『レディ・ベス』の世界~美術・二村周作さんインタビュー

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■『レディ・ベス』世界初演への道 vol.8■


クンツェ&リーヴァイの新作ミュージカル『レディ・ベス世界初演、いよいよ開幕!
この作品を多角的に追っている当連載ですが、"世界初演"を作り上げるスタッフワークについてもお届けしたく、本日は美術・二村周作さんのインタビューをお送りします


●プロフィール●
武蔵野美術大学造形学部空間演出デザイン学科卒業。ロンドンセントマーチン・カレッジオブアートアンドデザイン修士課程取得。2002年には文化庁在外研修員としてロンドン、チューリヒに留学。2011年にはミュージカル『キャバレー』の成果に対し第38回伊藤熹朔賞(舞台美術をはじめ各芸術分野において顕著な功績のあった人に贈られる賞)本賞、2013年に紀伊国屋演劇賞(個人賞)、2007年に読売演劇賞最優秀スタッフ賞を受賞するなど、日本を代表する舞台美術家である。現在玉川大学パフォーミングアーツ学科非常勤講師。


●二村周作氏 インタビュー●


――まず、二村さんはなぜ<舞台美術>の世界に入られたのでしょうか。

「もともと舞台が好きで、大学生の時はいわゆる"劇研(演劇研究会)"に入っていました。役者に憧れた時期もありましたよ(笑)。でも絵が好きで、美大に進んでいたんですね。ですので、美術と演劇と両方関われる仕事...となると、やっぱり舞台美術の道に進んでいきました。それに、子供の頃から祖母に連れられてよく歌舞伎を観に行っていまして、"きれいなもの"を見る機会があったことから、そういうものに憧れたのだと思います」

――職業としての<舞台美術>の魅力は?

「劇空間そのものをデザインできるというのが、もっとも自分にとって興味があるところ。舞台美術を作る上では作品背景、時代背景、キャラクターの背景...それは単純な「背景」ではなく心理的な背景ですが、そういうことを考えます。それは作品を掘り下げていかなければできないことであり、そこが楽しいです」


――今回の『レディ・ベス』についてお伺いします。演出の小池修一郎さんとはどんなお話を?

「これだ!という方向性が定まるまでは、小池先生も私も、かなり紆余曲折があったんです。世界初演ということもあり、デザインもいろいろな変更を繰り返しました。今の、盆(回り舞台)があって、リングがあって...というのは、ハンプトン・コートにある、エリザベスの父王ヘンリー8世の時計塔をモチーフに使っているのですが、それは先生が「こういうアイディアも面白いんじゃないかな」って示されたんですよ。私もそれが強いモチーフになる、とピンと来るものがありまして、舞台に展開しました」
LadyBess0802.JPG
↑  舞台セット模型


――たしかに傾斜のついた盆と、リングがとても印象的です。ハンプトン・コートの時計塔なんですね。

「盆は時計塔の文字盤のデザインを反映しています。後ろのリングとコンパクトのように一体になってこの世界を作っていて、この舞台、この時空間を支配しエリザベス自身の数奇な運命を象徴するするものとしてデザインに取り入れています。
そしてそのモチーフからさらにどういう風に舞台で使っていくかを考えて、傾斜舞台にしました。傾斜させることで、役者がその上に立つと空間がダイナミックになりますし、奥が高く床面の金の文字盤が見えている時と、手前が高くなって黒い面が見える時では随分印象が変わります。また今回の作品は台本の構成上、シーン数が多くひとつひとつが短く、しかも同じシーンをほとんど繰り返さない。映像的な台本だという印象なんですが、そういうタイプの作品で短時間にセットをがらりと変えるのは現実的ではない上、お客さまの興を削ぎますので、大きな転換で場面を換えていくのではなく、盆を回すことによって換えていく手法をとりました」


――イメージを掻き立てられる部分と、抽象的すぎない重厚さがあると思いました。

「僕の勝手な想像なのですが、16世紀イギリスの話ですのでお客さまは"時代物"のイメージでいらっしゃると思うんです。でも劇場に入り、あのデザインをご覧になって一度そのイメージを飛ばしていただく。でもそのあと舞台を観るうちにドラマに深く入っていって頂く、そのために細部に説得力を持たせるよう気を遣っています」


――その"細部の説得力"に繋がる部分だと思いますが、「この時代らしさ」はどのように取り入れていらっしゃるのでしょうか。

「この時代の建築様式で象徴的なものに"チューダー様式"というものがあります。よく教会のゴシック窓に見るような尖塔形、その尖塔の角度がもう少し広がったモチーフですね。あとは唐草が絡んでいるモチーフですとか。そういうものを柱やメアリー女王の玉座などに取り入れています。あとは天文時計からのコーディネイトで主に黒と金、という色彩の統一を持たせています。実際は意外と派手な色遣いをしていたようで、時計にはブルーや深い赤も入っていますが、それは少しトーンを落として、黒と金を強調しています。古色を帯びさせて、時代感を出しています」


――ほかにこだわった部分を教えてください。

「意外といっぱいあるんですよ(笑)。後ろの天球儀のリングは、先ほど申しましたようにヘンリー8世の時計台がモチーフで、それをなるべく正確に模写しています。それに電飾を入れて光り輝く輪に見えるようになっていますが、それぞれが星座になっていますので、そこをしっかり浮き立たせる、どれだけ綺麗に見せるかというのが一番苦労している部分です。それを今直し中で、当時のデザインが電飾で明るくなると見方によると可愛い。さそり座やいて座とか、結構、元の絵がプリプリしていて(笑)。それらに少し古色を出して、汚しを入れる作業を施して重みを出そうとしています」


――最後に、この『レディ・ベス』、二村さんから見てどんな作品になりそうでしょうか?

「キャストも、スタッフワークについても、これだけ豪華な作品ですから、自分がお客だとしても本当に見たい作品だなと思います。もちろん作品を作る者として常に「自分がお客でも絶対観たい!」っていう作品を作らなきゃいけないんですが。でも本当に、これは自分が関わっていなかったとしても、単純に見たい。歌も素晴らしいですし。今は長い現場で産みの苦しみの最中ですが(笑)、お客さんを裏切らないように、私がやれること...見た目をいかに楽しくできるかということを一生懸命やっています。...本当は自分の立場ですと突き放して作品を見て仕事をしなきゃいけないんですが、ついやっていると一生懸命になっちゃって(笑)。初日にはお客さんの目線に近いところで、作品を観れるかな。自分でも楽しみです」
LadyBess0801.JPG



二村さんのお名前で検索をすると、様々なタイプの舞台がヒットします。
内容もシリアスからコメディ、そして実際の舞台美術を思い返しても抽象から具象まで幅広く、
「コレも、えっアレも!?」と改めて驚いてしまいました...。

現在も、この『レディ・ベス』に加え、東京宝塚劇場で上演中の宝塚花組公演『ラスト・タイクーン』も二村さんの美術!日生劇場で上演中の『ラブ・ネバー・ダイ』でも美術補として関わられています。
日比谷の大劇場を二村作品が制覇中です...!!
すごいっ。
二村さんも「こんなこと二度とないと思ってます」と謙遜しつつも「僕もちょっとテンションが上がってます」と照れ笑いをされていました。

そんな超・売れっ子で、超・お忙しい中(開幕目前でした...)のインタビューでしたが、穏やかな口調で丁寧に応えてくださった二村さんでした。
『レディ・ベス』、観劇の際は舞台美術もぜひ、堪能してください。



●公演情報●
5月24日(土)まで上演中  帝国劇場(東京)

7月19日(土)~8月3日(日) 梅田芸術劇場 メインホール(大阪)
8月10日(日)~9月7日(日) 博多座(福岡)
9月13日(土)~24日(水) 中日劇場(愛知)


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