『炎 アンサンディ』稽古場レポート&インタビュー vol.1

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レバノン生まれの劇作家、ワジディ・ムワワドによる戯曲を、注目の若手演出家・上村聡史が演出する『炎 アンサンディ』
『灼熱の魂』という邦題で映画化もされ、2011年度のアカデミー賞外国語映画賞にノミネートされたほか、各国の映画賞を受賞した作品です。

そんな折り紙つきの戯曲が、麻実れい岡本健一といった実力派俳優たちにより上演される...とのことで、9月某日、その稽古場を取材してきました。


稽古場レポート


レバノン生まれ、内戦を経験しフランスに亡命を果たし、その後カナダに移住した劇作家ワジディ・ムワワドによる『炎 アンサンディ』。その経歴ならではの視点で、苛烈な人生を送ったひとりの女性と、その宿命を負った子どもたちの衝撃の物語を切り取ったこの戯曲は、『灼熱の魂』の邦題で映画化もされ、2011年度アカデミー賞外国語映画賞にノミネートもされた。その作品がこのたび麻実れい主演で上演される。ずしりとした手応えの物語に相応しく、実力派が揃うその稽古場を訪れた。 incendies101.JPG

物語は世間に背を向けるように生きてきた中東系カナダ人女性・ナワルの死から始まる。5年間ひと言も言葉を発することをしなかった彼女は、自分の子どもたちに謎めいた遺言を遺していた。双子の姉にはその父を、弟にはその存在すら知らされていなかった彼らの兄を探し、自らの手紙を渡すようにと。姉弟は、その手紙に導かれるように母のルーツを辿り、知られざるその数奇な運命に対峙していく......。 
稽古場には、傾斜のついた舞台。その他のセットはほとんどない。だがスカーフを頭に巻いた麻実れいが、大きな布をマントのように身体に巻きつけた岡本健一がそこに立つと、ただの板の舞台が中東の砂埃舞う地面に見えてくる。佇まいだけで説得力あるキャストたちがこの日稽古をしていたのは、姉娘ジャンヌが母ナワルの秘密に少しずつ近づいているシーンだ。演出の上村聡史は、セリフの中のどの言葉を強調したいのか、その会話からどういった効果を生み出したいのかを丁寧にキャストに伝えていく。それに対し、ジャンヌに扮する栗田桃子らも積極的に意見を出している。結果、ナワルの謎に触れることに内心おそれを抱くジャンヌのヒリヒリとした感情が浮かび上がった。 

そんなジャンヌの"現在"と同時に、舞台上にはナワルの"過去"が共存していく。しかも麻実は14歳のナワルを演じたかと思えば、次のシーンでは40歳になる。声のトーンで、表情で、それを体現していく麻実も見事だが、それを違和感なく舞台上に乗せている戯曲と演出の力も見事だ。様々な年代に散りばめられたナワルの"パーツ"が呼ぶ謎が一体、どこへ着地するのか。ミステリアスな物語にぐいぐい引き込まれる。 

「"家族"と"戦争"というものが行き来しながら描かれていることが刺激的。戦争というものはどの時代でもあるものですが、この作家はもっとミニマムな単位に落とし込んでいます。家族同士、兄弟同士といった、もともとひとつだったものが憎しみあって...という、根源的な部分を突いている、そこが説教臭さだけでは終わらない物語になっています」と演出の上村。公演は9月28日(日)から10月15日(水)まで東京・シアタートラムにて上演。その後10月18日(土)には兵庫県立芸術文化センター 阪急 中ホールでも上演される。チケットは発売中。
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●上村聡史 インタビュー●

●PROFILE●
2001年、文学座付属演劇研究に入所。2005年アトリエの会『焼けた花園』にて初演出。翌2006年座員に昇格。主な演出作品に『Awake and Sing!』『ミセス・サヴェッジ』『連結の子』『ポルノグラフィ』『千に砕け散る空の星』『世界の果て』『未来を忘れる』『アルトナの幽閉者』『信じる機械』『ボビー・フィッシャーはパサデナに住んでいる』オペラ『人間の声』など、小劇場から大劇場、古典から現代劇まで幅広いジャンルの作品を手掛ける。2009年より1年間、文化庁新進芸術家海外留学制度によりイギリス・ドイツに研修を積む。今年2014年は本作のほか、3月に新国立劇場小劇場『アルトナの幽閉者』、4月に明治座『きりきり舞い』など計5本の演出作がある。
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――劇作家ワジディ・ムワワドはレバノン生まれ、その後フランスに亡命、カナダに移住した人物です。今作はそんな作者の視点ならではの作品ということで、映画化もされている戯曲とはいえ、日本で上演する作品としては珍しいバックボーンを持つ作品ですね。

「企画がはじまって、何本か候補があったのですが、僕はこれが一番やりたかったんです。僕、この舞台を作家本人が演出したフランス語のバージョンも、イギリスで英語に翻訳されたバージョンも観ているんです。ストーリーも衝撃的でしたが、両方のプロダクションともにやっている俳優たちの熱量が面白かった。パフォーマンスが息づいていたなという印象で、興味があった戯曲だったんです。それでちょうどその頃映画も公開されていたので、改めて見たらまた、こんなに面白い物語だったのかと思って。"家族"と"戦争"というものが行き来しながら描かれていることが刺激的だし、今やる意味が強い作品なんじゃないかなと思いました」


――具体的にはどのあたりが"面白い"と思われたのでしょう。

「今もシリア、イラクの方の状況がひどくなっていますが、戦争というものを語ろうと思うと、それはどの時代でもあるもの。そこにこの作家の視点は、もっと最小限の単位である家族同士、兄弟同士といった、もともとひとつのものだったのにそこが憎しみあって...という、根源的な部分を突いているんです。ミニマムな単位に落とし込んでいるところが、説教臭さだけでは終わらない物語になっている。それにこの物語は女性に視点を当てている。出てくる女性がみんな強い(笑)。その点もこの作品を息づかせている大きな要素だと思います」


――作劇的にも、麻実さん演じるナワルの過去に何があったのか、彼女はなぜ子どもたちに不思議な手紙を残して死んだのか...と、ミステリータッチでどんどん先が気になって、ぐいぐい物語に引き込まれていきますね。

「そうですね、サスペンスフルで。戦争のことを扱っているんですが、母のルーツを辿っていくという大きな物語の中に、作家が言いたいこと、提示したいことが描かれています。たとえば同じ国で血を分け合ったもの同士がいがみ合うということに対しては、友情というものを配置したり。だから、物語自体は、入っていきやすいものになっています。物語はナワルが子どもたちに宛てた手紙が軸になりますが、ちょっと皮肉なのが、自分が死んでから言う言葉だというところ。それが作品のミソなのかなと思っています」


――とはいえやっぱり、日本人にとっては少し遠い話でもあります。状況も、レバノンという国自体も。

「ただ、物語上は"レバノン"という名前は出てこないんですよ。たとえば台本に出てくる"クファール・ラヤットの大虐殺"というものも、実際に似たような事件はありましたが、全部名前を変えているんです。おそらく作家はあえて固有名詞を出していない。北と南とか、どの国でもどの地域でも起こりうることを象徴するように寓話的に書いている。だから観るお客さまには、キリスト教とイスラム教の対立とか、イスラム同士の争いとか、もしかしたら日本と他の国のこともそうかもしれませんが、そういったことにスライドして見ていただけるようになっていると思う。作家が書こうとしたその寓話性は、大事にしたいなと思っています」


――そのあたりが、先ほど仰った"今やる意味"に繋がっていくのでしょうか。

「そうですね。俯瞰してみると、戦争って、人類がずっとやってきていること。僕たちが舞台作品を作ってそれを止めることなんて出来ない。でもその中にも悲劇もあれば喜劇もあって、そこからどうして人が人を殺してしまうのか、いかに人が人を殺すのかということを、少しでも僕たちは考えていくべきだと思うんです。そういった意味で今、かなり平和な環境の中でこの作品を上演するということは、僕は意味があると思っています」



【公演情報】
9月28日(日)~10月15日(水)シアタートラム(東京)
10月18日(土)兵庫県立芸術文化センター 阪急 中ホール

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