"女優"という肩書きに、まだアワアワしています――『グレイト・ギャツビー』大湖せしるインタビュー

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内博貴さんが主演するミュージカル『グレイト・ギャツビー』に、宝塚歌劇団を退団したばかりの大湖せしるさんが出演します。
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『グレイト・ギャツビー』はF・スコット・フィッツジェラルドによる、アメリカを代表する傑作小説。
1920年代のNYで、毎週末、絢爛豪華なパーティを繰り返す謎の大富豪、ジェイ・ギャツビー。
その裏に隠された、彼の悲しい"真実の愛"を描く、美しい物語です。
ロバート・レッドフォードや、レオナルド・ディカプリオが主演した映画も、ともに名画として名高いですね。
そんな物語が今回、錦織一清さんの演出、羽原大介さんの脚本、、岸田敏志さんの音楽で新たにミュージカル化されます。

その中で、美貌と野心でのし上がっていくプロゴルファー、ジョーダン・ベイカーを演じるのが大湖せしるさん。

大湖さんと言えば、先般大きな話題となり、チケットは争奪戦となった宝塚雪組公演『るろうに剣心』で謎の美女・高荷恵を演じ、その5月8日の千秋楽で宝塚を退団したばかり!
そのほか、こちらも話題作『ルパン三世 -王妃の首飾りを追え!-』(2015年)では峰不二子を演じるなど、雪組を、いや宝塚歌劇団を代表する"大人の色気のある女性"を演じるジェンヌさんでした。

もともとは男役としてキャリアを開始し、入団11年目に、男役から娘役へ転向した変り種。新人公演で主演を勤めるほど期待された男役が娘役に転向することは非常に珍しく、転向後は男役経験者の強みを活かした、自立した女性を多く演じ、人気を博しました。

その大湖さんが、早くも女優として再始動します。
現在の心境を伺ってきました。


◆ 大湖せしる INTERVIEW ◆


――5月8日に、雪組公演『るろうに剣心』で、宝塚歌劇団を卒業されたばかり。注目度も、そして話題性も人気も高い公演でしたね。

「たくさんのお客さまが来てくださって、すごく嬉しかったです。その中で高荷恵として生き、退団させていただけたので、本当に幸せでした」


――まだ2週間もたってません(※取材は製作発表の行われた5/20)。宝塚を退団された方の中では、しばらく休まれたりする方も多いと思います。様々な選択肢があったかと思いますが、なぜこんなに急いで次のお仕事をはじめるのでしょう?

「ただ"タイミング"なんです。私、先のことが考えられないタイプなんですよ(笑)。例えば、新人公演の主役をやらせていただいた時なども、「どういう男役さんになりたいですか」と取材で訊かれたりもしたのですが、何も出てこなかった。目の前に与えられたものをやらないと、次にいけない、成長できない。なので、あまり先を決めず、その時の直感で「ああしたい、こうしたい」と選んでやっているんです。なので、退団の前は本当に『るろうに剣心』のことを考え、高荷恵のことだけを考え、舞台に取り組んでいました。そして今回『グレイト・ギャツビー』のお話を頂き、これも縁かな、と。確かにタイミング的に早いかもしれませんが、また新たに外の世界で舞台に立てることが、すごく嬉しいです
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――もともと宝塚退団後は、女優の道へ進もうと思っていらしたんですか?

「いえ、全くなかったんです。退団を決めた時はまっさらな状態で、何の考えもなかったんです。タカラジェンヌとして、舞台人としてすごく充実していたからこそ辞めようと思ったので、その先は本当に決めていなくて。まわりからもよく何をするのかと訊かれたんですが、「わからないです、バイトかな...」とか言って、みんなに驚かれたくらい(笑)。本当に、バイトでもしながらゆっくり決めようかな、って思ってたんですよ」

――表舞台に出てきてくださって、良かったです(笑)。ファンの方も、大湖さんの舞台姿がまた観られることが嬉しいと思いますよ。

「ありがとうございます、そう思っていただけると私も嬉しいです。宝塚の舞台って、きっともっといようと思えば、居れたと思うんです。でも、辞めようと思ったのも直感です。私、"一本物"のお芝居で辞めたかったんです(宝塚の本公演は、1時間半のミュージカル作品+1時間のショー作品の2本立てが通常だが、大作の場合は全2幕の"一本物"作品になる)。しかも『るろうに剣心』という作品がもともと好きで、「ぜったいチギさん(雪組トップの早霧せいな)似合う、いつかやったらいいのに」って思っていた作品でした。それが雪組で上演されることになったので、作品が発表された、その足で「私、これで辞めます」と言いに行きました。自分の中で「なんだ、そうか...」とピンと来ちゃったんです」


――"一本物"のお芝居で辞めたかったというのは、お芝居に対してのこだわりがあったのでしょうか? それこそ、大湖さんにはショー・スターのイメージもあるのですが。

「ショーも大好きです。ただ私は何かが飛びぬけてできるようなタイプではない。でも、その作品の間、ひとりの人間として生きて居られるのが好きなんです。そして、お着物が好きで、日本物も好き。その世界観の中で辞めていける。しかも私が女役の転向のきっかけになった、小池修一郎先生の作品(『ロミオとジュリエット』2011年))で...というのも、ご縁かなと思ったんです」


――実際、『るろうに剣心』の高荷恵を演じ、その役で退団して、幸せでしたか?

幸せでした! 宝塚大劇場千秋楽の時にそれは改めて感じて、やっぱりこの作品でよかった、これで決めてよかったとすごく思いました」
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――さて、そして『グレイト・ギャツビー』です。宝塚の方には馴染みのある作品ですね。

「昔、宝塚でもやっていた物語なので、この作品が私の新たな道を開いてくれて、ただただ、ありがたいです。私、昨年、同じ禁酒法の時代を舞台にした『アル・カポネ』に出演していまして、その時に当時の雰囲気を知るための資料として『グレイト・ギャツビー』を観ていました。あの、資料にしていた作品をやるんだ!という不思議な感覚です。楽しみですし、演じたことのある時代なので、その世界に入っていきやすい気がしています」


――狂騒の1920年代、独特な雰囲気があって好きな方も多いですよね。

「私も好きです。宝塚ファンの方もよくご存知の時代ですよね。特に『アル・カポネ』をやったこともあり、私の中でも興味のある時代です。あの時に学んだことよりもさらに違う面も見えてきて、20年代のより深いところが見えてくるんじゃないかなと思って、楽しみです」


――内さんがディカプリオ版の映画を観て、やりたいと自ら提案したとのこと。大湖さんは映画は?

「ディカプリオ版も、ロバート・レッドフォード主演のものもDVDで観ました。資料として購入して。根本は変わらないでしょうが、今回私たちがやるものは、羽原大介さんが台本も新しく書いてくださるので、私の演じるベイカーの役割も、その中で色濃く作っていけたらと思っています」
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――その、ベイカーの役割はどのあたりだと考えていますか?

「相葉裕樹さんが演じるニックが物語の進行役であり、そのニックと会話することが多いので、ニックが話すことに対し意見を述べたりするベイカーの言葉でも、物語の進み具合や時代背景をお客さまに伝えていかなければいけないと思っています。言葉をきちんと話す、セリフを立てるといった、基礎的なところももう一度見直さなければと思います」


――ベイカー自身は、プロゴルファーなんですよね。

「そうなんです。私、ゴルフってやったこともないので、お勉強しなきゃと思って! すでにプロゴルファーの方の動画を見たりしています。でも見ているのと実際やるのとは違いますので、クラブの持ち方とか、ご指導して頂かなきゃ。実際舞台で披露するかはわかりませんが、ちゃんとそれを解っているかどうかで、プロゴルファー役である説得力が変わってくると思いますので


――女性で、プロのゴルファーである、というのは、この時代においては最先端の女性だったということなのでしょうか。

「おそらくそういう面もあると思いますが、彼女も、もともとは下層階級の出です。そこからのし上がっていった。この時代を生き抜いてきたというのが、この女性の強い部分だと思います。プロゴルファーという職業ではなく、のし上ってきたという過程を演じる上では大事にしたいですね」


――強い、芯のある女性というのは大湖さんお得意とするところですね。宝塚での経験は何か活かせそうですか?

「そうですね(笑)、女役になってからは、本当に芯のある女性ばかりと言っていいほど、強い女性を演じてきています。ただそれ以前に、普段の生活でも、そういう女性って素敵だなって思うので、自分を磨きつつ、役とリンクさせつつ、演じていきたいです」
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――改めて、宝塚を出られての一歩が今日の製作発表から始まったわけですが、本日はどんなお気持ちでしたか?

「やっぱり、宝塚では女性ばかり。男性とお芝居をするというのが初めてで、環境がガラリと変わることになります。確かに、おしゃべりするだけでも、どうすればいいのか...と思っていたんです。でも内さんの皆さんのことを気遣って話されている感じ、何よりも周りが華やぐ空気。そこに相葉さんや、みなこ(愛原実花)がいて...。皆さんが会話している雰囲気がもともとふわっとしていて、そこに入れていただいたので、私も喋りやすかったです。もっと喋れないかな、と思ってたんですが(苦笑)。皆さんのおかげで、いいスタートが切れそうです。人とのコミュニケーションって、舞台上に出て来てしまうものなので、大事にしたいなと改めて感じました」


――愛原さんとは、同じ雪組出身ですね。

「本当にみなこが出るってきいて、とりあえず安心しました(笑)。安心で嬉しくて、もう色々なことを訊いてしまっています。やっぱり外の舞台は、お稽古場の格好から、お化粧の仕方、色々なことが違うと思うんです。しつこいよってくらい、みなこには全部質問しちゃっています(笑)。でも、すごく細かく、丁寧に教えてくれるんですよ。それがあったから、今日も安心して、ここに来れたっていうのがあります」


――一緒に新人公演をやっていた世代ですよね?新公をともに作ってきた仲間は特別だ、って宝塚の方々は言いますね。

「そうそう、新公一緒にやっていましたよ~! あとは私が男役時代には、私がみなこ(の役)が好きだった...という関係性のお芝居をやったり(『忘れ雪』2009年)。一緒にお芝居をしていましたので、本当に懐かしい。しかも学年も近かったですから。同じ組でも学年が離れていたら、今ほどの安心感はなかったと思います」


――愛原さんは、どんな方ですか?

「今回の役、デイジーのとおり...といった感じの、天真爛漫という言葉が本当にぴったりな子です。でも彼女もすごく気を遣う子で繊細なところがある。その太陽のような雰囲気に助けられてるなって今日も感じながら過ごしていました」


――会見で拝見していただけでも、自然体な大湖さんで、いい環境なんだろうなって思えました。

「皆さんのおかげです。ドキドキはしますが、私もどうなっていくのか楽しみです」


――最後に、数ヶ月前は先ほどは女優という道を考えていなかったということですが、この『グレイト・ギャツビー』の後の作品も次々と発表になってます。もう大湖さんは女優道をまい進すると思って大丈夫ですか?

「うふふ、どうでしょう! といいますか、今回『グレイト・ギャツビー』への出演が決まったと新聞に出していただいたのですが、その時の肩書きに"女優"ってついていて。その響きが自分でまったく慣れず、まだアワアワしています。その記事を(宝塚の)下級生の子たちが見て、「舞台に出るんですね、嬉しいです」という連絡をたくさんもらって、そんな風に皆さんが受け入れてくれるんだなって、ほっとしたのは事実なんですが...。どうも、私自身はまだ、"女優"という二文字に抵抗というか違和感というか...」


――不思議ですね、宝塚の舞台に立っている皆さんも、演技者という意味では女優には違いないと思うのですが。

「でも宝塚では"女優"とは言わないですし、私の中ではタカラジェンヌは..."表現者"ですね。自分の中ではそういうカテゴリだったので、急に女優さんと言われると...(笑)。でも、その言葉に慣れていこうと思ういます。これからも誠実に、舞台に対してやっていきたいなと思います。どこまで出せるかわからないですが、出来ることはすべて出し切っていきたいと思います」
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取材・文:平野祥恵(ぴあ)
撮影:杉山正直


【『グレイト・ギャツビー』バックナンバー】

【公演情報】
7月2日(土)~10日(日) サンシャイン劇場(東京)
7月13日(水) 名古屋市芸術創造センター(愛知)
7月15日(金)~17日(日) ロームシアター京都 サウスホール
7月23日(土)・24日(日) 新神戸オリエンタル劇場(兵庫)

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