【光より前に(4)】「世の中をよくしたい」宮崎秋人×木村了×和田正人×谷賢一取材会/後編

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11月に上演される舞台『光より前に~夜明けの走者たち~』の、稽古に先がけ行われたワークショップ&取材会の様子をお届けするレポートその④

→その①/作品の概要&ワークショップ前編はコチラ

→その②/ワークショップ後編はコチラ

→その③/取材会前編はコチラ

本作は、1964年の東京オリンピックで銅メダルを獲得したマラソンランナー・円谷幸吉と、その4年後のメキシコオリンピックで銀メダルを獲得した君原健二という、ライバルであり友人であったふたりのストーリーが初めてドラマ化される作品です。

前回に引き続き、円谷役の宮崎秋人さん、君原役の木村了さん、円谷のコーチ・畠野洋夫役の和田正人さん、脚本・演出の谷賢一さんが参加した取材会/後編をお届けします!

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▲(左から)木村了さん、宮崎秋人さん、和田正人さん

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――ワークショップやこの取材会で「何のために走るのか」「ランナーと俳優は似ている」というお話が何度も出てきましたが、みなさんは何のためにこの仕事をされているのでしょうか?

谷:僕は世の中をもっとよくしたいと思っています。この世の中にはまだ、不幸と貧困と戦争がいっぱいあるじゃないですか。ありとあらゆる悲しみを世の中から追放していきたいと思うし、人間はもっと豊かに結びついたり、友情をはぐくんだり、愛を共有したりできるはずだと思うんですね。その割にはみんな苦しそうに生きてますけれども。まだまだ演劇というものを通じて伝えられる感動や教訓は多いと思うんですよ。僕自身が演劇で人生救われた人間なので、これをどんどん恩返ししていけば、少なくとも一人二人三人と、どうやって生きたらいいかわからないと思っている人が減らせると思う。今回みたいな"人生"とか"生きる"ということについて率直に向き合えるいい題材に僕が出会えたのは、本当に巡り合わせだと思うので。この作品をこういう素晴らしいキャストと一緒に、円谷、君原、そして畠野コーチ、高橋コーチという実在した人たちの魂もきちんと背負いながら、お客さんにボールとして投げることができたら、きっと世の中ちょっと良くなると思うし、苦しく生きてる人も生き方についてちょっと新しい知見を選べるんじゃないかと思うので。そういうことのために僕は演劇をやっております。

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宮崎:僕は、養成所に通っていた頃に初めて参加した舞台の稽古中に、東日本大震災が起きまして。当時は自重ムードがあって、その舞台もやるべきなのかという話になったのですが、スタッフキャストの皆さんが「やっぱりやろう」って上演を決めて。幕が開くとお客さんも満席でした。そこで初めて浴びた拍手で「こういう状態でも求められてるんだ、演劇というものは」と思って。それで「やりたい」と思いましたし、これからもやっていこうと思いました。求めてもらっているからやってます。

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木村:僕は14歳位からこの仕事を始めたのですが、もともとはこの仕事をやるつもりもなく、芸能人になろうなんてことも、芝居をしようなんてことも思ってなくて、"なんとなく始めた"っていうのが最初にあって。でもそれは君原さんも一緒だったと思うんですよ。本を読むと君原さんも「特にやりたかったわけじゃない」「得意であった」ということから始まっているので。でもやっていくなかで面白いなと思うところは、やってもやっても埋まっていかないこと、自分の中で。ひとつの役が終わっても次の役がくるし、役を探求していくとどんどんどんどん掘り下げられるし。知らないことが多すぎることに気付きました。人を演じるのって、その人の人生を生きるってことだから、足りないんですよね、時間が。それをひたすら追求していって、今ここに座っている状態です。これからもそれは続けていきたいなと思うし、それが自分の原動力にもなっています。だから僕はすごく楽しんでこの仕事をさせていただいています。辛いときもありますけどね!

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和田:こんな僕でもこの仕事で世の中を豊かにすることに貢献できているという実感です。僕は、夢を実現させようと必死で生きることへの魅力というか、生きている実感というか、そういうものをとことんつきつけてやろうと思っていて。そうすることで、近い人でも遠い人でも、まだ見ぬ人でも、みんなが「自分でもできるだろうか」みたいな、少しでもチャレンジする気持ちを、おこがましい言い方をすると、与えられるのかもしれない。いい仕事だなって本当に思っていますし、そこに遣り甲斐や僕がやる意味みたいなものも感じています。俳優をやるうえで、最初は「もっと自分を表現したい」「もっと活躍する場所が欲しい!」と思っていましたが、それだけじゃやっぱり続けられないので。そこから向き合っていくなかで、そんなことをすごく考えるようになりました。

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――では最後に意気込みをお聞かせください。

宮崎:文献もいろいろありますし、いろんな角度から見た円谷さんがいますが、僕はそれはあくまで"周りから見た円谷幸吉"でしかないなと思っていて。だからそこはあくまで参考として、自分がちゃんと円谷幸吉になるために、脚本を通して見えるものを大事にしていきたいです。自分の中から生まれたものをしっかりと皆様にお届けできるよう、カタチにできたらと思います。がんばります!

木村:2020年の東京オリンピックを目前にこの舞台をやるということにもひとつ意味があると思います。円谷幸吉さんという人がいたことを今の若者はほとんど知らない。そして君原健二さんというまだ走られている、ある意味探求し続けている方がいる。そういう人たちのことを今一度こういうカタチで、若い世代の方も観に来られると思いますし、僕らが伝承者になれたらいい。この作品がマラソンへの関心だったり、陸上への関心を広める助けにもなれたらいいなという気持ちです。全力でやらせていただきます。

和田:僕がランナーとして生きてきた、そして今俳優として生きている、そういったものをひとつにまとめた、自分の中で大きな意味を見つけられる作品になりそうだと思っています。だからこそ今回に限っては、自分という存在、在り方、生き様というものを率直に素直にぶつけてみたい。今の日本は2020年に向けてという意識が強いですが、この作品は、そこよりももっと先に先に向けての、演劇もスポーツもさまざまな文化が先に先に進んでいくための何か大切なものが描けそうな予感がしています。そんな"大きな足跡"を残す作品になりそうです。

谷:円谷幸吉の人生は悲劇だと思うんです。ただその悲劇を上回る希望みたいなものだったり、光みたいなものだったりが、彼の物語の周りには付着してると思うんですね。彼を「悲劇の人」だったと思ってる人には、そんな簡単なものじゃなかったんだぞということで見てもらいたいです。そしてある意味では円谷幸吉の悲劇を補填するようなカタチで、君原健二という男はどう生きて走ったのか。このふたりの人生を並べることで、見えることが増えるなと思うんですよね。なので全く知らないという方にももちろん観てほしいですし、ちょっと知ってるよという方にもぜひ観てほしいです。50年近く前の話になりますが、現代を生きるということにうまく接着できるようなお話にしたいなって。僕自身も決してプロのランナーではないですし、ランナーの気持ちがすべて書けるわけじゃないと思うんです。多分、ランナーの人生を借りて、自分が知っている、生きるということ、戦うということ、走るということ、孤独を書くのだろうから、それが現代のお客さんと何かのカタチでうまく出会うことができればいいなと、今思っております。

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公演は11月14日(水)から25日(日)まで東京・紀伊國屋ホール(※14日はプレビュー公演)、11月29日(木)から12月2日(日)まで大阪・ABCホールにて。

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