ルーマニア演劇の鬼才のもと、手塚とおる、今井朋彦、植本純米が"女性役"で集結!「リチャード三世」

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――皆さんは今回、オーディションによる選出とのこと。オーディションを受けたきっかけは、演出がルーマニア演劇を代表するシルヴィウ・プルカレーテさんということがやはり大きかったのでしょうか?

手塚 僕はもう大ファンでしたんで。プルカレーテさんの作品を観ると毎回、どうやって作っているのかが全く想像つかない。何か雑に見えるところが後でものすごく緻密なシーンになっていたりするんですけど、そういう組み立てがエチュードなのか、あるいは最初からがっちり決まっているのか。それが知りたいなぁと思ったのが最初ですね。だから本当にコロスの一人でもいいから出たかったし、ご本人にお会いしたいという一心でした。

今井 僕は大雑把に言うと"シンプルで力強い"舞台というのが肌に合うというか、好きなんですね。プルカレーテさんの舞台は来日公演の『ルル』(2013年)を観ていますが、そういう印象が残って、すごくいい舞台だなと。なのでオーディションの話を聞いたとき、「ぜひお願いしたい」と言いました。

植本 僕はプルカレーテさんの作品は映像でしか観たことがなかったんですけど、この舞台がもしかしたらオールメール(全員男優)になるかもしれないという噂はなんとなく聞いていたんですね。

だったら、うちの劇団(花組芝居)が男ばっかりで現代劇をやっている特殊な劇団なので、そういう企画には1人ぐらい入らないとダメだろうと。

手塚今井 (笑)。

――お話に出たように、この 『 リチャード三世 』 は渡辺美佐子さん以外オールメールで上演されます。

手塚さんが主人公リチャード三世の妻となるアン、今井さんが王妃マーガレット、植本さんが王妃エリザベスと、お三方とも女性役。植本さん以外の方は、女性役は初めてですか?

手塚 長年やっているので記憶が定かじゃないです、初めてだと思います。基本的に、男性女性ってあんまり考えないで演じていたりするとこ、あるんで。

植本 常人の役があんまりないんじゃ(笑)。

手塚 そうそう。普通の人間の役ってのがあんまりないんで(笑)、そもそも性別がないとか。

今井 精神的に女性みたいな人の役はやったことありますけど、女性の役は初めてです。オーディションが進むにつれてそんな話になり、「おっと、そうきたか」と(笑)。ただキャストに純さん(植本)がいらっしゃるというのを聞いて、女性役で純さんと比べられたらキビしすぎると思いましたね(笑)。

でも話を聞くと、女形として女性を見事に具現して欲しいとかそういうことではなさそうだったので、だったら何かできるかもと。

植本 求められているのは、エッセンスとしての女役。だから僕の場合は、普段自分がやっていることをどこまで封じられるかというのもあるし、どこまで出していいのかダメなのかというのも今せめぎ合いですね。

こないだ、(佐々木)蔵之介くん(=リチャード三世役)と1対1のシーンをやったんですけど、やっていることは同じ女役なのに、普段の芝居と感覚が全く違うんです。

つまり自分がそこまで女性の方に振り切っていない部分がある。例えば、「ここは素でやってください」と言われるシーンがいくつかあるんですけど、そういうときもどこまで素なのかっていう。自分は女形をやるとき、1回女のスイッチを押して、そこから役柄のスイッチを押すことが多いんですが、「素で」と言われたときに役柄のスイッチだけオフにして女だけ残す、あるいは全部オフなのかとか、今探っている最中です。

――「 素でやってください 」ということ自体、大胆で面白い演出ですね。

手塚 「ここで1分、みんなで雑談してください」なんてシーンも。物語に関係なく、本当に雑談です。『リチャード三世』という作品で見せるのは何年分もの時間が過ぎていく過程なんだけども、"1分の雑談"というシーンを入れることによって、舞台上の1分と客席の1分が重なる。

たぶんプルカレーテさんの中では舞台上の役も客も同一に観ていて、動物園の動物じゃないけど(笑)僕らをどう見せるのか、それをどう面白がれるのかどうかが一番なんだろうって感じるんですね。ま、そのシーンが本番で残っているかどうかはわからないんですけど。

植本 今とにかく、作っては壊し、作っては壊し。

今井 その言葉どおり。

そうおっしゃる演出家に何人かお会いしていますけど、やっぱりそう簡単に壊せるものじゃない。ここまで「あ、やめた」って平気で言える人はなかなか(笑)。

植本 次の日に変わるときもあるし、休憩を挟んでもう変わるときも(笑)。

手塚 僕も演出もたまにやりますが、こういうことはとても僕にはできない。いろんな勇気がないですね。

今井 でもあれだけ大胆に壊せるということは、根っこ、まあ核といってもいい部分に揺るぎないものがあるからだと思うんですよ。それすらもおぼつかないと、ほんとに壊したときに2度と積み上げられなくなっちゃう。そういうことが感じられるので、「ああ、そんなに壊しちゃうんだ」と思っても(苦笑)、「じゃあ次のプランでいきましょう」って気にこっちもなれるんです。

植本 そして変わったときの方が「なるほど。それも面白いね」って思えるし。

――『 リチャード三世 』 はシェイクスピア作品の中でも有名ですが、いま話題に出た要素だけでも相当革新的な 『 リチャード三世 』 になることは予想できますね。

手塚 なんかときどき、シェイクスピアというのを忘れることがあります(笑)。英語圏の人でもとまどうようなテキストレジ(=台本の修正・変更)で、僕らは今シェイクスピアをやっている。(台詞を)削いで削いでこの1行だけ残すとか、半ページぐらいでひとつの幕が終わっちゃうとか。だから現在の台本は、シェイクスピアなのに1時間もののドラマぐらいの厚さなんです。

でもそうしてもなおこの台詞を残しているという意味合いが演出家の中にあって、その言葉でひとつの場面を成立させるためのいろんなパターンを、プルカレーテさんは持っている。やはりルーマニアは少し前まで社会主義の国だったんで、そこで演劇をやっていくことのリスクとプライドの比重がものすごく大きいんだと思います。

かつては実際に、下手したら死刑になるかもしれないという検閲の中でやっていたわけですから。『リチャード三世』ならチャウシェスクに結び付けて彼が崩壊していく様を見せるというのを、たぶんいろんなオブラートに包みながら、でも客にはその政治的メッセージがわかるように作っていったんでしょう。

そういう社会性とエンターテインメントとの行き来をいっぱいやってきた人なので、方法論の豊富さなどに、他の国の演出家よりも「うわ、手練れだな」と思うことが多いですね。

今井 この作品にはアクセントになるような庶民のシーンがなくて、王宮にいる人たちだけで展開していく。言ってみれば、登場人物は権力の側にいる人たちばっかり。リチャード1人が悪党で、周りがそれに翻弄されるという描き方もできるけど、「こいつら全部権力の側で、じゃあほぼ一緒」というような感覚が、プルカレーテさんの中にあるのかなと。稽古場で見ていても、権力の側にいる人たちへの皮肉の持ち方が強烈だなと感じることが何度かありましたね。

手塚 プルカレーテさんはおとぎ話であるとか、シェイクスピアの"物語"というものに、どこか信用を置いていないっていう。その根本に何を描いているのかが大事で、そこに到達する物語には重きを置いていないんです。それは誘導であるし、誘導とはひとつの権力だから、そこに自分は乗っからないし乗っかりたくないと思っている人が作る演劇というのは、やっぱり面白いんですよね。

だからシェイクスピアの戯曲ではなく、プルカレーテさんの持っているテーマを僕らがどう汲み取って形にしていくか、その発見を毎回やっていくことが稽古になっている。

僕らが通常の稽古でやっているような練習や反復ってこととは、あまり関係なかったり。だから劇場に行ったらまたゼロに戻る可能性が十分あるという中で稽古をしていて、そのスリリングに僕らがどのぐらい耐えられるかっていうのもあるんですけど(笑)。

植本 逆に初日とか、緊張しなさそう。スーッと入っていって、台詞忘れたら考えて喋ればいいかな、みたいな(笑)。今回は瞬発力とか対応力を求められている気がするから、そこを頑張りたいです。

今回はとにかく、答えを急ぎすぎたら負けなんだっていう(笑)。

手塚 ま、完成なんて結局しないですからね、演劇なんて。

取材・文 武田吏都

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「リチャード三世」

■10月18日 (水) ~2017年10月30日 (月) 

※10/17(火)プレビュー公演

■東京芸術劇場 プレイハウス

作:ウィリアム・シェイクスピア

翻訳:木下順二
演出・上演台本:シルヴィウ・プルカレーテ

出演:

佐々木蔵之介

手塚とおる 
今井朋彦 
植本純米(植本潤改メ)

長谷川朝晴 
山中崇

山口馬木也
河内大和 
土屋佑壱 
浜田学 
櫻井章喜

八十田勇一
阿南健治
有薗芳記
壤晴彦

渡辺美佐子

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