緻密で勢いのある良質なコメディーを作らせたら天下一品!の劇作家で演出家の倉持裕さん。その倉持さんがこの秋、待望の新作コメディー『家族の基礎~大道寺家の人々~』を引っ提げ、シアターコクーンに初登場します。9/6(火)の初日に向けて着々と準備が進行中の稽古場に潜入、果たしてどんな作品になりそうかを探ってきました!
とある家族の、ある意味"壮大"な歴史を描く群像劇となる今作は、キャストも超豪華! 大道寺家の父・尚親(なおちか)と母・須真(すま)に扮するのは、これが舞台初共演となる松重豊さんと鈴木京香さん。長男・益人(ますと)には初舞台の林遣都さん、長女・紅子(べにこ)には舞台でも大活躍中の夏帆さん。さらには堀井新太さん、黒川芽以さん、坪倉由幸さん、眞島秀和さん、六角精児さんといった個性派がズラリと顔を揃えます。
お邪魔した日は本番まであと約2週間、というタイミングで稽古はまさに佳境。稽古場に入ると、真ん中には大きな円が描かれていて、これは廻り舞台との境界線の印とのこと。実は今回の芝居、廻り舞台を駆使する演出を行っている模様。とはいえ稽古場の床は実際に廻すことができないため(本番前に廻り舞台を使える稽古場に移動するそう)、ここでは演出の倉持さんはもちろん、スタッフもキャストも各自の動きと舞台の回り具合を想像力で補いつつ、動きを計算していかなくてはいけないのです。これってかなり、脳が刺激される作業といえそう!
見学させていただいたのは、二十一場。この芝居はトータルで二十七場まであるので、ここは後半部分のクライマックスシーンと言えそうです。稽古場の中央には可動式の大きな3つの箱状の舞台装置があり、これが物語の展開によって出たり入ったり、向きを変えたりすることで場面転換を行うのです。この場面では舞台は東京のはずれにオープンさせた劇場"大道寺シアター"の舞台袖ということになっていて、この箱状装置の向こう側がステージという設定。劇場のこけら落とし公演の初日を迎え、右往左往する大道寺家の人々、そしてその周囲の人々。ステージ上では須真役の鈴木さんと、大衆演劇の座長・五郎丸役の六角さんとが劇中劇を行うことになっているのですが......。観客席からは装置が邪魔して、この劇中劇は後ろのほうでチラチラ見える、という感じになりそうな様子。倉持さんから「手前でやっている芝居がメインですので、劇中劇のほうは気楽にやってみてください!」と言われ、鈴木さんも六角さんも時々アドリブを入れたりもしながら楽しそうにセリフを重ねていきます。途中、鈴木さんがうっかり他の役者に向かって「須真さん?」と呼び掛けてしまい、「あ、須真さんは私だった!」と叫ぶというお茶目な一面を見せて一同爆笑、という場面も。倉持さんも「よくあることですよ」とニコニコ。
装置の手前で行われるメインの芝居というのは、松重さん演じる尚親と林さんと夏帆さん演じる子供たちとのやりとりが中心で、そこにさまざまな登場人物が出たり入ったりしていきます。尚親は基本的に大真面目な表情なのですが、ちょっと視線の方向を変えたり、ほんの一瞬の間を入れるだけで笑いが生まれてくるところに松重さんのコメディーセンスが感じられ、林さんと夏帆さん兄妹のテンポの小気味いいやりとりも相俟って物語がトントンとうまく転がっていきます。
そして途中で始まるアクションシーンをきっかけに、廻り舞台が動き出します。最初は口で説明してニュアンスを共有し稽古を進めていたのですが、やはり実際に動かしてみよう!ということに。そこで早速、舞台上の3つの箱を大勢のスタッフの人力によって円の内側で時計回りにぐるっと動かし、そのスピードに合わせて役者も動いていくことで感覚をつかんでいきます。倉持さんの「いきまーす、ハイ、どうぞ!」の掛け声とともに、アクションシーン部分がスタート。動いていく3つの箱に合わせて走り回る役者たち。なかなかの迫力です。そして、この場面である人物が大変な出来事に巻き込まれることで、大道寺家の家族それぞれの運命がガラッと変わっていくわけなのですが......この先は本番までのお楽しみ!
どうやら今回の稽古場では劇中の父・尚親ともリンクするかのように松重さんがリーダーシップをとってカンパニーを引っ張っていっている様子。スタッフからの情報によると松重さんは稽古当初からセリフがばっちり入っていたそうで、それが周囲にも好影響を与えているとのこと。この日も役者のほうから倉持さんに向けて意見やアイデアが頻繁に出ていて、必要以上にピリピリしている感じもなく、終始リラックスモードの温かい雰囲気の稽古場という感じを受けました。
それぞれがちょっと風変わりな人物ばかりの大道寺家に人々、引き起こす事件も奇想天外な出来事だらけ。父が、母が、長男が、長女が求める"幸せ"とは、"家族"とは......!? 昔なじみの知人や子供たちの友人もひっくるめて、一家はどこに向かおうとしているのか?? 不思議な味わいの倉持流・家族史コメディーを、どうぞお見逃しなく!!
取材・文:田中里津子