■ミュージカル『マタ・ハリ』特別連載(11)■
稽古場レポートやキャストインタビューから作品の魅力に迫るミュージカル『マタ・ハリ』連載。
今回は、アンナ役 和音美桜さんのインタビューをお届けします。
宝塚歌劇団で歌姫として傑出した存在だった和音さん。
退団後も、『レ・ミゼラブル』『レディ・ベス』など、数々のミュージカルでその歌声を響かせています。
今回『マタ・ハリ』で和音さんが演じるアンナは、ヒロインであるマタの衣裳係。
「衣裳係」と言っても単なるスタッフではなく、マタが誰よりも信頼し心を寄せる存在です。
和音さんに、役柄について、そして柚希礼音さん扮するマタ・ハリとの関係性についてなどを、伺ってきました。
● 和音美桜 INTERVIEW ●
―― 個人的な感想なのですが、今回のキャスティングで和音さんが一番の驚きでした。
(韓国版はアンナは"お母さん"的な女優が演じている)
「たしかにそうかもしれませんね(笑)。私は韓国版は実際は拝見していないのですが、全然違うキャラクターの方がやっているということは聞いていました。ただ演出の石丸さち子さんからは、私の持っている個性でやってほしい、韓国版とはまったくの別物と考えてほしいと言われています」
―― アンナはどういう人物ですか?
「柚希さんが演じるマタ・ハリと親友......と言いますか、唯一、心の裏の部分も打ち明けられるような人。マタが自分のオフもさらけ出せる唯一の相手という役割です。母性の強い人なんだと思い、いま役作りを進めています。柚希さんと私だと、年齢的に母親のように接することは出来ませんが、母性はたぶん女性なら誰もが持っているものだと思うので」
―― お稽古場を拝見した感じでは、和音さんのアンナは現実的でクールな女性のように感じました。
「アハハ(笑)。そうなんですよね、スチール撮影の時に石丸さんに最初に言われたのは、「キャリアウーマンで」ということでした。この時代の女性だと、おそらく家庭に入るのが普通だった。そんな中、アンナは仕事をしている。彼女も何かの傷を背負って、マタ・ハリに尽くしているのかなと思っています。それに、衣裳係というのは、衣裳のことだけをやっているのではなく、いつもマタの状態を見ていて「今はこれが必要だな」「今は話しかけない方がいいかな」とか、常に考えている人。実際いま、私も舞台をやっていて、衣裳さんやヘアメイクさんというのは公演中、一番演者である自分と近い存在になるんです。例えばちょっと体調悪かったりするとすぐに察して、色々とやってくださる。共演者以上に密に接し、自分の状態をわかってくれる方だったりします」
―― マタ・ハリはパリでダンサーとして名を馳せるまでに紆余曲折を経てきているのですが、アンナはいつからの知り合いなんですか?
「マタ・ハリがパリに来てから知り合った、と私たちの間ではなっています(笑)。そんな話を柚希さんともしています。本当にいたアンナという人は、家政婦さんのような、お手伝いさんのような存在だったみたい。そんなところも混ぜ合わせたりして作っていこうと話しています」
―― 実在した方だったんですね! そんなアンナさんから見た、柚希さんのマタ・ハリはいかがですか?
「もう、舞台上でも柚希さんを一途に見ているんですけど(笑)、何せエネルギーが溢れている方。実在のマタ・ハリについて書かれた本や資料を読んで、自分が想像したマタ・ハリよりもエネルギーが強くて、太陽みたいです」
―― 舞台に出る直前のマタ・ハリとアンナが楽屋で交わす決まり文句みたいなものがあるじゃないですか。あれがすごく素敵だなと思っているんです。和音さん自身も舞台に立つとき、何か決まりごととかありますか?
「ジンクスのような決まったことというのはないのですが、自分も舞台に立つ時は、なんとなくルーティンができあがっていきます。開演前に自分が楽屋に入ってから、まずウォーミングアップして、お化粧して、ちょっとゆっくりする時間を持って、舞台に行く......というルーティンが。今はケータイがあるのですぐ連絡取れちゃうし、だからこそバタバタと対応しなきゃいけなかったりというようなこともあるんですが、「この5分だけはゆっくりしよう」とかは決めていますね。気が乱れちゃうと、集中力がなくなってしまうから、なるべく淡々と。全く同じルーティンというわけではありませんが、そんな感じで過ごそう、というものは私もあります」
―― では彼女らが、ああいった決まったやりとりをするのも、わかる?
「すごくよくわかります(笑)! なんか、(決まりごとをやることで)リセット出来るんでしょうね。そういうやりとりからマタ・ハリの "普段" が覗くと思います。私は彼女の "普段を見せる担当" だと思っていますので、そこを出せればと思いながらやっています」
―― そして音楽はフランク・ワイルドホーンです。和音さんは、ワイルドホーン作品は......。
「『ルドルフ ザ・ラスト・キス』(2012年)や、宝塚時代にはル『NEVER SAY GOODBYE』 などに出演しています。ワイルドホーンさんの音楽は、自分の歌だけじゃなくて、人の歌を聴いていても盛り上がる(笑)。日本人の琴線に触れる何かを持っていらっしゃるんでしょうね。日本語にも合う。翻訳ものって語感も違うし語数もあわないしすごく大変なんですが、わりと日本語にはめやすいんだと思います」
―― 最後に、この日本版『マタ・ハリ』の見どころをずばりお願いします。
「そうですね......。やはり楽曲も聴き応えがあるし、お稽古を見ていても、ダブルキャストによってまったく感じるものが違って、そんなところも楽しいなと、観客目線では思います。でも一番の見どころは、マタ・ハリをめぐる人間関係でしょうか。マタがある意味男性ぽいというか、強さもある女性で、彼女を取り囲む男性の方が、とても揺れている。そんなところが面白く、また、男性も女性もそれぞれが無様なほどに正直に生きている。それを見て、痛くなったり、共感したり、嫌な気持ちになったり......観る方も様々な思いを感じてもらえたらいいな、と思います」
取材・文:平野祥恵(ぴあ)
撮影:源賀津己
【公演情報】
・1月21日(日)~28日(日) 梅田芸術劇場メインホール(大阪)
・2月3日(土)~18日(日) 東京国際フォーラム ホールC