■『不徳の伴侶 infelicity』特別連載 vol.1■
『王家の紋章』といった大型ミュージカルからストレートプレイ、ショー、コンサートなど幅広いジャンルで活躍する作・演出家 荻田浩一が、十数年あたためてきたという新作『朗読(クローゼット)ミュージカル 不徳の伴侶 infelicity』が、5月末から上演されます。
作品は、16世紀に実在したスコットランドの女王メアリー・スチュアートと、彼女の3度目の配偶者であるボスウェル伯ジェームズ・ヘップバーンを軸に、陰謀渦巻く時代の愛を描いた物語。
メアリー・スチュアートは生後6日でスコットランドの王位を継承、その後フランスの王妃となり、再婚を繰り返したのち故国を追われ、最後には血縁であるエリザベス一世により処刑されますが...。
キャストは実力派揃いの6名。
スコットランド女王メアリー・スチュアートに、元宝塚トップ娘役の彩乃かなみ。
スコットランド貴族、ボスウェル伯ジェームズ・ヘップバーンに、ミュージカル界きっての美声の持ち主・藤岡正明。
ほか、若き新星・百名ヒロキに、
名ダンサーである舘形比呂一と吉本真悟が加わり、
さらにメアリーの生涯のライバルであるイングランド女王エリザベス一世を、シルビア・グラブが演じます。
稽古がはじまる4月末の某日、彩乃かなみさん、藤岡正明さん、百名ヒロキさんにお話を伺ってきました!
◆ 彩乃かなみ×藤岡正明×百名ヒロキ INTERVIEW ◆
● 作・演出の荻田浩一さんについて
―― 今作は、荻田浩一さんの自主企画公演とのことです。荻田さんが「一緒にやりたい」と思った方に声をかけたのかな...と想像していますが、皆さん、荻田さんから直接出演オファーがあったのでしょうか?
彩乃「事務所経由でお話がきて、直接荻田先生とお話をしたわけではないのですが「メアリー・スチュアートは絶対にみほこ(彩乃)にやってほしい」と仰っていただいたようで...」
▽ 彩乃かなみ
―― 3・4年前から「彩乃さんに」と仰っていたそうですよ。
彩乃「えー、嬉しい! でも、最近まで『マディソン郡の橋』で荻田先生とご一緒していたのに、先生の口からは直接聞いていないんですよ(笑)」
藤岡「僕も、荻田さんとはよく飲みにいく仲なので、直接連絡をくれればいいのに。そういうところはちゃんとしているんですよね(笑)。ちゃんと、事務所経由でお話が来ました。"ちゃんと" なのか、もしかしたらそういうところは小心者なのかも、「いえいえ、僕なんか...」ってよく仰ってる(笑)。そんな、愛すべき荻田さんが「藤岡とやりたい」と言ってくださったので、僕もぜひやりたいと思いました。僕、コンサートなどで荻田さんの演出を経験してはいますが、稽古場からお芝居をガッツリ作っていく時間はまだ経験していないんです。よい意味で、ケンカをしていきたいですね」
―― 百名さんは、荻田さんとは初めてですね。
百名「初めてです。以前、僕が出演していた舞台を観劇してくださったことがあったのですが、その時すでにこのお話が決まっていたのに、荻田さんは面会を遠慮してご挨拶が出来ず...」
藤岡「一緒にやるんだから、会えばいいのに、ねぇ?」
彩乃「ちょっと、シャイなんですよね」
百名「その後、『マタ・ハリ』にいらしていただいたときには、ちゃんとご挨拶できました(笑)。皆さんが「荻ちゃん」と呼んでいらっしゃるのがわかるなぁという雰囲気の方で...。フレンドリーな方なんだろうな、と楽しみにしています」
―― 百名さん、荻田さんの作品にはどんな印象を抱いていますか?
百名「昨年『WILDe BEAUTY』を拝見したのですが、難しい言葉がボンボンボンボンッ! といっぱい出てくるなぁ、と...」
彩乃「荻田先生の頭は、知識の宝庫みたいなんですよ。繊細、かつ鋭いんです」
藤岡「まさに、鋭い! 僕、去年『欲望という名の電車』に出演していたときに、とても難しい戯曲だったのですが、共演の鈴木杏ちゃんが「作家さんの頭ってどうなってるんだろう、頭の中を輪切りにして見てみたい」って言ってて。僕、荻田さんにもそれを思いました。もちろんご本人が脚本も書いて演出する、そのことに対して「頭の中を見てみたい」とも思うのですが、荻田さんの面白いところは、荻田さんが見ている視点から物事を語っているんだけど、まだそれについていけていない我々のところまで一度降りてきてくれる。だからわかりやすいんです。役者がどういうステップにいるのかを見ながら、到着点に向かっていく。頭の中、どうなってるのかなーって。でもとても紳士だし親切な方なんです」
彩乃「演出も、伝え方がすごく上手。テンションで「もっとこうして!」と仰る演出家さんもいますが、実はそれだと役者が「何を求められているんだろう」と困惑することもあるんですよ。荻田先生は、まず役者のやりたいことを尊重してくださいますし、「こう見えるから、こうしてほしい」という時も、何を要求されているのかがわからないことがない。アプローチが温かいんです」
―― 教え方が上手。もともとのご出身である宝塚では、演出家は「先生」でもあることも関係しているのかもしれませんね。それでいうと彩乃さんは宝塚時代からのお付き合いですから...。
彩乃「もう20年以上のご縁ですね」
藤岡「3歳からだもんね?」
彩乃「そう!特待生で入ったから(笑)」
藤岡「宝塚って子役もいたんだ...」
一同「(笑)」
―― 彩乃さんと藤岡さんの会話が漫才みたいになっていますが(笑)、皆さん、初共演ですよね?
藤岡「彩乃さんとは、お芝居では初めてですがコンサートではご一緒したことがありますよね」
彩乃「2回かな?ありますよね。でもコンサートは稽古期間も短いですし、ゆっくりお話したことは意外とないですよね。そして百名さんとは初めましてです」
百名「はい、皆さん「初めまして」です」
● 「陰謀や策略が渦巻く世界で生きた女性を、手の届かないところにいる人ではなく、誰もが共感できるように...」
―― 次に物語の内容についてお伺いします。脚本を読ませていただいて、始まってすぐに役名があるべきところに「百名」とあってびっくりしました。
彩乃「メアリーとかに混じって、役名じゃなく「百名」って。ストーリーテラーみたいな感じなのかしら」
藤岡「これ、どうするんですかね? ...って、さっきから我々、百名君のしゃべる番を奪ってません?」
彩乃「ごめんなさーい」
百名「(笑)。大丈夫です」
―― (笑)では、百名さん。脚本を読んだ印象を教えてください。
百名「僕はこういう、歴史物なのにどんどん事件が起きていって...というタイプの作品や文章がもともと好きで、読みやすかったです。テンポがよくて。さらに音楽で繋げていくって、贅沢だなと思って楽しみになりました」
―― 色々な役を演じますが、メインの役柄は、メアリーの夫・ダーンリ。最初の登場は16歳で、しかも「愛らしい」「可愛い」と言われていますね。
百名「キザでナルシスト、僕は人と違う何かがあると思っている青年です。出世欲があるというか、出世をするために生きている。どうしてこういうことを彼は考えているんだろう、と興味を抱きましたので、稽古の中で探っていきたいです。あとはメアリーの息子役なども演じさせてもらうみたいです」
藤岡「"百名役" にも期待してもらいたいですね!」
百名「(笑)」
▽ 百名ヒロキ
―― ほかの皆さんも、複数の役柄を演じていくようですが、彩乃さんと藤岡さんはほぼ1役ですね。彩乃さんはもちろんメアリー・スチュアート。この女王はすごく美人だったそうですね。
藤岡「あぁ!」
彩乃「そこでかな? そこで荻田先生はワタクシにと仰ったのかな(笑)?」
藤岡・百名「(笑)!」
彩乃「...と、自分からどんどん言っていくことにします(笑)。ただ、ここで描かれる壮大な世界は、陰謀や策略、表の顔に裏の顔...といったようなことがふんだんに盛り込まれています。メアリーもそんな世界を生きた女性という面をピックアップされがちですが、この物語では最後に「ひとりの女性としてどうだったのか?」ということが描かれます。王位や権力といったものをすべて脱ぎ捨てたときに、手に届かないところにいる人ではなく、誰もが共感できるようなひとりの女性だった...ということが、赤坂RED/THEATERという囁くような言葉でも届く空間の劇場で、きちんと伝わったらいいな、と思いながら読みました」
藤岡「うん、1500年代のスコットランドの物語ですし、僕らからすると時間も距離も遠い。でもこれを今、僕らがやる意味をきちんと実感をもってやりたいです。一見すると難しい物語かもしれませんが、情報量が多いほど演劇って面白いと思うんですよね、感情の情報量が。色々な思惑や気持ちの変化も含めて、そういったところは現代にも通じるんだろうなと感じています」
―― その藤岡さんが演じるのはボスウェル伯ジェームズ・ヘップバーン。ハードルをあげてしまうようですが...ものすごく、ものすごくカッコいい役ですね!
彩乃「ねぇ! "常にヒロインを見守っている" といったタイプの! 気づくとそばにいる、という!」
藤岡「なーんか、頭良よさそうだし、ずっと冷静な感じだし。僕にぴったりの役ですよねぇ?」
彩乃「(笑)二枚目、久しぶりじゃないですか?」
藤岡「うーん、僕、あまり二枚目って感じでもないですからね。最近は労働者の役ばかりやってるし! というか僕、彼(百名)の前でそういう話をしたくないな(笑)!」
―― でもボスウェル伯は軍人でもありますし、頼れる男、みたいな。
百名「どちらも兼ね備えているんですね!」
彩乃「いい言葉だね~」
藤岡「ただ僕、常々役者が「自分が何を表現するか」というのを考えちゃダメだと思っているんです。「いま僕はこういう感情を表現しようとしている」となると、反応が大げさになっちゃったり、安易な表現に行ってしまう。役者としての感情じゃなくて、役者はただ役を抱えていればいいのかな、と思っています。そういう "見せない" というスタイルが、ボスウェルを演じる上で、うまくハマるんじゃないかなと思って、自分でも楽しみにしているんです」
▽ 藤岡正明
● 作品は「朗読ミュージカル」です
―― そして今回の作品は、朗読劇でもミュージカルでもなく、"朗読ミュージカル"。朗読ミュージカルって、あまり聞かないのですが...。
藤岡「でも僕、2本ほど経験があります!」
彩乃「すごい!」
藤岡「でもあまり一般的ではないですよね、やっぱり。ミュージカルって、視覚的に楽しむ側面もあると思いますし」
彩乃「座りながら譜面...というか歌詞を見ながら歌ったの?」
藤岡「いや、立って、でした。でもやっぱり、こう、手に台本を持っているけど、ほぼほぼ覚えちゃうんですよね。でも台本を手放しちゃうと、朗読の意味もなくなるし...」
▽ 藤岡さん、実演中
―― あぁ、でも、台本に視線を落としながら歌うのと、普段のミュージカルのように正面を向くのとでは、声の出し方も変わってきちゃうんですね。
藤岡「俺、それで一度、大失敗しちゃったんですよ! 立って、台本を持って、首(視線)もあまり動かさないから、肩も腰も背中もバキバキに固まっちゃって!」
彩乃「それはたしかにしんどそう」
藤岡「その時は、共演者みんな、その症状になってました...」
彩乃「ただ今回はダンサーさんがふたりいらっしゃるから(舘形比呂一、吉本真悟)、状況が違うかも。...でもダンサーさんは動いて、私たちは動かないという可能性も!」
藤岡「やっぱり荻田さんの頭の中を輪切りにしないとわからないですね!」
彩乃「いざとなったら「動かないとバッキバキになっちゃうんですよ」と主張しましょう(笑)」
―― でも先ほど、藤岡さんが「役者としての感情はいらない」と仰っていたことにも通じるかと思いますが、朗読だからこそ純粋に、役の感情と向き合うようなことも出てくるのかな、と思いました。
藤岡「朗読劇だからこそ、淡白に見えないように。そして情報が「垂れ流し」にならないように。根っこの部分をしっかり捉えて、やっていきたいですね。とても緻密なものが必要になってくる作品だと思います。...稽古時間、足りるかなあ...!」
彩乃「考えることがいっぱいで、ちょっと時間が足りなくなってきちゃいそうですよね」
―― そして、朗読とはいえ「ミュージカル」です! 台本を読んでいるだけでも「ここはこの人のビッグナンバーだな」というのがわかる、ミュージカルの作りになっていました。まだ稽古が始まる前ですが、音楽は...?
彩乃「まだ聴いていないんです。どんな楽曲なんだろう?」
百名「難しいのかな...」
藤岡「作曲の福井小百合さんのコメントでは「16分音符と三連符をレースで編んだような」とありましたね!」
彩乃「そうそうそう。なんて美しい表現なんだろう! と思いました。「編み上げたレースのようなメロディー。それでいてやや不穏なハーモニー」」
藤岡「でも僕、カッコいいソロがあるらしいので。注目していただけたら!」
彩乃「私もカワいいナンバーがあるので!...きっと!」
百名「(笑) それは新しい情報ですね!」
彩乃「ただ、たとえば、朗読劇と聞いていたので、衣裳もシンプルでもちろん衣裳替えもないと思っていたら、脚本に "喪服を脱ぎ捨て赤いシャツに" とかあって、自分の想像を超えてきています。すべてにおいて、想像を超えてくる作品になるんじゃないかなと思って、楽しみにしています!」
取材・文:平野祥恵(ぴあ)
撮影:福井麻衣子
【『不徳の伴侶』バックナンバー】
# 荻田浩一の新作、彩乃かなみ&藤岡正明らで上演決定
【公演情報】
5月29日(火)~6月3日(日) 赤坂RED/THEATER(東京)