■ミュージカル『ビューティフル』特別連載 vol.3■
数々の名曲を生み出しているアメリカのシンガーソングライター、キャロル・キングの半生を描いたミュージカル『ビューティフル』。
2013年にブロードウェイで開幕、翌年にはトニー賞主演女優賞などを受賞した大人気ミュージカルが、水樹奈々&平原綾香を主演に迎え、この夏、日本初演されます。
7月5日、この作品の稽古場が報道陣に公開されました。 その模様をレポートします。
披露されたのは5曲。
いずれも60年代アメリカの大ヒットナンバーです。
このミュージカルでは、キャロル・キングらが作った楽曲が彼らの心情を表現するとともに、実際にその楽曲が生み出された瞬間を芝居として描いていく...という、ミュージカルとしてとても面白い構造をしているのです。
『ウィル・ユー・スティル・ラブ・ミー・トゥモロー』
高城奈月子さんら女性キャストがシュレルズに扮して歌います。
主人公のキャロル・キングといった人々は、音楽を作り出していく「クリエイター」ですので、彼らが作った名曲の数々を歌っていく「スター」たちには、この作品ではいわゆるアンサンブルの皆さんが扮していくのです。
『ワン・ファイン・デイ』
エリアンナさんらシフォンズ役が歌うテレビ局での収録シーン。
曲を作ったキャロル・キング(水樹奈々)、ジェリー・ゴフィン(伊礼彼方)も収録に立ち会っています。
満足そうなキャロルに対して、
ジェリーは少し不満気。
そんな、音楽に対する思いへの違いに加え、夫婦間のすれ違いもあらわになっていきます。
(さらっとジェリー、ひどいことを言ったような...!)
シフォンズから引継ぎ、水樹キャロルが切ない思いを歌い上げます。
『プレザント・バレー・サンデー』
モンキーズのヒット曲に乗せて、アンサンブルの皆さんと、ジェリー役の伊礼さんが熱唱。
物語では、ジェリーが少しずつ不安定になっていったりしています...。
こちらはプロデューサー、ドニー・カーシュナー役の武田真治さん。
『ウォーキング・イン・ザ・レイン』
こちらはキャロル&ジェリーコンビの良きライバル、バリー・マン(中川晃教)、シンシア・ワイル(ソニン)のコンビによるナンバー。
ふたりは仕事上もプライベートもパートナーですが、プライベートでもパートナー。バリーがシンシアに「一緒に暮らそう」とプロポーズ(?ですかね?)するシーン。
『ナチュラル・ウーマン』
キャロルとジェリーのコンビがアレサ・フランクリンに提供したヒット曲。
キャロルものちにセルフカバーしています。ジェリーと別れた傷心を乗り越え、キャロル(平原綾香)が力強く歌い上げます。
レコーディング中!
稽古披露後に行われた、質疑応答もレポートします。
まずは稽古場を披露した感想から...。
水樹奈々
「沢山の方に取材に来ていただいて、緊張しました。まず第一段階のこの緊張を味わって、本番はこんな感じなのかなという疑似体験ができて楽しかったです。まだ3週間あるのでここから更に積み上げて、たくさんの方に『ビューティフル』を観ていただけますようにと思っています」
平原綾香
「私はミュージカル出演が2回目ですが、ほとんど初心者。でもキャストの皆さんが歌も演技も素晴らしく、人柄も良いこの現場にいられて幸せです。とにかく笑いが絶えない現場です。一応、キャロル・キングが主役ですが、みんなが主役のミュージカルですし、皆さん(いつも)主役を張っている方々。大きなものに抱かれながらキャロル・キングを演じています」
中川晃教
「『ビューティフル』で描かれてる時代は、昨年私がやらせていただいた『ジャージー・ボーイズ』のフランキー・ヴァリの活躍した時代とほぼ重なっていて、何か縁を感じています。そしてその中でキャロル・キングを演じるおふたりが、日本を代表する歌姫である平原さんと、アニメ・声優というところで幅広く活躍しつつ、バックボーンは演歌という実力を持っている水樹さん。多岐にわたって活躍されているおふたりの存在がこのミュージカルシーンで花開こうとしている衝撃的な感動、そこに自分が携われるということも縁を感じます。僕もシンガーソングライターとしてデビューし、音楽というところを柱に持ちながら、ミュージカルも真剣にやっています。そんな色々な経験を経て去年の『ジャージー・ボーイズ』と出会い、いま、"音楽が主役のミュージカル"がこうやって熱いんだ、そして求めてくださっているお客さまがたくさんいらっしゃるんだということを再認識しました。そんな流れでキャロル・キングの『ビューティフル』。自分のできる役割かを考えながら、お稽古を通して本番に向かって頑張っていきたいと思います」
伊礼彼方
「僕が演じる作詞家ジェリー・ゴフィンは、キャロル・キングのメロディに乗せて初めて自分の歌詞が生きて、なおかつ当時の時代のヒットチャートをバリー&シンシアと競い合う。僕もこのお話を頂いたとき、(劇中の)半分くらいはキャロル・キングの曲だと知ってましたが、半分は他人に提供されたキャロルの曲だとは知らず聴いていました。でも全曲ほぼ知ってはいましたので、皆さんにもなじみがあるのではと思います。当時の曲は少し古臭いアレンジだったりしますが、ミュージカルでは現代にアレンジされていたりと、より聴きやすくなっています。アッキー(中川)が言ったように音楽が主役のミュージカルですので、とことん(キャロルの)おふたりに歌っていただいて、僕らは芝居の部分を担っていければ。演出サイドにも、ミュージカルと謳っていますが実際はほぼストレートプレイだと言われています。お芝居の中に彼らがクリエイトした曲がトップに上り詰めていくというのを、アンサンブルの皆がスターとして歌ってくれて描かれていきます。そこが見どころですので、楽しみにしていただければ」
ソニン
「キャロル・キングが主役ですが、キャロル&ジェリーのライバルとしてバリー・マン&シンシア・ワイルのカップルがいて、その対比も面白いミュージカルです。先ほど演じたのはロマンチックなラブシーンでしたが、あれが唯一のロマンチックなシーン(笑)。あとはテンポ良く、夫婦漫才みたいな感じで、この作品の芝居の深い部分をテンポ良く運んでいく役目でもあると思います。音楽も楽しめますが、笑いもあって、老若男女楽しめる作品です。
私はいまふたりのキャロルと芝居をしていますが、とても違う。たとえば水樹さんのキャロルは、16歳からはじまり本当に子どものようなキャロルがどんどん人生をくぐり、成長していく。その様子を見守ってあげたくなるような、頭をなでたくなるような感じで、自分が姉御肌になってキャロルと友だちになる感覚です。綾香ちゃんのときは「そうだよね、いろいろあるよね」と肩を組みたくなるような、一緒に私もキャロルと上にあがっていかなきゃという気持ちにさせられます。ふたりのキャロルも違うし、ふたりのキャロルが違うことによってまわりも違う物語になっていく。ぜひこのWキャストの醍醐味を感じてください。まわりもアーティスト色が強い人が固めている。とても面白い、化学反応や変化が起こりうるミュージカルだと思います。色々な楽しみ方をしていただきたいです」
武田真治
「...今日僕がどこにいたかわかりました(笑)? たまたま、今日の抜粋したシーンは出番がちょっと少なめだったんですが、作品の中ではとても重要な役をやらせていただいています。僕が演じるドニー・カーシュナルがいなければ、こいつらなんて全然世に出るようなこともなかった、重要な、重要な役どころです!
...そんな重要な役であり、年長者である私からまとめさせていただきます。本来はミュージカルというのは主人公が物語が進むにつれ、登場人物の気持ちを吐露するために音楽を使って歌い出したり踊りだしたりするのですが、このミュージカルでは「こういう状況の中からこういう名曲が生まれた」という、時系列に沿った使われ方をしています。ですので、他のミュージカルではアンサンブルといわれる方々は一節歌ったり、ハーモニーに徹することが多いのですが、今回は全員が(歌手役に扮し)ソロナンバーを与えられているという、極めて挑戦的な、面白いミュージカルの構成となっています。全員が与えられているんですソロナンバーを。...私以外は(笑)。
そしてプリンシパルの人たちがあまり踊らず歌に集中していたのは、まさに楽曲が生まれた瞬間、その楽曲がレコーディングされて、吹き込まれた瞬間をお芝居として歌っているという作りなので、伊礼君がいった「ストレートプレイを演じている感覚」というのはまさに僕たちにはあるのですが、観ていただくお客さまには新しい形のミュージカルを楽しんでいただけるのかなと思います」
――演じる側にまわったからこそ気づいた、この作品の素晴らしさや発見などを教えてください。
水樹「いざ舞台にあがって自分がキャロルになってみると、台本を読んでいた時や、自分が(ブロードウェイで)観たときとは違う感覚が沸いてきました。観た時は、劇場全体が「キャロル頑張れ」と団結するようなお芝居だと思ったんですが、それは彼女がかわいそうだから、大変だから頑張れということではない。彼女自身の強さがあって、常人ではたぶん耐えられないようなひどい環境におかれることもあるんですが、何があっても笑い飛ばして諦めず、前に進んでいくというエネルギーを持っているから。普通の人ではそういう行動はとらないな、そういう考えには至らないなという感性を彼女は持っていて、キャロル・キングのすごさを改めて感じています」
平原「キャロルは17歳で出産して、28歳で浮気されて、離婚する。離婚も4度経験します。想像ができないくらい壮絶な思いも抱えながら名曲を作り出していったんだなと思います。ある意味で肝が据わっていないと出来ない。でもたとえ10代でもしっかりしてる人っていますよね。きっとそういう人だったんだなと想像しながら演じています。台本をみていても思うのですが、彼女は誰ひとり傷つけない。どんなに冷たくされても、傷つけられても、常に愛を配っていて、(夫の)浮気相手にあっても責めない。常に愛を持っていきてきたからこそ『ユーヴ・ガッタ・フレンド』という曲が生まれたりしている。"すべての人に愛を"というのが、私がキャロルを演じる上でのテーマ。そういう彼女の人間性にも実はかなり惚れていて、演じるときには彼女の人としての素晴らしさ、人間的魅力が出るような演技をしたいなと思いながらいつもお稽古に励んでいます」
中川「僕、バリー・マンという存在をちゃんと認識したのはこの作品に入ってからで、今もまだ彼がどういう人物か、演出のジョイスさんからノート(ダメ出し)をもらう中で探している最中なんですけど、実在する人物を演じるのはとっても面白いです。ましてやそれが作曲家という、僕自身音楽を生み出す瞬間を感じている人間から見て遠くない存在だからこそ。どうやってこの曲たちが生まれたんだろう、と思います。たとえば対比でいえば、キャロル&ジェリーがティーンネイジャーに向ける曲を書いて、それがヒットする。一方僕たちは「また(彼らは)ビルボードトップ1だぜ」と思って、僕らはどうしようかと、彼女たちには書けない大人っぽい曲を書こうと『オン・ブロードウェイ』という曲を作った。これが、めちゃくちゃクールでカッコいいんですよ。唯一その曲を僕自身が歌えないのが残念って思えるくらい。そしてこの作品の凄いところは、60年代、70年代の古い曲が新しく感じるところ。もっと言えば"古い曲"ではない、今生まれた瞬間の曲なんだってお客さんに届けていく。その構造が秀逸で、僕なんかは「やられたー!日本もオリジナルミュージカル書こうよ!」という気持ちになりました。音楽の力を感じました」
伊礼「僕はこの作品を通して、ひと言お伝えしたいのですが...、浮気はよくないです。キャロル役のおふたりからすごい白い目で見られるんです。でもジェリー・ゴフィンであってけして(浮気をしているのは)僕じゃないんですよ。休憩中罵倒するのやめていただきたい。でもホントにキャロル・キングは懐が広いのかよくわからないけど、ジェリーは他の女性、ジャネール・ウッズという人とも結婚していて、子どももいる。キャロルとももちろん子供がいるので、そこと行き来できるように近くに家を買って、キャロルはそれを認めている。すごいですよね。(平原「子どものためよ!」)...だから皆さん浮気はしちゃいかんですよ」
――水樹さんと平原さんに。カバーでなく、役として歌うことで、発見があれば。
水樹「私は声優として活動している中でキャラクターソングを歌うことがよくあって、キャラクターの声になりきって歌う、役で歌うということはこれまでもトライしています。でもそれはあくまでも声だけで表現するもの。今回は身体全部をつかっています。声色を調整してキャロルをやっているのではなく、ソウルからキャロル・キングになって歌うことがいかに難しいかを改めて感じています。ちょっとした手の動きひとつとっても、つい自分が歌うときに動かすようなポイントで動いてしまう。「キャロルだったらここは動かさないかも」と思ったり、も頭でそれを考えてる時点でキャロルになってないなとか...。もっと自然とキャロルになりきれれば、キャロルのまま歌うことができるんじゃないかな、それをあと3週間でみつけないと、と模索しているところです。でも、先ほどお話にもありましたが「この瞬間にこの曲が生まれた」というお芝居のパートがあるからこそ、「さあキャロルとして歌わなきゃ」と考えなくても、自然にそこにいける自分がいます。歌の練習をしているだけでは発見できないものが、お芝居と一緒になることでたくさん気づけていて、毎日が楽しいです」
平原「私は、歌うときに目をつぶらなくなりました(笑)。ソロで歌う時に目をつぶっちゃうことが多かったんですが、最近、目をあけているのがすごく嬉しい。いまコンサートツアー中で、並行してお芝居の稽古なのでハードではありますが、キャロルの歌い方をすることで、より、自分の声も強くなってきてる。自分の音楽活動にも役立っているし、自分がいままで生きてきたことを参考にキャロルを演じられるというのもすごく良い。歌手の役だから出来たなと思ってます。でもどうしてもお客さんの方を向きたくなっちゃって、それが苦しい(笑)。でも彼方さんが仰っていて面白かったのが、「こんなにも歌詞をみながら歌っていいミュージカルってないよね」って。確かにそうだなって...。
(というところで、伊礼「歌詞を覚える必要ないからね」 武田「彼方...少しはいいこと言おうか(笑)」 伊礼「だって覚えなくていいんですよ?」 武田「俺、いじわるして紙とってやるからな!」 伊礼「やめて~」...というやりとりもあり...)
...なので、今までの活動と全然ちがうこともありますが、まわりの人たちが...特にアッキーがアドバイスをくれるんです。それがすごく嬉しい。同世代だけど大先輩が側にいる安心感とともに毎回頑張っています」
取材・文・撮影:平野祥恵(ぴあ)
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・7月26日(水)~8月26日(土) 帝国劇場(東京)