『スペインの悲劇~ヒエロニモの怒り~』稽古場
東京にスタジオを持ち、独自の活動を展開する劇団現代古典主義の『スペインの悲劇~ヒエロニモの怒り~』が、第31回池袋演劇祭に参加。9月14日(土)~16日(月・祝)に歌舞伎町のコフレリオ新宿シアターにて5公演をおこないます。
昨年の池袋演劇祭にも参加し、優秀賞を受賞しました。今年は大賞をめざして取り組むのは、過去に上演した"復讐劇"の再演です。前回の上演とは劇場が変わり、どんな趣向をこらしてくるのか......演出の夏目桐利さんにお話を伺うとともに、その稽古場の様子を覗いてみました!
*****
稽古場は、客席17名のスタジオ。「作品を発表する場所を持ちたい」と劇団が所有している空間で、ふだんはここで作品を上演しています。
『スペインの悲劇~ヒエロニモの怒り~』稽古場
真っ暗な稽古場に、静かに足音が響きます......。
演出のテーマのひとつは"暗夜"だそうで、手が届きそうな距離にいる俳優の姿も、ぼんやりと見えるのみです。
「ひそひそ声で、誰もが権力におびえている......。身分の低い人達は、兵隊の足音が聞こえると、とっさに息を呑んで陰に隠れ気配を消したくなってしまう。そんな空気を客席にも感じてほしい。まるでお城を覗き見しているような芝居になれば」(演出・夏目)
▼あらすじ▼
16世紀スペイン。世界最大の植民地帝国として隆盛を極めた黄金時代。ポルトガル支配の成功にファンファーレが響く中、華やかな劇中劇で幕が上がる。しかし宮廷には不穏な空気が垂れ込める......。一介の司法役人ヒエロニモが、息子ホレイショーの遺体を発見したのだ!息子が殺害された理由もわからず、ヒエロニモは哀しみと怒りに震え、宮廷内にいるはずの殺人者へ復讐心を募らせる。そしてたった一人で、暗闇を手探りするように、国家利益のために手段を選ばないスペイン王族たちに立ち向かう。
50人以上が登場し、3時間をこえる原作を大胆に再構成。舞台上で同時に見せることでそれぞれの関係性や想いが強く引き立つ、怒濤の70分!
▲▲▲
物語の舞台は16世紀のスペインですが、書いたのはイギリスの劇作家トマス・キッドで、1587年に初演されました。この芝居の大ヒットにより、"復讐劇"が流行し、シェイクスピアの『タイタスアンドロニカス』や『ハムレット』にも影響を与えたと言われています。
原作には『ハムレット』でも見られる要素がちりばめられていて、亡霊が復讐をうながしたり、劇中劇が登場したり、剣による決闘があったり、登場人物の名前まで似ています。
『スペインの悲劇~ヒエロニモの怒り~』稽古場
大きな見どころのひとつでもあるフェンシングのシーンは大迫力!基礎的な動きはプロのフェンシング指導者に教わっているそうです。
剣を構える立ち姿は凛々しく、立ちあった瞬間は火花が散りそうな勢いがあります。その戦いのさなかに、セリフがテンポよく重なります。動きとセリフの相乗効果で、決闘中の心の揺れや想いが強さを増して伝わってきます。
稽古場には汗を滴らせ声を絞り出す右:大西輝卓(ヒエロニモ役)と左:樽谷佳典(ロレンゾ役)の気迫が満ちています。その熱気に拍車をかけるように、見守るほかの出演者や、演出の夏目さんの真剣な視線が突き刺さります。
『スペインの悲劇~ヒエロニモの怒り~』稽古場
『スペインの悲劇~ヒエロニモの怒り~』稽古場
夏目さんは演出で「テンポよく歩いて」「もっと早く低く声を出して」など指示します。その指摘からは、リズムを大事にしていることがわかります。音やリズムを大切にした演出が、物語を『観る』というよりも『体感する』という感覚を創りあげていくのでしょう。
そうやって練り上げられる空間に、復讐などに燃える登場人物たちの熱が重なります。
2017年初演時(撮影:荒井琴美)
家族や恋人を想う心は、いつの世も深いものです。それが、原作に手を加えたことにより現代の人達にもっと伝わるように再構成されています。怒りと、愛と、その行方を劇場で体感したくなります。
『スペインの悲劇〜ヒエロニモの怒り〜』は、9月14日(土)から16日(月・祝)まで、コフレリオ新宿シアターにて上演。
取材/河野桃子