2010年トニー賞では、作品賞を含む4部門を受賞。
2015年の日本初演も連日スタンディングオベーションとなった熱狂のミュージカル『メンフィス』がふたたびやってきます!
物語は、1950年代のアメリカ・メンフィスで、当時タブーとされていた黒人音楽であるブルースを、ラジオやTV番組で紹介した実在の白人ラジオDJデューイ・フィリップス(このミュージカルではヒューイ・カルフーン)の半生をモデルに描いたもの。
人種の壁、人種差別といった当時のアメリカ社会をとりまく問題とともに、その壁を乗り越え愛し合う男女の姿が描かれる作品です。
ボン・ジョヴィのデヴィッド・ブライアンが手がけたソウルフルな音楽も、人気の要因のひとつ。
2015年の日本初演版は主人公のヒューイを山本耕史、ヒューイが恋する黒人シンガー・フェリシアを濱田めぐみが演じ、大好評を得ましたが、今年の再演も、その鉄壁のオリジナルキャストが続投!
ただし、"新演出"となり、ガラリと変わるとのことで......。
一体、どうなるのでしょうか!?
今週末には初日の幕をあけるこの作品の稽古場を取材してきました!
稽古場に伺ったのは、11月中旬の某日。
この日は、数シーンの振り返り稽古ののち、「通し稽古」をするという日。
本番までまだ2週間以上ある日程でしたが、2017年メンフィスカンパニー、この時点ですでに何度か「通し稽古」をやっているそうです。
今回は、主演のほかに演出も務める山本さんから
「新しいことに気付いたら、それに反応してください。自由に。(自分の動きを)決めてしまわないで。ただし、「こういうことをやってやろう」ではなく、自然に反応して」
と、通し稽古に挑むにあたっての心構えが語られます。
そして山本さんとダブル演出のジェフリー・ページさんからは「コリン・キャパニックという人を、知っていますか」という話が...。
コリン・キャパニックは、NFL(アメフト)の選手。
人種差別への抗議として、昨年、国歌斉唱のときに起立をしないという運動を始めた人です。
その行為を批判され、「膝をつく」という形にし、いまこの行動はアメフトのみならず多くのスポーツで、また国を越えドイツなどでも賛同者が同じ行為をとるようになっています。
ジェフリーさんは「こういう抗議運動が起こったのは、初めてのことではありません」と言います。
曰く、「50年代は、こぶしを空に突き上げるポーズが、抗議の姿勢を示していました。だから、このポーズを(劇中で)皆さんがとったとき、それはブラックパワーの象徴であり、抗議の象徴でもあるんです」。
......『メンフィス』は、50年代のアメリカで、まだ黒人と白人がはっきりと分けられていた時代の物語。
白人が黒人音楽を聴くことなんてありえなかった時代、その差別という壁をつきやぶったひとりの青年の物語です。
このポーズ、劇中でどんなところに登場するのか、ぜひご確認ください。
その後、キャストの皆さんから「こぶしの向き(手の平を外に向ける・内に向けるなど)に意味はあるのか」「みんなが揃える必要はあるのか」等々活発な質問が飛び出しました。
ジェフリーさんによると、「アイコン的なものだから、細かく指定があるわけではない。でも、振付という観点からは、揃える必要がありますね」とのこと。このあたりは、舞台作品ですからね。ナルホドな回答です。
そんなお話を経てから、通し稽古スタート!
幕あけは、アフリカ系アメリカ人たちが集うクラブ「デルレイズ」。
デルレイ(=ジェロ)が「白いヤツはおよびじゃねえ!」と、ロックなナンバーをカッコよく歌っています。
歌の途中から、デルレイの妹・フェリシア(=濱田めぐみ)も加わります。
濱田さんのフェリシア、登場した瞬間から "歌姫" な輝き!
そこに飄々とした雰囲気で登場するヒューイ(=山本耕史)。
本人は音楽にノッて楽しげですが、まわりの人々の空気は一変。
「ひとりだけ浮いてる気がしませんか?」
「? 別に?」
ヒューイの "自分は黒人音楽が好き、それだけだ。何が悪い?" といった(ちょっと迷惑なほどの)真っ直ぐさ、山本さんが上手くかもし出しています。
「好き」パワー、すごい!
山本ヒューイの、"黒も白も意に介さない" 態度に、まわりの黒人たちも、なんとなーく、その状況を受け入れていきます。
幼少期のトラウマから口を閉ざしている従業員のゲーター(=米倉利紀)がまっさきにヒューイを受け入れます。
が、もちろんそれだけで世界が変わるはずもなく――。
その後もヒューイは機会があれば黒人音楽を人々にきかせようとします。
手始めは勤め先のデパートのレコード売り場。
次には、ラジオ局に「DJをやらせてほしい」と押しかけ......。
クラブ「デルレイズ」の常連でもあるラジオ局の掃除夫ボビー(=伊礼彼方)をうまいことまるめこみ...
DJブースを乗っ取り!
白人歌手が歌う牧歌的な、眠くなりそうな音楽を強制終了し、黒人歌手がうたうR&Bを流します。
ラジオ局のマネージャー・シモンズ(=栗原英雄)は大慌てですが......結果的にヒューイが流した音楽は大反響。ラジオ局の電話が鳴り止みません。
シモンズも、ヒューイと契約を結ぶことを決めます。
そうして、少しずつ、ヒューイの"革命"は人々に受け入れられていきます。
同時に、少しずつ、ヒューイとフェリシアの距離も近づいていきます。
また、フェリシアは人気となったヒューイのラジオ番組で押され、人気歌手へとなっていきます。
しかし、ガンとして、黒人と白人の交流を認めない人々もいます。
ヒューイの母・グラディス(=根岸季衣)もそのひとり。
ヒューイがフェリシアにプロポーズをしたまさにその日、大きな悲劇が......。
ちなみに、制作発表の場で山本さんが「イメージとしては..."お客さんに劇場を移動してもらう"ような感じ。二度楽しい、じゃないですが」と気になる言葉を語っていた演出(舞台構造)ですが......!
ちょっとその片鱗をお伝えします。
こちらが1幕の様子。
舞台奥には高さのあるセットも組まれ、高低のある作りなのがわかるかと思います。
舞台の色々なところで、色々なシーンが展開しています。
シーンごとに明確に俳優さんたちが立つ場所も変わり、仮のセットとはいえ、山本さんが会見で「初演の演出は抽象的でしたが、今回はリアルに寄せていきたい」と話していたのが納得できました。
そしてこちらが2幕の様子。
1幕にくらべてセットが減っています。
何より、アクティングエリアが広がっているのがわかりますでしょうか?
1幕と2幕、まったく別の舞台機構を使うということで...スタッフさんからは「明かしてOK」と言われたのですが、念のため少し隠しますね。
知りたい方は文字を反転してみてください。
今回、1幕はセリを使い、2幕は回り舞台を使うそうで、逆に言えば1幕は回り舞台はまったく使わず、2幕はセリは全く使わない...という作り方をしているそうです。
おそらくこの作り、稽古場より実際の舞台で観た方がその違いが鮮やかに浮かび上がってくるはず。
実際に本番舞台はどう見えるのか、気になるところ!
さて、メンフィスの地で少しずつ、白人の間にも黒人音楽を広め、人種間の壁を壊していったヒューイですが。
さらなる飛躍をもとめていったテレビの世界で、またも人種差別の壁にぶつかります......。
ヒューイは、そしてヒューイとフェリシアの関係はどうなっていくのでしょうか。
続きは本番のステージでお楽しみください。
ヒューイ・カルフーン=山本耕史
お調子者で、猪突猛進で、憎めないヒューイ。
好きなものは好きと言う、そのまっすぐなパワーが、人々を変えていきます。
山本さん、ぴったりですよね。
少しかすれ気味のセクシーな山本さんの歌声も、ソウルフルな楽曲に合う!
フェリシア・ファレル=濱田めぐみ
ヒューイが恋に落ちる歌姫、という存在がこちらもぴったりです!
(濱田さんの歌声に恋に落ちない人はいないんじゃないでしょうか...)
デルレイ=ジェロ
白人であるヒューイに敵対心むき出しですが、それも愛する妹フェリシアを心配してのこと、という優しさも伝わってくるジェロさんのデルレイ。
ゲーター=米倉利紀
心に負ったトラウマから前半はまったく口を開きません。
そして口を開いた時の、その美声のインパクト!(米倉さん、いい声~)
ボビー=伊礼彼方
1幕の掃除夫から、2幕はテレビスターに。
2幕では踊りまくる伊礼さんが見られます!たぶん。
シモンズ=栗原英雄
最初は頭から黒人音楽を排除しようとしていましたが、「カネになればOK」と手のひらをかえす調子のよいビジネスマンを、栗原さんがチャーミングに演じていますので、注目です!
グラディス=根岸季衣
最初は、息子・ヒューイが連れてきた黒人のフェリシアを受け入れられなかった彼女も、次第に気持ちを変えていきます。
とはいえ、「たとえ正しいことでも、人はすぐ変われない」というグラディスの歌はそのとおりでもある。
でも、そう歌うグラディスは、ボビー・デルレイ・ゲーターという黒人3人と一緒にこのナンバーを歌っているのが、ちょっと素敵なところ!
そしてここにあげたメインキャストの皆さん以外の方々の歌唱力も素晴らしい!
ゴスペル調に歌い上げるナンバーなどは、大迫力で、マイクなしの稽古場なのに、歌声が空気を震わせていました。
鳥肌が立ちますよ!
2017年版『メンフィス』、開幕はまもなくです。
取材・文・撮影:平野祥恵(ぴあ)
【『メンフィス』バックナンバー】
・制作発表会見レポート
・2015年版 開幕レポート
【公演情報】
12月2日(土)~17日(日) 新国立劇場 中劇場(東京)