劇団四季の海外新作ミュージカル『ノートルダムの鐘』の製作発表が6月8日、都内にて行われました。
会見では、劇団四季の吉田智誉樹代表取締役社長、ディズニー・シアトリカル・プロダクションズのフェリペ・ガンバ国際戦略担当ディレクターが作品の魅力や、上演の意義を語るとともに、注目が集まっていた出演候補者(主要5役)も発表になりました。
本作のキャストは劇団内外を問わず、公開オーディションを実施。
書類応募総数1600通という中から選ばれた精鋭たちがこの場で初披露となりました。
その会見の模様をレポートします。
【『ノートルダムの鐘』バックナンバー】
▽ カジモド役候補3名
▽ フロロー役候補
▽ エスメラルダ役候補
▽ フィーバス役候補
▽ クロパン役候補
『ノートルダムの鐘』は『レ・ミゼラブル』などでも知られる世界的文豪、ヴィクトル・ユーゴーの代表作『ノートルダム・ド・パリ』が原作。
15世紀末のパリ、ノートルダム大聖堂の鐘楼に住む異形の青年カジモド、彼を世話する大聖堂聖職者フロロー、警備隊長フィーバス、その3人が同時に愛する娘エスメラルダの間で繰り広げられる、切なくもドラマチックな愛の物語です。
ディズニーでは1996年に劇場版長編アニメーションを制作、その美しい楽曲はアカデミー賞にノミネートされています。
この作品をもとに、ディズニー・シアトリカル・プロダクションズはミュージカルを製作、2014年には米国カリフォルニア州サンディエゴで、翌2015年にはニュージャージー州で上演されていますが、その上演形態は、今までの『ライオンキング』『美女と野獣』といった「アニメのミュージカル化」とは一線を画しています。
そのところを、フェリペ・ガンバ氏は以下のように説明。
「アラン・メンケン(音楽)とスティーブン・シュワルツ(作詞)が作ったアニメはもちろん素晴らしいが、さらに舞台ではピーター・パーネル(脚本)とスコット・シュワルツ(演出)という新しい人物が加わった。ふたりは「もともとのユーゴーの小説に立ち戻る」ことをしようとしたのです。
ユーモアがあり、ハッピーエンディングだったアニメに対し、原作のとおりにより複雑な人物を描き、より大人な作品にしたい...というところを目指した」
...ということで、本作『ノートルダムの鐘』は、<大人のミュージカル>なのです。
吉田社長も次のように語りました。
「私が初めて観たのは2014年の公演ですが、非常に大人向けの作品で、今の四季の上演活動を支える新たなレパートリーになりえると感じました。理由は3つ。ひとつは非常に深い人間ドラマがあるということ。そして完成度の高い楽曲で綴られているということ。そして、シアトリカルでシンボリックな演出が用いられてるということ。
ストーリーラインは非常にシリアスで、アニメーション映画とはかなり異なります。従来のディズニーミュージカルの印象が"ファンタジックで幸福感に溢れるもの"とすれば、本作は"ドラマチックで宿命感に溢れるもの"。登場人物が抱える明と暗、背負わなければいけなかった宿命を描き出すことで、嘘いつわりのない立体的な人間ドラマが立ち上がっています。
人間と運命の相克というテーマは四季が創立以来掲げる作品のテーマで、親和性が高い。ただ、今回は従来のディズニー作品のターゲットであるファミリー層ではなく、新たに大人の観客の獲得が目指せるのではないかと感じます。
この作品でカジモドは最初は、非常に美青年の状態で現れるんですね。彼がハンチバック(hunchback)になるさまは、肉襦袢を使い、観客の前でやっていく。それは非常にシアトリカル(演劇的)なやりかた。さらに、これほどシンフォニックで素晴らしいメロディを持ったミュージカルはなかなかなく、その音楽が舞台のセンターに来る。演出的には舞台の中心に音楽が来ます(聖歌隊が舞台上に存在する)。この感動は、やはり大人の方に楽しんでいただける作品だと思います。
ディズニーが見せるもうひとつの顔、それが『ノートルダムの鐘』ではないでしょうか。
ディズニーと四季のパートナーシップはこの作品をとおして、新しいステージを迎えると思っています」
なお上演期間は、12月から来年6月まで、と発表されましたが、そのことについては「今のところ、その後のことは決まっていない」と話しつつも、「一部報道にもあるのですが、浜松町の四季劇場を含む竹芝地区は、再開発の計画が上がっています。この再開発に我々四季がどのように関わっていくかというのは相談しているところなのですが、どういう影響があるかわからないので、とりあえず今の劇場を使うことができる期間、来年6月までを公演期間とさせていただきました。
ただ、色々な選択肢はあると思っています。とても素晴らしい作品なので、関東のお客さま以外にもぜひ楽しんでいただきたいと思いますし、秋劇場のキャパシティ(予定している公演期間)で足りないようであれば、さらに首都圏の劇場でやることも考えなければいけないと思います」と説明していました。
フェリペ・ガンバ氏からは、ユーゴーがこの作品を描いた社会的環境と、そこから生まれた作品のテーマなども、詳しく語られました。
「1831年にユーゴーが発表した小説『ノートルダム・ド・パリ』。ユーゴーがこの小説を書いたこの時期のヨーロッパは、合理主義思想からロマン主義の思想へと移行していった時代です。理屈や思想が人間の考えのベースにあったところから、より感性や情熱に移行していきました。その感覚の移行に伴い、芸術家たちはより複雑なキャラクターを生み出すことが出来るようになった。心の中に矛盾を抱えた人物を描きだすことを可能にしました。
合理主義の思想では、物事は善か悪、明暗がはっきり分かれていたのに対し、ロマン主義の時代は物事が複雑になり、矛盾を抱えたりもしてくる。
このことは『ノートルダム・ド・パリ』を語る上でも重要なことです」
「アニメはユーゴーの描いたダークな世界と少しかけ離れているところもあると思います。それでも物語の核の部分やエッセンスは失われていません。
複雑な人物が抱える葛藤の根底にあるのは、「希望」や「(他者を)受け入れる」ということ。さらに「外見で他者をジャッジしない」ということは、ディズニーの哲学とマッチしています」
...という話から、先にお伝えした、<ミュージカル版ではユーゴーの原作に立ち返るもの>になり、<大人向けの作品>になった、と説明されました。
なお、日本語台本・日本語訳詞は、『アナと雪の女王』が評判となった高橋知伽江さんが『アラジン』に続き手掛けることも、発表になりました。
さて、改めて発表された出演候補キャストをご紹介します。
●カジモド
...ノートルダム大聖堂に住み、鐘をつき続けてきた、生まれながらに異形の容姿を持つ孤独な青年。
海宝直人(※外部キャスト)
子役時代に『ライオンキング』ヤングシンバを演じるなど、四季とも縁が深い海宝さん。近年は『アラジン』タイトルロール、『ライオンキング』シンバと立て続けに四季作品に出演!
ほか、『レ・ミゼラブル』マリウス役など。
※海宝さん、げきぴあにもよく登場してます!
飯田達郎
美声を武器に『オペラ座の怪人』ラウル子爵などを演じている、四季を代表する二枚目俳優。
田中彰孝
『ライオンキング』シンバが当たり役。シンバ俳優は数多いますが、『ライオンキング』の顔といっても過言ではない田中さんも、カジモド役を獲得。
●フロロー
...ノートルダム大聖堂で神に仕える聖職者。カジモドの世話をしている。聖職者の身でありながらエスメラルダの虜となってしまう。
芝 清道
多彩な役を演じ、四季を代表する俳優である芝さん。最近では『オペラ座の怪人』怪人デビューも果たしました。
野中万寿夫
『美女と野獣』ガストン、『ライオンキング』スカーなど。げきぴあではこんな記事も★
●エスメラルダ
...自由を愛する美しきジプシーの娘。
岡村美南
近年、立て続けに重要な役を演じている岡村さん。なんといっても今年開幕した新生『ウエストサイド物語』のアニタは素晴らしい!
宮田 愛
『美女と野獣』ベル、『クレイジー・フォー・ユー』ポリーなど、こちらもヒロインを演じること多数!
●フィーバス
...フロローに仕える大聖堂警備隊長。
佐久間 仁
清水大星
●クロパン
...ジプシーの一味を束ねるリーダー。
阿部よしつぐ
吉賀陶馬ワイス
キャストを代表して、フロロー候補・芝さんがご挨拶。
「私自身、この『ノートルダムの鐘』の音楽をはじめて聴いた時、心が震え、鳥肌がたちました。そして原作を読んだ時、胸がいっぱいになりました。このような素晴らしい作品の開幕に携わることができて、大変光栄です。初日というスタートラインに向かって、スタッフ、キャスト、一丸となり、全身全霊で稽古に挑み、この作品の感動を多くの皆さまにお届けできるよう、全力を尽くしていきたいと思います。12月の開幕をぜひ楽しみにお待ちください」
会見では劇中歌も3曲披露されました!
♪「Out There」(カジモド:海宝直人)
♪「God Help the Outcasts」(エスメラルダ:岡村美南)
♪「Made of Stone」(カジモド:飯田達郎)
四季ファンの方々はご存知かと思いますが、実力派揃いのキャストです!
12月の開幕を楽しみに待ちましょう。
取材・文・撮影:平野祥恵(ぴあ)
【公演情報】
・12月11日(日)~2017年6月予定 四季劇場[秋](東京)
※12/11(日)~4/30(日)公演分を、10/15(土)に一般発売開始予定。