【インタビュー】気鋭の演劇人・熊林弘高!

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 1936年にノーベル文学賞受賞。アメリカで最も権威のあるピューリッツァー賞の受賞は4回。ユージン・オニールは、アメリカだけでなく、近代劇全体を代表する最重要人物と呼ぶにふさわしい。
彼の代表作にして最高傑作『夜への長い旅路』は、戯曲の冒頭で作者自身が「涙と血で刻みつけた、古い悲しみの原稿」と呼んでいるように、この作家の自伝的な作品、しかも、痛切で壮絶な悲劇である。崩壊寸前の家族が、それぞれの人生を賭けて激突した、ある一日の物語。その自伝的内容ゆえか、作家はこの戯曲をナーバスに扱った。原稿を厳重に封印して保存庫におさめ、死後25年間は出版禁止を指示。だが、遺族の判断により、作者没後3年の1956年、この戯曲は出版の陽の目を見る。「涙と血で刻みつけた、古い悲しみの原稿」は、こうして、わたしたちの前にある。
この戯曲、『夜への長い旅路』の演出を熊林弘高が手がけるというのは、うれしいニュースだ。
2010年、ジャン・コクトーの家庭崩壊劇「おそるべき親たち」を、当時はまだ無名の存在だったこの演出家は、麻実れい、佐藤オリエ、中嶋しゅう、中嶋朋子、満島真之介といったそうそうたるキャストをまとめ、切れば血の出る鮮烈なリアリズムで鋭く描き切った。この舞台が、2014年、同じキャストで改訂上演されたほどの声望を集めたことは、すでにご存じの通り。この作品以外にも、演出家クレジットに彼の名前を見る機会は増えてきた。
気鋭の演劇人・熊林弘高に、『夜への長い旅路』上演の狙いを訊いた。

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Q今、上演に向けての準備は、どのような段階ですか?
「木内(宏昌)さんが翻訳にかかっていて、最後の4幕の上がりを待っているところです」

Qそもそも、ユージン・オニールの『夜への長い旅路』という作品を上演することになった経緯を教えてください。
「最初は、演目は本当は、ルキノ・ヴィスコンティ監督の映画『地獄に堕ちた勇者ども』を舞台化しようっていう話だったんです。海外では何回か舞台化されているようだから、上演の権利取得を模索していたんだけど、ちょっと時間切れになってしまった。それで、他の作品を探しましょうってことになった。麻実(れい)さんから、とある小説の舞台化のアイデアがでたり、ぼくからは『夜への長い旅路』と、もう一本別の海外戯曲の案を出したり。麻実さんは最初、『夜への長い旅路』には迷いはあったみたいですね。肉体的につらい、大変な戯曲ですから。最終的には「くまちゃんがいいって言うんなら、やる」というところに決着しました」

Q確かに、母メアリーはハードな役です。愛する次男が死病・結核に冒されている事実を受け入れられない。家族はバラバラ、強烈なエゴの持ち主ばかり。さらに、自分自身が深刻な麻薬中毒。
「でも、例えば海外では、2010年に、リヴ・ウルマンが70歳で『夜への長い旅路』の母メアリーを演じているんですね。母国ノルウェーで50ヵ所のツアーをして、ツアーのラストがスウェーデンの王立ドラマ劇場(ドラマーテン)。『夜への長い旅路』という戯曲は、もともと、1956年に、スウェーデンの王立ドラマ劇場(ドラマーテン)で世界初演されているんです」

Q作者は、死後25年間この戯曲の出版を禁じていましたが、3番目の奥さんが条件つきで出版を許可したのが作者の死後3年目の1956年。出版された年に即、上演ですね。
「その後、スウェーデンの王立ドラマ劇場(ドラマーテン)では、イングマール・ベルイマンもこの戯曲を演出しています。1988年、ユージン・オニール生誕100周年・劇場開場200周年記念の企画で。ビビ・アンデショーンが52歳で母メアリーを演じているんだけど、リヴ・ウルマンはそのときの舞台を観ていて「自分の観劇人生の中で、最もすぐれた舞台のひとつ」だったって言っているそうです。ブロードウェイでは、ヴァネッサ・レッドグレーヴも、66代後半でメアリーを演じています。そのときの長男は、フィリップ・シーモア・ホフマン」

Qいちいち全部観てみたかったですね。
「麻実さんも最初は、体力的に無理って言っていたんだけど、ぼくも「これ以外考えられない」って、最後は半分くらい脅しみたいな感じだったかな(笑)。『おそるべき親たち』の初演のメンバーとは、もうひとつ違う作品を何かしたいと思っていた。そういうときのオファーだったから、せっかく、『おそるべき親たち』で一緒だった麻実さんと(満島)真之介くんも出てくれるという話だったし、『おそるべき親たち』の二番煎じにはしたくないけど、母と息子の関係でさらに深くできる作品、自分たちにとって新しい挑戦になる作品は何だろうと考えた。一番最初に考えていた『地獄に堕ちた勇者ども』も母と息子の話ですが、あれは『おそるべき親たち』と同じ親子関係だと言えなくもない。でも『夜への長い旅路』はもっとすごいでしょう。『地獄に堕ちた勇者ども』が出来ないとなると、母と息子の関係で、さらにこう、ぐっと入り込める作品は何かないかなって考えたときに、やっぱり『夜への長い旅路』しかないと思ったんです」

Qユージン・オニールのこの作品に、なぜそこまで思い入れているんでしょう。
「この戯曲を初めて読んだのが、高校生のときなんです。なぜ読んだかというと、キャサリン・ヘプバーンの伝記を読んでいたら、『夜への長い旅路』という作品の名前が出てきたから。キャサリン・ヘプバーンが主演した映画版『夜への長い旅路』のことですね。まず、タイトルが素敵でしょう。伝記にはおおよその粗筋も紹介されていて、肝心の映画は当時も今も日本未公開のままだし、じゃあ、日本語訳の戯曲なら手に入るから、読んでみようと思った」

Qとても早熟な読書体験ですね。
「でも、そのころ、戯曲を読んで、おもしろいなって思ったことなんかなかった。高校のときに、チェーホフもシェイクスピアもギリシア悲劇も読んでみたけど、戯曲って読みづらいし、何がおもしろいのかなって思っていた。シェイクスピアはまあ、ストーリーとしてはおもしろいなと思うことはあったけど、この『夜への長い旅路』は、大した筋があるわけでもないのに、たった1日の話で、ただひたすらけんかしてるみたいな内容だったんだけど、すごく心に残っていた」

Q確かに、その通りの戯曲ですね。
「その後、東京に出てきて、演劇の制作現場に関わることになって、演出家のロバート・アラン・アッカーマンと話しているときに、「映画の『夜への長い旅路』は日本未公開で、手に入らない」って話したら、ボブが、ビデオ買ってきてくれたんですよ、向こうで。ボブは昔、『夜への長い旅路』をやろうと思って、ユージーン・オニール・センターで、本読みまでやったらしいんです。そのボブが、ビデオを持ってきてくれて。「あげる、プレゼントだ。とてもいい映画だよ」って言って。それで、やっと観ることができて、キャサリン・ヘプバーンは、やっぱりすごい女優だなって思った。そういうのが過去にあって、ずっと、いつかやれたらいいなって思っていたんです」

Q演出家となった今、『夜への長い旅路』という作品を改めて読んでみて、どう思いますか?
「自分にとって、この『夜への長い旅路』を物語るということは、一体何なんだろう。これだけけんかをしながら、一緒にいる家族。言葉では相手を傷つけながら求め合っている家族。ぼくは去年、父を亡くし、10年前には母も亡くしています。ひとりっ子だったから3人家族だったわけですが、自分は親と向き合ってきたかなって考えると、全然向き合ってこなかった。父とも母とも、反抗期のときにけんかをした記憶くらいはあるけど、『夜への長い旅路』の家族のような、人間の尊厳を賭けた会話なんか、記憶にない。母がどんな人生を送ってきたか、とか、父がどんな人生を送ってきたか、なんて、全然知らないんですよ。それを思ったときに、自分は、家族っていうものと、ちゃんと向き合ってこなかったんだなってことに気づいたんですね。だから、なぜ、ぼくが、家族劇を演出したり、その中で、愛にしても憎しみにしても、人間の激しい関係性を表現するのかというと、自分があまり、人とそういう付き合い方をしてこなかったから。それが自分にとって、欠けたピースを埋める作業なんだって思ったんです。そういう意味で、今まで家族劇はいくつかやってきたけど、今回の作品が一番の難関で、難所です。今、38歳ですが、今まで自分が培ってきたものや、今まで考えてきたことを全部ぶつけないとだめ。それで初めて、自分は、家族というものを、自分の中の、ある落としどころに落とすことができる。そう思っているんです。今回は特に、まったくシンプルなセットだし、椅子すらもないことになっちゃいそうだから、どうしても、役者の身体性が重要になってくる」

Qそのシンプルな舞台美術、もう少し具体的に教えてください。
「砂を使おうと思っています。舞台美術デザイナーの島(次郎)さんから、砂を使った舞台の話を聞いて、「じゃあ今回も、砂を使うのはどうですか、海に近い話だし」「ああいいね!」っていう、最初は他愛のない四方山話から決まっていった感じで。砂は、世界が崩れていくイメージ。舞台上へ俳優が出入りするたびに、砂がどんどん崩れていく」

Q本当に椅子もないんですか?
「小道具を収納したりする整理ボックスのような箱が、ときとして椅子にもなったりします」

Qまさしく『なにもない空間』ですね。
「決して予算が少ないってわけじゃないんですよ(笑)。ぼく、何もない舞台が、好きみたいです」

Q衣裳はどうですか。チラシの衣裳は非常にシンプルです。
「無国籍で、時代も感じさせないものにしたい。こちらもなるべくシンプルに。一度、戯曲の勉強会に、ふらっと衣裳デザイナーの原(まさみ)さんが来たから、「黒は極力使わずに、黒っぽく。紺とか紫とか、深い色で全部やりたい」ということを伝えました。麻実さんが、白い寝巻の上に黒っぽいガウンを着たとき、死の天使みたいに見えてほしい。そのときに初めて黒を使いたい、というような」


【東京公演】2015/9/7(月)~23(水・祝)シアタートラム
【大阪公演】2015/9/26(土)~29(火)梅田芸術劇場 シアター・ドラマシティ

■公演オリジナル写真カード(日替わり)をプレゼント!■
下記対象公演をご観劇されたお客様にもれなく、
『夜への長い旅路』公演オリジナル写真カードをプレゼント!
写真は日替わりとなりますので、是非何度でも劇場へ足をお運びいただき、
貴重なお写真を集めてみて下さい!
[東京]
9/7(月) 18:30公演
9/11(金) 18:30公演
9/15(火) 18:30公演
9/18(金) 18:30公演
[大阪]
全公演

■アフタートークショーを開催!■
[東京]
【開催日時】9/14(月) 14:00公演
【登壇者】麻実れい/田中圭/満島真之介/益岡徹
[大阪]
【開催日時】9/28(月) 13:00公演
【登壇者】麻実れい/田中圭/満島真之介/益岡徹
※公演終了後に開催。
※該当公演のチケットをお持ちのお客様は皆様ご覧いただけます。

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