FUKAIPRODUCE羽衣「春母夏母秋母冬母」稽古場日誌【4】

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2004年女優の深井順子により設立した「FUKAIPRODUCE羽衣」。5月24日に初日を迎えた今作の稽古場日誌もついに最終回。

作家部の平井寛人さんが、小屋入り日の様子を綴った稽古場日誌。金子愛帆さん撮影の、舞台写真も届きました。「FUKAIPRODUCE羽衣」の世界を、ぜひご覧ください。

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こんにちはこんばんは。平井寛人です。作家部という部署にて、FUKAIPRODUCE羽衣にいます。主に脚本を書いたり演出をしたりをしています。のどかな気持ちにふと陥ることもありますが、特に誰にもバレません。こっそりのんびりとした時間を集団行動の裏腹で過ごしていたりします。だいたい何とかなる上に、何でも受け入れてしまった方が良く、むしろ不干渉であることや、不干渉にされる前提で過ごして、あとで修正する方が、色々楽なことにも21歳にして気づきました。そうした、ひっそりとした思惑の中で、こっそりした視点から『春母夏母秋母冬母』の稽古場を見ていきたく思います。羽衣を覗き見するような視点での、稽古場日誌です。

舞台写真:金子愛帆

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冬忘れて、なおも凍えて。普通に寝て食べてが出来ているだけでも幸せであると謳って、どんなに辛いときでも、友達といる時くらい、あるいは尊敬できる人に面と向かっている時くらいには心に温もりが通っているふりでもしましょうが、一人になってそんな事が嘘だったのだと分かってしまうと、現実はただただあんまりにも寒々しいものであったりもします。糸井さんの作品には温もりがあるといいます。その効能はつまりこうです。『春母夏母秋母冬母』の通しを観ました。2日続けて観ました。寒い体を包み込んで温めてくれる布団のような世界であったり、湯治に近いものを感じて、頭に残り続けるメロディ・フレーズは万年継続ホッカイロのように体を温めてくれます。現代演劇に貴重な、生活を食い破る体験型です。とてもとても厳しく冷たくなった気持ちの時の方が、力のままに優しさを本当は発揮できるとも僕は思います。続けることは何事も大変なもので、生き続ける事とて。続ける為には、何事にも理由を持つ為の工夫が必要です。

糸井さんの言葉は都度、そこに生きている人を温める為の発明品です。『春母夏母秋母冬母』では強い思い入れを感じるとともに、スタイルが羽衣のオーソドックスとして突き詰められた末の普遍性を生じさせもしていて、それは今おこなわれる開発が、今の人間のニーズにも応えています。

通しを観ていてふと感じました。必要とされて、あるいは糸井さん自身が発信する事を必要としているのかどうかなんて事までは決して分かりえませが、工夫が施されてこうして想像してごらんと囁きかける美術品にまで昇華させられています。音楽は壮大です。

壮大なのは大変なことです。自分は大きく変なのではないか、駄目なのではないかという人に一致して寄り添い時をめくります。そうした体験型です。ある寒い時間を氷河期に喩えるシーンが出てきます。そんな世界でと凍える我々に、ではどうぞと差し出される物があります。それがただ『春母夏母秋母冬母』です。私らはそれを受け取って効能通りに温められて、所により助けられもします。それらが成立するのは――していたのは、役者方が確かに私らや糸井さんと同じ世界で、ちゃんと呼吸し、つらみを嘘でごまかすのではなく真摯に届けてくださっていたからに他ならない。俳優は神聖なものだと感じた。敬意を払うに値し、その後に惨めに思わされないのが最低限必要なことで、それでいて並大抵にしては難しい事を、役者方御両人は確かにプロとして達成している。敬意を払う事は箇所チケット金を払う事だろう。野暮な所で、それを裏切られない予感を、僕は真摯に、大勢の人に紹介を向けて抱いた。チケット金の高さがその敬意の神聖さの程度を設けるのでない。貴族の捨てたキャバ嬢への1万円札より、少年少女が温め合う為にお互いお金を出し合う缶コーヒー代その3桁の方が、別の意味合いを豊饒に持ちえている事もある。羽衣のチケット代が羽衣からの感動を受ける際に丈の合ったものの為に多分製品は開発されていて、価格設定もそう自然と行き着いている。向く人が買えばいいのは変わらず、今作はまた普遍的に多くの人に向けられているとも感じた。少年少女は缶コーヒーを買わざるを得なく、それはまま自分らの尊厳だった。羽衣は、結構大多数、分かってくれる大人たちによる、「尊厳」それ自体を守ってくれるものなのだと、僕はその日々に作品を通じ感じ報告まで記している。

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冬は僕にとって一塊の雪崩れです。そんな感覚の者がこの日誌を、四季に充て付け全4回の報告書とし、案外存分客観性だけをテーマに書いてきたつもりだ。春も夏も秋も冬も、100分の中には現実で押し込めるはずもないのに、舞台ではそれがなされる魔法をかけられています。文章であれば雪崩れの物まねみたいに表現はイライラやストレスを発散する力のままの舞いみたいな面が発端の悦びとして大いにあったから簡単で独りよがりな形態模写でも、魔法というには野暮な程度より、嘘八百や虚言の域を発信源におこなえるのだけど、一方舞台はチームワークだ。喧嘩の為にと仲間と舞台をするわけもなく、お互いに慎重な研究員たりうることも求められると感じた。それを感じられたのは、目の前でそれが達成されていたからだった。少なくとも、その現象はここで純粋にも生じていた。僕は母の日に路上で寝ているような不孝者だから「母」に関する感動と別のものを感じていたのかもしれない。誰が何と言って紹介しようと、感じ方は自由で、でも肯定なくとも、否定まではされなかった。
書かれている事を心の奥底でバカにしているような人はいるし、表面をさすっただけでこちらをバカだと決めつけてかかってくる人もいる。私的にうんざりだ。それらが最初に述べたような冷たい世の中で、もっと先に述べたように、春の暖かみを持った特別な羽衣作品は、癒してくれる。関係者総員によってのものとしてある。
そんな見識での、『春母夏母秋母冬母』稽古場日誌でした。
2018.5.21 小屋入り日 平井寛人

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FUKAIPRODUCE羽衣 深井順子40歳記念 第23回公演 「春母夏母秋母冬母」は、5月24日~5月28日まで、吉祥寺シアターにて。当日券は開演の1時間前より発売。

6月2日、3日には愛知県・穂の国とよはし芸術劇場PLAT アートスペースでも公演。チケットは発売中。

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