今年正月、『ルパン三世』の舞台化で話題をさらった、早霧せいな率いる宝塚歌劇団雪組。
その、新体制となった雪組の2作目となる公演『星逢一夜(ほしあいひとよ)』『La Esmeralda(ラ エスメラルダ)』がまもなく開幕します。
6月に行われたこの作品の制作発表会見の模様をお届けします。
会見は、『星逢一夜』のパフォーマンス披露からはじまりました。
『星逢一夜』は、江戸時代中期の九州、とある藩で起きた叛乱を背景に、藩主の息子・天野晴興(紀之介)と、身分なき娘・泉との恋、そして晴興の親友であり、泉に思いを寄せる源太との三角関係を哀切に描くもの。
パフォーマンスは3人の子ども時代からスタート。
身分も関係なく、星見に興じる3人が、大人になり、それぞれの切ない思いを胸に秘めていく姿を丁寧に演じていきます。
雪組が誇るスターたちの子ども姿、なんと可愛いことか...!
左から 咲妃みゆ、早霧せいな、望海風斗
無邪気な少年時代は過ぎ、大人になっていきます。
天野晴興役、早霧せいな
泉役、咲妃みゆ
源太役、望海風斗
10分以上の芝居仕立ての、充実のパフォーマンス!
会見パフォーマンスで早替えが入ったのは、初めてのことではないでしょうか...。
芝居心のある雪組3人...ということもあり、会見での披露とは思えない、素晴らしいものでした。
『星逢一夜』という作品への期待感が高まります。
この公演に対し、小川友次理事長は「新生雪組にとっては大劇場公演2作目。2作目というのは非常に大事」と語り、さらに「早霧率いる雪組は彼女の真摯な態度、人間性、そういうものが雪組に溢れていてこの公演をするのにぴったりだと思っている」とも。
『星逢一夜』の作・演出は、上田久美子。
デビュー作『月雲の皇子』が大評判となった注目の若手演出家で、本作が宝塚大劇場デビュー作となります。
「今回、早霧、咲妃、望海を中心とした雪組で何か作品を、となった時に、まず最初に考えたのは、3人とも芝居巧者といわれる役者たちであり、特に内面の精神的なものが魅力的だと思っていたので、それを最大限に引き出せるものにしたいと思いました。おかしな例えですが、すごく新鮮な魚のようなもの。誰もが好きなからあげにすればお子様からお年寄りまで美味しく食べれますが、やっぱり本当に新鮮でそれ自体がおいしい魚だったらお刺身だろう、と。そういうあまり飾りのない、虚飾のないものにしたかった。
日本物で田舎を舞台にしているということで、華やかなセットや宮殿や軍服といった、外から助けてくれる要素はありませんが、中身で、その人たちから滲み出てくる味わいを味わっていただきたい。本当においしいお魚であれば、生魚が苦手な人でもおいしいと気付くことができる、和物も面白いなと思ってもらうことができるのではないかと考えました。ですので、この3人であればと思い切って、日本物のお芝居に挑戦しようと思った次第です。
日本物でしか出来ない情の深い世界や、日本人独特の義理と人情の間で揺れ動く激しい葛藤、そういったものをお見せしていけたら。3人の熱演と雪組みんなの熱演をお楽しみにお待ち頂ければと思います」
一方ショー『La Esmeralda』はヨーロッパ・ラテンがテーマ。演出を手掛けるのは齋藤吉正。
「充実の雪組であり、早霧せいな率いる雪組の第2ステージ。前回の大劇場公演が『ルパン三世』『ファンシー・ガイ!』という、とても賑やかで楽しいお芝居と、宝塚の王道のレビュースタイル、バラエティ・ショーでしたので、今回はヨーロッパ・ラテンという趣向をこらしました。
宝塚の5組の中でも早霧・咲妃・望海というトップスリーは、宝塚が誇る魅力的なトリデンテだと自負しています。そんな早霧のショーの代名詞になるような作品を目指して制作に励んでおります。
いま宝塚は『1789』(月組)、『王家に捧ぐ歌』(宙組)と1本立てが続いています。久しぶりのショー作品ですので、お客さまの期待やプレッシャーも感じながら、今の雪組の充実ぶり、華やかさ、高いスキルを皆様にご覧頂きたいと思っています。この今日参加している3人だけでなく、雪組には本当に個性的で楽しみな人材がたくさんいます。そんな生徒たちの見せ場もたくさんあります。この夏休みに、この早霧率いる雪組と、南ヨーロッパの旅行を一緒に感じていただければという思いで製作しています。野球に例えると上田が先発し、僕がクローザー。久しぶりの宝塚オリジナルの2本立ての作品をご期待ください」
レベルの高いパフォーマンスを見せたばかりの、雪組トップスター早霧せいなは次のようにご挨拶。
「先生方も仰っていましたが、私たち雪組がこの体制になって2作目。大切な公演だと思っております。その大切な公演が宝塚オリジナルの芝居とショーの2本立てということが、私にとっても幸せなこと。この2作品で、今の雪組らしさと、そして雪組が輝いている姿をお客さまにお届けして、そのお客さまが私たちと共に楽しんでいただける舞台を目指したい」
トップ娘役の咲妃みゆは
「今回はお芝居・ショーと2本立て。私自身まだまだ未熟ですが、出演者の皆さまと手を携えながら、先生方のご指導のもと、素敵な2作品に仕上がりますよう全力でお稽古に取り組んでまいりたいと思います」と簡潔な言葉ながらも意気込みを。
望海風斗は
「お芝居では、三日月藩ですくすく育った大らかさと、咲妃演じる泉への思いと、早霧さん演じる紀之介(晴興)との友情、そして心の揺れ動きを大切に演じて、"新鮮なお刺身"となって(笑)板の上に乗りたいと思っています。そしてショーではラテンショーということで今から血が騒いでいます。暑い季節の熱い公演、熱い早霧さんにしっかりついていってショーを盛り上げていきたい」と話しました。
この3人に対しての、上田・齋藤 両演出家は次のように期待を語ります。
まず上田さんは「今回の役の上では、男役ふたりともタイプは違いますが"優しい人"という設定。早霧の方はどちらかというと積極的、望海の方は控えめ・穏やかですが、基本的に優しくて、心根がまっすぐ。そこはふたりの持ち味から私が感じたもの。宝塚ではだいたい、男役がふたりいると"白と黒"という描かれ方が多いですが、ふたりの奥底から感じる、まっすぐで情があるというところががかなり似ていて、しかもそこが長所だと思うので、その出し方を変えて、役に投影しました。舞台人としての魅力もそこにあると捉えています。
咲妃はどちらかというと、女性特有の情念みたいなものがすごく強いという印象。恋みたいなものを客席に届けることが出来るタイプの役者ですので、今回もそのような役を描いたつもりです」と、彼女らの魅力と、それをどう役柄に反映したかを話しました。
一方齋藤さんは「3人に共通し感じるものは、誠実であり優しさ。そのイメージのそのものプラス、それを覆す部分を出していくのもショーの役割、楽しみだと思っています。
早霧の従来の持ち味だと情熱、パッションというものがそのまま今回のショーのコンセプトにダイレクトに、ひらめきを与えてくれています。いつも一緒に仕事をしていて、彼女のまっすぐなところが印象的で、すがすがしささえ感じる、まさしく"ファンシー・ガイ"じゃないですが、ナイスガイ、雪組のいいリーダーだと思っています。燃える赤という印象でしょうか。
咲妃は上田の方からも話が出ましたが、彼女のデビュー作『月雲の皇子』のイメージがとても強い。彼女の芝居が作品に強いインパクトを与える、類まれなセンスを持った女優だと思っています。彼女のそういう情念や混沌といした部分と、持っているビジュアルの優しさ、おとなしさから感じるギャップを、ショーの中でも見せられたら。お芝居のイメージがとても強い子ですが、オープニングから彼女にはどしどし踊ってもらおうと思っています。
望海は花組から移籍してきた、早霧を支える頼もしい準リーダー。彼女の黙々としたストイックさ、逆にそこまで頑張って身体壊すなよ...と心配してしまうような、常に自分に満足しないでひたすらと目標に向かって進む姿は、こちらもとても元気付けられます。早霧の赤に対して、まっすぐでクールな青というイメージがありますね。
咲妃についてはこれからショーの中で様々な色に変化していってもらおうと思います。ご期待ください」と、色にたとえわかりやすくその魅力を語りました。
さらに出演者の皆さんは、作品の魅力を次のように語りました。
早霧「最初に台本を読んだ瞬間から、この『星逢一夜』という作品の持つパワーをとても感じました。そのパワーというのは先生が仰っていたように、人の心を大切にするという意味で強く感じ、そしてその素晴らしい台本がある以上、私たちが責任をもってお芝居に心を通わせて、お客さまに伝えていきたいと思っています。本のパワーに自分自身が感動し、この作品を絶対に良くしたいという気持ちが生まれたので、この気持ちを東京の千秋楽までけして忘れずに観てくださるお客さまに伝えていきたなと思います。
私の演じる紀之介(晴興)という役は、幼い頃に出会った里の仲間から離れ、ひとりで江戸で孤独に生きていく男。10歳から32歳までを演じさせていただくのですが、表にはっきり出さない紀之介の心の動きを、しっかり一場面ごと打ち出していきたいと思っています。
ショーについては、実は前回ラテンのショーに出たのは、齋藤先生の『RIO DE BRAVO!!』(2009年)のとき。身体の芯から熱くなるようなショーでした。今回もそれ以上に、雪組のみんなと先生とともに、熱い熱いショーにできればと思っています。
このお芝居とこのショーの2本立ては、一度で二度美味しいと、たぶん観てくださるお客さまにも感じていただけるんじゃないかなと、なんとも言えない自信があります。お芝居では心を動かしていただいて、ショーでは身体を動かしていただいて、共に私たちと楽しんでいただければ」
咲妃「『星逢一夜』は私も初めて台本を手にした時に、日本人ならではの心の奥底に秘めた、人を思いやる気持ちを感じました。私の演じる泉にも、移ろいゆく時間の経過の中でも変わらない何かを信じて大切に強く生きるという人物だと思います。そしてお芝居の中でたくさんの人が登場し、言葉を交わし、生きていくのですが、その繋がりというものも魅力のひとつだと思います。
ショーでは、私はラテンのショーに出演させていただくのが初めてで、喜びと不安が交互に押し寄せてきていますが、齋藤先生のお話を聞くだけでもなんて熱く、爽やかで、めまぐるしくまぶしいショーなんだという印象を受けました。お客さまにも私が最初に感じたその印象がダイレクトに届けば嬉しいです」
望海「『星逢一夜』は最初に台本を読んだ時に、すごく綺麗だなと思い、さらにその綺麗さの中に心を動かされるものがあり、最後になぜか懐かしさが残る作品だなと感じています。人の情や、今は少なくなってきているまわりとの助け合いがあたりまえの時代の心温まるものが描かれているので、そういうところを大切に演じていきたいです。
源太は優しい人ですが、ただ優しいのではなく、誰かを...泉のことや紀之介のことを思う優しさがとてもある人。どんどん肉付けしていくというよりは、削ぎ落として削ぎ落として、本当にシンプルなところで演じたら、きっと源太という人が生まれてくるんじゃないかなと感じています。自分の中のシンプルなものを信じて作っていきたいなと思っています」
どんな作品が生まれるのか、楽しみですね!
【公演情報】
・7月17日(金)~8月17日(月) 宝塚大劇場(兵庫)
・9月4日(金)~10月11日(日) 東京宝塚劇場
取材・文・撮影:平野祥恵(ぴあ)