今の時代の楽しみ方ができるミュージカルだと思います――『ビューティフル』出演、中川晃教インタビュー

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『You've got a friend』、『A Natural Woman』etc...。
数々の名曲を生み出しているアメリカのシンガーソングライター、キャロル・キングの半生を描いた ミュージカル『ビューティフル』

2013年にブロードウェイで開幕、翌年にはトニー賞主演女優賞などを受賞した大人気ミュージカルが、このたび日本初演されます。

作中で、キャロル・キング(水樹奈々/平原綾香のWキャスト)の友人であり、同時代を彩ったライバルである作曲家バリー・マンを演じるのが、ミュージカル界が誇るスーパースター、 中川晃教さん!

昨年主演した『ジャージー・ボーイズ』は、第24回読売演劇大賞最優秀男優賞をはじめ、数々の賞を受賞したのも記憶に新しいですね。

中川さんに、作品について、役柄についてお伺いしてきました。

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◆ 中川晃教 INTERVIEW ◆


――『ビューティフル』は、アメリカのシンガーソングライター、キャロル・キングの半生を、彼女自身の音楽で綴っていくミュージカルです。

「〈ジュークボックス・ミュージカル〉と呼ばれるタイプですね。物語をギュっと濃密に凝縮してお客さまに見せていきながら、ヒットチャートに上り詰めた、あふれんばかりの音楽たちが鮮やかにその時代を彩っていく。それがお客さまの心に伝わることで、どこかコンサート、ミュージカル、お芝居という要素が合体する。まさしくエンタテインメント、と呼べるような、エネルギーがある作品なんだろうな...と思っています。僕が昨年やった『ジャージー・ボーイズ』にも共通するところがありますよね!」


―― スタイルはもちろんですが、どのあたりに『ジャージー・ボーイズ』との共通項を感じますか?

「近年、ブロードウェイから全米にツアーに出て、そして日本にやってくる招聘ミュージカル、『ジャージー・ボーイズ』や『ドリームガールズ』といった作品を観て思うのですが、カーテンコールではオールスタンディングになって、その音楽を楽しんで...という時間すらも演出されている。最高に楽しんで劇場を去っていく、今回もその系統じゃないかな。例えばひと昔のミュージカルって、すごく着飾って正装して劇場に足を運ぶ楽しみ方がありましたが、それとは違う、今の時代の楽しみ方ができるミュージカルだと思います」

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―― そして中川さんが演じるのが、バリー・マン。キャロルと同時期にヒット曲を多く生み出した作曲家。実在の方ですね。

「はい、まだご存命です。パートナーであるシンシア・ワイルさんもお元気だって、シンシア役のソニンちゃんから聞きました」

―― 中川さんご自身もシンガー・ソングライターですが、バリー・マンさんと相通じるところがあるのでしょうか。

「僕もまだ、彼の背景について勉強中なのですが......。僕は、作曲家というのは2種類あると思っています。ひとつはアーティストとして、独自の自分の世界を持っている作曲家。シンガー・ソングライターもこちらのタイプです。もうひとつは、仕事で求められた音楽を書く人。"職業作曲家"と呼ばれるタイプです。もちろん両方に応えられるアーティストもいますが、それはちょっと稀ですね。日本でも大瀧詠一さんとか荒井由実さんとか、"職業作曲家"としてたくさんの方々にヒット曲を提供しながら、自分自身もアーティストとして活動している方もいますし、僕もそうありたいと思っているんですけど...。でももっと世に出てこない、例えばCM曲だけを作る人がいたり、サビのワンフレーズだけを作る人がいたりとか、分業化されていく中での職業作曲家もいる。ある部分、バリーはそういうところもある役なのかな、と思っています」

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―― 音楽家である中川さんならではの視点ですね。ざっくり"作曲家"としか捉えていませんでした!

「僕、デビューした時に、フュージョンバンド"プリズム"の伊藤幸毅さんがプロデューサーだったんですが、彼と17歳で出会って、4・5年一緒に仕事をして、その間に音楽シーンのイロハすべてを学んだんです。何の楽器を使えばこの音色になるのかといったことから、年代ごとの音楽の特徴、その時代に使われていた機材、歴史。音楽って、こんなに自由で、こんなに感じあえるものなのに、ヒット曲の作り方、あるいはなぜヒットしたかの分析といった理論は、実はひとつひとつ、全部あるんです。でもそれは誰も教えてくれない。なぜなら、教えたくないから! でも僕はそれを...ウケるもの、大衆に求められるものというものをプロデューサーから学びました。同時に、自分の個性を保ちながらどうやってそれらとバランスをとっていくか...ということをたたき込まれたんですよね。その時のことを、今回バリーという役をいただいて、パッと思い出しました」


―― なるほど。

「自分がそういう"音楽シーン"を経験してきているからこそ、この物語の作り方にすごく興味があるんです。作曲家が、その時代をけん引した作詞家と出会いコンビを組む。日本でも、平尾昌晃さん(作曲)と山口洋子さん(作詞)のコンビが出会い、様々な人間模様から詞に命が吹き込まれ、その化学反応で音楽が生まれ、数々のヒット曲を出していった...ときいたことがあります。バリーとシンシアも、時代というものがその人たちを結び付け、逆にその人たちがその時代を手中に収めていったと思うととても興味深い。もちろんこの物語は(バリーら)職業作曲家に焦点を当てている作品ではありませんが、メインストリーム(キャロル)と拮抗する人がいなければ、そこまで時代って、盛り上がっていかないとも思っています」


―― 時代を手中に収めていく、ですか...!

「本来、役者は自分に与えられた役を生きることが仕事。その人物を掘り下げ、時代背景を掘り下げ、あるいはミュージカルナンバーをちゃんと自分のものにする...というのが軸です。でも僕、今回はそれだけでなく、"時代を作ってきた人たち"という骨格があって、その面から作品に歩みよってみようとパッと思ったの。なぜその人たちは、その時代を作っていくことになったのか。日本でもそういう時代はあったよな、て思って、すごくいい作品と出会えたな、楽しみだなと素直に思えたんです」

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―― キャロル・キングがもちろん主人公ですが、彼女のサクセスストーリーというより、キャロル、ジェリー・ゴフィン(伊礼彼方)、バリー・マン、シンシア・ワイルという4人の青春物語だなあ...と感じました。

「青春物語、確かにね! 4人の友情物語というところはあるよね。製作発表で聴いた、水樹奈々さんと平原綾香さん、ふたりのキャロルの歌、すごく良かった。水樹さんは小さい頃から演歌を習っていらしたと聞いて、 やっぱり基礎がしっかりしているなあ、って思った。で、あーや(平原)はサックスから入り、自分の歌声を極めていってる。こういうふたりと一緒のステージに立てることに高揚感を感じています。でもふたりともあまりガツガツしていないでしょ(笑)。僕も自然体でいられたの。本当に"青春物語"であるところを、リアルにわかちあえると思いました。仲良くなって、この物語に生かしていきたいです」

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―― そして中川さん、帝国劇場のステージは久しぶりですよ!

「いつぶりだろう? 2006年? 2005年?」


―― 2007年ですので10年ぶりですね。

「それ、たまに言われるんだけど、なんだろう。みんな『モーツァルト!』とかと重なるのかなあ?(苦笑)」


―― いや、単純にあの大きな空間に響き渡る中川さんの歌声が聴きたいです!

「なるほどー。そう思っていただける、そういう夢を届けていく仕事を自分がやらせていただけるんだ...ってことを教えてくれる場所なのかな、って今思いました。劇場サイズの大小ではなく、特に僕自身がはじめて立った、ミュージカルの世界にオギャーと生まれた第一声を届けることができた作品が『モーツァルト!』であって、その舞台が日生劇場であり帝国劇場である。その僕の歌声が帝劇という場所に響き渡るのを楽しみにしてくれている人が、いらっしゃる。"僕にとっての帝国劇場"はそれがすべてなのかも」

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―― なんだか哲学的なお答えでした(笑)。少し話題を変えて、中川さん、お忙しいですが(取材時は『きみはいい人、チャーリー・ブラウン』本番中)、体調管理はどうされているのでしょう。

「ありがたいことで、おかげさまです! でも、だんだんミュージカルシーンのスケジュールがわかってきて、上手くルーティンに乗っかれるようになってきた気がします。公演規模は大中小ありますが、だいたい月のアタマに始まって月末まで...とか、それぞれパターンがあるじゃないですか。なので、やるときはやる! 休めるときは休む! という波が出来ています。公演単位じゃなくても、日々でもそうです。本番前も、カツラを被るとか、メイクをするとか、役に息を吹き込む瞬間を決めて、それまでの時間はリラックスして、何でもないこと、仕事とはまったく違うことを考えている。オンとオフはしっかり切り替える。今回(『きみはいい人、チャーリー・ブラウン』のスヌーピー役)だったら、"鼻を描く瞬間"(笑)! その切り替えが大事だなと思っています。もちろん仕事・現場のことは大事だけど、それ以外のこともすごく大事だという意識でいると、仲間との会話も自然と生まれてくるんですよ」


―― では、中川さんが今興味のある"仕事とまったく関係ないこと"って何ですか?

「今はひとり暮らしですので、家をなんとかしたいなぁ、と思っています。リフォームなり、整理なり。ひとり暮らしだとね、電球ひとつ切れても、切れたままなんですよ...。その切れた電球を眺めて「消えたままだ...」と思った時に、掃除とか洗濯とか、当たり前のことをできるようになろう! と思って。で、そう思う気持ちを持っているだけで、触れるもの、出会うものに感じる自分の気持ちの動きが、全然違うんです! ちょっと自分の人生すら考えちゃったり。今回の『ビューティフル』でも僕のバリーと、パートナーであるシンシアは、仕事をとおして出会い、結ばれていく。同じ仕事をしている者同士が恋愛をして結婚するって、すごく当たり前のようなんだけど、自分の現実を見ると、とても奇跡的なことなんじゃないかなとも思って(笑)。でも、恋愛といったものに限らないでみてみれば、僕もその奇跡はすごく経験してきてる気がするんです。それは作品だったり、劇場だったり、観に来てくれるお客さまと出会うということだったりね。それをかみ締めたり、喜びを感じたり、謙虚に受け取ることで、自分も変わらず自分のままであれたりする。そういう......、"中川晃教"という人間が熟す、人間として、男としてステージがひとつ上がれるためには何をしたらいいのか、ということを考えています」


―― 素晴らしいですね...! 見習わなきゃ。

「そう? といってもそんな複雑なことじゃなくてね、ちゃんと人と会話してみようとか。実はちょっとその辺の能力が落ちてきているなと感じていて。でも誰かに話しかけてみよう、と思った時に見えてくる自分の弱点をカバーしようと思ったり、次の瞬間「やっぱもういいや」と思ったり。そんな自分自身を知ることで、次の新しい自分になれる"Miracle of Love"が起こればいいなって、いつも妄想してるんですよ(笑)。それが最近の、プライベートの楽しみかな!」

※「Miracle of Love」...中川さんのオリジナル曲。アルバム『decade』に収録されています。

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取材・文:平野祥恵(ぴあ)
撮影:福井麻衣子

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【公演情報】
・7月26日(水)~8月26日(土) 帝国劇場(東京)

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