KAAT神奈川芸術劇場芸術監督の白井晃が演出を手掛け、近代戯曲を現代に蘇らせるシリーズの第4作目 『春のめざめ』 が開幕。
ドイツの劇作家フランク・ヴェデキントが、中等教育機関で学ぶ少年少女の姿を赤裸々に描いた作品だ。
1891年の発表当時、社会に衝撃を与えた問題作は、現代に何を見せるのか?
客席に入ると、そこには"めざめる"前のような蒼然たる空間が広がっている。
舞台下部には透明のアクリル板による壁があり、音楽が始まると、少年少女役達は一列に並び、壁に向かって自らの身体をぶつけたり、外に手を伸ばしたり。一方、舞台上部には教師や親ら大人達が立ち、彼らを見下ろしている。
白井は制作発表時に本作の世界を保育器に例えたが、見方によっては動物園か水族館のよう。少年少女は、大人の観察下にあるのだ。
抑圧的な道徳観に自らを縛りつけて生きる大人達とは対照的に、閉塞感や不安に押しつぶされそうになりながらも、懸命に外へ羽ばたこうとする少年少女達。
優等生のメルヒオールは劣等生の友人モーリッツの頼みに応じて、子供の作り方を図解。
一方、同級生のヴェントラは母親に子供がどこから来るのかと訊ねるが曖昧な返事でごまかされてしまう。これらの事柄が、やがて大きな悲劇となって彼らに襲いかかるとも知らずに......。
一見スタイリッシュな世界から、生々しい出来事や感情を浮かび上がらせる白井演出の妙。
その中で、運命に翻弄されながらも芯の強さと真っ直ぐな眼差しを失わないメルヒオール役・志尊淳、
繊細さと誇り高さを宿したモーリッツ役・栗原類、
無垢で伸びやかなヴェントラ役・大野いと、
奔放で成熟した魅力のイルゼ役・中別府葵 ら若いキャスト勢が熱演し、
大鷹明良、あめくみちこ、那須佐代子、河内大和 のベテラン勢がそれを支える。
降谷建志の憂いを帯びた抒情的な音楽、平原慎太郎によるエッヂの効いた振付も功を奏して、緊密にして先鋭的な劇空間が立ち現れた。
開幕前の囲み会見では、
志尊 「稽古場ではメルヒオールが社会に対して抱く憤りと向き合ってきました。白井さんやみんなと作ってきたものを、舞台で最大限に出し、そして超えていきたい」、
大野 「緊張していますが、稽古も沢山したし、自分なりに沢山考えたので、あとはヴェントラをちゃんと生きたい」、
栗原 「不安がないと言ったら嘘になるけれど、みんなで一から作ってきたこの舞台で、僕らが何を表現すべきなのか考えながら挑みたい」
とそれぞれに抱負を語ったが、白井の「ベテランとは違う若い皆さんのエネルギーが、我々にとっても新鮮でしたし、その良さが舞台にも出るのではないか」という言葉通り、演じ手達の瑞々しい感性が観る者に突き刺さるような舞台となっていた。
取材・文:高橋彩子
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撮影:二石友希
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KAAT神奈川芸術劇場プロデュース
「春のめざめ」
2017年5月5日~23日 於:KAAT神奈川芸術劇場〈大スタジオ〉
主催:KAAT神奈川芸術劇場
【原作】フランク・ヴェデキント【翻訳】酒寄進一
【音楽】降谷建志
【構成・演出】白井 晃
【出演】志尊 淳 大野いと 栗原類
小川ゲン 中別府葵 北浦愛 安藤輪子
古木将也 吉田健悟 長友郁真 山根大弥
あめくみちこ 河内大和 那須佐代子 大鷹明良