【うつろのまこと(3)】稽古場レポート前編

チケット情報はこちら


■『うつろのまこと』特別連載 vol.3■


劇団InnocentSphereを率い、様々な社会問題をエッジのある切り口で舞台作品として贈りだしている西森英行

同時に、歌舞伎をはじめとする古典作品にも造詣が深く、これまでにも歌舞伎三大名作のひとつ『義経千本桜』を "義経は実は女だった" という切り口でアレンジした『新版 義経千本桜』、同じく歌舞伎の名作を力強い壮大な歴史絵巻として描く『新版 国性爺合戦』など古典に材をとった作品の数々も好評を博しています。

その西森さんが日本を代表する浄瑠璃・歌舞伎作者、近松門左衛門に挑むのが今作『うつろのまこと―近松浄瑠璃久遠道行』
5IMG_5806.JPG
様々な名作を生み出していく近松自身の物語を縦軸に、
彼が生み出した『出世景清』『曽根崎心中』『心中天網島』の物語を横軸として絡め、
近松がどういう状況で、どういう思いでこれらの作品を生み出していったのか、
手を組んだ竹本座の座頭・竹本義太夫とはどんな関係性の中で、当時の時流をどう掴み、駆け上っていったのか......。

後の世まで語り継がれる作品を生み出していった近松と義太夫の真実を描き出す、渾身の一作になりそうです。

劇中、ピックアップされる近松作品は『出世景清』『曽根崎心中』『心中天網島』の3作。
近松33歳、義太夫35歳という、ふたりが出会い最初に作り上げた『出世景清』を巡る【出世之章】
一世を風靡したものの、その後人気に少しかげりが出てきた近松51歳、義太夫53歳の頃、葛藤の中で傑作『曽根崎心中』を生み出した時代を描く【名残之章】
そして義太夫の死後、近松68歳で次世代の竹本座に書いた『心中天網島』を巡る【生瓢之章】
の3章から成る構造。

そして出演する俳優は、近松の〈現実世界〉を演じるもの、
近松の書いた〈劇中世界〉を演じるものに分かれ、
多重構造の物語を浮かび上がらせていきます。

初日迫る5月末日、その稽古場を取材してきました!
稽古場レポートの前編をお届けします。

 

◆ 稽古場レポート 前編 ◆


稽古場に近づくと、すでに浴衣姿や、袴姿の役者さんたちが出入りしている。舞台はもちろんなのだが、稽古場は更に作品を、役柄を高みへと押し上げる演出家さんをはじめとしたスタッフの方々と役者さんの真剣勝負の場。そこに足を踏み入れる取材は、いつもながらこちらもキュッと身が引き締まる思いがする。

▽ 物語は、近松門左衛門役の伊藤裕一さん、竹本義太夫役の今拓哉さんのシーンから始まる。こちらは今さん。3IMG_5786.JPG

その稽古場に「どうぞ」と案内されて1歩足を踏み入れた途端、稽古場中に美しい歌声が響き渡っていた!竹本座座頭 竹本義太夫を演じる今拓哉さんが、音楽のかみむら周平さんと共に懸命の音取りを続けているのだ。まだ稽古前なので、稽古場には食事をする人、黙々と柔軟体操などのアップ作業をする人が入り乱れているが、今さんの歌稽古は、周りからまるでスポットライトで抜け出したかのような集中度で進んでいく。折々にかみむらさんのアドヴァイスが入り、知らぬ人とてない歌唱力の持ち主の今さんが、その美声で観客を酔わせてくれるまでには、こうした努力の積み重ねがあるんだな、と改めて感じさせられる。

やがてかみむらさんが満面の笑みでOKを出すと、今さんが「できた!」とガッツポーズ。すると振付の広崎うらんさんがすかさず駆け寄り「カッコいい~!」と感嘆。「ちゃんと歌えてる?」と今さんが訊き返し、和やかな会話が続いたところで、いよいよ稽古開始の時間になった。

▽ 今さんは、音楽のかみむら周平さんと「義太夫節」のような立ち位置になることも。7IMG_5812.JPG

今日の稽古は【出世の章】【名残之章】【生瓢之章】の三章から成る物語の、それぞれの通し稽古。各章の間に10分程度の休憩を取って進めることや、今日から参加したスタッフの方の紹介などが行われる中、衝撃の宣言が。なんと通し稽古の間はエアコンを切らせてもらいますと言うのだ!この日は陽ざしの強い夏日で、エアコンが入っている状態でも大勢の熱気があふれかえっている、この稽古場のエアコンを切る? には、さすがに役者さんたちもびっくりの様子。けれどもすかさず今さんが「みんなで汗をかこうね!役者としての力量が試されるよ!」と声をかけ、稽古場は笑いに包まれる。ハードな稽古の続く役者さんの為にスタッフが用意した「薬膳鍋」の香りがただよう中、稽古がはじまった。
 

▽ 【出世之章】は『出世景清』をめぐる物語13IMG_5820.JPG

 
展開されたのは、伊藤裕一さん演じる近松門左衛門のもとに、今さんの竹本義太夫が訪ねてくる場面。使者としてまず現れる小多田直樹さんと、伊藤さんのやりとりも面白い。3IMG_5780.JPG

▽小多田直樹さん、山口大地さんらは様々なシーンで大活躍!41IMG_5874.JPG

 
伊藤さんの近松は常に猫背の姿勢で、才能にあふれ、世の中の頂点を極めようと虎視眈々と時代の風を読む近松の屈折した様子が、まずその姿勢から表現されている。その近松から色気が足りない、実直すぎると酷評される今さんの義太夫のスッキリと伸びた背筋の姿勢が、ふたりの性格の違いを視覚的にも表していて引きこまれる。ストレートプレイの台詞の応酬に稽古場全体がピンと張りつめて、マイクを通していないことが信じられないほど、ふたりの台詞が克明に伝わってくる。特に役柄上伊藤さんの台詞は、時につぶやくようなぶっきらぼうなものもあるのだが、全く聞き取れないことがない力量にドキドキするほどだ。

▽近松門左衛門を演じる伊藤裕一さん1IMG_5784.JPG


そんなふたりのやりとりによって描かれているのは、才能を見抜く目を持った男が、天与の才を持つ男のその才能に惚れた一途な心だ。その心が、天才が誰にも気づかれていないと信じていた真実を突いた時、初めて音がなる。この効果的なことと言ったら! 非常に大事なところで音が鳴るというのはずっと貫かれていくので、観劇の時には是非この音にも注意を向けて欲しい。

▽ 【出世之章】でメインキャラクター、景清を演じる中村龍介さんと阿古屋を演じる大月さゆさん21G_5821.JPG12IMG_5824.JPG


そして近松の描く浄瑠璃を語る義太夫が今さんの歌になる。先ほど熱心に稽古されていたのはこうして使われる歌で、これから展開される近松の有名な浄瑠璃作品の状況や、登場人物等がこの歌で説明されていくから歌詞が鮮明な今さんの歌唱は打ってつけ。稽古場用のセットが流れるように運ばれ、中村龍介さん、大月さゆさん、牛水里美さん等が、浄瑠璃人形の人形振りで登場。【出世の章】の劇中劇、『出世景清』の物語が始まっていく。それぞれ稽古着の浴衣等にも工夫があって役柄がわかりやすい。今さんの歌が、語りになり、やがて人形振りだった役者さんたちが、スーッと芝居に入っていく。流れるような展開で、本格的な衣裳や、照明のない稽古場でこれだけ効果的なのだから、舞台になったらどんなに素晴らしいだろうとワクワクする。

......

▽「人形振り」も効果的に使われていきます。10IMG_5844.JPG


稽古場レポート、後編へ続きます!

 
取材・文:橘涼香
撮影:平野祥恵(ぴあ)


 
【『うつろのまこと』特別連載バックナンバー】
#1 戸谷公人ビジュアル撮影レポート&インタビュー
#2 近松門左衛門役・伊藤裕一インタビュー

  
【公演情報】

・6月3日(日)~10日(日) 博品館劇場(東京)

※この作品は【出世之章】【名残之章】【生瓢之章】の3章から成る。
公演回により
A:【出世之章】+【名残之章】
B:【出世之章】+【生瓢之章】
C:【出世之章】+【名残之章】+【生瓢之章】
の3パターンで上演。

チケット情報はこちら

前の記事「【不徳の伴侶(3)】グランドミュージカル級の音楽を豪華キャストが歌う! 稽古場レポート後編」へ

次の記事「【エントレ】新ユニット"あかりけした"を結成した なだぎ武らにインタビュー! 舞台「手をつなぐには近すぎる」6月7日から神保町花月で上演」へ

カテゴリー

ジャンル

カレンダー

アーカイブ

劇団別ブログ記事

猫のホテル

文学座

モナカ興業

谷賢一(DULL-COLORED POP)

劇団青年座

劇団鹿殺し

 はえぎわ

柿喰う客

ONEOR8

M&Oplaysプロデュース

クロムモリブデン

演劇集団 円

劇団チャリT企画

 表現・さわやか

MONO

パラドックス定数

石原正一ショー

モダンスイマーズ

ベッド&メイキングス

ペンギンプルペイルパイルズ

動物電気

藤田記子(カムカムミニキーナ)

FUKAIPRODUCE羽衣

松居大悟

ろりえ

ハイバイ

ブルドッキングヘッドロック

山の手事情社

江本純子

庭劇団ペニノ

劇団四季

演劇チケットぴあ
劇場別スケジュール
ステージぴあ
劇団 石塚朱莉