■『リトル・ナイト・ミュージック』特集vol.4■
ミュージカル界の大巨匠スティーヴン・ソンドハイムの最高傑作と称されるミュージカル『リトル・ナイト・ミュージック』 が4月に上演されます。
19世紀末のスウェーデンを舞台に、年の差夫婦、大女優と元カレ、年下の義母へ恋する息子、愛人の浮気を本妻に調べさせる旦那......などなど、様々な恋と思惑が入り乱れるラブ・コメディ。
主役の大女優デジレに大竹しのぶ、その昔の恋人である弁護士フレデリックは風間杜夫。
この、焼けぼっくいに火がつきそうな元カップルを中心に、様々な恋愛模様が入り乱れていくことになりますが......。
フレデリックを演じる風間杜夫さんにお話を伺ってきました。
大竹さんと風間さん、ともに映像のみならず舞台も多数ご出演されているベテラン俳優ですが、意外なことに共演は27年ぶり、舞台に限って言えば初共演とのこと!
作品や役柄について、そして大竹さんとの共演についてなど、たっぷりお話いただいています。
◆風間杜夫 INTERVIEW ◆
●吉幾三とソンドハイムには共通点がある?
――ミュージカル初挑戦ということで、今なぜこのオファーを受けられたかをまずはお聞かせください。
「まずは、僕は師匠のつかこうへいに「日本で一番踊ってはいけない役者」と言われていたわけですけど(笑)、今回は踊らなくてもいいっていうことがひとつ。それから、今回のプロデューサーとは一緒にカラオケをしたことがあって、だいたい僕は吉幾三先生の演歌を歌うんだけど、その歌い方でいいと言われたんですよ。それなら、しのぶちゃんと久々に共演できるのも嬉しいし、やってみようかなと。そんな軽い気持ちで受けたから、今「騙された!」と思ってますよ。吉幾三先生とソンドハイムのどこに共通点があるんだ!ってね(笑)。最初から楽曲を聴いていたら、絶っ対に引き受けてなかったと思います。ははは!」
――踊らなくて良かったはずが、ワルツのシーンもあるとか...?
「そうなんですよ。ワルツの稽古を1時間もやるともう足がつっちゃって、昔買った自動按摩器で毎日ウイーンウイーンって揉まなきゃ稽古場に来られない状況です。もう本当に、満身創痍だね(笑)」
――大竹さんとの共演も決め手のひとつだったとのことですが、27年ぶりに一緒の現場で過ごされてみて、あらためてどんな印象をお持ちですか?
「27年前に映画で共演した時は、僕は30代で、しのぶちゃんは20代。待ち時間になると、ふたりして控室でダラダラゴロゴロしてたことを思い出します。そこはふたりとも、未だに変わっていなくてね(笑)。この間も、しのぶちゃんがソファでゴロっとしながらストレッチをしてたから、「本当はただゴロっとしたいだけなのに、それだと何か言われるかもしれないと思ってストレッチする振りをしてるんでしょ?」って言ったら、「どうして分かるの?」「そんなのお見通しですよ」って(笑)。でも、休憩中はそんな感じなのに、芝居となるとやっぱりすごい。昔も今も、一緒に芝居をするのが楽しい女優さんですね」
――特にどんなところにすごさを感じられるのでしょう。
「立ち稽古の初日から、もちろんセリフは全部入ってますし、すでにデジレっていう女性の目になってるんですよ。パッとスイッチが入った時の芝居の光り方というかね、そういう天才的なところは、若い頃から変わっていないと思います。加えて今は風格も出て、カンパニーをまとめるパワーも持っている。まあそれは、順番的なこともあるのかもしれないですけどね。上の先輩がだんだんいなくなって、最近では僕なんかも"演劇界の重鎮"とか言われちゃってますから。冗談じゃないよ、まだまだチンピラだよって言いたいですよ(笑)」
●「酔っ払った状態で歌うと、自分にはものすごくうまく聞こえます(笑)」
――音楽についてお聞きします。ソンドハイム楽曲は難しいとおっしゃっていましたが、公開稽古では見事に歌っていらっしゃいました。
「いや、ほかの方たちは本当にお上手ですよ。だから僕、自信がないところではただ笑ってましたから(笑)。本番でも、そうしていればお客さんは「ここは風間は歌わないシーンなんだ」って思うんじゃないかな。僕、ごまかし方だけはうまいんですよ。いつの間にか身についていた、これをキャリアって言うんでしょうね(笑)!」
――それはご謙遜だと思いますが(笑)、ソンドハイム楽曲は、ミュージカル俳優にとっても難しいと聞きます。具体的に、どこがそんなに難しいのでしょうか?
「僕らが知ってる楽曲って、こうきたらここに落ち着くだろう、っていう調和みたいなものがあるじゃないですか。でもソンドハイムの場合、そこに落ち着かないんですよ。今まで耳にしたことのないような旋律で、しかも同じフレーズなのに片方にだけフラットとかシャープが付いてたりするから、いくらやっても身につかない。本当に、困ったもんだね(苦笑)。でも歌えるようになったら、やりがいがあったと感じるんじゃないかな」
――風間さんは、セリフは口立てか、またはご自分で録音して耳で覚えられると聞きました。歌に関してもそうなのですか?
「自分の歌なんて録音して聞いたら、本当に稽古場に来られなくなっちゃうから(笑)、そんな恐ろしいことはしていません。歌唱指導の安崎(求)さんが、仮歌とカラオケを入れてくれたものがあるので、とにかく仮歌を聞いて、ある程度入ったと思ったら歌ってみる、ということの繰り返しですね。家に帰ったらすぐに練習してるんだけど...だいたい酒を飲みながらだから、後半になると酔っ払ってきて、ものすごくうまく聞こえてるんですよ! でも酔っ払ってるものだから、いくらやっても正解に近づかない、っていう悪循環です(笑)」
――でも安崎さんは、上達されてるとおっしゃっていましたよ!
「ダメな教え子ほどかわいい、みたいなことなんじゃないかな。本稽古の最初の歌入りホン読みで、僕がソロナンバーをなんとか歌いきったら安崎さん、涙ぐんでましたから(笑)。でも確かに、歌稽古の初日に比べたら、格段に進歩しているとは思います。最近は「仮歌にだいぶ似てきた」って言われるので、"似てる" が誉め言葉でいいのか? とは思いますけど(笑)、さらにそっくりになるように、もっと練習しなきゃいけないですね」
●「フレデリックは、世の男性たちが共感できる役だと思う」
――演じられるフレデリック役について、現時点でのキャラクター像をお聞かせください。
「18歳の嫁さんを愛しく思うあまり手も付けられないでいるけれど、中年男性でまだ性欲も盛んだから困っている。そんな時に昔の恋人デジレに再会して、自分を丸ごと受け入れてくれる彼女になびいていくんだけど、若い嫁を捨てることはできない...。エリート弁護士でありながら、ちょっとマヌケな面もあるおじさんですね(笑)」
――若い嫁、アンに対する思いというのはどういうものなのでしょう?
「うんまあ、真剣に愛してはいると思いますよ。ただ、あまりにも歳の差があって、ストレートにぶつけたところで響くのかどうかっていう不安がある。だからって手も付けられないっていうのは、僕には理解できないところだけど(笑)、若い子の厄介な魅力に惹かれる気持ちは分かるような気がします。世の男性たちも、みんなそうなんじゃないかな」
――大人の共感を呼ぶ作品になりそうですね。最後に、物語全体について今、風間さんが面白いと感じていらっしゃることを教えてください。
「色々あった末に、結局はみんなが一番自分の寸法の合うところというか、まっとうな生き方に落ち着くところが、うまくできてるなと思いますね。その中で、僕はフレデリックの色んな面を見せることで、お客さんにも色んなことを感じ取ってもらえたらと思っています」
文:町田麻子
【『リトル・ナイト・ミュージック』バックナンバー】
#1 歌入り本読み稽古潜入レポート
#2 公開稽古レポート
#3 蓮佛美沙子&安蘭けい&栗原英雄&ウエンツ瑛士 座談会
【公演情報】
4月8日(日)~30日(月・祝) 日生劇場(東京)
5月4日(金・祝)・5日(土・祝) 梅田芸術劇場メインホール(大阪)
5月12日(土)・13日(日) 静岡市清水文化会館(マリナート)大ホール
5月19日(土)・20日(日) 富山 オーバード・ホール