ミュージカル俳優として、シンガーソングライターとして、そしてあの大人気ユニット「MonSTARS」のメンバーとして活躍する石井一孝。
彼が原案・作曲・主演を務める"一人芝居ミュージカル"『君からのBirthday Card』が9月15日(日)、東京・浜離宮朝日ホールで上演されます。
昨年"Story Live"と銘打ち上演されたこの作品は、もとは石井さんの既存の楽曲から構成した「カタログ・ミュージカル」が出来ないか?という発想からスタートしたそう。
この作品が今年はさらにバージョンアップして、再登場。
作品にこめる思いを石井さんに伺ってきました。
◆ 石井一孝 INTERVIEW ◆
――『君からのBirthday Card』、これは昨年初演された、石井さんの一人芝居ミュージカルとのことなのですが、そもそもなぜ "一人芝居ミュージカル" をやろうと思われたのか、そのきっかけを教えてください。
「僕、ミュージカル界にお世話になって27年になるのですが(1992年『ミス・サイゴン』でデビュー)、もともとシンガーソングライター志望だったので、曲を書くのも好きなんです。曲を書くのが好きで、歌を歌うのが好き、芝居をするのが好き。となったらいつかは自分でミュージカルを作りたいと思っていました。その夢は15年くらい前からずっと持っていたかな。でもやっぱりそれはとても労力のいる作業だし、なかなか一歩が踏み出せなかったのですが、『Swing in the Midnight Blue』というアルバムを出した時に、姿月あさとさんとのデュエットソングを入れたんですよ。その時に雑談でそんな話をしたら、ズンちゃん(姿月)が「書けるじゃないですか、オリジナルソングがいっぱいあるんだから」って言ってくれて。つまり、それまでに書いた曲ぜんぶあわせると100曲くらいあるんですよ。その中で気に入った曲で構成して、ストーリーをつけて......いわば『マンマ・ミーア!』方式だよね(笑)。その手があったか! と。それならゼロから作るのに比べたら半分くらいの労力でできる、しかも自分の曲を勝手に使ってカタログミュージカルにする俳優は世界をみてもなかなかないんじゃないか、このヘンテコな感じも俺っぽいんじゃないか、と、やり始めたわけです(笑)」
―― まず音楽ありきだったんですね。
「そうそう。最初はストーリーもなかった。それで(劇中歌の)『No rain,No rainbows』『夜の雲』『HAPPY BIRTHDAY』、このあたりは昔からライブでよくやっている曲で、これは入れたいな、どうやったら『No rain,No rainbows』を入れられるだろう、というようなところからストーリーを考えていきました。そうしたらやっぱりメインテーマが欲しいな、パーティソングや、『テナルディエ・イン』(レ・ミゼラブルの『宿屋の主人の歌』)みたいな"にぎやかし"の曲、パロディソングも欲しいな、となって、結局半分は新曲、半分は既存曲、という着地になりました」
―― あとから作っていったという物語なのですが、まず主人公が「ノストラダムス研究会」に在籍している、という設定がツボです(笑)。
「ちょっとウケたでしょ(笑)。僕自身は子どもの頃からオカルトもなにも信じてなかったんですが。『ムー』を読んでいるって設定なんですが、その雑誌も名前しか知らなくて」
―― でもこの主人公の五島宏という人物は、石井さんがやることを想定して作られているんですよね?
「ノストラダムスは自分の範疇ではなかったけれど、でも僕、CDコレクターだったりするし、そういうマニアックさなんかは五島宏に反映されてるかも。"自分アテ書き" みたいなところはありますね(笑)。中盤で『嘆きと怒りのタンゴ』というナンバーがあるのですが、最初の歌詞は「汗かきのせいか 顔が濃いせいか」ってなってます(笑)。これが先ほど言ったパロディソングなんですが、やっぱり一行で笑いが取れるワードを探すんですよ。ほかにもミュージカルをよくご覧になる方はくすりと来るワードがいくつもあります」
―― 改めて、あらすじを教えていただけますか?
「ストーリーの骨子は、「ノストラダムス研究会」という、地下で集まってるような研究会に所属している青年・五島宏が、そこについ最近入ってきた唯一の女性会員・一城かれんちゃんに告白をする...ってところから始まります。でもこのかれんちゃんが変わった子で、付き合う相手をお笑いオーディションで決めるという。ヒロインもただ可愛らしくても面白くないので、へんてこで、キャラが立ってる子にしました。その「お笑いオーディション」の参加者も、僕が全部やります。色んな声が出るのも、僕の特徴ですので(笑)。このシーンはミュージカルファンの方が「それしかないよね」っていうベタなところに行きますので、お楽しみに(笑)。このお笑いオーディションで、普段まったく面白くない五島宏がまさか選ばれ、かれんちゃんと付き合うことになるんだけれども...、というお話です」
―― 脚本が大谷美智浩さんで、原作が石井さんご自身。
「話を作るのと、実際脚本にするのはまったく違うので、そこはプロにお願いしました。タニさん(大谷)は僕が(レ・ミゼラブルで)マリウスをやっていた頃のグランテールで、とてもお世話になった先輩です。それに、僕は尚美ミュージックカレッジで講師をしているんですが、大谷さんも演劇論の先生をされていて、そんな縁もあります。それでお願いしたところ快くお引き受けいただきました。「ストーリーは基本的に考えているのですが、もちろんご意見があればお伺いしたいです」とお願いしたところ、結果、7割がたは僕が考えたもので、3割くらい「おおっ」っていうアイディアを頂きました」
―― お話を伺っていて、石井さんが楽しんで作っていらっしゃるのが伝わってきます。作るにあたって、どんなことに気をつけて作られたのでしょう。
「ミュージカルを長くやっていて、色々な脚本、色々な音楽で演じてきていますので、どういったものが面白いのかがとてもよくわかるんですよね。やっぱり美しいバラードだけでも成立しないし、大曲だけでも成立しない。『ワン・デイ・モア』が10曲あっても成立しないんです。四番バッターばかりいて野球は勝てないのと同じです。変拍子のスリリングなナンバーも欲しいし、泣きながら心情を吐露するような曲もほしい。濃淡が必要。五島宏という主人公も、市井のどこにでもいる青年にしました。女性に持てるカッコいいキャラは、そうじゃない人がいないと浮かび上がらない。ひとりでやる以上、究極にカッコいい人を演じてもバカっぽくなっちゃうから(笑)。そんな "バランス" を考えて作っています」
―― 少しまた根本的なところに戻ってしまいますが、ご自身の曲でミュージカルを...という理由はお伺いしたのですが、なぜそれを "一人芝居" の形にしようと思ったのでしょう?
「今回は佐々木崇君がゲスト出演してくれますので、実は "ふたりミュージカル" じゃないか、という感じもしますが(笑)。そもそも現実的なことを言いますと、僕は俳優活動と並行して音楽活動をやっていますが、やっぱり舞台のスケジュールが先にありますので、その間でライブをやることになる。そして会場を押さえるとなると、8ヵ月先、1年先を押さえないといけないんですね。でもその段階では、何をやるか、誰をゲストに呼ぶか、何も決まってないんですよ。で、去年、先に劇場を押さえていて何をやるかという企画会議で、いつかやりたいと言っていたミュージカルをやろう、となった。でも150人ちょっとのキャパシティの会場だったので、コンサートの一部としてやろうと。だからもともとは「劇団・石井一孝を立ち上げます!」みたいな大きな感じではなく、ストーリーがついているライブ、という感じだったんです。それが結果的に一人芝居になった。だから去年は椅子に座っての、朗読劇の形だったんですよ。セリフの部分は本を読みながらの朗読で、歌うときに前に出て歌う、という。でも今回は全部セリフも覚え、芝居の形にします。去年もセリフを覚えているところは本から視線を外して演じていたのですが、演出の大谷さんが、そうすると説得力が段違いで違うと。朗読しているときと10倍も説得力が違う、だから今回は全部"芝居"で、と仰って。ですのでそこも、今回のバージョンアップポイントですね!」
―― なるほど、そんな誕生秘話だったんですね...。そしてゲストが、佐々木崇さんです。
「せっかく参加してくれるんだから "崇ナンバー" も書きたいんだよね。崇くん、すごくダンスが上手い方なので、彼の得意なダンスで彩っていただければと思っています。いま『エリザベート』にも出演して、右肩上がりの若手俳優ですので、いいお芝居のシーンも作ってあげたいなぁと思っています。あまりやりすぎると本当に "ふたりミュージカル" になっちゃうんで、そこは考えつつ(笑)、でも美味しいセリフもぜひ言ってもらって、絶妙な感じになるよう考えています!」
―― ほかに注目ポイントを教えてください!
「僕ね、ご存知の方はご存知だと思うのですが...ダンスが、あまり得意ではないんですよ...。もちろん頑張っていますけれど、なるべく踊らないようにしてきた27年間だったの(笑)。その僕が、自分から「踊りたい」と言って、自ら大澄賢也さんに電話をして振付けのお願いをした! これ、自分で物語を作って、自分で音楽も作る作品ですから、踊らなきゃいけない義務はないんです。なのに、自分から自分の首を絞めにいきました(笑)!」
―― でもそれは、それがこの作品に必要だと思った...ということですよね。
「そうです。歌と芝居で紡がれている全体のなかで、やっぱりショーナンバーが欲しいと思った。賢也さんは『シスター・アクト~天使にラブ・ソングを~』の時に初めて振りを踊らせてもらったのですが、「カズさん、上手く踊らないでください。その味は僕にも出せない、これはカズさんにしか出来ない踊りです。ちょっとダサい感じが良いんです」って言ってくれたんですよ(笑)。僕のダメなところを活かしてくれる振りをつけてくれるのは賢也さんしかいない! と思って、オファーをしました。この作品でも僕の身の丈にあった振りをつけてくださっています(笑)」
―― 身の丈ですか(笑)。
「そう、力量にあったものを(笑)。でもせっかく2年目なので、去年より上手く踊れるところも出したい! 振付も賢也さんがバージョンアップしてくださいますので、そこも注目していただければ。やっぱり、再演するにあたって、初演をなぞるなら再演をする意味がないんです。もっとよくするために何が必要か。初演時にアンケートもいっぱい書いていただいて「あのセリフの意味は何だったのでしょうか」とかあったものは、それはこちらが意図したものが届いていなかったってことですから、そのあたりは真摯に受け止めて、細かくリニューアルしています。再演のテーマは、精度をあげること、です」
―― 最後に、もともとはコンサートの切り口から始まった作品ということでしたが、それが "一人芝居ミュージカル" になり、さらに今回の再演では芝居要素が高まり、ミュージカル度があがる。"ミュージカル" となると、客層も変わってくるんじゃないかと思うのですが...。
「そうなんですよ! 初演は小さいライブハウスで、僕のファンの方中心に見ていただきました。もちろんファンの方が「この作品大好き」って仰ってくださって、それも嬉しいのですが、今度は「ちょっと面白いミュージカルないかな?」というミュージカルファンの方にも来ていただきたいですね! ミュージカルを30年近くやってきた僕が、"ミュージカルってこういうところが面白いんじゃないかな" というノウハウを織り上げて作った...つもりです。例えば、ミュージカルの音楽的要素としては、リフレインを効果的に使うことだと思っています。『レ・ミゼラブル』で言うと、マリウスの『カフェソング』のメロディは、前半で司教様がバルジャンに向かって歌う曲と同じメロディ。なぜ同じメロディなのか、それは、このメロディは慈愛と救いを示しているんだっていうのがわかる。そういうのって、ミュージカルの醍醐味ですよね。今回も、リフレインを効果的に入れ込んだり、先ほども話しましたが、様々なタイプの楽曲を配置して濃淡をつけています。ミュージカルを愛している僕だから出来た曲、出来たアレンジもあると思う。さらにオフオフのミュージカルらしい "パロディ感" もあります(笑)。そういう、"裏のお楽しみ" 的なものも織り交ぜていますので、ぜひ広くミュージカルをご覧になっている方にも観てほしいなあ」
―― そして、このステージ、2部構成だそうですね。
「はい。この『君からのBirthday Card』が80分くらいのミュージカルで、そのあと休憩を挟んでミニコンサートを30分ほどやります。あれだけ喋ってまだ歌うの? という感じですね(笑)。まずは佐々木君のソロ曲を披露します。僕が歌詞も曲も書き下ろした新曲です。崇くんが色っぽく歌い踊る、想像を超えるアダルト&セクシーなナンバーになりました。僕のアダルトな感性が零れちゃったのかもしれません(笑)。こういう曲を佐々木君がクールに歌ったらお客様が「キャー!」ってなるんじゃないかなって...そのイメージを心に浮かべて書きました。ただ問題は、僕のファンの方々が全員佐々木君に心を奪われちゃったらどうしようということ(笑)。
あとは今まさに大ヒット中の実写版『アラジン』の新曲『スピーチレス』を歌います。元祖アラジンが(※石井さんはディズニーアニメ『アラジン』のアラジンの歌声を担当)、ジャスミンの曲を強奪して歌うというわけです(笑)。僕はジーニーの『フレンド・ライク・ミー』も、ジャファーの悪のテーマも、ミュージカル版の『プラウド・オブ・ユア・ボーイ』も『ミリオン・マイルズ・アウェイ』もコンサートで勝手にカバーしてきたのですが、ジャスミンのナンバーも歌うことで、"アラジンメインキャラクターソング コンプリート"となります(笑)。笑って泣いて、皆さまに観てよかったと思っていただける公演にします! 浜離宮朝日ホール 小ホールでお待ちしています」
▽ 石井さんが手にしているのはCD『君からのBirthday Card』デモ音源集(2000円で販売中!)
取材・文:平野祥恵
【公演情報】
9月15日(日) 浜離宮朝日ホール 小ホール(東京)