【マタ・ハリ通信(10)】パンルヴェ役、栗原英雄インタビュー

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■ミュージカル『マタ・ハリ』特別連載(10)■


稽古場レポートやキャストインタビューから作品の魅力に迫るミュージカル『マタ・ハリ』連載。
今回は、パンルヴェ役 栗原英雄さんのインタビューをお届けします!

劇団四季でミュージカルもストレートプレイもこなす実力派俳優として長きにわたり活躍、退団後も数多くの舞台に出演していますが、テレビドラマ初出演した2016年の大河ドラマ『真田丸』真田信尹で一気にお茶の間までその名を広めた栗原さん。

今年も年始早々に、出演した正月時代劇『風雲児たち~蘭学革命(れぼりゅうし)篇~』が放映されたばかりですが、一方で昨年末から『パジャマゲーム』『メンフィス』そして『マタ・ハリ』と、ミュージカルへの出演も続いています。


栗原さんが今回演じるのは、時のフランス首相、パンルヴェ。
いわば、マタ・ハリをスパイに仕立て上げる親玉?黒幕?...といったところでしょうか。
パンルヴェはナンバーはないということで、その美声が聴けず残念なのですが、ご本人は「残念じゃないんですよ。今回は(芝居で)パンルヴェという役割を果たします」とのこと。


そのパンルヴェという役柄について、ご自身の"役割"について、そして作品の魅力について......色々とお伺いしてきました。

● 栗原英雄 INTERVIEW ●

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―― お稽古も佳境ですが、現在の心境は?

「今まさに "日本初演を作り上げている!" という感じです。石丸さち子さんの演出も情熱的で、熱い(笑)。面白いです」


―― その中で栗原さんが演じるのがパンルヴェ。このパンルヴェという役を現時点でどのように捉えていらっしゃいますか。

「マタ・ハリとアルマン、ラドゥーの恋があったりという物語の中に、歴史上の戦争が絡んできます。登場人物の気持ちが、ある意味普遍的な恋や葛藤というところで揺れ動く中、当時の時代背景に引き戻す役目だと思っています。この時代はこういう状況で、フランスはそこに直面していたんだ......と訴えかける役割ですね、僕は」

―― 実在の人物ですよね。

「そうです。数学者です」


―― 面白い経歴の方ですよね。もともと数学者であり、首相になった。第一次世界大戦は "最初の近代戦争" と呼ばれていますが、そんなところも影響しているんでしょうか、理系の人がトップに立つというのは。

「どうでしょう(笑)。まあ、当時のフランスの政治状況でしょうね。泥沼化している状況の中、誰が責任をとる立場になるか......という感じで首相になったんだと思うんですが」


―― ただ、劇中では数学者であるという面は語られていません。それでも役作りでは意識しますか?

「そうですね。先ほども石丸さんと、"数学者ということを何で表現するか" というお話をしていました。髪型だったり、ヒゲの感じや服装といったもので出せるかなあ、と話していたんですが。どうなるでしょう」


―― 首相という役を演じるにあたり、何か気をつけていることは?

「うーん、首相だからここを気をつけよう、と考えちゃうと、作り物になっちゃうので。例えばパンルヴェほどの重さはなくとも、リーダー的な経験をしたことがあればそれを思い出す、苦渋の決断をした経験を思い出す......。自分の中にあるものを使えばその人物が生きてくると思っています。首相だってことは説明されていますからね、あまり考えすぎないようにしています」


―― そしてこの物語では、ラドゥーの妻であるキャサリンが、パンルヴェの娘であるという設定だそうですね。

「そうなんですよ。実際のパンルヴェさんは息子がいらしたそうなのですが、物語的には娘になって、その娘婿がラドゥーということになっています。(台詞で語られなくても)そういうドラマがチラリと垣間見れたら楽しいですよね。ラドゥーとのシーンではやはり、単なる上司と部下ではなく、自分がラドゥーをこの地位まで引き上げたという気持ちを持ってやると全然違います。愛する娘の婿であり、優秀な人物だと過剰に期待をかけている。だからこそ、情勢が悪くなっていくと、つい娘婿に当たり、責任を追求してしまう。一緒に倒れるわけにはいかない、と......」


―― そんなパンルヴェさんの目から見て、娘婿はどうですか? 加藤和樹さんと佐藤隆紀さん、ふたりいらっしゃいますが。

「丸っきりタイプが違うので面白いですよ(笑)。どっちがどう、と言葉にしちゃうと、僕自身がそういうイメージで見ちゃうので、言いませんが。ふたりにも感想は言いません。ニュートラルに毎回毎回、目の前にいるふたりと芝居できたらと思っています。ただ、ふたりとは『タイタニック』(2014年、今年再演もあり)でも共演しているので、本当に面白いです。加藤ラドゥーと佐藤ラドゥー、人間ってこうも違うのか、というくらい(笑)。観る側も楽しみが2倍だと思いますよ」

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―― 少し話は変わって、栗原さん、最近映像でもご活躍ですけれど、久しぶりにミュージカルが続いていらっしゃいますね。

「そうですね。いま話に出た『タイタニック』以来のミュージカルが去年の『パジャマゲーム』でしたから。久しぶりで、楽しかったです。そこから『メンフィス』、そしてこの『マタ・ハリ』。『メンフィス』をやりながら正月時代劇の撮影に行ったりしていましたが、舞台的にはミュージカル続きです」


―― 映像で栗原さんを知ったファンの方も、舞台に足を運んでくれますね。

「それ! 本当にそうなんです。『パジャマゲーム』などは、『真田丸』を見ていたファンの子たちが何回も観に来てくれて。舞台を観るのが初めてだって人が「今日はこうだった」「あの日はああだった」って感想をくれるんです。舞台は生だからその時によって変化するのは当たり前なんだけれど、映像は変わらないから、彼女たちにとっては新鮮だったんでしょうね。「色々な顔が見れて楽しい」と仰っていました。また、僕の役柄も『真田丸』では仕事を確実にこなす、007みたいな(笑)人間だったのが、いきなり『パジャマゲーム』はコミックリリーフ的な役でしょう。また『メンフィス』では違う顔でしたし、びっくりしてくれていました。『マタ・ハリ』でも驚いてくれるんじゃないかな」


―― 栗原さん、演劇人口の裾野を広げてくださっていますね!

「いやいや。でも本当に色々な方が舞台を観に来てくださって、ありがたいですよね」


―― では、そんな栗原さんから見てこの作品の見どころはどこですか。

「主人公のマタ・ハリが翻弄されていくところかな。私たちも普通の生活の中で、色々な選択をしていくじゃないですか。たとえば何かを食べることひとつとっても選択です。この物語の中で主人公のマタも、自分が選び取って選択していることがほとんどなんだけれど、そうじゃない選択をせざるを得ない状況もある。歴史がそうさせたんだけれど、その中での彼女の生き様というのは見どころです。マタ・ハリ役の柚希さんを見ていると面白いですよ。可哀想にな......って思う。こんな可哀想なことさせてるの誰だよ、あ、俺だ、とか(笑)。でも彼女にスパイなんてさせずに、ダンサーとして静かな日々を送らせてあげていたらどんな人生だったんだろうな......とか、考えてしまいます」


―― しかしパンルヴェも辛い役ですよね。

「ハハハ(笑)! いいんですよ、救いがなくて。戦争の中でも、全部が自分の責任としてのしかかってくる。それを打開しようと思ってマタ・ハリを利用するんだけれども、またそれもうまくいかなくなる。やる手やる手が全部外れていく。救いがないというか、救えないんですよね」


―― しかも劇中でパンルヴェの葛藤などは描かれず。

「でも世の中のほとんどが、日の目を浴びるわけではないじゃないですか。だから逆に言うと、人間らしい役だなって思うんです。ただそういうこと(内心の葛藤など)を踏まえて演じるか演じないかで大きく違うと思う」


―― 確かに、石丸さんの演出も人間ドラマとしてのリアリティを求めるようなものですし、表面上だけではない登場人物の心の奥底が、どう浮き上がってくるかがこのミュージカルの鍵になりそうです。

「そうですね、この3人(マタ、アルマン、ラドゥー)のただの恋物語にならないよう、作品の中で重石になれればと思っています。歴史的にフランス側、ドイツ側という立場があったということを踏まえて。それが今回の僕の役割。そのことで、ミュージカル自体に様々な色が出てくるんじゃないかな、と思っています」

取材・文:平野祥恵(ぴあ)
撮影:源賀津己
 


 【公演情報】
・1月21日(日)~28日(日) 梅田芸術劇場メインホール(大阪)
・2月3日(土)~18日(日) 東京国際フォーラム ホールC


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