11月に上演される舞台『光より前に~夜明けの走者たち~』の、稽古に先がけ行われたワークショップ&取材会の様子をお届けするレポートその②(作品の概要&その①はコチラ)。
本作は、1964年の東京オリンピックで銅メダルを獲得したマラソンランナー・円谷幸吉と、その4年後のメキシコオリンピックで銀メダルを獲得した君原健二という、ライバルであり友人であったふたりのストーリーが初めてドラマ化される舞台です。
前回に引き続き、円谷役の宮崎秋人さん、君原役の木村了さん、円谷のコーチ・畠野洋夫役の和田正人さんが参加した、脚本・演出の谷賢一さんによるワークショップレポートの後編をお届けします!
▲(左から)谷賢一さん、宮崎秋人さん、木村了さん、和田正人さん
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前半は「走る」ことを中心に話した皆さん。後半は、この場で配られた作品のプロット(あらすじのようなもの)をもとにした谷さんのお話がありました。
例えば...
◎選手&コーチの関係性
「調べれば調べるほど、円谷チームと君原チーム、それぞれすごく個性のあるコーチと選手の組み合わせだったなと思う」と谷さん。練習の仕方や、選手とコーチの関係性、そして最終的に離れ離れにさせられてしまう円谷&畠野コーチと、一度離れ離れになるけど再会する君原&高橋コーチ。その2つのチームの違いは、この作品でもたっぷりと描かれそうです。
◎円谷と君原の性格の違い
谷さんが数々の文献を読んで感じる円谷さんは「普段はユーモアもあって人好きのする人だったそうです。でも上官に言われたらなんでも従うところがあった。『こうしろ』『はいわかりました!』でなんでもするような、いきすぎた従順さがあって。それがまた彼が周りの人にかわいがられた要因でもあったのかな」。逆に君原さんについては、谷さんが「著書を読んでいても、なんかちょっとくせのある人なんですよ。はねっかえりみたいなことばっかり書いてあって(笑)」と言うと木村さんも「そうそう!」と笑う真反対のイメージ。谷さんが実際に会いに行っての印象は「腰の低い方だけど、信念がある部分は曲げない感じがあった。ある意味ではすごく強い個人主義だと思う」と語りました。
◎隠されていた事実について
和田さんからの「円谷さんのコーチの左遷や結婚への反対は、当時の感覚だとどのくらいの理不尽だったんですか?」という質問に谷さんは「相当な理不尽だったと思う。最近の資料を読むと、どれも結婚反対について書いてあるけど、これは1976年に書かれた『長距離ランナーの遺書』(沢木耕太郎/短編集「敗れざる者たち」に収録)で初めて掘り起こされたもの(自殺は1968年)。その前まで世間で知られていなかったんですよ。関係者に隠さなきゃいけないという自覚があったんだと思います。実際にその自覚が生まれたのも亡くなった後だと思いますけどね」。
濃厚ですね。しかしこれは全部リアルな話。そして、円谷さんの自殺も、君原さんの活躍も、その後の陸上界に大きく影響を与えました。彼らが身を以て示したことで初めて見直されたことや改善されたことがあり、それが今の陸上界へとつながっているのだそうです。それを初めて描く作品に、まさに今の陸上界で活躍される原晋監督が特別監修で入られることにも、とても大きな意味を感じます!
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ワークショップではプロデューサーさんから、この作品を書いたきっかけについての質問も。そう、実はこの作品、谷さんが3年前から温めていたものなんです。「円谷幸吉のざっくりした人生と遺書のことは知っていました。でもそこに君原健二の人生がドッキングしたとき、僕の中でドラマとしての魅力が大きくなった。円谷さんの人生の顛末は知ってる人も多いし、彼の人生を聞くとみんな何か反省したり感動したりすることがあると思うんだけれども、そこに性格・走り方・運命・恋人とコーチとの出会いや別れという部分で、本当にきれいな対称形としての人生を送った男がいた。マラソンは最終的には孤独な競技ですが、円谷幸吉から君原健二になにか渡された気がしました。伝える価値のある物語だと思いました」と語りました。
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ふたりの物語が果たしてどのように描かれるのか、気になりますね! 最後に谷さんは、ご自身の人生と照らし合わせてこの物語を語ってくれました。「僕は結婚して、離婚して、もう一回結婚したのですが、離婚したときにひどい精神状態になったんですよ。仕事は途切れることなく来るけど、一体なんのために働いてるのかわからない。歯を食いしばって仕事しているので、全然充実もしないし、そこで手に入れたお金も何に使っていいのかもわからない。落ち込んでしまって、生きてることも、ものづくりにも苦痛しかなくて。
基本的に書くことや演出することは孤独な作業だと思うし、誰かと相談してやるわけではないのですが、でも人生に伴走者がいるっていう時点で絶対やっぱり違うんだな、一人で書いてるみたいで一人で書いてないんだなというようなことを当時考えました。彼らの物語ってまさにそうじゃないですか。円谷さんだって君原さんだってトラックの上では一人で走っているのだけど、本当にたった一人で走ってるかっていうとそんなことでもない気がするんです。いい例としては、君原さんが夫人に出会って人生や走ることにもう一回希望を見出すこと、コーチにもう一回出会い引き上げてもらって二人三脚が再び始まること。そこに希望を感じました」。
→→次回は、ワークショップ後に開かれた取材会の模様です!
公演は11月14日(水)から25日(日)まで東京・紀伊國屋ホール(※14日はプレビュー公演)、11月29日(木)から12月2日(日)まで大阪・ABCホールにて。