■『不徳の伴侶 infelicity』特別連載 vol.3■
作・演出家 荻田浩一が、盟友と呼ぶ音楽家 福井小百合と手を組んで贈る新作『朗読(クローゼット)ミュージカル 不徳の伴侶 infelicity』が、現在上演中です。
その稽古場レポート、後編です。
※前編は→コチラ
彩乃かなみさんが演じるのは、スコットランド女王メアリー・スチュアート。
この時代、16世紀半ばのヨーロッパは、カトリック対プロテスタントで大きく二分されており、王族同士の結婚を通じ、カトリックはカトリック同士、プロテスタントはプロテスタント同士で手を結んでいるようなところがありました。
スコットランドはカトリックで、隣国イングランドはプロテスタント。
小国であるスコットランドは、同じカトリックであるフランスを後ろ盾に、イングランドに対抗しています。
そんな思惑で、メアリーはたった5歳でフランスへ。しかし夫となったフランス王フランソワ二世は、16歳の若さで亡くなってしまいます。
...と説明をしていくと、とても複雑に思えますが、荻田浩一さんの脚本はわかりやすく、また朗読とはいえ、皆さんが動きながら演じる部分もありますので、当時のヨーロッパ情勢がすんなりアタマに入ってきますのでご安心を。
物語は、フランス育ちのメアリーが、故郷スコットランドに帰るところからスタート。
彩乃かなみさん演じるメアリーは、聡明でありながらも、どこか頼りない儚さもある。
歴史の波に翻弄されていく女王の姿です。
彩乃さんの歌声も、少女らしい透明感があって耳に優しいのです。
藤岡正明さんが演じるのはスコットランド貴族 ボスウェル伯ジェームズ・ヘップバーン。
のちに、メアリーの三番目の夫になりますが、彼女がフランスから故郷へ帰るときからすでに、彼女の警護をしています。
...少し離れたところからヒロインを見守るぶっきらぼうなヒーロー、という感じでカッコいい!のですが。
この物語の先は、どう展開していくのでしょうか...?
藤岡さん、落ち着いた声色でセリフを語り、そして一転してナンバーでは迫力たっぷりにリズミカルに超カッコよく歌い上げます!藤岡さんの美声を存分に堪能できる楽曲をお楽しみに。
メアリーと生涯のライバルだったイングランド女王 エリザベス一世はシルビア・グラブさん。
隣国の女王同士ですが、それだけではなく、様々な確執が合ったふたり。
エリザベスは父王ヘンリー8世がローマ教会と決別したり、母親のアン・ブーリンが処刑されていたりといったことから庶子扱いであり(このあたりはミュージカル『レディ・ベス』でも語られていましたね)、メアリーの方がイングランドの王位継承に相応しいと担ぎ上げる人々もいて(メアリーはヘンリー7世のひ孫にあたります)、エリザベスにとってはメアリーは自分の地位を脅かす存在。
そして「ヴァージン・クイーン」と呼ばれたように生涯独身を貫き、国と結婚したエリザベスと、再婚を繰り返したメアリーは、そういう点でも対照的です。
シルビアさん演じるエリザベスはとても冷静に、クールに、色恋も絡むメアリー周辺の陰謀や事件を見つめています。
座り方・姿勢・視線の配り方からも、エリザベスのキャラクターが見えてきますね。
百名ヒロキさんはメアリーの2番目の夫・ダーンリ卿などを演じます。
ダーンリ卿はかわいい顔を持ちながら、なかなか野心家で、メアリーと結婚したことで女王と同等の地位を得るのですが...。
メアリーは彼と結婚したことが破滅の一歩だったのではないか...と思わせる、キーパーソンです!
こちらはダーンリ卿以外の役を演じている百名さん。
冒頭は特に、その役のようでもあり、物語の読み手のようでもあり...という "朗読" ならではの面白さを感じるのですが、そんな不思議な佇まいも百名さん、しっかりと体現していて頼もしい!
舘形比呂一さんはフランス王妃カトリーヌ・ド・メディシスほかを演じます。
エキセントリックでゴージャスな王妃、という役どころは舘形さんにピッタリで、そのドラマチックなセリフ回しを聞いているだけでワクワクゾクゾクしてきます。
カトリーヌ・ド・メディシスは、メアリーの最初の結婚相手・フランス王フランソワ二世の母親。
つまりメアリーの義母。
口では優しい言葉をかけ、内心はもう「利用価値はない」と思っている...といったような表と裏の感情があるのが、面白い。
台本を手にしていても、普通には読みません。この座り方。
バレエダンサー・吉本真悟さんは...踊っています!
観る方に、様々なイメージを届けてくれそうです。
...が、吉本さん、セリフ回しも柔らかく、"朗読" の部分もとても素敵。
するりと耳に入ってくる。
あの人とあの人が結婚して、ここが親子で...?
この時期のヨーロッパの、ややこしい人物関係図を脳裏に書き出しているんでしょうか?
そんな吉本さんが演じるのは、イタリア人デイヴィッド・リッチォと、スペイン王太子 ドン・カルロス。
稽古場を取材している間、この2役はほとんど登場しなかったのですが(吉本さんはその役柄以外でも色々なところで登場します)、
飄々としながらちょっと毒もあるリッチォなどをどう吉本さんが演じていくのかも楽しみです!
吉本さん曰く、「いかにもイタリア~ン!な感じ」の人物だそうです(笑)。
さて、2回にわたって稽古場の模様をお届けしましたが、想像する「朗読」とはずいぶん違うものになりそうなことが伝わりましたでしょうか?
そして、画面からは伝わらない音楽!
福井小百合さんによる素敵にロマンチックなオリジナルの楽曲を、歌ウマ揃いのキャストが歌い上げます。
しかも、昨今のミュージカル作品にはあまりないような、数分に及ぶビッグナンバーなども!
これはぜひ、多くの方に観て・聴いていただきたい!
荻田さん・福井さんというクリエイター陣が自由に、楽しそうに作り上げた姿も目に浮かぶ作品です。ぜひご期待ください。
取材・文・撮影:平野祥恵(ぴあ)
【『不徳の伴侶』バックナンバー】
# 荻田浩一の新作、彩乃かなみ&藤岡正明らで上演決定
# 彩乃かなみ×藤岡正明×百名ヒロキ インタビュー
# 稽古場レポート前編
【公演情報】
5月29日(火)~6月3日(日) 赤坂RED/THEATER(東京)