■『書を捨てよ町へ出よう』#2■
寺山修司の初期代表作『書を捨てよ町へ出よう』 に、マームとジプシーの藤田貴大が挑む話題作、3年ぶりの再演が近付いてきました。
前回の更新では、主人公の「私」に初舞台で挑む佐藤緋美インタビューをお届けしましたが、今回は稽古場の様子をレポートします!
【バックナンバー】
#1 佐藤緋美インタビュー
現代演劇のルーツである1970年代前後に上演された傑作戯曲を、気鋭の若手演出家が新しい解釈で豊かに復刻する<RooTSシリーズ>。現代の息吹を注がれた過去の名作たちが新たな魅力を放って今に再生する、東京芸術劇場の好評企画だ。その第3弾として2015年に上演されたのが、マームとジプシーの藤田貴大演出による『書を捨てよ町へ出よう』。言わずと知れた寺山修司の初期の代表作だが、『書を捨てよ~』には寺山の手による同名の評論集、舞台、映画が存在し、それぞれ内容が異なっている。藤田が手掛けた舞台の上演台本は映画版に依拠しつつ、舞台や評論の要素もコラージュ。言わば『書を捨てよ~』の集大成的世界に藤田独特の手法が混ざり、詩情的かつパンクな寺山ワールドを、現代に新鮮に浮かび上がらせた。
その藤田演出『書を捨てよ町へ出よう』の再演が、10月7日(日)~21日(日)の東京芸術劇場 シアターイーストを皮切りに上演される。げきぴあは、稽古開始から1週間ほど経った本作の稽古場を取材。ごく短い時間ではあったが、革新的な舞台が生み出される過程を垣間見ることができた。
まず目に入るのは、鉄製パイプを組み立てて作られた足場。舞台用語で "イントレ" といい、初演でも多用されていた。パイプがぶつかり合う大きな音(その "ノイズ" はこの作品を形作る要素のひとつ)をたてながら、舞台上で俳優たちが組み立てては壊し、を繰り返し、無機質な鉄の棒の組み合わせが、様々に姿を変えていく。作りこんだセットを持たない藤田版『書を捨てよ~』の象徴的な物体だが、再演でもやはり使われるようだ。同じパターンのイントレが、横に3つ並んでいる。それを、軍手をした男性キャストたちが作業員のごとく手際よく解体していく。数人のチームでの作業となるが、互いにコミュニケーションを取らず黙々と、だが実にスムーズに事が運んでいく。
続いて、ボクシングの場面に移行する。 "ボクシング" も寺山を象徴するもののひとつで、寺山を語る上で大切な要素である。稽古とはいえ本物のボクサーさながらしっかりバンデージを巻くキャスト。ボクシングするエリアを確認した藤田が、「こんなに狭かったんだっけ!?」と驚きの声を上げた。藤田から「どっちがサクライ(役)? サクライってサウスポーなの?」といった無邪気な質問が飛び、演出助手やキャストに教えられて「へぇ~」と理解するひと幕も。初演から3年。藤田は、再演ながら新作のような感覚で向き合っているようだった。
今回主人公の "私" を演じるのは、これが初舞台の佐藤緋美。演技経験自体ほとんどない18歳が、寺山の難解な世界に挑む。佐藤に目を向けると、自分の出番がないときは、両手で顔を覆ってひとり、ガードの練習。また、ほかの場面でも幾度か佐藤を目で追うと、常に台本を手にして、休憩スペースに来てもセリフを呟いており、佐藤自身もこの舞台にしっかり向き合っているようだ。見学した範囲では彼が本格的に演技をする場面がなかったのだが、藤田貴大が見せる寺山の世界をどのように体現するかは、本番を楽しみに待ちたい。
上演台本は初演版から手直しが加えられている最中で、稽古序盤のこの段階では完成していなかった。そして見学したは動き中心の稽古だった。「セリフはまだちょっとわからない。転換だけやりましょう」、「この先のことはいったん考えないようにしよう。ここまでのところを細かくやっていきます」などの藤田の言葉からも、初演をなぞるのではなく、大きくリニューアルされて発表されることが想像できた。また、この先藤田の新たなアイデアひとつでどんな変容が待ち受けようとも、作品が揺らぐことのない強固なチームとしてのベースが立ち上がっているような、そんな空気感を感じた。今、現代に放つ藤田版『書を捨てよ~』は、どんな姿で観客の前に姿を現すのか。
取材・文:武田吏都
撮影:平野祥恵(ぴあ)
【公演情報】
10月7日(日)~21日(日) 東京芸術劇場 シアターイースト
10月27日(土)・28日(日) 上田市交流文化芸術センター 小ホール(長野)
11月3日(土・祝)・4日(日) 三沢市国際交流教育センター(青森)
11月7日(水)・8日(木) 札幌市教育文化会館 小ホール(北海道)