いまや日本ミュージカル界に欠かせない存在である藤岡正明。
今年も『ジャージー・ボーイズ』イン コンサート、『不徳の伴侶』、『タイタニック』と出演作が次々と発表になっています。
藤岡さんにそれぞれの作品について、そして、俳優として、ミュージシャンとして......様々なお話を伺ってきました!
今回は【後編】として、『不徳の伴侶』『タイタニック』、そしてTV番組『カラオケ☆バトル』のお話までお聞きしています。
★『ジャージー・ボーイズ』イン コンサートや、ご自身のライブツアーについて語った前編はコチラ★
●朗読ミュージカル『不徳の伴侶 infelicity』(5/29~6/3 東京)
―― 『ジャージー・ボーイズ』イン コンサートのあとは、『不徳の伴侶』が5・6月にありますね。作・演出を荻田浩一さんが担当される作品です。
「僕、荻田さんの演出作に再演から参加したり、ミュージカルコンサートでご一緒したりはしているので、厳密に "お初" ではないのですが、イチから芝居を作り上げる現場でガッツリまともに向き合ったことが、実はないんです。もともと荻田さんのことはよく知っていて......まぁ、主に飲みの席で、なんですが(笑)。ただ、そのコンサートの演出で少しだけ触れた演出家としての荻田さんは、ちょっと怖いと思うくらいの真面目な目をしていました。言葉も、普段は柔らかい方なのに、違うものは違うとハッキリ言う。荻田さんが思い描くビジョンが、佇まいから伝わってくるんです。ですので、"荻田さんとガッツリ演劇をやりたい!" という気持ちですね」
―― 特に今回の作品は荻田さんの「自主公演」ですので、こだわりもひとしおではないかと想像しています。
「そうなんですよ、荻田さんが10年温めてきた題材だそうです。普段、とても大きな劇場などでもたくさん演出をしている方ですが、今回はこういった小劇場(赤坂RED/THEATERの座席数は200弱)。変な話、ここでお金儲けをしようとかじゃないですよね。この作品は、荻田浩一の情熱でしかない!ってことです。その情熱に、僕も乗りたいな、と思いました。まだ稽古も先ですが、面白くなるといいなと思っていますし、そういうものを、僕も欲しているのかも」
―― そういうもの、とは、商業的なあれこれを抜きにして良い作品を、という?
「そう、やりがいが見出せる作品。もちろんお金を稼ぐことも重要ですが、自分自身が夢を見ていたいなと思うんです。やっぱりこの仕事が好きでやっているから。そこに情熱を120パーセント注ぎこめたら、生きてる心地がするんだろうなって思って」
―― 演じる役柄としては、ボスウェル伯ジェームズ・ヘップバーン。ルネッサンス期の貴族ですね。
「貴族って、僕のイメージじゃないですよね(笑)! 僕も「なんで僕に!?」って思ったんです」
―― (笑)。ご自分ではどういうタイプが "自身のイメージ" だと?
「多分得意とするのは、基本的に労働者......。『タイタニック』のバレットとかね。あとは口が悪いのがたぶん得意(笑)。舌を巻くとか、怒鳴りつけるとか、誰かに圧をかけるとか。だから『ジャージー・ボーイズ』のトミーなんかも、しっくりくる役柄だと思います(笑)」
―― でも『不徳~』では貴族です。貴族を演じた経験は?
「『レ・ミゼラブル』のマリウスがギリギリですかねぇ! でも今回はルネサンス期ですしぜったい『レミゼ』より派手ですよね。まあ朗読ミュージカルとのことなので、どこまでどうなるのかはわかりませんが......モーツァルトみたいなカツラを被ったりしたら、どうしよう(笑)」
●ミュージカル『タイタニック』(10月 東京・大阪)
―― 秋の『タイタニック』にも触れておきましょう。トム・サザーランド演出で、2015年に上演された作品の再演です。藤岡さんは『タイタニック』に『グランドホテル』と、トム・サザーランド作品常連で、トムさんの信頼を一身に受けている印象ですが......。
「でもトム、昨年末の『パジャマゲーム』には呼んでくれなかった!」
―― (笑)。藤岡さんは『ビリー・エリオット』中でしたから。2015年の公演では機関士のバレットを演じていらっしゃいました。このバレットのナンバーはコンサートなどでもよく歌っていらっしゃいますね。
「歌ってますねー。すごくいい評判をいただいたのもあって。『タイタニック』はすごく、カンパニーが良かった。みんな仲が良くて、バカみたいに毎晩飲み歩いてました。今年も楽しみです。といっても、とても悲しいお話なので、やっていると気持ちが重くなるんですが......」
―― トムさんの演出もとても素敵でした。
「トムという人は美しいものがすごく好きだし、それが本当にピュアな形で表現されていますよね。この作品、音楽が素晴らしいとか、群像劇としての完成度が高いとか、色々とすごいところがあるんですが、僕が一番「すごい」と思ったのは最後のシーンなんです。最後にカーテンコールで、タイタニック号で亡くなった方全員の名前が舞台上に映し出されるんですよ。これ、もちろん実話をもとにしていますが、登場人物全員が実在した人間というわけではなく、"こういう人もいたかもしれない"という、物語としてはフィクションなんです。だから普通の感覚では、カーテンコールでは「こういうタイタニック号の悲劇をミュージカルとして観ていただきました、ありがとうございました!」って気持ちじゃないですか。でもエンドロールのように、最後に本当に亡くなった方々のお名前が出てくると......」
―― お客さまに手を振って「今日はありがとうー!またねー!」って気持ちには......。
「なれなかったです。すごく神妙な気分だし、(カーテンコールの場で物語が)終わったあとでも、身が引き締まった。でもトムは、"あの悲劇をふたたび起こしちゃいけない" ということをメッセージとして伝えたいわけではないんですよ。あの船のなかでどんなドラマが起きていて、生命力に溢れた人々がどんな風にイキイキとそこに存在していたのかってところを描写している。それを伝えるために、実際に亡くなった方に、最大級の敬意を表さないといけない、ってトムは思っていたんですよね」
●実は2年前にあった"危機"
―― 『不徳の伴侶』以外は、一度経験した作品ですね。いまのお話を伺っていても、それぞれに愛着を持っていらっしゃるなと思いました。先ほどの「毎回、これで役にお別れしようと思いながらやる」というお話にしても、愛着があるからこそ、なんじゃないですか?
「いや、でも、「二度と出るもんか」っていう作品もありますよ(笑)。ただ最近はそういう意味では、エネルギーのある作品に関らせてもらえる、いい出会いが多かった。実はちょっと前に「こんなことが続くなら、役者をやめよう」って思ったことがあって......」
―― あら。いつ頃ですか?
「2年前くらい、『グランドホテル』をやっている頃です。その前から本当に色々なことが上手くいってなくて、自分がなぜそれをやるのか見失っていた。『グランドホテル』は自分でもこれはすごくいい作品だなって思っているのに、モチベーションがあがらない。その頃、新国立劇場でやっていた『たとえば野に咲く花のように』(作・鄭義信、演出・鈴木裕美)を観にいったんですよ。それを観て、とてつもなく感動をした。脚本も俳優陣も演出も素晴らしかった、作品としてのクオリティが高かったんですが、何よりも「ここには愛しかない」というところに感動した。役者と演出家は脚本を愛し、脚本家も役者を愛し、演出家は脚本を信頼し、役者を愛している。それが舞台上に結実している。本当に泣いたし、勇気をもらった。それがすごく自分の中に残って、そこから「演劇ってやっぱり素晴らしいじゃん!」って思うようになりましたし、『グランドホテル』についても、俺、周りが見えていなかったたけどまだまだ間に合うはずだ! って思ったら、やっぱり本当に素晴らしい作品だったし。そのあとが『ジャージー・ボーイズ』でしょ。本当にそこから、いい流れになってるなって思います。結果、『ジャージー・ボーイズ』は本当に楽しめたし」
―― そんなことがあったんですね。
「実は同じ頃、音楽の方でも色々あったんです。だから、自分の中で何かが見えるまで音楽活動はやめようって思っていた。自分が「ライブやりたい」「CDを作りたい」って思うまでアクションを起こすのはやめようって。で、やっとやりたくなったので、来月にやります! だから自分としては、ちょっと面白いです。自分の気持ちが落ちていた2年前を思い出すし、一気に気持ちが浮上した『ジャージー・ボーイズ』の世界にまた今年、関れるし。なんか......2年前から線で繋がって、今年のあれこれがあるんだな、って」
●『THEカラオケ☆バトル』に挑戦し続ける理由
―― いいお話を、ありがとうございます。最後に『THEカラオケ☆バトル』(テレビ東京系列)のお話も伺っていいでしょうか。久々にまたご出演されますね。2月28日に放映されます。
「もう6回目の挑戦です」
―― 出演することで、いつもと違うところから声がかかったり......ということがあるのでしょうか。
「あまりないですね(笑)。でもやっぱり、表には出ていかなきゃ、と思っています。舞台なら舞台、ここでしかやらないというのはあまり良くないな、と個人的には思っています。もちろん、僕を知らない、新しい人にも見て欲しいというのもありますし。ただ、なんで6回も出ているのかと考えると、やっぱり負けたのが悔しくてやっている(笑)。早く勝ってこの悔しさを払拭したい!」
―― でもあれ、けっこうプレッシャーだと思うんですが......。みなさんよく出るなぁ、キャリアのある方があえてやらなくてもいいのに、と......。
「そうなんです、プレッシャーなんです......。点数をつけられて勝ち負けが出て、負けたとする。気分的には「機械なんかに点数をつけられたくない!」と思うんですが、オンエアとしてはそこで "負けた人"になっちゃう」
―― あ、悔しいのは、戦った相手ではなくて、機械がつけた点数に対してなんですね。
「そうです、何がわかるんだお前に! と。でもオンエアとしては結果がすべて。でも「僕は機械にジャッジされるのは合わない」っていって出演をやめたら、「ああ、適当に言い訳してやめていったな」って思われちゃう(笑)。だから、そこを凌駕する完全な結果をだして、自分のタイミングの最後を探したい。だって、わりとしんどいですよ、あの番組......」
―― ですよね......。でも勝ち負けとは別に、例えばツイッター上などで放映後に「藤岡さんがあの時に歌ったあの歌がすごく良かった!」という声が上がっていたりもします。ファンにとっては「こんな歌も藤岡さんに合うのね」と嬉しい発見があったりもします。
「それは、やっぱり高い点数が出ればそれでいいとは思っていませんから! いい歌を歌わないとね」
―― そこで歌って評判だった曲をライブで歌ったり、はしないんですか?
「あ、そうですね! なるほど~。それもアリかも。考えておきます!」
取材・文:平野祥恵(ぴあ)
●藤岡正明 Live Tour 2018"now and then"
3月21日(水・祝) 新宿FACE(東京)
3月24日(土) 大阪 THE LIVE HOUSE soma
3月31日(土) 福岡ROOMS
4月7日(土) 名古屋オキナワAサインバーKOZA(愛知)
●ミュージカル「ジャージー・ボーイズ」イン コンサート
5月12日(土)・13日(日) 東急シアターオーブ(東京)
●朗読ミュージカル『不徳の伴侶 infelicity』
5月29日(火)~6月3日(日) 赤坂RED/THEATER(東京)
●ミュージカル『タイタニック』
10月上演予定
日本青年館ホール(東京)
梅田芸術劇場 シアター・ドラマシティ(大阪)
■2月28日水曜日夜7:54放送
テレビ東京系「THEカラオケ☆バトル」出演