「ミステリーは、先にラストを読んじゃうタイプなんです」――『貴婦人の訪問』瀬奈じゅんインタビュー

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億万長者の未亡人となったクレアが、財政破綻寸前の故郷に戻ってきた。
町の人々は、クレアが資金援助をしてくれることを期待している。
果たして、歓迎の晩餐会の夜、クレアは多額の寄付金を約束した。だがその交換条件に、かつての恋人・アルフレッドの「死」を突きつける。
クレアの真意は、いったいどこにあるのか?
そして、最初はその条件を「とんでもないこと」と笑い飛ばした町の人々だが、次第に「アルフレッドさえ死ねば...」という気持ちが芽生え始めてくる......。


スイスの作家、フリードリヒ・デュレンマットの名作『貴婦人の訪問』を、『エリザベート』『モーツァルト!』『レベッカ』などの名作を生み出しているウィーン・ミュージカル界が舞台化したのは2014年のこと。
大人の男女の濃密な愛憎劇に、"集団心理""拝金主義"といった社会的テーマも絡めた物語を、ウィーン産らしいメロディアスな音楽で彩ったこのミュージカル『貴婦人の訪問 -THE VISIT-』は、大ヒットとなりました。

日本では翌2015年に山口祐一郎(アルフレッド)、涼風真世(クレア)を中心とした豪華キャストで初演。
こちらも大好評を博し、早くも再演の運びに。

初演キャストが続投する中、山口祐一郎扮するアルフレッドの妻・マチルデとして、作品に初参加するのが瀬奈じゅんさん。
今回はその瀬奈さんにお話を伺いました。

まだ、稽古も始まっていない...どころか、作品について、演出の山田和也さん含めほぼどなたともお話をしていない! というタイミングでの取材でしたが、作品の魅力のみならず、そんな段階で演者がどう役に向き合い、何を考え、どんな心構えでいるのか......をも垣間見れる、貴重なインタビューとなりました。


◆ 瀬奈じゅん INTERVIEW ◆

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――サスペンスフルなミュージカルです。瀬奈さん、ミステリーとかは、お好きですか?

「あのー...、実はあんまり好きじゃないです(笑)。ドキドキしちゃうの。ミステリー小説を読んでいても、先にラストを読んじゃう。そこから安心して、最初に戻って読む...という、おそらく作家にとっては最悪な読者です(笑)」


――血や凄惨なシーンが苦手、といったことではなく、何が来るかわからないのが苦手?

「そうです、そうです! だからよく、映画やドラマを観る前に「お願い、結末言わないで」って言う人いるでしょ。私は反対なんです。「結末教えて」ってお願いしちゃう(笑)。その上でやっと安心して観られるんです。「ああ、だからここはこうなるのか」と考えながら見るのが、好き」


――では、この作品は、考えがいがありましたね(笑)。現時点でどんな印象を抱いていますか?

「考えがい、あります(笑)。すごく色々なことを考えさせられる作品です。ふつう、舞台を観ていると主役に感情移入をすることが多いと思うのですが、これはさまざまな役の立場になって考えてしまいました。「この人は何なんだろう」「この人はどう思っているんだろう」と。しかもそれをミュージカルでやる、というのが面白い!」


――ミュージカルという面では、どう思われましたか。

「音の層が厚いな、と。もちろんそれは、出演されている皆さんの歌唱力が素晴らしいということもあると思うのですが。バラエティに富んだ、色々なタイプの楽曲が出てきます。でもその中で私が歌わせていただく曲は、ちょっとほかとは毛色が違うんですよ」
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――どんな印象の曲でしたか?

「サスペンスタッチの作品なので、おどろおどろしいタイプの楽曲なども多いのですが、私が演じるマチルデの歌はとても爽やかで、愛に溢れています」


――そのマチルデは、山口祐一郎さん扮するアルフレッドの妻。平凡で、いわゆる"普通の主婦"ですね。失礼ながら、今までの瀬奈さんのイメージからすると、少し意外な役どころです。

「ふふふ(笑)! 大丈夫です、私もそう思いましたから。陽気な役、派手な役ばかりやってきていますし(笑)。プロデューサーにも、多分今までやったことのない真逆の役だと思うから、すごく勉強になるよと言われました」


――他のキャラクターがアクが強い中、すごく控えめな女性ですね。

「"良妻賢母"!という感じですよね。(かつて演じた)エリザベートも...まったく良妻賢母じゃないし。アンナ・カレーニナなどは家庭を持っていても不倫する役だったりしたので(笑)。まず、人に尽くすという役も初めてかもしれません」


――でも実は、いつだかの『エリザベート』の時に、小池修一郎さんが、瀬奈さんは派手で明るい役が多いけれど、本人の資質としては真逆なんじゃないかと仰っていたことを覚えています。

「...小池先生は、悔しいことにすごく、私のことをわかってるんですよね(苦笑)。そうなんですよ...。だから実は、私自身はマチルデ役、そんなに違和感がないんです。ただ、イメージとしては、自分の生きたいように生きている役を演じることが多かったので(笑)。と言っても、確かに今までは"陽"の役をたくさん演じてきましたが、マチルデがけっして"陰"の人だとは思わないんです。アルフレッドにも「君は楽観的だ」というようなことを言われたりもしていますし」
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――マチルデという女性は、瀬奈さんの目にはどう映りましたか?

「まず、アルフレッドはクレアのことをどう思っていたのか...ずっと愛していたのか、どうなのか、というのが話のポイントでありますよね。それはつまり、アルフレッドはマチルデのことを愛して結婚したのか...ということでもあります。私、最初に台本を読んだ時に、マチルデは夫が自分を愛して結婚したと信じきっているんだろうか、それとも自分を愛していないことに気付きながら、いつか自分を本当に愛してくれると思って生活しているのか、どっちなんだろうと疑問を抱きました。私の主観で言えば普通、一緒に生活をしていたら、夫が自分のことを愛していなかったら気付くと思うんですよ」


――確かに。

「でも物語上、ラストをドラマチックにするには夫の愛を信じきっていた方がいいのかもしれないな、とも。だから、自分がこうと思ったイメージで突き進まずに、演出の山田和也さんの要望にお応えできればと思っているんです」


――でも、瀬奈さんが感じたように、観る方に「どっちだろう」と思わせるのも、芝居の面白さですね。

「そうなんですよね。どう捉えてくださってもかまわない。ただ、演じる側としては、そこをちゃんと芯を持って演じないと、まわりの人とかみ合わなくなってくるので。自分の中でちゃんとしたものは持っておかなくちゃとは思っています」


――ちなみに、出てくる登場人物みな、何を考えているかわからない人たちばかり。誰がいちばん胡散臭いと思いましたか?

「胡散臭いといいますか......元凶はなんと言っても、アルフレッドですよね!! 一番ひどい。でも、そんな人を、私はとことん愛しますよ~!」


――マチルデは最初からずっと、アルフレッドのことを好きだったんですよね。

「結婚前、アルフレッドがクレアと恋人同士だったときも知っていて、それでもずっと思いを寄せていたんです。だからやっぱり、自分と結婚するとなっても、簡単に自分のところに来てくれた! って思えない気がするんですよねぇ...。本当はマチルデが一番したたかだと思うんですよ、私は! でも作品の中でそのようには描かれないのかなとも思ったり...。自分の凝り固まった考えを稽古場に持っていかないようにしないといけないですね」
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――そして物語としては、"拝金主義""集団心理"というものも描かれています。つまり、アルフレッドの死とひきかえに、町に大金が入るかもしれない。目の前に、"入るかもしれない大金"をぶら下げられて、町中の人々の金遣いが粗くなっていく。そんな状況でみんなの金払いがよくなっていったら、瀬奈さんだったら、一緒になって遣っちゃいますか?

「いや、私だったら、お金を遣う以前に心配になっちゃいますね。「みんな、そんなにお金を遣って大丈夫!?」っておろおろしちゃうし、みんなを制しちゃうと思います。でもマチルデは、みんなと一緒にお金を遣うでもなく、冷静に、普段のまま。この物語、皆さんがどんどん変化していってしまうのが印象的じゃないですか。でも、その中でもまったく変わらない、いつまでも地味なマチルデというのも、逆に印象に残りました。そこが今、マチルデという女性に対して私が抱く疑問点でもあります。私だったらあんな風にニコニコしていられない! それが"楽観的"と言われる部分でもあるんでしょうね。でも逆に怖いです、ちょっとホラーにすら感じます」


――面白いです、物語上は集団心理に流されていく人と、流されず変わらない人の2極に分けられると思いますが、瀬奈さんの視点はさらに別の視点ですね。変わらないでいることも普通じゃないというのは、新鮮です!

「なんでしょう...、やっぱり私とマチルデは、絶対的に違うところがあると思うんです。でも全然違うからこそ、きっと演じるのは楽しいでしょうね。そこに、小池先生の言う"陰"の面が自分にあるというのもわかっているので、それをうまく出せればいいですね。マチルデは決して"陰"ではないと思いますが、かもし出すものがちょっとジトっとしているのかな(笑)」


――そして共演の皆さんが豪華ですね。いわゆる、"ザ・東宝ミュージカル"なメンバーです。

「本当に(笑)。私、アンサンブルで4名、初めましての方がいらっしゃいますが、ほとんどの方と共演しています。まず山口祐一郎さんは、とにかく大きい方。身体もですが、心も器も。私、今まで『エリザベート』でも『三銃士』でも、山口さんが演じる役に支配されている、という関係ばかりでしたので、今回は夫婦。懐の大きい山口さんを、どう包み込もうか...って思っています(笑)。
涼風真世さんは、『クリエ・ミュージカル・コレクション』でご一緒させていただきましたが、お芝居をさせていただくのは初めてですので、すごく楽しみです。宝塚時代も組も違いましたし、私が研2の時に退団されているので、ご一緒させていただく機会がありませんでしたので。映像を観て、涼風さん演じるクレアの迫力に鳥肌が立ちました。また、こういうミステリアスな役柄がすごくお似合いですよね。しかもこの役にかける情熱のようなものもひしひしと感じました」
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――瀬奈さん自身、ミュージカルの舞台は久しぶりですね。

「すごく久しぶりです。『シスター・アクト~天使にラブ・ソングを~』以来ですので、2年半ぶり。私もただ、ワクワクしていますし、皆さんと一緒に作品を作り上げるのが、楽しみです」


――ちなみに、心理サスペンスだったり、ミステリーだったり、愛憎物語だったり、群集心理の怖さを描いた社会派物だったり...この作品、色々な見方が出来ると思いますが、瀬奈さんはこの作品はどのジャンルの物語と捉えましたか?

「喜劇、でしょうか。シェイクスピアの喜劇っぽいです。シェイクスピアって、人がたくさん死んでも"喜劇"に分類されたりするじゃないですか。それは、そこで生きる人間の滑稽さが"喜劇"と呼ばれるゆえんだと思うんです。この物語もそういう要素がとてもあります。ミステリーだし、悲劇なのかもしれないけど、人間のおろかさや滑稽さが全面に出ている、人の欲に溺れた喜劇。怖いんだけど、人間って、浅はかで、ずるくて、欲にまみれているよね、という部分をクローズアップして、人間の滑稽さを描いていると思います」


――なるほど! そして先ほど、瀬奈さんはそういうタイプじゃないと仰っていましたが、ミステリー仕立ての作品は、結末を知ると興をそがれてしまう人も多くいます。そういった作品が、リピーターが多いミュージカルというジャンルで成り立っているのも興味深いです。

「この作品は観た後に、一緒に観た人と討論できる作品だと思うんです。だから観ている最中ももちろん楽しめて、観終わった後も楽しめる。それに主役だけじゃなく、色々な人の心情を深く考えられる物語ですので、何回も観る方にとっては、今日はこの人の視点で見てみよう、といった楽しみ方ができると思います。もちろん、「この歌もう一回聴きたい」「この場面もう一回観たい」というミュージカルの王道の楽しみ方もできる。だからこそ、初演が好評で、このたびの再演になったんだと思います。全然、リピートも出来る作品だと思いますよ!」
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取材・文:平野祥恵(ぴあ)
撮影:源 賀津己


【公演情報】
・11月3日(木・祝)~5日(土) THEATRE1010(東京)※プレビュー公演
・11月12日(土)~12月4日(日) シアタークリエ(東京)
・12月9日(金)~11日(日) キャナルシティ劇場(福岡)
・12月17日(土)・18日(日) 中日劇場(愛知)
・12月21日(水)~25日(日) 梅田芸術劇場シアター・ドラマシティ(大阪)

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