『レディ・ベス』演出・小池修一郎が語る2017年版みどころ(前編)

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■『レディ・ベス』2017年公演特別連載 vol.4■


『エリザベート』『モーツァルト!』などの作者として知られるミヒャエル・クンツェ(作)&シルヴェスター・リーヴァイ(音楽)による新作として2014年に世界初演されたミュージカル『レディ・ベス』が、3年ぶりに上演されます。

演出は、日本ミュージカル界が誇る鬼才・小池修一郎

『エリザベート』『モーツァルト!』の日本版潤色・演出も手がけ、クンツェ&リーヴァイ作品を日本に根付かせた最大の功労者である小池さんが、ふたりとタッグを組んだ "日本発の新作" として世に送り出したのが、この『レディ・ベス』です。

3年ぶりの上演となる2017年版、カンパニーが改めて作品と向き合い、単なる再演ではなく、ブラッシュアップされたものになるようですが、今回の見どころや変更点、ほぼ全員が続投となるキャストの魅力や期待を、小池さんに存分に語ってもらいました。

前・後編に分けて、お届けします!
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◆ 世界初演となった2014年、創作の苦労は...


「2014年は、作者であるミヒャエル・クンツェさん、作曲を手がけたシルヴェスター・リーヴァイさんのおふたりご自身が来日され、稽古場で机を並べて日々、作業をされていました。ドイツでも(クンツェ氏はハンブルク、リーヴァイ氏はミュンヘン在住)別々の都市に住んでいらっしゃるので、こういうケースは少ないだろうと思います。日本だからそうせざるを得なかったのでしょうが...。

もちろんおふたりが作られた最初のベースはあるのですが、私だけでなく製作の東宝の方や、各スタッフからも色々な意見が出てきますので、それを調整して仕上げる、つまり加筆訂正や削除、添削をしていくような作業です。セリフや歌詞をクンツェさんが書き、それに対してリーヴァイさんが音楽を書く。それをバンバン目の前でやっていらっしゃる。そのことに圧倒されました。エキサイティングな時間でした。

同時に、昨日まであった場面が今日はなくなったり、昨日なかった場面が今日作られたりするので、それに対応していかなきゃならない。これが結構大変でした。予定してた段取りが変わるわけですから。まして、日本語に翻訳するという作業も挟まれる。さらに歌の場合は日本語を音に乗せていかなければいけない。出来上がるものを追いかけてその作業をしつつ、稽古もしなければならない。立体的に作り上げる作業を同時進行でやっていく。プレビューやトライアウトというシステムがある欧米では皆さん慣れているのだろうと思いますが、我々日本人は慣れていませんから、スタッフもですが、俳優さんたちも大変だったんじゃないかと思います。初演ではプレビューを2日間とり、その間にも長かったところを少しずつ削ったりしましたが、一番最後にリーヴァイさんが「これを足したい」と仰ったものがあった。明日初日という中で、しかもただやればいいということではなく、色々新たにしなければならないものもあり、さすがに俳優さんたちも青くなってました(笑)。最後の最後はお願いして諦めてもらいましたが、でもそういう創作意欲、ものの作り方の違いはとても勉強になりました。過去にも外国の方と一緒に創作したことはありますが、自分が作者(脚本)でやっていたりしたので、自分の中で処理が出来るところもあったのですが、今回は脚本・音楽とも別の方ですのでそうもいかない。自分だけの判断では出来ないところもありましたからね」LadyBess17_04_02_8260.JPG

◆ 再演となる2017年版、気になる変更点は?


「今回はまず、製作である東宝さんから、上演時間が長いので短縮したいという要望がまずあり、彼らにお願いしたら、バッサリ短縮版を作ってきてくださいました。が、やや大胆なカットもあり(笑)、ここは残した方がいいんじゃないかということをもう一度お願いしたりと、摺りあわせる作業を重ねました。マイナーチェンジは嵐のようにあります。短くなっていますが、「圧縮されている」と思っていただきたいです。

ただ、全体で見ると、前回は大らかなノリがあったと思いますが、今回はかなりシビアに、シリアスになっている。この作品の舞台である16世紀イギリス、チューダー朝の時代は、現代の感覚からするとちょっと滑稽なところがあります。時代はまさにルネサンスがあって、政治も宗教も思想も新しいものに向かっているのですが、作品の中でもロジャー・アスカムが語っていますが、エリザベス一世がその新しい時代の担い手。姉であるメアリーが女王である時代は、カトリックでもあり、それまでの時代の因習や社会観、政治的判断をひきずっています。その旧い時代というものは、初演では音楽もセリフもかなりコミカルに描かれていましたし、私もそう解釈してやっていましたが、今回短縮された物語では、そういう要素が薄まっている。人間の関係性や会話の流れもちょっとユーモア――ブラックユーモアでしたが、滑稽でユーモラスだった。それが影を潜め、その分シャープになった。

そのことで、テーマ性が非常にクリアになっています。それは、主人公であるエリザベス一世がどのような立場に置かれ、どのように自分というものを形成し、そして親から受け継いだ、定められた立場 "女王" に就くという物語。キャリアウーマンのさきがけとしてのエリザベス一世像が感じられるのではないでしょうか。特に働く若い女性が見ると、どこかに自分自身の環境や生き方と接点がみつかるんじゃないかなと今回は感じています。

また、私からは、ベスとロビンが最後に別れるに至るところが、切々たるものとして描かれているといいなと思い、お願いをしてふたりのデュエットの曲が変わっています。前回は「別れることを前提とした曲」で、別れを受け入れていた。「別れを決める」というのは、物語としてひとつのポイントであり、物事が最終的な結論にいたる起承転結の「転」であると思ったので、そこを強調したいと思ったんです。

そして音楽で言えばもうひとつ、クンツェさんとリーヴァイさんで、新しい曲を書いてきてくださった。これは私どもからの要望ではなく、彼らの方から「これは入れたらいいのでは」と書いてくださった。それはエリザベス一世が、覚悟を決める歌。この作品の中では何度も彼女が苦難に立ち向かう歌がありますが、それとは別で、これは面白いなと私も思いました。ドラマチックな曲ですし、作品のテーマにもなると思ったので、ラスト近くでエリザベス一世が即位するということを受け入れた時に歌ってもらいます」LadyBess17_04_05_8263.JPG



◆ 3年半ぶりに集結したオリジナルキャストの面々。彼らへ期待することは...


「まずレディ・ベス。タイトルロールはレディ・ベスで、主役はベスです。花總まりさんは前回、『モンテ・クリスト伯』で本格的に女優に復帰した直後でした。そして実は、彼女の主演作というのはこれが初めてだった。つまり宝塚ではエリザベートであろうがマリー・アントワネットであろうが、主役は男役なので、何をやったとしてもヒロインは作品の主役ではない。例えば『モンテ~』で主演の石丸幹二さんの相手役であるようなポジションは、おそらく守備範囲内だったと思いますが、『レディ・ベス』では全部を自分が支えるということが求められる。そこに挑んだわけです。そのことに本人が向かっていくことと、エリザベス一世が自分の人生に向かうということが見事にオーバーラップしていた。彼女自身が帝国劇場で座頭として主役を務める、自分の物語をお客様に100%観ていただくということをやる。それとエリザベス一世が自分の人生に向かっていくこと、そこが理論的にではなく、どこか見えないところで一致していたと思います。今回は、その後『エリザベート』の主演もやりましたし、主役でいることに慣れましたよね(笑)。そんな中で、「人生で初めての経験をしていくことへの恐れと興奮、高まり」を再現する。つまり今回は本当に「演じて」いかなければならない。それが今回の彼女の、別の意味での勝負だと思います。

平野綾さんも前回、帝劇の主演は初めてでした。わりと落ち着いて淡々とこなしているように当時は見えたのですが、いま思えば本人的にはやっぱりドキドキの連続だったと思います。自分が主演であることの重圧、それと向かい合うのも、エリザベス一世とすごくオーバーラップしたと思う。今回は "初主演" というフィルターはありませんので、きっちりと役と向き合っていかなければならない。彼女もミュージカルへの出演が多く、NY留学もし歌の勉強もして磨きがかかっていますから、女優として充実したところを見せてくれると思います。ladybess_omote.JPG

ロビン山崎育三郎君は、メディアでのブレイクがありますが、彼自身が言ってるように自分のベースは舞台、ミュージカル。そこを改めて本人も確認しながらやっていると思います。ロビンは青春の代表のような人。青春という言葉、そのものを体現しています。特に70年代の青春映画のように、「若者が世の中を変えるんだ」という前提の中で生きている人たち、その流れを山崎君は持っている。経験も重ねていますが、まだ彼は青春の匂いがプンプンしてますから(笑)、充実した舞台になると思います。また彼自身が色々なことを成し遂げて、達成感をもっていると思います。以前はがむしゃらだったところを、客観的に役を見ながら演じることができると思うので、その点も舞台そのものの陰影、立体感になると思います。

加藤和樹君もこの3年間、舞台出演の積み重ねがあります。前回の段階でも舞台もやっていましたが、同時にテレビの仕事もしていた。いまは舞台で、しかも主演を務めるような存在感で仕事をしているので"慣れて"きている。だからとてもリアリティをもって、このロビンという若者を演じてくれると思う。ロビンはスーパーな存在ではなくて、ちょっとおっちょこちょいで、今でいうとストリートミュージシャンみたいな設定。本人はボヘミアン的なタイプではないので、そこは苦労のしどころだと思いますが(笑)、でもやっぱり演技に深みが出ましたので、心に染みるところまでやってくれると思います。

メアリーは、未来優希さんと吉沢梨絵さん。ふたりとも女優として、人間として大人になられて、その分演技にも深みが増しています。メアリーという役は前回はちょっとコミカルに描かれていたのですが、今回はその要素が少し影をひそめました。悲劇を背負った人なので、そのことがちゃんと伝わるようになったんじゃないかな。そういう意味ではふたりとも大変見事な演技をしています。

フェリペ。まず平方元基君は歌が本当に上手くなりました。努力家なので、積み重ねてきたことが形になってきていて、実を結んできた。貫禄も出てきましたね。そしてもともとミュージカル畑出身の方ではないので、以前は本人も「果たして自分がやっていいのだろうか」と思っているようなところもあったと思いますが、このところは「自分がやるべきことである」という自覚を持っている。私の印象では、ミュージカルというジャンルで彼はずっと生き残っていくだろうなと思っています。この先々も熟した俳優さんとして長きにわたって活躍すると思います。そういうことを感じさせるプロフェッショナルな存在になりました。

古川雄大君はいますごく人気があり、勢いもある人。そして彼もすごく歌唱力が進歩した。翻訳もののミュージカルは歴史上の人物を演じることも多いのですが、過去においては、そこに実感を持てていなかったと思います。そこが、歴史に名を残したような人を演じることにも、臆することがなくなった。彼もこれから、ミュージカルというジャンルを支えるひとりとして活躍していくと思います。
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石川禅さん(ガーディナー)と吉野圭吾さん(ルナール)、このふたりも前回はメアリーともども、ややナンセンスな面白さを狙っているところがありましたが、そこが今回なくなり、シリアスな存在になっています。ただ、おふたりともやっぱりキャリアがありますから、自分のもっている個性や色を、より強力に強烈に出してもらうことで、短縮された部分でも濃縮されたものが出てくると思います。

和音美桜さんのアン・ブーリン。彼女はある意味一番成熟されたかもしれません。まろやかさが出てきて、芸の風合いが非常によく熟成されてきた。もともと達者な人で、宝塚の優秀な卒業生ですが、いわゆる優等生的なところがあったのが、もっと "練れた" ものが出せるようになっています。アン・ブーリンの情愛が滲み出るようになったと思いますので、観る方の印象もずいぶん変わるんじゃないかな。彼女は本当にミュージカル女優として見事に成長し、もともと優秀でしたが、"自分の存在感" を確立してきたなと思います。物語の "統一性" を、彼女が繋いでいくものになるんじゃないかなと思います。

ベテランのおふたり、山口祐一郎さん(アスカム)と涼風真世さん(キャット)。東宝というのは昔から色々なコンビを生み出していますが、『貴婦人の訪問』に、このあとの『マディソン郡の橋』も控える名コンビですね(笑)。彼らが後輩たちが活躍する舞台を、しっかり支えてくださっています。でもちゃんと光らせる部分はピシッと光っていますから......宝物のような存在ですよね。涼風さんは去年、芸能生活35年。山口さんも同じくらいの芸歴がある。もちろん若い頃と光り方は変わってるかもしれませんが、輝きを失わないのはすごいことだなと痛感します。この作品をすごく、厚みがあるものにしてくれています」

 
 
★後編では、子役が新たにキャスティングされたことで浮き彫りになるテーマ性のこと、クンツェ&リーヴァイ作品の魅力などを語っています。更新までお待ちください。

取材・文・撮影:平野祥恵(ぴあ)

【『レディ・ベス』2017年公演 バックナンバー】
#1 花總まり、平野綾、山崎育三郎、加藤和樹取材会レポート
#2 平野綾ロングインタビュー
#3 稽古場レポート Part1


【公演情報】

・10月8日(日)~11月18日(土) 帝国劇場(東京)
・11月28日(火)~12月10日(日) 梅田芸術劇場 メインホール(大阪)

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