■『リトル・ナイト・ミュージック』特集vol.1■
『ウエストサイド物語』の作詞や『太平洋序曲』 『スウィーニー・トッド』の作詞・作曲などを手掛け、アメリカ演劇界最高峰の栄誉トニー賞をこれまで8度受賞しているミュージカル界の大巨匠スティーヴン・ソンドハイム。
その巨匠の最高傑作と称される ミュージカル『リトル・ナイト・ミュージック』が、4月に上演されます。
主役の大女優デジレに大竹しのぶ、その昔の恋人フレデリックに風間杜夫という豪華共演で実現する今回の上演、その稽古場にいち早く潜入してきました!
物語の舞台は19世紀末のスウェーデン。
恋多き大女優デジレと、その昔の恋人である中年弁護士フレデリックを中心に、3つの家族、数組のカップルの恋が入り乱れるラブ・コメディです。
この日は全員揃っての「歌入り本読み」が行われるということで、それまで個々、歌パートの練習などを重ねてきたキャストさんたちが、全員であわせる初めての場。
作品の全体像が立ち上がる瞬間です。
全員が顔を揃えるのが初とあって、簡単に出演者・スタッフの紹介があり、演出のマリア・フリードマンさんからの挨拶もありました。
マリアさん、数々の受賞歴を誇るイギリスの大女優です。特に『パッション』『ラグタイム』ではオリジナルキャストとして、ローレンス・オリビエ賞の主演女優賞を受賞しています。
そしてかつて『リトル・ナイト・ミュージック』にも出演しています。
そのマリアさん、出演者の皆さんに向かって「本当に美しいキャスティングだなと感動しています。ここから数週間、皆さんとご一緒するのが楽しみ。最終的に美しい作品になっていくだろうと確信しています」と話しました。
この日の最初の稽古は前述のとおり「歌入り本読み」、つまり椅子に座った状態で台本をあたまから通していくものですが、振付のティム・ジャクソンさんの音頭で、皆さんピアノのまわりに集まって、発声練習からスタート。
マリアさんがスタッフにも「せっかくなら皆さんもどうぞ」と声をかけるアットホームっぷり!
オーバー・ザ・レインボーをアレンジしたり、one(ド)、one-two-one(ド-レ-ド)、one-two-three-two-one(ド-レ-ミ-レ-ド)と数字と音階をひとつずつ足していったりと、ちょっと変わった発声です。
音階を英数字で発声していくものは皆さん慣れないのか、両手を使って数えている人も(笑)。
その、ちょっと「アレレ?」な様子が皆さんの空気をほぐしていったようで、次第に笑顔も増えていきました。
マリアさんも発声に参加。
朗々と美声が響きわたりました...。
その後、席に戻り、読み合わせの稽古へ。
「私のお部屋に遊びにきた皆さんに、ひとつだけルールを。『皆さん、楽しんでください』」とマリアさん。
ナンバーによっては、まだ歌稽古が進んでいないものもあるらしく「止まってしまったら、私が歌うわ(だから気にしないで)!」と話し、
「緊張の玉は、向こうに投げちゃって!」と明るく話します。
で、なぜか「緊張の玉」の集中砲弾を受けてしまう、風間さんです。
そしてマリアさんの「では、遊びましょう(レッツ・プレイ)」という言葉で、始まりました。
『リトル・ナイト・ミュージック』は、映画『夏の夜は三度微笑む』に着想を得たミュージカル。
夏の夜が微笑むと......どうなるのでしょう?
きっと、ロマンチックなことが起こります!
主人公デジレ・アームフェルトを演じるのは日本が誇る大女優、大竹しのぶさん。
デジレは"恋多き女優"。
今の恋人は「とてもハンサムで、しっかり女房持ち。脳味噌は豆粒」な軍人さんですが、昔の恋人と再会して恋の炎が......。
大竹さんは本当に可愛らしくチャーミング、自然体で、愛に生きる女性。ピッタリです。
デジレの家族、【アームフェルト家】の面々もご紹介いたしましょう。
この物語、主に3つの家族が登場します。
デジレの母親、マダム・アームフェルトは木野花さん。
世を達観したような、偏屈さも感じるご婦人のようです。
木野さんの低い声のトーンで語られるマダム......迫力です。
デジレの娘、フレデリカ・アームフェルトはトミタ栞さん。
恋に翻弄される大人たちを冷静に見つめるフレデリカの視線が、物語の額縁を作っているよう。
そんな重要な役どころを、バラエティ番組で人気のトミタさんが、可愛らしくもハキハキとした声で、気持ちよく演じています。
ちなみに人気女優のデジレは各地を飛び回っていますので、フレデリカは祖母に育てられています。
木野さんとトミタさんの祖母と孫娘コンビが、時々ドキッとするような人生の真理を語ります。
アームフェルト家の執事、フリードは安崎求さん。
上流階級の皆さまが、それぞれの恋心に忙しいとき、執事やメイドたちにも恋物語はあるようで......。
お次は【エーガマン家】の面々をご紹介しましょう。
弁護士フレデリック・エーガマンは風間杜夫さん。
歳の離れた奥さんをもらって、若い奥さんが可愛くて仕方ないのですが、一方で14年ぶりにあった昔の恋人デジレともいい雰囲気に......。
浮気がバレて慌てふためいたり、若い奥さんの心が読めず苦労したり、そんな表情がとっても可愛らしい風間さん。
きわどいセリフもなんともチャーミングに語り、共演の皆さんからの爆笑もさらっています。
......そうです、『リトル・ナイト・ミュージック』はコメディなんです!
みなさん、よく笑ってます。
大竹さんと風間さんはなんと27年ぶりの共演。
......とは思えない、すでにこのしっくり感。
そのフレデリックの愛しの妻、18歳のアン・エーガマンは、蓮佛美沙子さんが演じます。
蓮佛さんは透明感があって、夫のフレデリックすらなかなか手を出すのをためらってしまうのもわかります......。そして若さゆえの残酷さ、のようなものもチラリ。
フレデリックの息子、ヘンリック・エーガマンはウエンツ瑛士さん。
19歳のヘンリックは、父の新しい妻アンに恋をしています......。
鷹揚な父フレデリックと、潔癖そうな息子ヘンリックの対比も面白いですね。
そしてエーガマン家のメイド、ペトラに瀬戸たかのさん。
家のお坊ちゃんヘンリックにちょっかいを出したり、他家の執事に迫ったり、なかなか自由な女性。
三谷作品などの常連でもあるコメディエンヌ瀬戸さんが、コメディリリーフ的に、笑いとお色気を振りまく姿が、今から想像できます!
さて、アームフェルト家とエーガマン家の2家の人々だけでは、よくある浮気と本気の恋の物語、になってしまいそうですが、そこにもうひとつの家族・マルコム伯爵家の人々が絡むことで、事態は突拍子もない方向へと転がっていきます。
ここ、この物語の面白いところ!
【マルコム家】の面々はこちら。
カールマグナス・マルコム、栗原英雄さん。
カールマグナスは伯爵で、軍人。デジレの今の恋人です。
上の方で「とてもハンサムで、しっかり女房持ち。脳味噌は豆粒」と記した軍人さんが、この人です。
この人の考えることがすべてオカシイ!「妻の不貞なら耐えられるが、愛人の不貞は許さん」という考えの持ち主である彼が、愛人(デジレ)の浮気現場を見てしまい、なんと自分の妻に、その調査を頼むのです(ありえません!)。
栗原さんが、カタブツっぽい喋り方で常識はずれなことを言っていくものだから......もう、可笑しいったらない!
カールマグナスの妻、シャーロット・マルコムは安蘭けいさん。
夫が前述のとおり、一風変わった論理を持っているのですが、妻は唯々諾々とその言葉に従う......と思ったら大間違いです。
シャーロットがある一計を案じたことから、男女たちの入り乱れた恋心のベクトルはまたまた動き出し......!?
しかしカールマグナスの妻だけあって、シャーロットもちょっと、変わっているところもあるよう。
さらりとブラックユーモアを言ってのけちゃうようなシャーロットを、安蘭さんが不思議におかしく演じていました。
物語を彩る音楽は巨匠、スティーヴン・ソンドハイムの音楽です。
ソンドハイムの楽曲は、美しくも複雑に入り組んでいるのが特徴ですが、そんな音楽をこの「リーベスリーダー」と呼ばれるこの5名が支えます。
左から家塚敦子さん、飯野めぐみさん、彩橋みゆさん、中山昇さん、ひのあらたさん。
ミュージカルファンにはお馴染み、歌声に定評のあるベテラン5人ですね!
笑いあり、センチメンタルありの、男女の洒落た恋の物語。
スウェーデンの夏、薄明るい白夜の下で繰り広げられる、恋の高揚感と背徳感の中に、ドキッとするような人生の真理が見えたりもする名作ミュージカル。
リラックスした雰囲気で、すでにしっかりとそれぞれのキャラクターの姿が見えてきた「本読み」稽古でしたが、お稽古はこの日が本格スタートしたばかり。
このあと、どのように熟成されていくのか、楽しみです。
取材・文:平野祥恵(ぴあ)
撮影:源賀津己
【公演情報】
4月8日(日)~30日(月・祝) 日生劇場(東京)
5月4日(金・祝)・5日(土・祝) 梅田芸術劇場メインホール(大阪)
5月12日(土)・13日(日) 静岡市清水文化会館(マリナート)大ホール
5月19日(土)・20日(日) 富山 オーバード・ホール