シアタークリエ開場10周年を飾るシリーズ1作目として、2017年1月4日(水)に開幕するマイケル・メイヤー演出、柚希礼音主演の『お気に召すまま』。2007 年トニー賞最優秀演出賞を受賞したマイケルさんに何年も前からコンタクトを重ね、やっと実現したという記念すべき日本初演出作品です!
原作はシェイクスピアの傑作喜劇『お気に召すまま』ですが、今作はマイケル・メイヤー版として新たな世界観で描かれます。キービジュアルからもわかる通り、時代設定をマイケルが「アメリカが一番自由で幸せだった時代」という1967 年に置き換え、劇中の"アーデンの森"はサンフランシスコのSummerof
Love (10 万人のヒッピーが集まったイベント)に、"宮廷"は当時のワシントンDCに!
マイケルさんのポップな世界と、"シェイクスピア作品で最も幸福な喜劇"と言われるロマンティックな世界が融合した本作が一体どうなるのか...気になりますよね! そこで、『お気に召すまま』の名台詞「人生は舞台
ひとは皆役者に過ぎぬ」を語る登場人物・ジェイクイーズを演じる橋本さとしさんにお話を聞かせていただきました。
――橋本さんはこれまでもシェイクスピア作品にご出演されてますね。
日本では蜷川幸雄さん(『NINAGAWA・マクベス』)、海外だとジョン・ケアード(『十二夜』)やジョナサン・マンビィ(『ロミオ&ジュリエット』)演出の作品に出演しています。でも今回はアメリカンなシェイクスピア。僕にとっても未知なる作品になりそうです。
――場所の設定からアメリカになっていますよね。
アメリカで最もエネルギッシュだったヒッピームーブメントを背景にしていて。面白い解釈ですよね。台詞自体は原作が生かされていますが、時代は現代に近い。ただ、シェイクスピアのすごいところは、時代をいつにしようが、国をどこにしようが、結局成り立つんですよね。人間模様が普遍的なので。新しいものを演じる意識はもちろんあるんですけど、でもやっぱりシェイクスピア作品なんだよねっていう。
――そんなシェイクスピア作品を演じる面白さとはどういうところですか?
やっぱりとてつもない台詞力で。最初はそこに振り回されるんですよ。だけどいつしかそれが自分の台詞になったときに「シェイクスピアの台詞を俺、操ってる!」って。自由自在にシェイクスピアの台詞の中で遊んでる自分に快楽を覚えるんですね、役者として。尚且つ自分が役者であることをすごく意識させられて。だから"原作:シェイクスピア"って聞くだけで、鼻息が荒くなるというか。「よっしゃやるぞ。そしてまた俺成長するぞ」って。
――今作は台詞の中でも名台詞を担われてますよね。
この台詞を喋れるのは光栄なことだし、責任もある。ちゃんと作品に生きるナチュラルな台詞にしたいですね。でも今まで聞いたことないような"あの台詞"になると思いますよ。マイケル・メイヤーさんがそこを大事にしていることがわかる演出になっているので。
――稽古はどのように進んでいますか。
マイケルさんは一回本読みをしたらもう「じゃあ立ってやってみよう!」です。役者が立って台詞を吐いたときにどう見えるかを見てくれる。そこで恐ろしいほどのアイデアがパパパパッと出てくるんですよ。それはこちらも掻き立てられるようなもので。
――役者の心情に寄り添うアイデアだから掻き立てられるのでしょうか?
そうだと思います。それによって役者のテンションがゴンと上がったりしますし。シーンをよりカラフルにするために突いてくれる。しかもそれがその場での思いつきや反射神経だったりするんですよ。天才なんでしょうね、だから。楽しいです。そこで新しいアイデアが生まれて笑いが起こる。稽古場で誰より笑い声が大きいのはマイケルさんですけど(笑)。
――言葉が違っても。
そうなんですよ! 言葉がわからなくても笑ってるって、僕らが表現したことに対して何かを感じてくれてるんだなって。だからマイケルさんが笑ったときって本当に面白いんだなって思えるんですよね。多分、ものごとの楽しみ方をよく知ってらっしゃるんでしょうね。他の人のシーンを観てても「あはは! そうなるんだ」みたいな。ジェイクイーズですら、どこかチャーミングで愛せる男にしてくれるし。稽古場が楽しいです。
――マイケルさんは日本語が話せないそうですが、言葉が通じない中でマイケルさんの頭の中にあるものをどう形にしていくのですか?
マイケルさんは、見せれば彼のひらめきが生まれる。だからディスカッションというよりは動きながら作っていく感じです。僕は英語が喋れませんから、演技で会話することがほとんどですね。面白いですよ。
――主演の柚希礼音さんは初共演ですね。
かっこいいですよ! 柚希さん演じるロザリンドは男になりすますシーンがあるんですけど、「うわーほんまもんや!」みたいな。台詞の吐き出し方、佇まい、そりゃもう"レジェンド"と呼ばれるなって思えるもので。でも女性的なところもかわいくてね。それって類い稀なる才能だと思うんです。だけど、普段は気さくでとっても素敵。板の上だけじゃなくて、稽古場でも人としての根っこがある方なんだって気がします。僕も素の部分を遠慮なく見せて、ぶつかり合って、分かち合って、板の上でグッと手を握り合ってできたらなって。
――素を見せるのは作品を作るうえで大事なことですか?
自分が今までやってきた方法論はそうですね。特に舞台の場合は1か月みっちり一緒にいるわけですし、本番始まっても運命共同体でやるわけだから。なあなあになるのはよくないけど、一線引いて芝居するのって僕は寂しい。その人を見ながら芝居していきたいなって思います。カンパニーの空気感は作品につながる、というのは僕の信じているところです。
――この作品はいろんな場所からキャストが集まっていますよね。
そのバラエティに富んでるところも面白いし、そのみんながマイケル・メイヤーさんを筆頭に同じ方向を向いてるっていうのがすごく心地いいです。それはシーンを観ていても感じる。そういう意味で、カンパニーはもうすでにいい状態じゃないかなって思います。
――最後に作品を楽しみしている方に一言お願いします。
シェイクスピア作品って難しいのかなというイメージがあると思うのですが、この作品は今まで観たことのない世界を見せられる気がしているんです。やってる僕たちがこれだけ楽しみだから、お客さんはもっと楽しんでいただけると、すでにその自信があります。早く観ていただきたい...けど、ちょっと待って。まだ台詞入ってないから(笑)。
公演は、2017年1月4日(水)から2月4日(土)まで、東京・日比谷 シアタークリエにて。
ライター:中川實穗 カメラマン:石阪大輔