■『うつろのまこと』特別連載 vol.4■
その歌舞伎作品など古典にも造詣が深く、これまでも数々の作品を贈り出してきている西森英行が日本を代表する浄瑠璃・歌舞伎作者、近松門左衛門に挑む『うつろのまこと―近松浄瑠璃久遠道行』。
様々な名作を生み出していく近松自身の物語を縦軸に、
彼が生み出した『出世景清』『曽根崎心中』『心中天網島』の物語を横軸として絡め、
近松がどういう状況で、どういう思いでこれらの作品を生み出していったのか、
手を組んだ竹本座の座頭・竹本義太夫とはどんな関係性の中で、当時の時流をどう掴み、駆け上っていったのか、を描く物語。
劇中、ピックアップされる近松作品は『出世景清』『曽根崎心中』『心中天網島』の3作。
近松33歳、義太夫35歳という、ふたりが出会い最初に作り上げた『出世景清』を巡る【出世之章】
一世を風靡したものの、その後人気に少しかげりが出てきた近松51歳、義太夫53歳の頃、葛藤の中で傑作『曽根崎心中』を生み出した時代を描く【名残之章】
そして義太夫の死後、近松68歳で次世代の竹本座に書いた『心中天網島』を巡る【生瓢之章】
の3章から成る構造です。
初日迫る5月末日、その稽古場を取材してきました!
今回は稽古場レポートの後編をお届けします。
◆ 稽古場レポート 後編 ◆
(前編より続く)
役者さんたちも熱演に続く熱演。もちろんまだ時折台詞がつかえる場面もあるのだが、そうした失敗こそが稽古場で上を目指す為に必要なこと。演出の西森英行さんも細かいミスには全く頓着せずに、役者の気持ちが向かう先を見定めているのがとても素敵だ。目の前で繰り広げられる情念の世界に引き込まれていると、今さんの義太夫が近松の筋運びに疑問を投げかける展開に!伊藤さんの近松が天才ならではの気難しさと誇り高きアーティストを見事に体現しているだけに「えぇ、そんなこと言っちゃって大丈夫?」とこちらがハラハラドキドキ。でも、案の定一触即発の様相になるところから、この対立が向かう先が、あまりにもドラマチックで、これは絶対に劇場空間の濃密な空気の中での完成版を観たい!!という気持ちにさせられた。
▽近松門左衛門役の伊藤裕一さん
▽竹本義太夫役の今拓哉さん
そこから再会された稽古は、【名残之章】だ。最初の流れで伊藤さんの近松がキメ台詞をキメられず、爆笑がわく中でも稽古は進み、集中と緩みの切り替えが皆さん抜群。劇中劇では傑作『曽根崎心中』がピックアップされる。戸谷公人さん、牛水里美さんが互いへの想いを切々と表現する中、松井勇歩さんは酔ったシーンでスタッフ席に絡んでみせるなど余裕たっぷりで笑わせる。「近松得意の心中物」と、後世の私達は思いこんでいるものに、新たなきっかけや視点が盛り込まれていて、ハッとさせられたり、見入ってしまったりの稽古が続いた。
▽『曽根崎心中』徳兵衛を演じる戸谷公人さん
▽『曽根崎心中』お初を演じる牛水里美さん
▽『曽根崎心中』九平次を演じる松井勇歩さん
▽徳兵衛は、友人の九平次に裏切られ...
▽ お初・徳兵衛はなぜ死を選んだのか? その「真実」を、近松と義太夫は掴み取ろうとあがきます。
この日は時間の関係で、久保田秀敏さん、加藤雅美さんが中心になる【生瓢之章】までは見られなかったのが、とても残念だったが、だからこそこれは絶対に劇場で見届けなければ!という想いにかられた。とにかく凄い作品が生まれる!という期待がビシビシと感じられる稽古場で、文字通り手を伸ばせば届く距離での役者さんたちの熱演に、こちらも微熱が出たような気持ちになった。本番の舞台が今から楽しみで仕方がない。
▽ ほかの章の稽古を見つめている、久保田秀敏さん
取材・文:橘涼香
撮影:平野祥恵(ぴあ)
【『うつろのまこと』特別連載バックナンバー】
#1 戸谷公人ビジュアル撮影レポート&インタビュー
#2 近松門左衛門役・伊藤裕一インタビュー
#3 稽古場レポート 前編
【公演情報】
・6月3日(日)~10日(日) 博品館劇場(東京)
※この作品は【出世之章】【名残之章】【生瓢之章】の3章から成る。
公演回により
A:【出世之章】+【名残之章】
B:【出世之章】+【生瓢之章】
C:【出世之章】+【名残之章】+【生瓢之章】
の3パターンで上演。