■『RENT』2015年 vol.6■
ミュージカル『RENT』連載中のげきぴあですが、今回はマーク&ロジャー鼎談をお届けします!
ミュージカル『RENT』連載中のげきぴあですが、今回はマーク&ロジャー鼎談をお届けします!
ストーリーの中心となるマークとロジャーですが、今回はいずれも新キャスト。
『RENT』との出会いから、彼らが現在抱いている『RENT』への思いなど、じっくり伺ってきました。
◆ 村井良大×堂珍嘉邦×ユナク INTERVIEW ◆
最近、明るくなったねって言われます。
変わっていく自分が新鮮です(ユナク)
――稽古も進んでいるようですが、『RENT』2015年カンパニー、どんな感じですか?
村井「めちゃくちゃ、仲良いです」
堂珍「最初のときからもう、仲良くなりそうな感じだったよね。みんなが顔を合わせたのは、製作発表の時だったんですが、すでに男子楽屋はのんびりとした、いい感じだった。ソニンとかジェニ(ジェニファー)とか、今までにも『RENT』に出ていたキャストが「あれ? もうこんなに仲良いの?」みたいなことを言ってて」
村井「TAKEさんと加藤(潤一)さんは「うちらはもう見ているだけでいいね」みたいな感じで。前はコリンズのふたりがみんなをまとめて支えている、って感じだったらしいんですが。今はふたりとも、楽しんじゃって「あとは任せた!」って」
――ユナクさんは、堂珍さんのファンだったとか?
ユナク「だった、じゃないです。今もファンです。現在進行形」
堂珍「ING...。Thank you very much. ...中一の英語や!(笑)」
――まだ、緊張はします?
堂珍「全然、大丈夫だよね」
村井「ちゃんと(普通に)話していますよ」
ユナク「緊張は...していますよ(笑)。でも、みんなで騒いだりするときも、(堂珍さんが)一番話しかけたりしてくれて。ほかのみんなとは結構、友だちみたいにしゃべっているんですが、やっぱり堂珍さんにはできないですね」
堂珍「そう言ってくれるのはすごく嬉しいんですが、村井ちゃんとかが、あまりに俺に対して上から来るから。おい、その姿をユナクにあまり見せるんじゃねーぞ?(笑) ま、冗談ですけど」
村井「嫌なの? 嫌なの?」
堂珍「...嫌じゃない(笑)」
ユナク「そういうやりとりも、最初は「えーっ」って思って見てたんですが、いまは慣れてきました(笑)。ずっとこんなかんじだから。僕、すごいシャイなんですよ。でもみんなでいるのがすごく楽しくて、(超新星の)メンバーも、なんか最近、ユナク明るくなったねって言ってます。変わっていく自分が新鮮です」
――堂珍さんとユナクさんは同じ役を演じますが、ふたりで役作りに関して話し合ったりはするんでしょうか?
ユナク「ロジャーに関しては、していないです」
堂珍「しないですね。まだ今は、それぞれ自分のことで、いっぱいいっぱいだったりもしますし」
ユナク「稽古も一緒にやったことは、一度もないんです。今日(※稽古場レポートPart1、2の時)が初めて」
堂珍「多分わざと一緒にやらせていないんだと思うんです。だって一緒にやっちゃうと、本当に同じ動きになっちゃって、同じことすればいいんじゃん、ってなってしまうかもしれないでしょ。そうするとWキャストの意味ってあるのかな...ってことになってしまうかもしれない。俺、Wキャストって初めてなので、普通がどうなのかわからないんですが」
村井「僕もこういう作り方をするのは初めて。今回、オフブロードウェイで上演された2012年の新演出版を、完全に日本版でやるということで、動きも立ち位置も、何をこうする、ということも、すべて決められているんですよ。ロジャーと一緒に稽古したときも「ここでこういう動作を」とか、「ロジャーは絶対足を組んじゃだめ!」とか、すごく細かいんだよね」
ユナク「そう、なんか、厳しい...」
村井「そうなんです。ちょっとでも足の位置がずれると「ダメ! NO!」って言われるんですよ。それはもちろん、それなりの思いがあって、ロジャーはこういうもの、マークはこういうもの、っていう考えがあるんです。でも最初は、それと自分の感情をすり合わせるのが精一杯で」
堂珍「うん、でもそれが大切なんだろうね。普通に考えて、一緒に稽古つけていった方が早いに決まってますし。決め事だけ決めておいて、あとは自分の味付けになっていく、そうなればいいんだと思うんです」
村井「今、ふたりのロジャーに挟まれて稽古していますが、結構もう、違ってきています。やっぱり性格も違うし、スタンスも違うから。堂珍さんなりのロジャー、ユナクさんなりのロジャーがあって、一緒にやってると楽しいですし、すごいワクワクしますね」
それぞれの『RENT』との出会いと、その印象
――そんな皆さんは、『RENT』初出演ですね。この作品との出会いを教えてください。
堂珍「僕は2010年、Anisさんがロジャーを演じていた時。彼とは知り合いの知り合い...みたいな感じで、実はあんまり話をしたことはなかったんですけど(笑)、それで観に行ったんです。そうしたら、Anisさんのバンドのメンバーも観にきていて、その後、そのメンバーが僕と一緒に音楽をやることになって。だから僕にとってはその時の『RENT』が自分のバンドのメンバーとの出会いでもあったんです」
――その頃の堂珍さんだと、あまり舞台と縁があるようなイメージがなかったと思うのですが...。
堂珍「そうですね、舞台自体をほとんど観たことがなかった。なんでかよくわからないけれど、連れていかれた、みたいなかんじで(笑)。ミュージカルを観るのもほとんど初めてに近かったかもしれません。でもすごくカッコよかった。演劇を観慣れていないせいか、話は正直わからないところもあったし、"だいたい"って感じで理解しちゃいましたが、でもカラフルな人たちがいて、独特の世界観だなと思いました」
――村井さんはいかがでしょう?
村井「マーク役でオーディションを受けると決まった時、まだ『RENT』を知らなくて。これは勉強しないとさすがにオーディションにならないと、映画版とブロードウェイ舞台版のDVDを借りて観ました。その舞台版を観た時に泣きました。僕、舞台のDVDを観て泣いたことがなかったんですが、初めて泣きました。なんでこんなに胸を打つんだろうと。それで自分なりのマークを持って、オーディションに挑みました。本当に衝撃的な出会いでしたね」
――誰に感情移入しました?
村井「もちろんマークを見ていましたけど、ロジャー&ミミあたりを、やっぱり追っちゃいますよね。わかりやすく感情移入できる。でも『RENT』って、主人公がどう変わっていくか...というような話ではなく、群像劇。その、各登場人物のバラバラの物語が最後、ひとつにまとまった時に、なんでこんなに感動するんだろう、というのは結構不思議で、いまだに解明できていません。今、稽古をしていく中で、この曲があるからこの曲がある...という風に全部逆算ができて、それで新しく胸を打つものがあるのですが、初めて観た時はそこまで考えていないし、ただ観て、観たまま感じる、それで今まで体験したことのない感情や感動があった。心にぐっと入るんですよね。それがすごく楽しくて、これ舞台のDVDなのかってくらいびっくりして、本当に感動しました」
ユナク「それで言ったら僕は逆に、初めて観た時はマークが素敵だなと思って。流れを展開する役じゃないですか。今まで僕がやっていなかったキャラクターでもあるし。あと、一番最初のシーン。今がいつで、どういう状況で...ってマークが説明するじゃないですか。なんか、あそこで僕はグッときたんですよね。...僕は『RENT』は昔、一度観たことがあるんですが、その時は正直、理解ができなかったんです。ただ、いい曲がいっぱいあるなという感想。で、最初にこのオーディションのお話が来た時、僕の友だちが韓国で『RENT』に出ていてロジャー役をやっていたので、電話して「どう思う?」ってきいたら、「いや、やめた方がいい」って」
村井・堂珍「わはは!」
ユナク「喉がメチャやられるし、しかもお前ギター弾けないだろ? とか色々言われて...。で「わかった」って(笑)」
堂珍「そうだね、「うん、やめる!」とも言えないから、とりあえず「わかった」って言うよね(笑)」
ユナク「で、どうしようと思いながら、YouTubeを観たんです。その時『One Song Glory』という曲を聴いて、やってみたいなと思った」
――マークだと『One Song Glory』は歌えませんから、ロジャーで良かったですね(笑)。
ユナク「でもねー、やっぱりマークもいいんですよ(笑)。みんなの状況も知ってるし、気持ちも把握しているから、すごく素敵なリーダーって感じで。『RENT』の全体を手に入れている人はマークだから」
村井「稽古中も、すごく「マークいいよね、いいよね!」って言うんですよ。「マーク、爽やかでいいよ!」って。マークって、一歩間違えると、あまりスポットが当たらない役。少し引いて(みんなを)見ているし、他のキャラクターの個性が強いじゃないですか。だからそんなにマークを見てくれていてありがとう...と思っています。こんなにマークを思ってくれるロジャーもいないだろうなって(笑)」
この作品は、
みんなにとってターニングポイントになるし、
次の5年、10年先の生き方に関わってくると思う(堂珍)
――マークのことが大好きなロジャーも、2015年版の見どころのひとつ、ということで(笑)。少し話題を変えますが、『RENT』は20世紀末の話。初演当時は「現代社会を切り取った」というような評価をされていましたが、いま2015年に上演するにあたって、思うところはありますか。今とはやっぱり違うなと感じるか、それとも同じ問題は今もあると感じるか、など...。
村井「現代に似ているところもあるかもしれないんですが、アンディ(日本版リステージのアンディ・セニョールJr.)も、その時のNYは...という話をよくするので、今の時代と照らし合わせてということより、1991年のお話として考えています。やっぱり1991年の、HIVがはやっていた時代の物語であり、今は当時ほどの状況ではないですから。でもこの当時の混沌とした時代に、もがいて、生きている人間たちを、自分たちなりにちゃんと理解してやらないと意味がない。さっき、演出でどこに動くというのはすべて決まっている、という話がありましたが、それだったら誰がやっても同じじゃないか、とはならないのは、色々な人間がいて、それぞれの解釈があり、みんながそれに対して前向きに、何かを掴もうとしているからだと思う」
堂珍「あと、時代も国も違うので、ジョークがイマイチわからなかったりしますし、正直、英語から日本語に変換された部分でも、この言葉を変えたいなと思うところがあったりもするんですよ。現時点ではそれが実際に変わるかはわからないんですが、でも意味や思いをちゃんと掴んでいれば、言葉のハンディキャップも乗り越えられると思っています。そこはやっぱり、歌声だったり、気持ちやお芝居だったりしますから」
村井「僕はTAKEさんがお話していたのを聞いて、なるほどなと思ったんですが、2015年にやるからこそいいのかもと。TAKEさんが前回出演した2012年の時にやったものと、今やるのとでは、何か伝わり方が違うというお話をしていて。つまり、愛について語っている作品じゃないですか。2012年の上演時は、前年に<3.11>があったばかりで、そんな中で"愛が大事なんだ""人と人のつながりを大切にしよう"ということを歌い上げる作品をやるのは、僕はすごく伝わるんじゃないかと思ったんです。そうしたらTAKEさんが「逆に伝わらなかったかも」と言って」
堂珍「なんで?」
村井「たぶん、それはわかってるよ、と...。伝えたいけど、3.11のあとで、余計に伝わらない」
堂珍「なんでもかんでもそういうことに繋げて話すんじゃないよ、ということかな。だからいったんそういう空気がちょっと落ち着いて...もちろん問題は落ち着いていないけれど...」
村井「そうそう。色々なことはまだあるけれど、2012年より2015年の今だからこそ、冷静に、伝わるものがあるんじゃないかなと話していたのが、印象的だった」
堂珍「俺はね、キャストに関して言うと、『RENT』初めての人から2回目、3回目の人、色々いるけれど、今回2015年はそれぞれが"満を持して"挑んでいる感じがする。みんなが円熟してきているというか」
村井「わかるわかる!」
堂珍「初めての俺が偉そうに言えないけど、みんな2012年からの3年間でスキルも上がってるだろうし、人間力も上がってるだろうし、解釈も深まってるだろうし。2回目3回目の人は、あの時できなかったことを今回トライしようと思ったり。そこにこの3人みたいな新しいキャストが加わると、面白いですよね。俺らも、どうやってやってやろうかな、と思っているし。色々な力がいま稽古場で働いている。"タイミングが良かった"、俺はそう思います」
――"タイミング"ですか。
2015年版『RENT』、見とけよ!くらいの気持ち。
覚悟しておいてください!(村井)
覚悟しておいてください!(村井)
村井「確かにそうかも。前回出演していた人だけでなく、全員が3年間で成長して変わって、それがちょうど、みんないいタイミングで集まった。僕も今まで、色々とストレートプレイをやらせていただいて、今回翻訳ミュージカルの出演は初めてなんですが、ここで歌に挑戦することは、僕の年齢的にもひとつのステップアップになるし、役者人生的にも、いままでの舞台で培ってきたものをここにぶつけられると思う。ユナクはユナクで、いままで自分でやってきたものが、『RENT』でどう変わるかというのを絶対に考えていると思う。いいタイミングなんだろうなって思います」
ユナク「そうだね~」
堂珍「長い人生を見たときに、小さかれ大きかれ、この作品はみんなにとって、結構なターニングポイントになると思う。それでもって、次の5年先、10年先の生き方に関わってくると思う。この作品はエイズとかセクシャルマイノリティとか、そういうテーマもありますが、いつ死んでしまうかわからないということや、自分に対しての葛藤があったりする。それは自分に向き合うってこと。結局、お芝居をする時や歌を歌う時は、自分の人生を振り返って、その中から爆発させるしかないんです。でも作品を作るときに、ここまで自分自身と向き合って、自分の歩んできた道を確認することって、なかなかないから。だから、この作品は良いんじゃないかな」
村井「よしくん、いいこと言うね~! 本当に、お芝居には人生が出るので。...歌もそうだと思いますが」
堂珍「そうそう、その方が面白いよね。でも俺がそう思えるようになったの、30歳超えてから。今までは「上手いな、すげえな」くらいしかなかった。今は、背中をみせてくれる人とか、仕事っぷりがいい人とかみたりすると、「いいなあ」って思う」
村井「そういう意味では、今本当に、手を抜いてやっている人はひとりもいないです。むしろ2015年版『RENT』見とけよ! くらいの気持ち。今回のキャストって、全員が尊敬できる人間なんですよ。みんな素敵なパワーを持っている。そういうみんなを見ると、自分も成長させてもらえるし、しなきゃと思う。でもそのみんなも、たぶん『RENT』のパワーで成長できているんだと思う。みんな急激にお芝居に対して向き合っていっていますし、急激に成長していっていますよ。アンディすら、「僕でさえ、いま初めて気付くことがたくさんある」と仰るんです。それは、アンディ自身も成長しようと思っているからだろうし、僕らもそれに乗っかって一緒に上がっていきたいと思っている。...ホントに覚悟しておいてください!(笑)」
――皆さんの人生をも背負った『RENT』をしかと見よ...ですね。最後に、今の話ともきっと重なるところもあるのかと思いますが、『RENT』が世界でこれだけ愛されてるのは、なぜだと思いますか。
村井「一番難しい質問ですね。けど、すごく簡単なんだよな。「みんな好きだから」、かな。この作品には魂が宿ってるから。それは、それこそオフブロードウェイでの初演、ゲネ前日に作・演出家が亡くなってしまって、それでも公演をしたというのも凄いことだし、勇気だと思うし、魂を引き継ごうという意思でもあるんだと思う。すごいエネルギーが詰まってる作品。それに、色々な人が演じてきているけれど、演出が変わっても曲は変わらないし、音楽に命が宿っている。理屈じゃない、感情で聴ける曲だから胸を打つのかなと思います」
ユナク「僕はやっぱり、あんまり普通には扱ってない課題を扱っているからじゃないかと思います。HIVとかレズビアンとかゲイとか。あまり知られていない世界を見せるから、気になる。でも実はそんな遠いものじゃないよ、と。しかも曲もいい、キャラクターもみんなそれぞれパワーがあるし個性的。みんな主役。色々楽しめる。だから愛されているんじゃないでしょうか」
堂珍「実際、世界でどれだけ愛されてるのかというのは、まだ目の当たりにしていないからまったくわからないんです。ただ今年の『RENT』はすっごく良かったって言わせなきゃだめだと思っています。みんなひたむきに、いい作品にしようと作品に向き合っています。それでいいんじゃないかなって思うんです」
取材・文・撮影:平野祥恵(ぴあ)
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9月8日(火)~10月9日(金) シアタークリエ(東京)
10月16日(金)~18日(日) 森ノ宮ピロティホール(大阪)