の印象は?

「はい、2012年に『ハーベスト』という作品を演出しました。それはイギリスの養豚農家が舞台だったので、悲喜こもごもありつつも、なんとなくのどかな雰囲気があったのですが、今回はさすがにIRAの話ですので、血なまぐさい...といいますか、登場人物が常に激しい状況の中に置かれているなという印象を持ちました。『ハーベスト』と同じくリチャード・ビーンのユーモアは健在なんですが、シリアスな状況は際立っている印象ですね」
――そして"IRA"というテーマとしては、以前演出をされたマーティン・マクドナー作品でも縁深い題材ですが...

「マクドナーは、それを皮肉って笑いにしているところもあるのですが、これはもっとリアル。ちょっと面白いのが、登場人物たちが(アイルランドではなく)ニューヨークで活動していた人たちだということ。主に武器調達や資金集めをしているIRAを描いているという、一般の人が知らない世界を描いているので、ドキュメンタリー的な面白さもあります。ああ、こういう人たちがいたから本国でのIRAの武装闘争というのが成り立っていたんだ、ということを知るという面でも意味があります。それにこの人たちが、自分たちの祖国を離れて一個人がいったい何をできるのかとそれぞれ悩み始めるんですよ。その悩みもリアルな悩みだなと思います。...この作家は猛烈に取材をして、かなり下調べをして書く人なんですよ。『ハーベスト』の時も、本物の養豚業者の方にかなりリアルだと言われたので、(そのリアルさは)相当信頼していいんじゃないかな。具体的なその当時の政治状況も絡ませてあるし」

――登場人物たちはアイルランドとニューヨークに跨る、微妙なアイデンティティを持つ人たちなんですね。

「複雑なんですよ。本国で直接闘争と関わってない人としての断絶感みたいなものもあり、でも協力したいというのもあり。コステロ(内野)の役なんて結構複雑な立場なんですが、でもアメリカで決して貧しい暮らしをしているわけではなく、経済的には大成功している人たち。アメリカの自由主義的な雰囲気の中に生きつつも、でもこのアイルランド独立のために何かしたいと考えているという、本当にちょっと複雑な人たちだなという気がします」

――そして、森さんは奇しくもアイルランドに昨年、文化庁在外研修で留学されていました。

「そうなんです。さすがにもうIRAの武装闘争は終わっているので、そこまで深刻な状況ではなかったのですが、でもたまたま僕が行ってる時も、ベルファストではユニオニストたちがイギリスの国旗の掲揚をめぐって軽いドンパチをやっていました...車ひっくり返したりして」

――いやいや、軽くないと思いますよ!

「軽くないですよね(笑)、車が燃えたりもしていましたし。あと、僕ちょうど、パトリック・デイ(アイルランド最大の祝日。物語はこの日から始まる)の時にベルファストにいたんですよ。お祭りで、広場で若者たちが賑やかにわーってやっていたら突然武装した警官が配置について。一気にそこがなんか...日本じゃありえない雰囲気になって。ああ、やっぱり一皮剥いたらまだものものしいものが残っているんだなと思ったんです」

――じゃあその経験は何らかの形で芝居に反映されますね。

「行って、本物の空気を感じたのは結構大きなことだと思います。ちょっとしたこと、たとえばルエリ(成河)が「夢はアイルランドにでっかいビルを建てることなんだ」というようなセリフがあるのですが、ああ確かにアイルランドに"でっかいビル"ってないな、とか。つまりルエリにとっての"でっかいビル"というのはニューヨークで見た"でっかいビル"であって、それをアイルランドに建てるというのはどういうことなのか...とか。それは知ってるか知らないかで、ちょっとした違いは出てくるんじゃないかなと思います」
BigFellah01_01.JPG


――具体的な名前が出てきたところで、キャストについて伺わせてください。今回メインでIRAの活動家に扮する内野さん、浦井さん、成河さんに期待することは?

「僕、3人とも初めてご一緒するのですが、これ以上のベストキャストはないんじゃないかというくらい、ベストキャスティングだと思っています。コステロ役の内野さんは皆さんご存知のとおり、とても色気のある俳優さんで、"ビッグ・フェラー"というカリスマ的存在になるにはぴっっったり!の方で、さらにコステロというのは立ち居振る舞いはカッコいいのですが、すごくユーモアのセンスもある男なので、内野さんはまさに...、という感じだと思います。
あとのふたりは対照的なんですが、マイケルはあまりはっきり自分の意見も言えないような、繊細な青年。だけど暴力的な抗争の渦中にどんどん入っていってしまって、そこから抜け出せなくなり、いつのまにかそういうものに自分も加担してるんじゃないか...と苦悩する。その繊細さというのは浦井さんならではのものが出てくると思います。
もうひとりはアイルランドからきたお調子もののルエリ。まさに成河さんの運動神経...肉体的なものだけではなく精神的なもの含めて、成河さんの見事な運動神経がこのキャラクターにピッタリなんじゃないでしょうか」

――演出的にはどんなものになりそうでしょうか?

「今回は古典ではなくリアリズムの世界なので、緻密な台本をきっちり読み込んで、登場人物がイキイキ演じられることに専念しようと思っています。...本当によくできた脚本なので。見事じゃないですか、この人(リチャード・ビーン)のバランス感覚って。シリアスな場面があると思えば、ちょっとしたユーモアで笑わせたり。読むと「上手いな~」と感心するんですが、やると、上手すぎ故に難しいんですよ。前回(『ハーベスト』)も、よく書けているけど...こんなによく書かなくてもいいんじゃないか、俺が大変だよ成立させるのが!って思ったくらい(笑)。本の良さをきっちり追求すると、それだけで充分大変なんです。ちゃんとお客さんに届けなきゃ、この本の見事さを、と」

――"IRA"なんて、我々からすると遠い世界だと思うのですが、そんな私たちも惹き付けられるし、リアルに伝わるものがありますよね。

「ええ、本当にはじめはIRAなんてちょっと遠い世界なんで、どうかな、と思ったんですが。読んでるうちに、逆に今も、こういう暴力的な連鎖って起こっているなと思いました。僕の世代だと、たぶんIRAの紛争の激しい時のことってあまり記憶にないんですよ。でも記憶にある世代にとっては毎日、新聞をにぎわしていたこと。それに意外と最近なんですよ。調べると、完全に武装闘争が終結したのが2005年。え、そんな最近まで、って、ちょっとショックですらありました。それに物語の最後は9.11へと繋がっていく。だから世界史をちゃんと知っておくという意味でも、こういう題材を扱うのはいいこと。1972年からの政治状況が刻一刻と描かれていて、暴力的連鎖もまだ終わらない、という終わり方で、IRAの紛争は終結しても、他の闘争が始まっている。だから、こういう作品をやっておくことはいいんじゃないかなと。日本の国内のことだけではなく、それをとりまく世界の情勢にも目を向けることが必要なのではないでしょうか



●Key Word●
IRA (アイルランド共和軍)
カトリック系武装組織。イギリスの植民地だったアイルランドが独立する過程で、イギリスの一部として残された北アイルランドを統合することを目指す。イギリスから見ると民族主義的テロ集団になる。



お話を伺ったのは、スチール撮影の最中。
待機中に和やかにお話をしている、森さん&浦井さん&成河さんの3ショットをパチリ!

BigFellah01_03.JPG   

【公演情報】
5月20日(火)~6月8日(日) 世田谷パブリックシアター(東京) 
6月12日(木)~15日(日) 兵庫県立芸術文化センター 阪急 中ホール
 一般発売:3/16(日)10:00~ 
6月28日(土)・29日(日) 
穂の国とよはし芸術劇場PLAT 主ホール
 一般発売:4/6(日)10:00~

※そのほか、新潟、滋賀でも上演。

★ぴあ貸切公演限定 プレリザーブ 先行受付中!★
対象公演:5月23日(金)19:00
【申込期間】 受付中~3/3(月)11:00

★プレリザーブ(通常東京公演分)★
【申込期間】3/1(土)11:00~3/6(木)11:00


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