【ぴあ×パルコステージ特別企画『ウォーター・バイ・ザ・スプーンフル』尾上右近密着取材 vol.5】尾上右近×篠井英介対談

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現代劇に初挑戦する歌舞伎役者・尾上右近さんに密着しているこの企画。第5回目は、右近さん演じるエリオットの実母・オデッサ役の篠井英介さんとの対談をお届けする。ふたりが語り合ったのは実は稽古初日。にもかかわらず、早くも打ち解けた穏やかな雰囲気がそこにはあった。それは、この作品の登場人物たちが、心の奥底にやさしさを持ち、人とつながろうとしているからこそ、生まれてくるものなのかもしれない。

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△篠井英介さんと尾上右近さん

 

そして、今回は、その篠井さん演じるオデッサを中心としたストーリーを紹介。エリオットとオデッサの関係を知ると、今回の対談をさらに味わい深く読めるはず。もちろん観劇の際の感動もより大きくなるに違いない。

■STORY■

オデッサ(篠井英介)はフィラデルフィアに住むプエルトリコ人。トイレ掃除婦の仕事の傍ら、ドラッグ中毒から立ち直ろうとする人々が集うチャット・ルームの管理人をしている。彼女自身も[俳句ママ]のハンドルネームを持ち、日本の俳句の形式で、ユーザーを勇気づける言葉を発信。さらには、チャットを飛び出してユーザーと会い、施設を紹介するなどのケアも行っていた。

彼女をそこまで掻き立てるのは、自身も中毒者だったからだ。しかも、その中毒のために、ウィルス性胃炎にかかったふたりの子どものうち、娘を死なせた過去がある。5分ごとにスプーン一杯の水を与えなければならなかったのに、子どもたちを放置して失踪してしまったのである。

かろうじて生き残った長男のエリオット(尾上右近)は、オデッサの姉ジニーに育てられることになったが、やがてジニーががんで亡くった。葬儀用の花代を徴収しようと、エリオットが従姉のヤズミン(南沢奈央)とともに訪ねてくるも、ユーザーのためにお金を使い果たして無一文の彼女には、パソコンを手放すことしかできず、そのためにチャットができなくなった。

そして、息子と会ったことで過去が甦り、6年ぶりにコカインに手を出してしまったオデッサ。オーヴァードーズで倒れているところをエリオットとヤズミンに発見され、新米ユーザーの[ミネラルウォーター]ことジョン(葛山信吾)に介抱されることになる。

◆ ◇ ◆ ◇ ◆

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■尾上右近×篠井英介 対談■

●生々しく生きているエリオット

右近 今日の本読みは、最初、かなり緊張してガチガチだったんですけど、みなさんの声を聞いているとイメージが膨らんできて、途中からすごく楽しくなってきました(笑)。

篠井 右近さんもフレッシュで素敵でした。演じる側としてはとても難しい本なのに、自分の手に少し入ってるような感じがして、聞いていて楽しかった。

右近 現代劇が初めての僕としては、何がどのように難しいのかあまりわかってないんですけど。篠井さんをはじめみなさんが、『これは難しい』とおっしゃるということは、エライことに挑んでしまったのかもしれないなと思いつつ(笑)、でも、その分、ワクワクもしています。

篠井 演じる側にとってこの本が大変だというひとつは、それぞれ抱えているものは大きいんだけど、みんな本心を素直に出さなくて、ひねくれたものの言い方しかしないところなんですよね。エリオットとオデッサもそうじゃない? オデッサにとってエリオットは、娘を亡くしてしまったから唯一の子どもで、すごく愛しているのにわだかまりがあるし、エリオットも母の愛を望んでいるのに、オデッサを母親と認めたくない。そんなふうにほかの登場人物もみんなどこか屈折しているでしょ。だけど、ただのイヤな人たちじゃなくて愛おしい人間たちっていうふうに見えなきゃいけないし、かといって、『本当はいい人なんです!』なんて出しちゃうのも変だし面白くない。だからそこが、僕たちがこれから作っていくうえでは大変で難しくて、でもやりがいもあるっていうところになるなと思うんですね。

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右近 ただ、今日の時点で、文字で読むのとみなさんの声で聞くのとでは全然ニュアンスが違うなっていうことは感じました。たとえば、オデッサが、姉のジニーが亡くなったことを新聞の死亡記事で知ったところとか、ジニーへの愛情とか家族の絆みたいなものをすごく感じたんです。それを観客は知ってるのにエリオットは確認できない。だから、そのもどかしさや根底にある人の気持ちの温かさを、観る方が感じられるように演じられたらいいのかなというようなことを思いましたね。

篠井 たぶんお客様はエリオットを見ながらこのお芝居に入っていくんだろうなと、今日聞いてて思いました。あとの人たちはもう、ネット上のチャットで、意地悪なことや訳のわからないことを文章で書いているから(笑)、なかなか本心がつかみにくいけど、エリオットがいちばん、ありようとして、生々しく生きている人間っていう感じがしたし。それがすばらしいと思いました。

右近 うれしいです。でも、ホントそうですね。ナマでしゃべるのと文字にするのとでは伝わり方とか速度が違うっていうことも、ひとつこのお芝居のキーになるのかなとは思いました。文字にすると言っても手紙とネットでは全然違いますし。思わぬところで人を傷つけることもあるっていう、現代のネット社会のありさまも、この芝居が提示していることなのかなと思います。

●歌舞伎役者の持つ力

右近 最初に篠井さんがお母さん役だと聞いたときはすごくうれしかったです。男だけでお芝居するのが常識のなかで育ってきた僕としては、やはり、女形さんがいらっしゃるのは安心できるというか。自分の助けにさせていただけるだろうなと思ったんですね。

篠井 でも、僕としては逆に、せっかく現代劇で女性と芝居できるのに、『また女形かよ』と(笑)、そう思われてるんじゃないかなと心配してたんです。だから、そんなふうに言っていただけるのは本当にうれしいですし。僕はやはり本業が女形だと思ってきましたからね。現代劇で女優さんに混じって女の役をやって、それでも不自然じゃなく、その作品の役に立ちたいと、そんな思いでずっと何十年もやってきたので。今回も、ちゃんとやれないと、今までお前は何をしてきたんだっていうことになるなと思ってるんですけど。

右近 僕、篠井さんがスーパー歌舞伎Ⅱ『ワンピース』の名古屋公演を観に来てくださったとき、すごく緊張したんです。あの公演では、主人公のルフィとハンコックという女帝の二役を早替りでさせていただいてたんですけど、漫画が原作の現代的な歌舞伎なので、古典の女形とはまた違うスタンスというか、より自然な女形を演じなければならないという一面もあったので、現代女形の篠井さんが観てくださると思うと、自分に足りていないものにすごく敏感になってしまって。デフォルメという意味では、古典よりも守ってくれるものが断然少ないですから。

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篠井 そういう意味では、ああいう新作の現代的なものをやればやるほど、その人の持ってるものが出るんですよね。だから、右近さんを拝見して、品格と実力が感じられたのがとてもすばらしいなと思って。古典がきちんとできる人だから、こういう現代的な作品もできるんだなと思いました。

右近 自分がそんなところまでいけてるかどうかわからないですけど......。でも、最高の褒め言葉をいただきました。

篠井 本当にそう思います。だから、エリオットという現代の青年を演じても、存在感というか肝の据わり方が違うと思うんですよね。そもそも歌舞伎の役者さんたちって、現代劇の役者と違って、365日のうち下手したら300日ぐらいは舞台に立っている人たちでしょう。身体がもう舞台で生きるっていうふうにできちゃってるんですから、正直言って僕ら敵わないですよね。舞台に出てくるだけで、そこにいるだけで、何かこう大きな力がある。それを読み合わせだけでも感じました。身体に染み付いているものはすごいと思います。

右近 そういうものなんですね......。

篠井 ご本人は緊張してドキドキしてますっておっしゃってるけど、『えい!』ってやるしかない、物怖じのなさ、潔さというものをすでにお持ちになっているんですよね。だって、これまでも、何かやるときは、『自分しか頼るものがない』『僕は僕を信じるしかない』と思ってやってこられたでしょうし。それはかけがえのない力だと思います。

右近 確かに、もともと僕の性格としては内気でシャイで緊張しいなので、何かやるときはいつも、その反動でいくっていう感じなんです。最も顕著なのが今回で、ある意味、オーヴァードーズを起こしてるようなものなんですけど(笑)。でも、そこで萎縮しないで、最初からきれいな盆栽になろうとせずに伸び放題に伸びるということがまず僕のやるべきことだと思っているので。演出のG2さんはじめみなさんに、整えてもらえたらいいなと思っているんです。

●役は関係で作られる

篠井 右近さんがもともとは内気な性格なんだというのは、とてもエリオット的ですよね。エリオットも本当にナイーブで、そんな人がイラク戦争に行くことになって人を殺してしまうという普通じゃない経験をしたんだから、鎮痛剤中毒になったというのも、人間の痛みとしてとてもわかりますよね。

右近 繊細さゆえですよね。

篠井 そうだと思います。ピュアでナイーブだから、お母さんに対しても、屈折した気持ちはありつつ、愛おしいとも思うし、頼りにしたいとも思うし、守ってあげたいとも思うし、いろんな複雑な思いを持っている。そこは右近さんがもともと持っているやさしさとかナイーブさと重なりますよね。

右近 リンクする部分はあるなと、最初に本を読んだときから思っていました。

篠井 だから、すばらしいキャスティングなんだと思います。

右近 エリオットという役に選んでいただいたのかもしれません。これからのお稽古で、強くそう思えるようにしていきたいですし、エリオットの内面をきちんと表現できるように精進していきたいですね。みなさんの台詞を聞いていると、自分の内面を打ち明ける瞬間に絶妙の間合いがあって、すごく勉強になりました。そこまでの自分の心を整理というものがこういう間として生まれるんだな、こうやってお芝居をお作りになるんだなって。

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篠井 僕も、みんな必死で自分の役と向き合ってきたんだなと思いました。みんなのお芝居を聞いてなるほどと思ったこともたくさんありましたね。やっぱり、自分がこういうふうに演じようと思っていても、相手がどう出てくるかで変わっていく。そして、お客様はそのふたりの間に生まれる関係を観ているわけだから、結局、相手役さんがどういうふうに自分と接してくれるかで、自分の役は形作られていくんですよね。だから、そういう意味で、おー、みんな初日からけっこうやってきたなと(笑)。

右近 確かに僕も、従姉のヤズミンに乗っかっていく感じがありました。隣同士に座らせていただいて、これからこの距離がどんどん縮まっていくのかと、それも楽しみになりましたね。初めてお会いしてこんな近い役を演じるなんて、すごく不思議な感覚ですけど。

篠井 歌舞伎の世界だと、だいたいみんな親戚だからね。お互いにこんな小ちゃいときから知ってるぞって(笑)。

右近 はい。だいたいみんなのことわかってるぞって(笑)。だから、役の関係性としての距離感も最初からおおよそのところは作れるんですけど、今回は初めましてですから。自分からも歩み寄っていかなきゃいけないっていうのは、新鮮で楽しみです。今日も、いつ話しかけたらいいんだろうと思いながら南沢さんに話しかけることができたので、今日だけでかなり鍛えられた気がします(笑)。

篠井 もうね、行け行けって感じです(笑)。演出のG2さんもとてもやさしくて開放的で決めつけたりしない方なので、言いたいこと言って、聞きたいこと聞けばいいだろうし。僕なんかはもう何度もご一緒していることもあって、まず提示してみて、よければ何も言わないだろうし、何かあれば言うだろうし、と思ってやっていますけど。

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右近 僕は基本的には、歌舞伎では自分で決めていく習慣があるので、それとは逆に、G2さんとお話しながら進めていけたらなと思っています。そこでいろんなことを提案できるように、自分のなかでいくつかパターンを考えてしておきたいなと。

篠井 右近さんは右近さんのやりようでやっていけば大丈夫。

右近 そこらへんは自由なんですね。

篠井 自由、自由。リラックスしてやればいいと思いますよ。

右近 じゃあって言うのも変ですが、まずご飯に連れて行ってください(笑)。

篠井 そうそう、そういう親睦も大事。おいしいもの食べに行きましょう。

右近 エリオットとオデッサの、台詞の裏にある愛情深いつながりを作るためにも(笑)、ぜひお願いします!

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取材・文 大内弓子

撮影:イシイノブミ

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