小林香が作・演出を手掛け、昨年誕生したColoring Musical『Indigo Tomato』 の再演が現在、いわき公演を皮切りに全国で上演中です。出演は平間壮一、長江崚行、大山真志・川久保拓司(Wキャスト)、安藤聖、剣幸・彩吹真央(Wキャスト)。
物語は自閉症スペクトラムなどの障害がある一方で、数学や記憶に突出した才能を持つサヴァン症候群の青年タカシが、弟マモルや、出会った人々との関りあいのなかで少しずつ自分の殻を破っていく...というもの。タカシだけでなく、彼を取り巻く人々にもあたたかな変化が表れてくるさまを、繊細かつ優しい筆致で描いています。
物語良し、キャスト良し、演出良し、音楽良しの珠玉のオリジナルミュージカルとして好評を博し、約1年半の短い期間で再演を決めた本作を生み出した小林香さんと、小林作品の常連であり、初演に引続き再演にも出演する彩吹真央さんに作品の魅力を伺ってきました!
彩吹さんが演じるのは、主人公タカシに関る"女性たち"。5役を早替わりもアリで演じています。
◆ 小林香&彩吹真央 INTERVIEW ◆
―― 『Indigo Tomato』は昨年初演、早くも今年再演です。初演時に拝見した『Indigo Tomato』は小林さんらしいカラーがありつつ、"新しい小林香" という印象を受けたんです。小林さんがどんな思いでこの作品を作ったのかということをまずお伺いできますか。
彩吹「作ったのは不惑の年ですか?」
小林「あぁ、そうですね、書いたのは。でも40歳になって何か心境の変化があったというより、自分が仕事を始めて20年近く経って、色々なことがひと巡りし、"作りたいもの" がはっきりしたのかもしれません。色々なものをやってきた中でそぎ落とされたものがあって、自分のやりたいものがくっきりした。もちろん自分に息子が産まれて...ということの影響もあると思うのですが、それより以前から自分に甥っ子が出来たりする中で、世の中の色々なニュースに触れると、やっぱり「若い人が希望を持てる世の中になっていくために、私たち大人は何が出来るんだろう」とすごく考えるんです。そういう意味では "齢" も関係あるかもしれません。今までは足し算で生きてきたんだけど、考え方が引き算にシフトしている。自分たちが色々なものをもらってきた、これからは自分が何をあげられるんだろう、というのを真面目に考えだして、それで産まれたのがこの作品なんだろうと思います」
―― テーマや扱っている素材は重いのですが、作品全体から受ける印象が軽やか。そこが素敵です。
小林「はい、重くも出来る内容ですが、やっぱり押し付けがましいのが一番ダメだなって思います。それにミュージカルの一番の強みは "希望を渡せる" こと。その "ミュージカルの力" に導かれてやってきた足跡が、自分自身もそういうものを人に渡せる大人になりたいという思いに重なったんでしょうね」
彩吹「私は、初演の時は作品の良さはもちろん感じていましたが自分のことで手一杯で客観的に観れなかったのですが、再演の『Indigo Tomato』を客席から観て、「小林香ファン、増えるんちゃう?」って思いました(笑)。ここまでのものをゼロから作るって、努力も必要ですがやっぱり才能も必要。いま「そぎ落とした」と仰ったのですが、やっぱり積み重ねたものもたくさんあって、キャストへの演出ももちろんそうなのですが照明や舞台機構の使い方がもっとブラッシュアップされましたよね。思ったことを具現化するってすごいことをお仕事にされてるんだなって思ったし、「次のオリジナルは何ですか?」とも思いました。香さんの頭の中にあるものを早く覗いてみたいというワクワクした思いがわきあがりました」
小林「ははは(笑)」
彩吹「役者も表現したいことを表現するお仕事だけれど、もっと、目に見えないものを具現化するお仕事ですよね。面白いですよね、きっと」
小林「面白い、面白い」
彩吹「そしてそれを、ご自身の環境だったりが変わってきて、それが反映されてまた新しいものを生み出していくって、素晴らしいことですよね。作品に人生が描き込まれているというか、香さんの軌跡を見た気がします。そう思ったと同時に、自分も役者として、特に宝塚歌劇団を辞めてから10年の間に積み重ねてきたものをしっかり表現したいと思いました。負けないぞ、じゃないですが(笑)、私も "自分" を更新していきたい! と思ったし、このキャストになれて良かったと改めて思いました」
―― 彩吹さんは宝塚退団後1作目の「SHOW-ismシリーズ」をはじめ、今年の『Red Hot and COLE』など、小林作品には多数出演されていますが、今作『Indigo Tomato』の中では主人公タカシに関る女性5役を演じていらっしゃいます。...小林さんは、俳優さんに"アテ書き"されるタイプなんでしょうか。
小林「そうですね。初めて一緒に仕事をする方だったとしても、舞台を拝見したりして、どういう色をお持ちかわかるじゃないですか。だからその引き出しは使いたい。でもその方の持つ色をそのまま使いたいというより、 "こういう顔を見たい" と当てて書くタイプの "アテ書き" です」
―― "女性たち" は彩吹さんと剣幸さんのWキャストですが、このふたりだからこうなった、というのはありますか。
小林「 "一人5役" はこのおふたりだったからこそ、実現しました」
―― そうなんですね。彩吹さんも剣さんも素敵に5役を演じていらっしゃいますが...、主観なのですが、ベテランの女優さんがここまで八面六臂の奮闘をされる作品って珍しいのではないかと思うんです。女優さんに負荷をかける作品というか...。
彩吹「(笑)」
小林「あぁ、私、女優さんに負荷をかけるの得意なんですよね~...」
彩吹「小悪魔さんだから(笑)」
小林「色々な人たちから「悪魔か!」って言われてますね! 「SHOW-ismシリーズ」とか、手練れの役者たちがヒーヒー言ってますもん。役者ってみんな結構ドMですよ」
彩吹「(小林に)ドSですよね?」
小林「そうですね」(一同笑)
―― (笑)。彩吹さん、5役演じていて、いかがですか。
彩吹「初演の時には「何さすねーん!?」って確かに思いましたけど(笑)」
小林「ははははは(笑)!」
彩吹「私はともかく...ウタコさん(剣)って、宝塚でいうと私の20期上の先輩なんですよ。私ですら「あー、しんど」って思うのに、人生においても先輩のウタコさんが同じことをさせられてる...! ただ私、20年後同じことできるのかなって思っちゃうくらい(苦笑)、ウタコさんは気力も体力もあるんですよ、尊敬します。でも本当に初演の時は自分がいっぱいいっぱいだったんですが、今回はウタコさんとも初演の時よりコミュニケーションを取れて、すごく楽しいお稽古場でした。香さんが今回、私たちの5役に対しても深めたい部分を明確に提示してくださったので、それについてもたくさんお話できた。(最初の公演地の)いわきに行く時の電車もお隣で2時間、作品のことを含めお話させていただいていたんです。今回本当にダブルキャストで役に向き合えたということが私にとってはありがたいことですし、新しい『Indigo Tomato』が出来ているなというワクワク感がありますね」
―― 初演の時ももちろんそうだったのだと思いますが、彩吹さんと剣さんの演じる5人の女性が、タカシ君に対する "社会" の象徴なんだな、世間の顔なんだなっていうのが明確になった気がしました。
小林「自分も今回の再演の稽古でハッと気付くことが色々とありました。初演の時ももちろんすごくちゃんとやっていましたが、やっぱりオリジナル作品を1本作り出すということはとても力を使うことで、"それを深める" ってところに到達するのはなかなか難しかったんだなと。だから今回、セリフもほとんど変わっていませんし、音楽もほぼ一緒なのですが、だいぶ受け取っていただけることは変わっているんじゃないかな。だからお芝居って面白いですよね」
彩吹「面白いですよね。今回は "再演あるある" じゃないんですが、キャスト同士がお互い気心が知れてしまっているからこそ "慣れて" しまう危なさを改めて感じたし、そこをどうやって新鮮味を失わずにやっていくのかという勉強にもなりました。再演って、ぜったいに初演の "その上" に行きたいじゃないですか。そこを目指して冒険をしている感じが、とても楽しかった」
―― オリジナルミュージカルとして重要な要素である音楽も素敵ですよね。
小林「はい。編成もギターとチェロとキーボードというのはなかなか珍しいと思います。タカシに見えている澄んでいる世界、それを一番表現できるのは音ですよね」
彩吹「あと照明も綺麗! 舞台稽古で明かりを作っていく作業があるのですが、その時の香さんの繰り出す専門用語を聞いて「すごい!」って思いました。もしかしたら演出家さんとしてはあたりまえなのかもしれませんが、役者としてはわからないワードがまだまだあって...でも香さんはすごく細かくこだわって指示をされてますよね。やっぱりビジュアルで読み取れることって多いから、大切なんだなって思いました」
小林「あぁ、そういったことがだんだん自分のテクニックとして出来るようになってきたというのは、ありますね。それを上手く、心の機微を表現するのに使えたらいいな、と思っています」
―― すごくバランスの取れたいい作品だなと思います。
小林「ありがとうございます。...ブロードウェイ行くか!?」
彩吹「今回もDVDになるそうなので、ブロードウェイ関係者に送りましょう(笑)」
―― ぜひ期待しています! ...彩吹さん、最後に改めて『Indigo Tomato』の魅力を。
彩吹「タカシが見ている世界は、普通...という表現はそぐわないですね、凡人...の私には見えないもの。それを見せてもらえる作品です。やっぱり、私にとっては数字にしても、例えばそれは "値段" や "評価" などの現実のものなんです。でもタカシはゼロから9の数字の組み合わせによって色々なものがカラフルに見える。そういう、普段生活をしていて考えなかったり思わなかったことに思いを馳せることで、ポッと温かくなれるし、幸せになれる。稽古場で香さんが「目に見えないものに名前を付けて仲良くなる」って仰ったのが印象的で。何かを想像できると、心が豊かになる。私、ダブルキャストなので、出ても楽しいし、観る楽しさもあるんですが(笑)、先日ウタコさんの回を客席で観ていて、お客さまが終演後ほんとうにニッコリされているんですよ。今回のタカシ自身はあんまり笑顔がないんですが、でも、まわりの人を笑顔にする効果がすごくあるなと思うし、それこそがこの作品の素敵なところだな、と思います」
取材・文:平野祥恵
【2019年公演バックナンバー】
#1 稽古場レポート
#2 開幕レポート到着!
【2018年公演バックナンバー】
#1 平間壮一&溝口琢矢 ビジュアル撮影レポート
#2 大山真志&剣幸 ビジュアル撮影レポート
#3 稽古場レポート Part1
#4 稽古場レポート Part2
【公演情報】
11月10日(日)・11日(月) いわき芸術文化交流館アリオス 小劇場(福島)
11月14日(木)・15日(金) 札幌市教育文化会館 大ホール(北海道)
11月19日(火)~21日(木) 東大阪市文化創造館 ジャトーハーモニー 小ホール(大阪)
11月26日(火) ももちパレス 大ホール(福岡)
11月29日(金) 北國新聞赤羽ホール(石川)
12月4日(水)~10日(火) 東京グローブ座(東京)