■『書を捨てよ町へ出よう』#1■
歌人であり、演劇実験室「天井桟敷」主宰として数多くの名作を残した寺山修司。
没後35年たった今でもなお、多くの若者に影響を与える存在です。
その寺山修司の初期代表作『書を捨てよ町へ出よう』 に、マームとジプシーの藤田貴大が挑んだ名作舞台が、3年ぶりに再演決定!
評論集として発表された『書を捨てよ町へ出よう』は、<鬱屈した若者たちの青春>を描くという姿勢はそのままに、舞台、映画とそれぞれが別の内容になっていますが、藤田は映画版をもとに上演台本を執筆。好評を博しました。
今回、主人公の「私」に挑むのは、18歳の佐藤緋美。
これが初舞台となる、注目の若手俳優です。
佐藤さんにお話を伺ってきました。
◆ 佐藤緋美INTERVIEW ◆
――この作品が、初舞台初主演。もともと俳優志望だったんですか?
「いえ、前から思っていたわけではなかったです。オーストラリアのシドニーに1年間留学していて、そこから日本に帰ってきてふと、やってみたいと思いはじめました」
――別の夢があった?
「もともと音楽をやっているので。今は俳優も音楽も、どっちもやりたいです」
――佐藤さんのご両親は、俳優の浅野忠信さんとミュージシャンのCHARAさん。ルーツとして、そのどちらも持っていますもんね。ちなみに、2015年の初演で同じ主演を務めたのは村上虹郎さん。両親が俳優とミュージシャンである方が2回続くことになりますが、村上さんと面識はおありですか?
「はい、友だちです。でも初演のときはまだ知らなかったので、舞台は観ていません。スタッフさんから「前の舞台の映像は観ないでおいて」と言われたので、今も観ていません。『書を捨てよ町へ出よう』で観たのは、映画だけですね。2回観たんですけど、すごい映画でショックを受けました。「こんな映画もあるんだ!」っていう、いい意味でのショック。カメラも今と全然違うし、音楽も面白かった。とにかく観たことがない世界で、これを舞台でやるとなったらどうなるんだろうっていうワクワクがありました。稽古が始まってみて、また映画を観たいなって気分になっています。演出の藤田(貴大)さんも、『100回観ないとあれはわかんない』って言っていたので」
――稽古が始まって約1週間(取材時)とのことですが、初めての舞台の現場はどうですか?
「最初は緊張していました。もともと緊張する方だし、人見知りもするので。でも今はだいぶ慣れて、みんなとも親しくなってきました。もう隠すところないっていうか(笑)」
――慣れが早い!
「稽古の中で、ゲームをいっぱいやるんです。ゲームにはルールがあるので、ルールをプレイする、みたいな。やってみると、演技と同じところがたくさんあるんですよね。それをみんなでやることで仲が深まりました。初演にも出ていた人がたくさんいるので、前回のことを教えてもらったりもして」
――短歌を作るワークショップも行われたと聞きました。
「キャストのみんなで新宿を回りました。寺山(修司)さんがよく行っていた喫茶店の跡地や映画のロケ地を巡って、最後に短歌を書くっていう。映像出演する穂村(弘)さんや又吉(直樹)さんも一緒に発表し合って。あ、僕はいったん学校に行って、また戻って参加したんですけど」
――まだ学生なんですね。
「高校3年生で、学校に行きながら稽古に通っています。ずっとインターナショナルスクールだったので短歌を作る機会は今までなくて、面白かったです。意外とみんな五七五七七を無視して、短いのを作ったり。僕はもうキッチリ! 五七五七七で書いたんですけど(笑)」
――演出の藤田さんの印象は?
「いい人だし面白いし、全然気軽に話せちゃうし。藤田さんが好きな漫画をすごく勧められたり」
――そういえば、稽古場に『闇金ウシジマくん』が全巻揃っていましたね。作品に関係あるのかと思いきや、スタッフさんが「藤田くんの趣味です」と(笑)。
「『ウシジマくん』もですけど、「緋美、『HUNTER×HUNTER』読んでる?」って。「読んでないです」って言ったら、「アーッ! 持ってくるから読め!」って(笑)。そんな気軽な感じなので、藤田さんに対して人見知りも最初からほとんどしなかったし、良かったです」
――先ほど、稽古を拝見していました。特に佐藤さんに注目していたのですが、肌身離さずといった感じで台本を常に持っているのが印象的でした。
「セリフは、意外にも覚えられたんです。苦労するだろうなと思っていたので、自分でもびっくりするぐらい。だから今度は自分のセリフだけじゃなくて相手のセリフも読んでおきたいなと思って、常に持って、何度も読んじゃいますね」
――例えばセリフの覚え方など、俳優としての基本的なことのアドバイスをお父様の浅野さんに求めたことはありますか?
「ありますね。『なんかコツある?』って。教えてくれてアドバイスにはなったんですけど、やるのは結局自分なので、自分で見つけるのが一番いいのかなと思いました」
――浅野さんは映画のイメージの強い方ですが、佐藤さんは舞台で本格デビューというのがまたユニークですね。
「そうですね。やっぱり昔から映画ばっかり観ていて、舞台は全然観ていませんでした。だから逆にやってみたいっていうのもあるんですけど」
――映像と舞台の大きな違いは、やはり目の前に観客がいることだと思うのですが。人見知りと言っていましたが、その点についてはどうですか?
「それは大丈夫ですね。演者とか周りの人と慣れるのは大変なんですけど、ステージ上はあまり緊張しないです。人前で何かをするのは音楽で慣れちゃっているし、好きです」
――稽古はまだ始まったばかりですが、佐藤さんが今感じているこの舞台の面白さを教えてください。
「その場でシーンを作っている感が強いっていうか。セットになる鉄柱を組み立てながら舞台が進んでいくんですけど、それにこちらの動きもちゃんと合わせないと、ズレちゃうんですよね。その様子を外から観ているのも面白かったんですけど、中に入ると、これがまた初めての感覚で。その場で作ったセットの中にいたり、そのまま移動したり、上に上がったり......面白いんです」
――もちろん綿密な計算も為されていますが、セッション感を強く感じる作品だと思います。音楽をやってきた方なので、そこはむしろ得意かもしれない。実際、ドラムの生演奏もありますし。
「僕、バンドでもドラムをやっているんです。だからやっている間に、ドラマーの山本(達久)さんの演奏を聴いているのも楽しいしって感じです」
――初舞台らしからぬ余裕を感じます。
「余裕なんてないです......。セリフはこれからもっとあるし、動きの調整も入ってくるし。カードゲームをしながらとか、動きながらセリフを言うシーンもあるので、そういうのが上手くできるかな、と。壁はまだたくさんありますね」
――東京以外にもいくつか回ります。その中には寺山修司の故郷の青森公演や、なんとパリ公演も。実に刺激的な高3の冬ですね!
「ビックリしました。「パリ! 最後、パリ!」って(笑)。パリに友だちはいっぱいるんですけど行ったことがなかったので、すごく楽しみにしています」
取材・文:武田吏都
撮影:藤村英枝(ぴあ)
『書を捨てよ町へ出よう』は、このあと稽古場レポートなども更新予定です。
お楽しみに!
【公演情報】
10月7日(日)~21日(日) 東京芸術劇場 シアターイースト
10月27日(土)・28日(日) 上田市交流文化芸術センター 小ホール(長野)
11月3日(土・祝)・4日(日) 三沢市国際交流教育センター(青森)
11月7日(水)・8日(木) 札幌市教育文化会館 小ホール(北海道)