鈴木勝秀が作・演出を手掛ける人気のリーディングドラマ『シスター』が、この秋、ふたたび上演されます。
出演者はたったふたり。
とある青年と、彼の成長に寄り添ってきた、3歳で事故死した姉の不思議な会話で紡がれていく物語です。
静謐でありながらスリリングでもあるこの朗読劇は多くの観客の心を掴み、さまざまな俳優・女優たちにより上演を重ね、今回で5度目の上演となりました。
そして、その前身と言えるのが、2013年に篠井栄介&千葉雅子のタッグでわずか1回のみ、上演されたリーディング公演『シスターズ』。
今回は、その「第0回公演」とも言うべき公演に出演した篠井英介が、『シスター』に満を持して初登場するのも話題です。
その篠井英介とタッグを組むのが、『シスター』には2度目の登場となる、橋本淳。
橋本さんに、作品について、朗読劇というジャンルの魅力について、共演する篠井さんについて......等々、たっぷりお話を伺ってきました。
◆ 橋本淳 INTERVIEW ◆
●「前回出演した時は、緊張でずっと手が震えていました(笑)」
――『シスター』には以前にも一度ご出演されているということで(2017年)、その時のことからお聞かせいただければと思います。彩吹真央さんとの公演には、どんな思い出がありますか?
「緊張し続けて終わった、という感じですね(笑)。稽古が1回しかなくて、スズカツ(鈴木勝秀)さんからのダメ出しもほぼ、「音がフェイドアウトし切る前に次のセリフに入ってください」などのテクニカルなことだけ。彩吹さんがとてもパワフルな方だったので、「こう来るのか!」って楽しみながら打ち返してはいましたけど、手はずっと震えていたと思います(笑)」
―― 元々緊張するタイプなんですか? あまりそうは見えないですが。
「します! それでも普通のお芝居だと、舞台に立ってしまえば大丈夫なんですが、この作品の場合は台本を持ったままなので。持ってるっていっても、本番前に自分では何度も読み込むから、セリフはほとんど覚えちゃうんですよ。でも稽古はできないから本当に怖くて、前日に1ページ飛ばす夢を見たりしてました(笑)。それに色んな組み合わせがあるので、複数回観るお客様には "比べられる" という怖さもあります。変に意識し過ぎず、楽しんでやれたほうがいいんでしょうが、確実に度胸が試される作品ではありますね」
―― 客席の反応を感じる余裕はありましたか?
「そこまで冷静に見てはいなかったですが、色んな感情になってくださっているのは感じて、僕もそれをいただきながら読んでいました。予想してないところで笑いが起きたりもしてたので、そこは今回、頭の片隅に置きながらできたらなと。そういう目で改めて読むと、2ページに1か所くらいは笑いにつながりそうなセリフがあるんですよ。僕が全部つなげられるかどうかは、ちょっと分からないですけど(笑)。シリアスに振れた次に笑いがあるっていうのは、スズカツさんのやりたい方向性でもあるのかなと思います」
● 伝説の「姉」役、篠井英介との久々の共演
―― そして今回のパートナーは、今や伝説となっている『シスターズ』初演の「姉」役、篠井英介さんです。
「じゃあ、僕も乗っかって伝説になるしかないですね、なんて(笑)。英介さんには、以前に柿喰う客の『世迷言』という作品でご一緒させていただいて以来すごくお世話になっていて、何度かご飯にも行かせてもらってるんです。僕が『クレシダ』で女形を演じた時は、「直線的な動きじゃなくて、円や逆手を意識すると女性らしく見えるから気を付けてみたら?」といったアドバイスをいただいたりもしてました。稽古はまだ先ですが、きっと僕の想像の斜め上を来てくださると思うので楽しみです」
―― 役者としての篠井さんには、どんな印象をお持ちですか?
「表現者として本当に巧みというか、セリフが明瞭なのはもちろんのこと、微細な動きひとつで感情を伝えることができる稀有な方ですよね。柿喰う客の時は、能や日舞の動きを取り入れてやってらっしゃったんですが、すべてをきっちり計算して分析されてたのがすごく印象的でしたし勉強になりました。客席から観ていても、自然に振る舞っているように見えるのに後ろのほうにまで感情が伝わる理由は、そこにあるんじゃないかと思います。動きが制限される朗読劇でも、きっと色んな重心のずらしとかを見せてくださるんじゃないかな」
――"重心のずらし" とは??
「僕は朗読劇でも、もちろん演出家さんの指示にもよりますが、重心をちょっとずらしたり、首の角度とか手の甲の向きを変えたり、足を組んでみたりっていう表現はしてるんですよ。まあ分からない、あえて動かないっていう選択肢もありますから、英介さんに「そんなことやるわけないでしょ」って言われたら「すいません」って言うしかないんですけど(笑)」
―― 今回の共演については、まだ特にお話はされてないんですね。
「英介さんが出演されてる『ウォーター・バイ・ザ・スプーンフル』を観に行かせていただいた時に、「よろしくお願いしまーす」「うん、よろしく」ってご挨拶したくらいです(笑)。英介さんは押し付けない方で、ご自分からこうしたほうがいいとおっしゃることはなく、僕がアドバイスを求めると「今のままでもいいと思うけど、例えばこういう動きを付けるとこうなるよ」と優しく寄り添ってくださる方。だから今回も、僕はただ素直に、オープンでいれば英介さんが導いてくださるんじゃないかなと思っています」
●「想像する余地があるところが、朗読劇の楽しさだと思います」
―― 作品の内容についてお聞きします。社会にうまく溶け込めず、亡くなった「姉」に語りかける「弟」役に、共感できる部分はありますか?
「ああ、とってもありますね。孤独を抱えていない人なんていないし、人ってそれを払拭するために他人と関わっていくものだと思うから、「弟」の悩みと葛藤には誰しも共感するんじゃないかな。自分を良く見せるためにフィルターをかけて、本心とは違うことを口にしてしまうとか、自分もそうだなと思うセリフがたくさんある役ですね」
―― そうなんですか? 勝手な印象ですが、橋本さんには "天性の可愛がられキャラ" というイメージがあるので意外です。
「それは計算です(笑)。いや、でもしませんか? 計算っていうと言葉が悪いですけど、何を言ったら相手が喜ぶかなって、少なからず考えながらしゃべってるところが僕にはあると思います。そういう自分が嫌だなって思いながらもやってしまう、そのジレンマに共感しますし、社会に溶け込めないしんどさも、学校時代のことを思い出すとよく分かるんですよ。僕の場合は、全く楽しめないということではなかったですけど、特に小・中のころって見えてる世界が狭いから、色んなことを考えてしまっていましたね」
―― そんな橋本さんにとって、「弟」にとっての「姉」のような存在は?
「自分の中にいます。理性と本能の対話が自分の中で繰り広げられたりする経験って、僕だけじゃなく誰にもあるんじゃないかな。この「姉」も、ある意味ではそういうところのある役だなって感じてます。そこはお客様の想像次第なので、あくまで僕のイメージ、ですけどね。朗読劇って、観客の想像力に頼る形態の演劇作品だと思うんですよ。想像の余地のあるところが、演る側にとっては難しさであり楽しさで、観る側にとっては楽しいところだと思います」
―― 朗読劇をご覧になるのもお好きなのですか?
「好きですね。小説を読んでる感じに近くて、時には登場人物を身近な人に置き換えたりしながら自由に楽しんでます。事前に粗筋を調べたりするより、フラっと観るスタイルが合ってる気がするので、皆さんにもぜひ気楽に足を運んでいただきたいですね。イビキさえかかなければ僕は全然、寝てもらってもいいなと思いますし(笑)。この『シスター』には色んな組み合わせがありますから、何度か観ていただけると、作品の良さがより分かるんじゃないかなと思います。死を扱ってはいますが、死から見た生を表現している、ポジティブになれる作品。明日からの人生の糧を得に、ぜひぜひ博品館劇場にいらしてください!」
取材・文:町田麻子
撮影:岩田えり
【公演情報】
8月29日(水)~9月2日(日) 博品館劇場(東京)
【出演】
8月29日(水)19時 安藤聖・山田ジェームス武
8月30日(木)14時 森口瑤子・鈴木勝吾
8月30日(木)19時 朴路美※・猪塚健太
8月31日(金)19時 木崎ゆりあ※・納谷健
9月1日(土)13時 三倉茉奈・三倉佳奈
9月2日(日)13時 木村花代・荒牧慶彦
9月2日(日)19時 篠井英介・橋本淳
※朴路美の「路」は正しくは王へんに路、木崎ゆりあの「崎」のつくりは正しくは立+可です。
『シスター』公演履歴
【第1回】
三倉茉奈・池岡亮介
貴城けい・小西遼生
彩輝なお・木村了
【第2回】
貴城けい・小西遼生
朝海ひかる・小西遼生
朝海ひかる・馬場良馬
貴城けい・馬場良馬
彩輝なお・梶裕貴
檀れい・葛山信吾
【第3回】
音月桂・福士誠治
彩吹真央・橋本淳
青木さやか・相葉裕樹
彩輝なお・今川碧海
夢咲ねね・有澤樟太郎
渡辺えり・池田成志
中嶋朋子・平野良
【第4回】
三倉茉奈・黒羽麻璃央
中村 中・和田琢磨
中嶋朋子・梶裕貴
彩輝なお・下野紘
昆夏美・高橋健介
篠原ともえ・相葉裕樹
舞羽美海・戸谷公人