■新作ミュージカル『怪人と探偵』 vol.2■
森雪之丞が作・作詞・楽曲プロデュース、白井晃が演出を務め、中川晃教、加藤和樹、大原櫻子らの出演で送る、新作ミュージカル『怪人と探偵』。
その稽古場レポート、第2回をお届けします。
大怪盗・怪人二十面相と、名探偵・明智小五郎の対決を、一人の女性・リリカの存在を挟み描く本作。
前回は1幕1場の流れをザッとお伝えしましたが、もう少し詳しく稽古の様子を見ていきましょう!
"首飾りを盗む" という犯行予告が届いた博物館で、明智探偵団や警官たちが二十面相の登場を警戒しています。
そして犯行予告の時刻。柱時計の鐘が鳴ったものの、二十面相は現れない......? 動揺する一同。しばし訪れる静寂が、さらに緊張感を煽ります。キャストの息遣いも聞こえるような静けさに、見ている側もドキドキ。
と、ここで、演出の白井さんは、鐘が鳴っている間の緊張感を、さらに高めるようキャストに要求。首飾りを気にしつつ周囲を警戒している様子や、その後、警部の笑い声でフッと緊張が解けるまでの流れを丁寧に説明した上で、「ここは出だしのシーンだし、もっと緊張感が欲しい。今の3割増しくらい、大盛りで。体のキレももっと欲しい!」と訴えかけます。すぐに対応し、さらに熱気を込めて演じてみせるキャストたち。この瞬発力はさすがですね。
やがて明智が、類まれな洞察力を発揮し...。加藤さんの低く落ち着いた声質が、慌てふためく人々を落ち着かせる力に満ちていて、まさに適役! ですが白井さんは、「もっと(場を)支配して」「全部の言葉を、自信を持って言って」と、さらに上を求めます。
一方の二十面相は、「今夜は俺の負けということにしておこう」と言って退散。「これは"負けということにしておこう"と言いながらの勝ち名乗りみたいな感じ。次もあるからな、と楽しんでいる感じを出して」と、白井さんが中川さんに意図を語ります。
何度か流れを確認した後......あらためて白井さんが、二十面相と明智の関係性をじっくりと説明。対面したふたりのセリフを例に挙げました。
二十面相「久しぶりだね。相変わらず見事なお手並みだ」
明智「探偵を誉めるなんて、どういう風の吹き回しだい?」
二十面相「君の頭脳が鈍っていないか心配していたのさ」
明智「負け惜しみにしか聞こえないよ」
「ここはふたりで丁々発止やっているところ。皮肉合戦だ」(白井)というアドバイスを受け、あらためてふたりでセリフを交わしてみたところ......居丈高な二十面相、冷静なようでいて実は負けず劣らず熱量の高い明智、というふたりの関係性がくっきりと浮かび上がりました! 中川さんの空気を切り裂くような鋭い美声、加藤さんの包容力のある甘い声が、なんとも好対照。まるでセリフで歌っているかのような、リズムと高揚感に満ちています。
続く二十面相のセリフは、「警抜な推理を語る声の響き、自慢気に謎を解き明かす唇の震え......あぁ、君はいつも俺を恍惚とさせてくれる」という詩的かつ妖艶なもの。
白井さんがさらにテンポよく、「(相手を挑発するように)いいねいいね、その皮肉! その響き、あ、加藤のその唇、好きよ!という感じで!」と熱っぽく指導。すると中川さんも、「その唇!その横顔!俺を恍惚とさせてくれる!って話が変わっていく(笑)」とノリノリ。場は爆笑となりました。
でも、確かにこのライバルたちは、互いを誰よりも認め、求めているのでしょう。「ふたりはこのスリル感を楽しんでいる」という白井さんの言葉に、中川さん、加藤さんともに大きく頷いていました。
その後も、ライバル関係の指導は続いていき......。
「自信と自信がぶつかるんだ。胸同士が......」といって、中川・加藤両名を正面で向き合わせ、実際に胸を合わせてぶつけてみせる白井さん。
と思ったら、あまりの居心地の良さに(?)、中川さんは加藤さんの胸に飛び込んでしまいました。そしてボソッと一声「いい胸」。あれ、これまた話が違う方向に行ってしまうのでは~?
抱き合うふたりの余韻に浸りつつ......第3回に続きます!
取材・文:羽成奈穂子
撮影:吉原朱美
【公演情報】
9月14日(土)~29日(日) KAAT 神奈川芸術劇場 ホール
10月3日(木)~6日(日) 兵庫県立芸術文化センター 阪急 中ホール