今年7月に上演されるミュージカル『四月は君の嘘』。
2014-15年にはアニメ化、2016年には実写映画化もされた新川直司による同名マンガが、世界で初めてミュージカル化されます。
作品は、若き音楽家たちが成長していく姿を甘酸っぱく切なく、カラフルに描いた青春物語。
作詞・作曲にフランク・ワイルドホーン、編曲にジェイソン・ハウランドというブロードウェイの第一線で活躍しているクリエイターを起用する本作は、本公演前にワークショップを重ねる"ブロードウェイ方式"で作り上げています。
先日、本作上演に向けてのワークショップ&試演会があったことをレポートしましたが、この試演会に参加した木村達成さん、音楽を担当したフランク・ワイルドホーンさんにはお話も伺ってきましたので、今回はそのインタビューをお届けします!
主人公・有馬公生役の木村さんには、試演会終了直後、興奮さめやらぬ中でお話いただき、フランク・ワイルドホーンさんには別日にじっくりお話を伺ってきました!
(※公生役は木村さんと小関裕太さんのWキャストです)
【ワークショップ&試演会レポートは →コチラ】
★ 木村達成 INTERVIEW ★
―― 試演会お疲れ様でした。いま現在の率直な気持ちは?
「(笑顔で)やっと終わった! という気持ちが少しあります。まだ本番は先なのですが、まずは一回、全部作り上げたので。この10日間は濃密で、みんなで頑張っていましたので、とりあえず今は心からほっとしています」
―― この『四月は君の嘘』、"ブロードウェイ方式で作る" という表現をされています。こういった、本公演よりずっと前にワークショップをやって......という作り方は、木村さんも初めてですよね?
「はい、初めての経験です。楽しかったことは楽しかったのですが......実は「楽しいな」と思えたのは、ワークショップの最後の3日くらい(苦笑)。それまでは本当にキツかったです、精神的にも体力的にも。6時間歌いっぱなしとかもありましたし、ずっと集中していたので、家に帰ったら頭が痛くなったりもしました」
―― 具体的に、どのあたりに苦労されましたか?
「進むスピードが速かったです! ワークショップの前に楽譜をいただいて音取りもしていたのですが、僕たちの声、僕たちのパッションに合わせて音楽を作っていただけるので、どんどん変わっていく。覚えることもどんどん増えていきますし、事前に覚え、身体に刷り込んだものをそぎ落とす作業も大変で、そのあたりがかなり苦労をしました」
―― ワイルドホーンさんという世界的な作曲家が来日され、木村さんの声にあわせた音楽がどんどん作られていく。オリジナルキャストとして、木村さんの声にあわせ作られた音楽が今後世界で歌われていく。それはすごいことだと思います。
「とてもありがたいことですよね......。稽古中に公生という役柄の性格もあり、最初はちょっと自信なさげに歌っていたんですが、ワイルドホーンさんが「公生の歌は心のスクリームだ、彼は心の声を叫び続けている、君は声がいいんだからもっと自信を持って、どんどん自分を出していこう」と鼓舞してくださった。その言葉で自分も変われました。やる気もさらにもう一段、ぐっと上がったんです。印象深い経験になりました」
―― 私も木村さんの声、とても素敵だなと思いながら聴いていました!......『四月は君の嘘』はもともと人気作品ですが、ご存知でしたか?
「映画を拝見しています。僕は自分ではどちらかといったら渡(公生の友人)タイプだと思っています。部活もスポーツ系で、学生時代に音楽にはあまり触れていなかったんです。ただ、文科系の彼らには彼らにしかわからないことがあるし、体育会系の人には体育会系の人にしかわからないことがある、ってところはこの作品にも描かれていて。そのかみ合わなさは、わかるなぁ、って思っています。ただ学生時代から、吹奏楽部とかカッコいいなとは思っていました!」
―― 公生には寄り添えそうですか?
「うーん、まだ寄り添わないでおこうかな。彼の心の葛藤や苦痛は、僕が公生とかけ離れているから表現出来ることもあるのかなと今考えていて。役を突き詰めるにあたってもがいている感じが、うまい具合に歌に乗ってくれれば、その必死さが公生の苦悩にリンクしていくかなと思っています」
―― なるほど。......ところで試演会でかけていたメガネは、マイメガネですか?
「あ、これは用意していただきました(笑)。ワイルドホーンさんが、「君、カッコよすぎて公生には似合わない顔だね」と仰って、メガネを用意してくれたんです」
―― メガネをかけると、一気に公生っぽくなりますね(笑)。
「ありがとうございます(笑)」
―― 7月には本公演が上演されますが、試演会を経て、楽しみになった点があれば教えてください。
「泣けるストーリーですが、無理に泣かせるのではなく、誰もが人生の中で経験したことのあるような悲しみ、思いを感じていただきたいなと思います。公生はピュアだからこそ、閉じこもってしまったり、悲しみから抜け出せないと思い込んでしまったりする。そういう、表に出せない心の叫びは誰しもが持っていると思うんです。そこをきちんと僕らがお伝えできれば、最後、ひとはひとりではない、自分のまわりにはみんながいるんだ......という感動に繋げられると思います。僕自身この作品をとっても楽しみにしていますので、ぜひ、感動しにきてください!」
★ フランク・ワイルドホーン INTERVIEW ★
――『四月は君の嘘』は、ワイルドホーンさんがこの作品を非常に愛している、思い入れがある......と伺っています。なぜ日本のマンガであるこの作品をご存知だったんでしょう?
「フフフ、私の息子がその理由です。長男のジャスティンが日本のカルチャーが大好きで、マンガもアニメも大好きなんです。色々なところで語っていますが、『デスノート』も企画が来たときに僕は全然わかっていなくて、息子に「『デスノート』っていう作品の企画が来たんだけど......」と話したら、僕が言い終わる前に「ものすごくカッコよくて、ものすごくイマドキで、ものすごくクールな作品だからやらない手はないよお父さん!」って返してきたという経緯があります(笑)。『四月は君の嘘』も、数年前に東宝さんとマンガ・アニメ原作のものを作りたいねと話をしていて、その時には色々なタイトルが挙がっていたのですが、その中で息子が「お父さん、『四月は君の嘘』を観てごらん。これは音楽の話だし、音楽がいかにパワーがあるかを描いた作品だよ。だからパパは大好きだと思う」って言ってくれた。アメリカでは今、Netflixで日本のアニメが字幕付きでいつでも観られますからね、それで僕は観てみようと思った。そうしたらまたジャスティンが「まずはアニメで全話観て。観終わったらしばらく涙が止まらなくなるだろうから、その涙が止まったら電話してきてよ」って言ったんです。その言葉は今でも忘れられないですね(笑)。実際、全編観たら、本当に涙が止まらなかった。そのあと息子だけでなく、色々な人に「これはミュージカルにしないと!」と電話をかけまくりましたよ」
―― この物語のどこに、そこまで惹かれたのですか?
「この作品には本当に素敵な、そして普遍的なテーマがいっぱい宿っているからです。大人になるということ、いのちと向き合うということ、自分がいかなる人間かをきちんと考えるということ。それから音楽の素晴らしさ。音楽というのは色々なもの......天と地をも繋げる橋になります。こういうテーマ性に心を動かされましたし、もともとのストーリーも大好きです」
―― 音楽の力を高らかに肯定している、というのは、とてもミュージカル的でもありますね。
「そうなんです。もうひとつとても大事なことがあって、それは、この作品が若者に対して、とてもいい「クラシック音楽への招待」になるんじゃないかなということ。もしかしたらこの物語でなければ、けっしてこういう名曲に触れることがなかったかもしれない若い子たちが、観終わったあとに「そういえば"世界の名曲"と言われるものを一挙に聴くことができたな」と思って帰っていただけるかもしれない。そういう素敵なチャンスを頂きました。作曲家としてはこの作品の中で、自分のポップスや演劇的な音楽と、偉大なクラシックの名曲たちをコンビネーションで届けられることに興奮しています。いままでミュージカルをたくさん作っていますが、クラシックの名曲と自分の音楽を掛けあわせるという経験は初めてで、ここならではの創作が出来るんじゃないかと思いました。私の心の師匠であるMTI(Music Theatre International)のフレディ・ガーシャンという人がいまして――この会社は世界中にミュージカルの権利を下ろしている会社ですが――、彼はアメリカで初めて、ミュージカルというものを若い学生さんたちに紹介した人物なんですね。その彼が「フランク、これは全世界の若い人たちにクラシック音楽を、我々の手で届けることができるすごい仕事だよ。これはどんな言語の国でも、どんな文化であっても紹介できるチャンスだ」と言ってくれた。彼がそう言うってことは、このプロジェクトは"本物"だと思ったんです」
―― いまお話の中で「コンビネーション」というお話が出ましたが、舞台上では、フランクさんの音楽とクラシック音楽が別々に登場するのではなく融合すると思っていいんでしょうか。
「はい。この作品は、いわゆるクラシック音楽のコンクールというものが出てきます。しかも10代の若者たちですから、彼らはポップスを聴き、影響を受けて育ってきた子どもたちだと思う。なので彼らの感情はポップスを通して表現できると思っています。そして音楽的には、仰るとおり、ポップスとクラシックを融合させています。例えば1幕で椿というキャラクターが歌う素敵なバラード、現タイトルは『スーパーヒーロー(WHERE'S MY SUPERHERO?)』ですが、これはイントロの部分がドビュッシーの『月の光』です。こういった(クラシック音楽がテーマになっている)ミュージカルでないとそんな書き方は出来ませんので、とってもクールでカッコいいと思っていますよ!」
―― お話されているフランクさんご自身が、楽しそうですね。
「とっても楽しい(笑)。しかもジェイソン・ハウランドが編曲、オーケストレーションをやってくれています。彼は本当に膨大な知識量がある。だから僕の作るポップスのメロディを聴いて「このクラシックの楽曲が合うんじゃないか?」というようなことを彼の知識から提案してくれたりもします。その作業も楽しいですね」
―― そして本番までまだ半年あるタイミングで、ワークショップをやっている。制作サイドが"ブロードウェイ方式"と呼ぶ制作方法を取って作っていますが......。
「ブロードウェイでは、ショーを作る時にはこういったワークショップはたくさんやるんです。本当にたくさんやります。その上でNYではないほかの町......ボストンやフィラデルフィアといった場所で試公演をやる。試公演を2ヵ所でやる場合もあります。その "アウトオブタウン公演" のあとにさらにNYでワークショップをやってもう一度練り直すという時もあります。そして、それで終わりではなく、そのあとようやくプレビュー公演がある。プレビュー公演で30回、40回パフォーマンスを重ね、ようやくブロードウェイのショーがオープンします。ただNYやロンドン以外ではそんなにじっくり作る機会はそうそうない。日本ではもっと早い段階で完成品を作り、結果を出す必要がありますから、(創作という面で)フェアじゃないですよね(笑)。理想を言えば東京で開幕する前に大阪や名古屋......それすら大都市すぎますね、もっと小さな都市で2週間くらい上演して、様々な角度から検証したいのですが、日本の興行システムではなかなかそれは出来ない。いつも日本やソウルで感嘆するんですよ、こんなにテクニカルが大変な作品なのに、プレビューなしで初日を迎えるなんて! って。最初に宝塚歌劇団で作品を作った時も、80人のキャストがいて、40人編成のバンドがいて、客席2000人規模の大劇場。それなのにプレビュー(ゲネプロ)1回! それでやっちゃうんだから、それが日本人なんでしょうね。アメージング(笑)!」
―― フランクさんから見れば、日本のシステムの方が驚きなんですね(笑)。ただ、ブロードウェイやウエストエンドほどの時間はかけられないものの、今回の作り方は私からすればとても手間をかけていて大作感がひしひし伝わりますし、ブロードウェイのような創作方法への"第一歩"ではないかと思っています。
「そうですそうです、なので僕も本当に感謝しています! 今回はワークショップを2回(2019年2月と今年2月)やらせていただいた。これが演劇という芸術の持ち味ですし、実際に "やる" ということをしないと、「ああ、ここはこうなんだ」と見えてこない部分がある。今回、1回目と2回目のワークショップの間に脚本もかなり変わったし、音楽面ではいまも刻々と変更がかけられています。......ただ真実を言えば、この『四月は君の嘘』は、それを "やらずにはいられない" 作品なんだと思っていますよ」
―― それからフランクさんが「若い人に届けたい」と仰っていましたが、実際にキャストがとても若い! ということも新鮮に思いました。舞台芸術は俳優が年齢を飛び越えることの素晴らしさもありますが、この作品は実際に若い人がやることに価値があるのかな、とも感じました。
「はい、本当に皆さん若いですね(笑)。僕もこの作品に限っては若者がやらないと! と思っています。このストーリーには、若さゆえの正直さが必要。ベテランの役者さんの洗練された技術をもって、その正直さを前面に出すのは難しいと思う。自分たちの生活の中でも同じような悩みを抱え、それをなんとか乗り越えようとしている人たちが集まればいいなと思っています」
―― しかし若くても技術が高い、今の若い方たちは本当に上手いな、とワークショップを拝見しながら思っていました。
「イエス、僕もそう思う。僕は日本の演劇界を代弁することはできませんが、アメリカではまず、お客さまがすごく若返っています。なのでアメリカの演劇界......ストレートプレイではそうでもないかもしれませんが、ミュージカルでは着実に、若者の動きが重要視されています」
―― 一方で、昨今のミュージカルではスリリングなもの、サスペンスフルなものを扱う作品がヒットしているなとも思っていて、『四月は君の嘘』という、私たちの"日常と地続き"の作品でこれだけ大作感を出すというのは、挑戦的だなと見ているのですが。
「それはあると思うけれど、この作品は演劇的な物語ですよ。そしてストーリーの中にあるハードルはとても高いところにある。公生くんの失われた魂はどこにいっちゃうの? という先の読めない展開があり、彼自身、自分のアイデンティティを捜し求めている。かをりちゃんも、とてもドラマチックな状況に置かれている。『デスノート』のような超常現象はありませんが、等身大よりはダイナミックなことが描かれているからこそ、自分は「書きたい」という気持ちをたきつけられました」
―― ご丁寧にありがとうございます。音楽、聴いていて、キラキラしていました!
「ありがとうございます(笑)。実はもうひとつお伝えしたいことがあって、今回の作品、実は僕の日本での20作目のミュージカルなんです! 日本には一生に一度でいいから行ってみたいなと思っていた自分が、いまや年に何回も仕事で訪れている。しかも日本の演劇界のおかげで妻(和央ようかさん)にも出会うことができた。なので、自分にとってはもう第二のふるさとになっています。そして20作品も日本でかけていただいていると、私もどんなお客さまがいらっしゃるかということを学び取れています。ですから皆さんに深く届く作品を作りたいですし、20も作品を上演できているということは、やっぱりお客さまのサポート、愛情があったからこそ。この環境に深く感謝をしていることをお伝えさせてください。さらに新劇場・東京建物Brillia HALLのこけらおとしシリーズでもあり、様々な素敵な要素が詰まっています。たくさんの方に観ていただければと思っています」
取材・文・撮影(試演会):平野祥恵
撮影(フランク・ワイルドホーン):東宝演劇部提供
【『四月は君の嘘』バックナンバー】
# ワークショップ&試演会レポート
【公演情報】
7月5日(日)~26日(日) 東京建物ブリリアホール
一般前売:4月4日(土)
[原作]新川直司(講談社「月刊少年マガジン」) [脚本]坂口理子
[作詞・作曲]フランク・ワイルドホーン
[作詞]トレイシー・ミラー/カーリー・ロビン・グリーン
[編曲]ジェイソン・ハウランド
[訳詞・演出]上田一豪
[出演]小関裕太・木村達成(Wキャスト)/生田絵梨花/唯月ふうか/水田航生・寺西拓人(ジャニーズJr.)(Wキャスト)/他