『ライチ☆光クラブ』や『帝一の國』で知られる古屋兎丸原作のコミック『アマネ†ギムナジウム』が、初の舞台化。原作は派遣社員で人形作家の宮方天音を主人公に、"ギムナジウム"をテーマに彼女が制作した7体の人形が、突如動き出したところから物語は始まる。舞台の演出を手がけるのは、『帝一の國』の舞台版も好評を博した小林顕作。そこで稽古場の古屋、小林とリモートを繋ぎ、作品にかける思い、稽古の手応えなどを訊いた。
――『帝一の國』に続き、古屋先生の作品が小林さん演出で舞台化されます。今回のお話があった時の心境は?
古屋 単純に「やった!」と思いました。と同時に、『アマネ†ギムナジウム』という作品が顕作さんによってどう舞台化されるのか、ちょっと想像がつかないなとも思いました。
小林 僕も単純に「やったー!」と思いました(笑)。なぜかと言うと、古屋先生のお人柄と言いますか、とてもやりやすいんですよね。原作者の方って作品における神様なので、なかなか直接本意が聞けなかったりするんですけど、先生とは直でやり取り出来ますし、ちょいちょい稽古場に来てくださる。作品を作る上で、これ以上ありがたいことはないですね。
古屋 それは顕作さんの作る現場の雰囲気が、すごく居心地がいいからだと思いますよ。こんなにアットホームで、ウェルカムな現場ってほかにないですから。僕はその片隅で、稽古の雰囲気を感じながら自分の仕事をしているだけです。
小林 そう! 別のお仕事されてますよね?(笑)
古屋 はい。稽古をBGMにしながら。それでもみんなの熱意とか、伝わるものはいっぱいあるんですよね。
――とはいえ原作者としては、自身の作品が舞台化なり、映像化なりされることに不安はありませんか?
古屋 顕作さんに関してはすごく信頼しているので、不安はまったくありません。脚本を読ませてもらっても、全7巻ある漫画が、意外ときっちり収まっている。それはお客さんを主人公の(宮方)天音にする、という手法にされたおかげだと思うんですけど。とても意外であり、面白いなと思いました。
――"お客さん=天音"という構成は本当に驚きました。
小林 まず思い浮かべたのは、テーマパークのライド型アトラクションです。お客さんにはライドに乗るような感覚で天音になってもらい、『アマネ†ギムナジウム』の世界を楽しんでもらおうと。さらに美少年たちを堪能してもらう、そういうおもてなしの舞台でもあるので、"リアリティアトラクション"とでも言いますか(笑)。ただ漫画の世界を忠実に、より深みを出そうとすると、もっと体験型にする必要がある。そういったイメージを脚本の渡辺(雄介)さんにお伝えしたところ、非常にいいものが出来上がって! これは面白いものになる、と確信しましたね。というのも今回はロングランなので、「3回は観たい!」と思ってもらえるようなものにしなければ、と考えているんです(笑)。
――改めて作品としての魅力とは?
小林 『帝一の國』は一途な少年の真っすぐ過ぎるおかしさを、半分ギャグを交えながら描いていましたが、今回は思いっきり踏み込んで、ひとりの女の子の閉ざされた過去を描いている。その核さえしっかり描けたら、僕の心の女子はえらく感動するし(笑)、実際これを観た女性のお客さんにとっても、ちゃんと残るものになるだろうなと。それって想像出来る『アマネ†ギムナジウム』ではないと思うんですけど、僕がアニメなり漫画なりを舞台化する時に心がけていることは、思いっきり逆を走ること。寄せても真似になるだけですし、作品の本質は逆に走った先にこそあると信じているんです。
――稽古は中盤に差しかかったところですが、見学されての感想は?
古屋 実際にギムナジウムの少年たちが動くと、こんなにも生き生きするのかと驚きました。やっぱり漫画というのは自分の頭の中の妄想だけなので、顕作さんの演出がついたり、実際俳優さんたちが動くことによって、こんなにも変わるのだと。またフィリクス役の(大城)ベイリさん、ヨハン役のとまんさんがすごくいいですね。立っているだけで絵になるというか。特にヨハンのあの雰囲気を出せる子って、なかなかいないと思いますよ。
小林 とまんくん、まんまヨハンですよね。ベイリくんは演じながらも、根っこにある人の良さが滲んじゃっていますけど(笑)。でもフィリクス自体、実はすごく人がいいキャラクター。そういう意味でベイリくんもぴったりなんですよね。
古屋 僕が稽古場に来るのが好きなのは、やっぱりものづくりの現場を見るのが好きだからなんです。キャストのみんながだんだん団結していく様子もわかるし、自分とは違うプロフェッショナルな方が集まって、ものを作っていく感覚がとても楽しい。今日で言えば、天音の声を演じる石川由依さんが来てくださったのも、すごく感動しました。すごく的確で、台本や原作をちゃんと読み込んできてくださっているのがよくわかりましたね。
小林 天音の声の収録をしたんですが、僕からのオーダーはほぼなかったですね。はい正解、はい正解って感じで(笑)。僕からしたらまさに天音だったんです。
――では最後に、読者の方にメッセージを。
古屋 中学生や高校生の時に『ライチ☆光クラブ』を読んでいたような子たちが、今30代になり、『アマネ†ギムナジウム』を読んでくれている印象です。自分の仕事と趣味の狭間に生きている世代、そんな人たちに刺さるものを描きたいと思ったのがこの作品で。そういう複雑な思いを少し抱きつつ、最終的には楽しかったと、その両方を味わっていただけたらいいなと思います。
小林 すごく重いテーマの作品ではありますが、最後には僕のクセで、なにを観たかよくわかんなくなっちゃう感じはあると思います(笑)。ただ僕の仕事は、「なんか今日楽しかったな」とか、「明日も頑張れるな」って思ってもらえるものを作ること。ただそれに尽きると思っていて。だからこそぜひ3回(笑)。「びっくり、なるほど、もう1回!」で、計3回観に来てもらえたらすごく嬉しいです。
取材・文:野上瑠美子
<公演情報>
アマネ†ギムナジウム オンステージ
2022年4月22日(金)~5月15日(日)
Mixalive TOKYO Theater Mixa
8,000円(全席指定/税込)
[原作]古屋兎丸(「アマネ†ギムナジウム」(講談社モーニング KC))
[脚本]渡辺雄介
[演出]小林顕作
[出演]
フィリクス・シュルツ: 大城ベイリ
ヨハン・ベルク: とまん
《チーム:プレッツェル》
テオ・アプフェル:秦 健豪
ゼップ・ジングフューゲル:松田昇大
ダミアン・ベーゼンマン:深澤悠斗
オットー・グーテンゾーン:本間一稀
エルマー・クーヒェン:矢代卓也
《チーム:バウムクーヘン》
テオ・アプフェル:弦間哲心
ゼップ・ジングフューゲル:中嶋 健
ダミアン・ベーゼンマン:広井雄士
オットー・グーテンゾーン:星 豪毅
エルマー・クーヒェン:土屋 翔
アマネ美ヨングス:小黒直樹 玉元風海人 高橋陸人
宮方天音(声の出演):石川由依
(C)古屋兎丸・講談社/アマネ†ギムナジウム オンステージ製作委員会