■音楽劇『ライムライト』vol.4■
石丸幹二が主演する音楽劇『ライムライト』が7月5日、東京・シアタークリエで開幕した。喜劇王・チャップリンの晩年の傑作映画を、世界で初めて舞台化する注目の作品だ。
物語は落ちぶれた老芸人・カルヴェロと、若きバレリーナ・テリーの純愛を描くもの。もとが映画作品であることを意識してか、フィルムの回転する音で始まるこの舞台はしかし、"チャップリンの映画"という印象に縛られることなく、物語の本質を掘り下げることで、新たな『ライムライト』の世界を再構築した。たとえば、石丸扮するカルヴェロには、ちょび髭といったいかにもチャップリンなアイコンはない。だが逆に、その純化した物語の中にこそ、チャップリンの精神が浮き彫りになるようだ。それは人生の悲哀を見つめながらも、日々をけなげに生きる人間に深い愛情を注ぐ、優しいまなざしだ。登場人物たちが時に自分に言い聞かせ、時に相手を励ます言葉は美しくシンプルで、心を打たれる瞬間が何度も訪れる。
音楽も美しい。何度もリフレインされる名曲『エターナリー』は、その都度、甘さや切なさを運んでくる。また、カルヴェロが最後の舞台で歌うナンバー『You are the Song』はとりわけ祈りのような崇高さで響く。もともとチャップリンの未発表作『The freak』のためのこの曲が効果的に活きた。さらにこれらチャップリンが作った音楽に加え、荻野清子が書き下ろしたナンバーが美しく溶け合い、作品世界を色づける。"音楽劇"という手法が物語に見事にマッチした。
その美しい世界の中、少数精鋭のキャストが、それぞれの個性と実力を存分に発揮する。石丸は、かつての名声を失い忘れ去られた老芸人を、諦観と悲哀と、それでも舞台にしがみつきたい舞台人の"さが"と...複雑に重なる感情を丁寧に演じる。足が動かなくなったことを悲観し自殺をはかったバレリーナ・テリーを演じる野々すみ花の透明感と愛の深さも心に響く。ともに舞台に生き、舞台で挫折をしたこのふたりが深い愛で繋がっていくのは、非常に説得力があった。
穏やかに綴られる物語だが、その中にも舞台芸術のシビアさなど、ヒリっと胸を刺す感情もある。だがその痛みすら、物語全編にただようノスタルジーがやわらかく包む。それは、苦しみや悲しみさえもひっくるめて、人生は美しいということを訴えかけているかのようだった。
公演は15日(水)まで同所にて。その後各地公演あり。
取材・文:平野祥恵(ぴあ)