15分編集なしの"演劇動画"を競うクォータースターコンテスト(以下QSC)の第4回大会が昨年12月に開催され、各賞の発表が行われました。
演劇・舞台系動画のニュースサイト・エントレ主催の同コンテストは、WEB上に投稿された演劇動画を各界で活躍するクリエイターが審査し、1位〜3位までを決定。グランプリを獲得すると賞金30万円が副賞として授与されます。
第4回目の審査員は、立ち上げより参加している演出家・作家の鴻上尚史さんをはじめ、シンガーの野宮真貴さん、映画監督の行定勲さん、カルチャーサイトCINRA.NET編集長の柏井万作さんが務められました。
また、協力団体が選出する各賞もあり、げきぴあも第1回目から参加しています。
さて、今回投稿された全98本の中から見事グランプリに輝いたのは、、、
百舌の『N.O.A.』です。
俳優は一人しか登場しないにもかかわらず、iPhoneに搭載されている機能「Siri」を巧みに使い、会話劇を成立させるというユニークな手法や、脚本のうまさ、映像へのこだわりが高い評価に繋がり、ふたりの審査員から1位を、ひとりから2位を獲得しました。
各審査員が選んだ結果とコメント詳細はこちら
そして、QSC4の【げきぴあ賞】は、、、
なんとグランプリとダブル受賞となった百舌『N.O.A.』です。
"演劇動画"ならではのアイディア、構成力、映像のセンスがもっとも優れていると感じました。特に人間とSiriの噛み合わないトークがユニークで、SFの世界で繰り返しテーマとなる"人間とコンピューターの共生"がこんな形で発展していったらいいな、と思わせるつくり方にも共感しました。他にも、どうやって撮影したのだろう?と思わせるシーンがいくつかありましたので、撮影の裏話を伺うべく、監督・脚本・撮影の下向拓生さんとマコトを演じた上山輝さんのおふたりにお話を聞きました。
左より上山さん、下向さん
ーーこの度はグランプリとげきぴあ賞のダブル受賞、おめでとうございます!まずはおふたりの自己紹介をお願いします。
下向:社会人4年目で長野県のとある会社で働いています。映画製作は大学生の頃からやっていました。現在は長野に住んでいますが、友人が名古屋や大阪にもいるので、拠点を固定せずに色々なところで活動しています。
上山:大学院の1回生です。大学では映画を作っていましたが、今は部活から引退して何もやっていなかったところ、下向さんに誘われてこの作品に参加しました。
下向:上山くんとは同じ部活ではあるんですけど、自分が引退したあと彼が入部したので、一緒に制作活動はしたことはなかったんです。彼が出演している作品を見たり、OBとして話したりと、引退後も上山くんとは関わりがあったので、今回初めて出演してもらいました。
ーー初タッグということですが、上山さんに出演をオファーした理由はあるのですか?
下向:当初は、映画部の同期たちと一緒にQSCに参加したいと思っていたんですけど、スケジュールが合わず、学生の上山くんならスケジュールが合うんじゃないかと思って(笑)。
ーー上山さんは誘われた時どう思いましたか?
上山:いつか下向さんの作品に出たいと話していたのを覚えててくださって、自分に声をかけてくれたのはすごい嬉しかったですね。
ーー下向さんは、上山さんがいなければこの作品は成り立たなかったとおっしゃってますね。
下向:上山くんは高校時代から演劇部で、(出演した)映画を見てても演技のクオリティが高いと思っていたので、いつか使いたいなと思ってました。今回、上手い具合に事が運びまして、出ていただけることになったので、それだったら彼のイメージに合う当て書きでやりたいなと思って。
彼が前に出ていた映画を見ると、陰のある役が似合っていたので、そういう部分を引き出したいなと思いましたね。
ーー構成がしっかりしていて、そこも高い評価に繋がった要因だったと思います。ところで、"Siri"は最初から使おうと思っていたのですか?
下向:自分は社会人なので、急な仕事が入って撮影がキャンセルになるといろんな人に迷惑をかけることになるので、最少人数で撮りたいと思っていました。それで上山くんの一人芝居をと考えてました。当初は一人で何役も演じる芝居も考えたんですけど、正直、上山くんは有名な人じゃないので、有名じゃない人を15分も見続けるのはお客さん的にも厳しいかなと思いまして。それで電話で会話をしている状態というのを思いついたんですね。そのネタ探しをしていた時に、平田オリザさんの『働く私』というロボット演劇の記事を読みまして、それの動画も見まして、ロボットでも演劇ができるんだなって感じて、じゃあスマートフォンなら"Siri"があるから、彼と"Siri"が会話するのが面白いんじゃないかなって。
上山:"Siri"との会話は今までやったことはなかったんですけど、実際に"Siri"を使う時でも噛み合わないことがあるじゃないですか。そういうことも脚本にうまいこと表現されていたのでそんなに違和感なくできたと思っています。機械としてじゃなくって、ちょっとズレた人との会話みたいな。
ーーところで、ここが一番不思議だったのですが"Siri"の声はどうやったのですか?
下向:聞くと"あ〜なるほど"って思いますよ(笑)。iPhoneには視覚に障がいがある方向けに、画面の文字を読み上げる機能があるんです。その設定をonにすると、書いた文字を読み上げてくれるんです。で、その機能を使って文字にしたセリフを読み上げてもらいました。
ーーへぇー!そんな方法で撮影していたのですね。驚きました。ちなみのこの機能があることは以前から知っていたのですか?
下向:そうですね。これにはちょっと面白い話があるんです。2008年のピクサー映画『ウォーリー』で実際に使われているんです。吹き替え版ではなく英語版を見るとわかりますが、宇宙船の自動操縦ロボットの声が、Mac用の読み上げソフトの音声を当てているんですね。そういう技術で映画が作られているのは知っていました。
ーー撮影時はリアルタイムで上山さんと会話をしていましたが、これはどうやって撮ったのですか?
下向:本当はその場で読み上げをしたかったんですけど、それはなかなか難しいので、一回読み上げしたセリフを録音して、車内のスピーカーで再生しました。
ーー映像の色にもこだわりを感じました。ブルーを基調とし、携帯の音声だけが赤く光っていて、とても印象深かったです。
下向:撮影に入る直前までは、どういう色で撮るか迷っていたんですよね。カメラのホワイトバランスを調整すると、オレンジっぽくなったり、青っぽくなったりするんです。どっちがいいかすごく迷っていたんですけど、内容的に暗い話なので、寒色系が合うだろうってことで、青っぽい色に統一しようと決めました。
ーー上山さんは、演じている最中は意識されなかったと思いますが、出来上がった映像を見てどう思われましたか?
上山:すごい綺麗に撮ってもらっているって感じましたね。僕自身も自分でカメラ回して映像を作ったりしたこともあるんですけど、それまで気をつけて撮っていなかったので、これどうやって撮ったんだろうって思いましたね(笑)。
ーー何人くらいのスタッフで撮影されたのですか?
下向:カメラを回しているのは自分一人だけなんですけど、あの車の中に他にもう二人います。一人は録音した音声を再生する人です。音声のタイミングが全て固定だと演者はやり辛いので、俳優のセリフや間に合わせて再生ボタンを押す係です。もう一人はサブで、車のロックを空けたりかけたりする係と兼任で音声ですね。マイク使ってるんで、その音声チェックをしてもらって。
ーー撮り直しを含め、何回くらい撮影されたのですか?
下向:あんまり覚えてないんですけど、7回くらいは。撮影地が愛知だったので、大阪にいる上山くんに午前中愛知まで移動してもらって、午後1時くらいから稽古し始めて、暗くなってから本番やって、7時くらいだったっけ?
上山:そうですね。晩ご飯食べてからやりましたね。
下向:終わったのが夜の12時すぎなんで。
上山:ちょうど、劇中のリアルタイムぐらいの時間に最後撮って。それでOK出たって感じですね。
ーー"15分編集なし"の制約は厳しかったですか?
下向:そうですね。15分一発撮りはかなりキツかったですね。ミスできないプレッシャーがあったりとか。あとは、撮影であまりチャレンジングなことができなかったです。カメラワークはアドリブで撮ってたんで、撮影は難しかったんですが、脚本はいい具合に綺麗にまとめられたかなと思ってます。
ーー演劇は後から編集できないので、「演劇動画」もそれに倣って編集なしという制限を設けています。そこが映画とは違うところですが、今回撮影をしてみて感じたことはありますか?
下向:自分は映画畑の人間なので、ついカット割りをしたくなっちゃうんですよ。参加してくれてる役者もプロじゃないので、セリフを全部覚えたりもできないですし、社会人で土日しか撮れないから稽古の時間もないんで、カットを割って一つひとつ撮っていくスタイルだったので、今まで長回しはやったことがなかったんです。ですが、自分は三谷幸喜さんが好きで、三谷さんの映像で『大空港2013』を見ていた時、ワンカットで一発撮りというのをいつかやってみたい気持ちがありました。そんな時、QSCがあると知って、自分にぴったりだと感じてチャレンジしようと思いました。自分としては、映画とか演劇の境目というのはあんまり気にしなくていいのかなと。映画も演劇もどっちも好きですし、これは演劇だからどうとか、映画だからどうとかいうのはあまり意味がないとずっと思っていたので、そんな中で両方を混在させたハイブリットな企画としてすごく面白いなと感じてました。
ーー上山さんは「演劇動画」にチャレンジされていかがでしたか?15分、間違えちゃいけないというプレッシャーがあったと思いますが。
上山:高校で演劇をやっていた時は、それこそ何回も何回も稽古して本番一発で、というのは全然苦なくできたんですけど、大学に入ってからは短いカット割りに慣れてきていたので、久々に舞台ならではの緊張感はありました。撮影の時はシーンの長回しという感じでやってはいたんですけど、15分一発っていうのは今までやったことがなかったんで、ミスできないという一心でやってました。7回の撮り直しは全て僕のミスだったので、7回目は本当に何回も付き合わせて申し訳ない、もうミスできないなとそういう一心でやってましたね。
下向:イライラしてたもんね。
上山:逆に、何回も撮り直して、焦燥しきっていい味が出たなと(笑)。完成した映像を見て改めて、「あ、なんかマジでそんな感じに見えるな」って。
ーーところで、エンドクレジット前の、のっぴきならない事情についてもお話しされたいとか。
下向:「長い」と母親にも言われたんです。あの"N.O.A."が回っている映像はビデオアプリで再生しているんですが、ユキナの持っているスマートフォンで再生されるので、最初は電源が付いてないんです。で、急に電源がついて話しかけるという設定なので、上山くんがスマートフォンを開いて、自分で再生しないといけなかったんです。ところが、割れているように見せるためスマートフォンに被せたプラスチックのカバーのせいでタッチの性能がちょっと悪くなっていて。それで、ちゃんと開けれるかどうか不安だったんで指紋認証で開けるようにしてたんですね。そうすると、再生ボタンを押すだけで再生できるはずだったんですけど、撮影時になぜか開かなかったんですよ。仕方がないので自分が上山くんからスマートフォンを受け取って、自分の指紋で開けて再生ボタン押して上山くんに返して、カメラを下に向ける作業をしてました。
ーー撮影しながらやったんですか!?
下向:そうなんです!
上山:本当は僕が開けないといけなかったんですけど、やばい、開かないって。視界外で渡してやってもらって芝居をしてました。
下向:その分、エンドクレジット前の間が10秒くらい長くなっています。
ーーそんなアクシデントがあったのですね。様々な状況を乗り越え、技術や工夫によってあの作品が出来上がったことがわかりました。改めて今回、げきぴあ賞とグランプリを受賞したお気持ちを聞かせてください。
下向:授賞式に向かう時に、全く誰にも触れられなかったらそのままサっと帰っちゃおっかって話してたくらいなので、受賞するなんて全然考えてなくて。でも、受賞するならげきぴあ賞がいいなと思っていたところ、最初にげきぴあ賞をいただいて、すごいテンパってしまいました。それでもう目的は達したなと思っていたら、審査員の方にも名前を挙げていただいて、最後、鴻上さんに名前を呼んでいただいて、本当にすごいびっくりしました。グランプリを獲りたいというよりも、作品をいろいろな方に見て欲しかったので、それで著名な方々に見ていただき、コメントをいただけたのがすごい嬉しかったですね。
ーー印象に残っているコメントはありますか?
下向:そうですね、審査員のコメントは三者三様だったんですけど、皆さん自分の意図していることを言ってくれてすごい嬉しいなと思いました。野宮さんはサービス精神溢れると言ってくださって、自分としては第一にお客さんに楽しんでもらいたいっていうのがあったんで、そこを志して作ったところを評価いただいたんだと思ってます。鴻上さんは心の旅と仰ってくださり、脚本を作る時に人物の成長は大事だなってと思って作っていましたし、行定さんはSiriについてお話されていて、上山くんに当て書きしたように、Siriにも当て書きをしたので、そこを評価していただけたのが嬉しかったですね。
上山:1位の発表の時までは、2票しか入ってなかったんですけど、最後にふたりの審査員の口から1位「N.O.A.」と出て"ほんとかよ"って。正直、さっきも下向さんが言っていたように「まぁ無理なんじゃないの」と。それこそ本当に一票も入らずに話題にもならずに終わってしまうことも考えていたので、まさかふたりの方に一番いいと言っていただけたのは本当に嬉しかったです。あとはノミネートの生放送をリアルタイムで観てたんですけど、その時に「N.O.A.」って出た時もすごい嬉しかったです。ノミネートされた他の作品も見たんですけど、役者の立場からしたら、皆さん演劇出身の方が多く演技のクオリティがすごく高くて、あ〜俺って下手くそだなって自分のアラが目立ってばかりいたんで、正直獲れるって全然思ってはいなかったから、本当にもう信じられないくらい嬉しかったです。
ーーちなみに、グランプリの賞金の使い道はもう決まっていますか?
下向:それについては、授賞式の前日にツイートしちゃったんですよね。もし、グランプリが獲れるようなことがあったら次回作に使いますって書いちゃったんです。なので守らなきゃいけないなと思って。
ーー具体的に予定はあるのですか?
下向:まだ具体的にはないんですけど、アイディアはいっぱいあるので、どういうのをやっていこうかなって迷っている感じですね。
ーー次回作が決まったら、ぜひ教えてください。ご活躍を期待しています。
下向・上山:ありがとうございます。
取材・文:金子珠美(ぴあ)