"妖アパ"として親しまれる児童文学のベストセラー「妖怪アパートの幽雅な日常」が漫画化、アニメ化に続いていよいよ舞台化され、1/11(金)に紀伊國屋サザンシアターTAKASHIMAYAで開幕した。
主人公の高校生・稲葉夕士役に、舞台『「刀剣乱舞」悲伝 結いの目の不如帰』など主に2.5次元作品で実力を積み上げてきた前山剛久。ほか小松準弥、佐伯亮、谷佳樹らが顔を揃える。演出は、4月上演の「僕のヒーローアカデミア」舞台版の演出も決まっている元吉庸泰。初日公演に先駆けて行われたゲネプロの様子と、メインキャストが登壇した囲み会見からコメントを紹介する。
3年前に両親が他界し伯父夫婦に引き取られた夕士は、高校入学を機に自立を試みるが、入居予定の寮が火事で全焼してしまう。代わりに見つけたアパート「寿荘」はなんと、幽霊や妖怪たちが同居人! 戸惑いながらも、フシギな仲間に囲まれた夕士の新たな日常が始まる......。
キャラクターのビジュアルは漫画版を踏襲。そのいわゆる2.5次元のキャラクターに、しっかりと命が吹き込まれている印象だ。2.5次元舞台にはつきものの、歌やダンスといった派手な見せ場はない。代わりに、豊かなアイデアとアナログな温もりに溢れている。例えば、鳥やはたまた"気配"といった人以外のものはCGなどに頼らず、トップダンサー・三井聡の卓越した身体表現で見せる。「寿荘」の住人でキレ者霊能力者・龍さんを演じる佐伯が、「ダンサーの三井さん、そして幽霊や妖怪が実際に出て来るパフォーマンスが本当にすごいので観てください!」と絶賛していたのも頷ける。ゲネプロ前の会見でキャストが口々に「丁寧」という言葉を使っていたのも、実際に観て納得。妖怪などキャラクターの奇抜さに目を奪われがちだが「妖アパ」の根幹は、普通の男子高校生・夕士が、人間社会を生き抜く上で大事なことを異界の者たちから教わる成長物語。そうしたドラマ部分が丁寧に紡がれ、また演劇ならではの表現と相まって、舞台として非常に見応えがあるのだ。「話の展開はそんなに速くないけどその分、内容は深く掘り下げていて、登場人物の考えていることや関係性はすごく丁寧に描かれている」と、主演の前山。特に印象的だったのは、謎の少年・クリにまつわるシークエンス。辛すぎて受け止めきれないようなクリの過去を知った夕士が感情を爆発させ、両親との死別以来、「気持ちに蓋をしてきた」自分をある意味、解放する。前山の演技力と経験値が生きる場面でもある。
大半の場面が「寿荘」を舞台に展開するが、小松演じる夕士の親友・長谷泉貴(みずき)はアパートに立ち入らず、手紙を通じて夕士と交流する。舞台版オリジナルの手法だが、夕士の"非日常な日常"を客観的に見つめる傍観者として、その存在が効いている。「みんなからは見えないけど、夕士の心の変化を感じて、常に一緒にそこにいるという大切な役割を担わせていただいています」と小松。そして谷は、フレンドリーに夕士を受け入れる「寿荘」の住人・一色黎明役。「長谷とは立場が違い、夕士の揺れ動く心情をアパート内で、親目線で見守るような存在です」と語った。
主演・前山からは、「この舞台を観ると、『普通とは何か?』を考えると思います。自分の普通が当たり前だと思ってしまい、それぞれの答えが違うというのを理解するのは難しいけど、その境界線を踏み越えていく勇気をもらえる作品です」と、観客への力強いメッセージ。余韻を残すラストを胸に劇場の外に出れば、観る前とは少しだけ違う自分を発見できるかもしれない。
取材・文/武田吏都