■ミュージカル『二都物語』 華麗なるその世界 vol.3■
フランス革命の動乱が続く18世紀後半のパリ、ロンドンを舞台に、ふたりの男性とひとりの女性の数奇な運命を描いたディケンズの『二都物語』。
全世界での発行部数は2億冊超というこの名作をミュージカル化、2007年にフロリダで初演され、その後ブロードウェイ、韓国でも上演された注目作がいよいよ日本初上陸します。
物語の核となるシドニー・カートンとチャールズ・ダーニーを演じるのは、ともに現在のミュージカル界を牽引するスター、井上芳雄と浦井健治。
この春には山崎育三郎と3人でユニット「StarS」を結成、CDデビューも果たし大きな話題をさらったふたりが5年ぶりにミュージカルの舞台で共演します。
気心の知れた仲らしいテンポのいいやりとりの中にも、信頼関係がしっかりあるようで...。
ふたりが『二都物語』にかける意気込みを伺ってきました。
井上芳雄&浦井健治
Interview
――まず、演じる役どころについて教えてください
井上「飲んだくれの弁護士、シドニー・カートンを演じます。たぶん弁護士として腕はいいんですが、いつもお酒を飲んでいます。その彼が恋をするんですが、恋をしたと思ったら本当にちょっと、ひと足遅れて、その女の人は浦井君の役の人と結ばれてしまう。それでもずっとその思いをもったまま、彼女を愛し続けて、その家族を見守り続けて...という役です。でも本当に理想というか、ある意味聖者の役。自分がやらせてもらうにはおこがましいんですが、近づきたいと思っています。自分は愛されなくてもいいから、この人を愛するんだ、というのは、そうありたいと思うけれど、それをやり切れる人はなかなかいない。そういう風に人を愛せたらどんなにいいだろうと思います」
浦井「僕の演じるチャールズ・ダーニーは、貴族でありながら、フランス革命当時の貴族社会や高級聖職者たちに対しての疑問を抱えている、とても正義感が強くまっすぐな青年。登場人物ひとりひとりとの関わりによって成長していく過程をみせる、というのも物語の中で課せられている部分だと思います。たとえばルーシーとであれば恋愛、そして子どもを持つことで家族愛、芳雄さん演じるカートンとは友情、ルーシーの父親であるマネットとは人間愛。そういった様々な愛を感じながら成長していく。重要な役割をやらせていただくんだろうなと思っています」
――井上さんは"飲んだくれ"というのは、今までにないタイプの役ですね
井上「実際は飲んだくれなんです(笑)」
浦井「違いますよ~!まじめな方ですよ!!」
井上「まあ、お酒は好きなんですけどね。でもカートンは何か"飲む理由"があると思うので、それを稽古のあいだに見つけていきたいと思います」
――そして『二都物語』と言うと、まず最初に思い浮かぶのが"カートンとダーニーが瓜ふたつ"だということ。俳優さんにとって、このような役を振られるお気持ちは?
浦井「僕は光栄です!」
井上「早っ!質問に食い気味だったよ、今」
浦井「やっぱり芳雄さんと瓜ふたつ、という役柄で舞台上に存在できるのはとても嬉しい。それが悲劇でもあるんですが。ある意味カートンにとってチャールズとルーシーが築いた家族が希望であったと思うし、それをカートンが支えることで自身も人間として浄化されていく感じを彼は抱いていたと思うから、そういった間柄でいられることが光栄です。その瓜ふたつのふたりが、フランス革命の動乱に翻弄されながらも懸命に生きていく姿を見て欲しい」
井上「(浦井さんの熱弁に少し笑いながらも)...僕も光栄です。実際、身長などおおまかな背格好はある程度似ているし、同じような役もやってきましたので、舞台上で全身で見ると、(設定上は)成立するかなと思います。でも、あまり"瓜ふたつ"のところに重きを置かなくてもいいのでは、と思いますね。だって、中身も外見も似ているなら、ルーシーがダーニーを選ぶ意味がなくなっちゃいますから」
浦井「そう、そこがすごく難しいです。納得してもらえるようにやらないといけないので」
井上「違いがはっきりしたほうが物語としてはいいんじゃないかな。...まあ、顔も全然違うし。僕は浦井君ほどはっきりした顔してないから(笑)」
――実際StarSでも、同じ"プリンス"と言いながら、おふたりはかなり違う個性を出してきていますよね
井上「うちの浦井が違う個性を見せちゃってすみません(笑)」
浦井「申し訳ございません(笑)。でも僕たちの個性を引き出して、すべて誘導して、オチをつけたりしてくださっているのは、すべて芳雄さんです!」
井上「ほんとに浦井君、もともと持っていたものが花開いた感じだよね。でも、製作発表会見でも5人中4人、いや鵜山さんも含め6人中5人がボケっぽかったので、身の危険を感じています(笑)。僕、思わず訊いたもん。他の人でツッコミっている? 岡さんは? ツッコミじゃないかな、とか!」
――なんかもうすでに息ピッタリですが、おふたりのデュエットとかもあるんですか?
浦井「1曲あります。でも、カートンはデュエットよりもソロナンバーが多いですよね。うちに秘めた思いをたくさん抱えている役だからだと思うのですが。僕、芳雄さんのうちに秘めた芝居、何かを抱えている役というのにすごく惹かれるんです。ハムレットとかもそうなんですが、抱えているものが露見したり、爆発する瞬間が大好き。気性が激しいというより、その人が切なく見えるんです。だからすごい楽しみ。カートンはすごいイケメンな人です。男も惚れる、男女ともに憧れるような存在です」
井上「ありがとうございます(笑)。浦井君の演じるダーニーは、自分は貴族だけども、世の中は変わろうとしていて、その変わっていく方に共感している人。彼は彼の立場で一生懸命やっただろうし、それは浦井君にあっていると思いますね。"自分の立場で一生懸命やる"というのは、普段の浦井君に重なる。それに僕たちふたりの関係も、友情というか...それは重なるかな。ルーシーを間に挟んでますが、でも取り合うわけじゃなく、僕は引いて、それを彼は知らない。そして自分がいなくなったらあとを頼む、って言うんです。そこには何かしらの友情があるでしょうし」
浦井「信頼もあるでしょうし。僕たちも特にStarSを組んでからの流れが濃かったので、それも多分、反映されてくると思います」
井上「もうこの3・4ヵ月、ずっと毎日、浦井健治さんと一緒なんで...」
浦井「"さん"って言っちゃうくらい、ちょっとため息な感じですか!?」
井上「いやいや、嬉しくて嬉しくて。どれだけツッコめるんだろうと(笑)。ホント、こんなに浦井君と一緒になる日が来るなんて」
浦井「でもすごいことですよね。今までミュージカルで横のつながりってあまりなかったから、だから各々が頑張っているという段階から、この先のミュージカル界を見据えて、横の繋がりも広げていかないとって僕たち感じたんです。そう思っている若手が増えている気がします。ミュージカル界自体が活性化していくという動きを求めているんじゃないかな。そういう話もしているんです」
井上「そういう話が一緒にできるのも、恵まれていますよね。ただ、僕たちの本業は俳優でここがホームグラウンド。やっぱりここをしっかりやって、例えばStarSで知って来てくれた方にも、この人たちはこれだけ本気でやっているんだって思ってもらえるものをやらないとダメだなって思ってます。もちろん、常に一生懸命やっているのですが」
――そういった意味でも、この『二都物語』はいいタイミングですね
井上「ミュージカルとしての正統的な魅力がすごくありますよね」
浦井「それこそ『レ・ミゼラブル』とか『ミス・サイゴン』とかの流れを汲んでいます」
井上「うん。ドラマチックな音楽で物語を運ぶというミュージカルの系統の中に入っている。それにフランク・ワイルドホーンの曲も入っていますから(ジル・サントリエロの作詞・作曲だが、追加音楽をワイルドホーンが担当)、聴き応えもありますし、話自体はっきりとしたテーマを持っている。いいミュージカルの要素を兼ね備えています」
――そして、これを鵜山仁さんが演出するということで、日本版はブロードウェイ版や韓国版ともまた、違った魅力をもつものになりそうですね
浦井「鵜山さんは役者を大切にしてくれる演出家。人を見抜く力がすごいあって、ひとりひとりの役者の個性を掴んで、その人が一番伸び伸びと実力を発揮できるような空間を作ってくれるんです。あとは言葉を大切にする人でもあるので、お客さまにとっても優しいと思います。物語をちゃんと汲み取れるようにしてくれて、そういう言葉のニュアンスをちゃんと役者に託してくれます」
井上「よく浦井君とも話しているんです、今回、鵜山さんが演出をしてくださるというのが本当に良かったよねって。僕も浦井君もミュージカルをやりながらストレートプレイもやってきていて、本当に頭を壁にガンガン打ちつけながら、"ミュージカルをやっている俳優の自分"というのをすごく考えながらやってきています。やっぱり歌えようが踊れようが、背が高かろうが、ちゃんとお芝居が出来ないとダメなんです。それが一番大切だというのは僕も浦井君も身をもって経験してきているし、そうありたいと思ってる。鵜山さんはもちろんミュージカルのことをよくわかっていらっしゃるし、何よりもお芝居の演出家。ちゃんと芝居に比重を置いて、歌がなくても成立するくらいの濃度の芝居をやって、そこにあのドラマチックな音楽が重なったらどんなことになるんだろう、と思います」
浦井「そうなんです。我々の世代が、今回だと芳雄さんと僕が並んで帝国劇場で真ん中に立たせてもらう現状に感謝しながら、さらにドラマ性にトライできるというのは、よりミュージカルの奥行きを感じることができるきっかけになるんじゃないかな。今までもミュージカルはストレートプレイの人や歌舞伎の人、たくさんのバックボーンを持つ人が入って成立していたんですが、今度は逆に、ミュージカル畑で育てられた僕たちが、お芝居を大切にするミュージカルにチャレンジする。何か、次のステップにいく段階にも来ている気がします。だからこそ、鵜山さんの演出なんだろうと思いますし、お客さまの心に普遍的なメッセージをダイレクトに届けられるような作品になればと思います」
撮影:源賀津己
公演は7月18日(木)から8月26日(月)まで、帝国劇場にて。
チケットは発売中。