歌舞伎俳優の中村勘九郎さん、七之助さん兄弟が初めて新派に出演する、新橋演舞場「十一月新派特別公演」を観てきました。
この公演はふたりの祖父、そして父である十七世中村勘三郎の二十七回忌と十八世中村勘三郎の三回忌追善興行です。
ところで、"新派"を観たことがない方にとっては、どんなお芝居なのかも分かりませんよね。
"新派"とは演劇の中のひとつのジャンルだと思ってください。
明治中期に入ると、それまで芝居の主流だった歌舞伎(旧派)に対し、当時の庶民にまつわる人情噺や花柳界を描いたものを新派(=新派劇)と言います。
明治、大正、昭和初期の時代を舞台に、日本人の情緒や生活、価値観などをリアルに描いたものです。
さて、ではなぜ"新派"で歌舞伎俳優の追善興行が行われるのか?も気になりますよね。
実はこれにも納得の理由があります。
十七世は昭和36年に新派に初出演して以来、幾度となく新派公演に出ています。娘の波乃久里子さんも新派女優ですしね。
十八世は若干19歳の若さで新派初出演を果たし、その後もたびたび新派公演に出演されていました。
なかでも、今月上演している『鶴八鶴次郎』の鶴次郎役は、十七世、十八世が何度も演じてきた、いわば中村屋にとっては縁の演目なのです。
その鶴次郎役を勘九郎さんが演じ、相手役の鶴八ことお豊役を七之助さんが勤めます。
物語の舞台は大正時代の東京。
"鶴八鶴次郎"とは、新内(新内節の略で浄瑠璃の一派)のコンビ名のことです。
鶴八は初代の母の後を継いだ二代目で、女ながらに三味線の名手。
鶴次郎の素晴らしいノドと合わさると観客からは絶賛され、名コンビと言われています。
ところがこのふたり、心の中ではお互いのことが気になっているくせに、こと芸の話となると激しく意見がぶつかりあい、しょっちゅう喧嘩をする始末。幕開きから勘九郎・鶴次郎と七之助・お豊の激しい応酬がはじまります。
『鶴八鶴次郎』左より鶴賀鶴次郎:中村勘九郎、鶴賀鶴八:中村七之助
それにしても勘九郎さん、わっ!と思わず息をのむほどお父様に口調がソックリでした。
第二幕は鶴八の亡き母の遺骨を納めに鶴次郎と一緒に行った高野山での場面。この場はとにかく綺麗で、いわゆる名場面です。
チラシをご覧になった方はピンときたかもしれませんが、鶴次郎の後ろからお豊がそっと手を添えている写真は、この場面のとあるシーンを再現しています。
お豊が月を見上げて言う台詞があるのですが、何ともいえない色気があって、うっとりと見つめてしまいました。
『鶴八鶴次郎』左より鶴賀鶴八:中村七之助、鶴賀鶴次郎:中村勘九郎
そんな幸せいっぱいな鶴次郎とお豊でしたが、人生いろいろあるなとしみじみ感じてしまう展開になっていきます。
この時代に「生きる」とはどういう事なのか。
男の生き様と切なさに思わず胸が熱くなりました。
ふたつ目の演目『京舞』は京都の舞"井上流"のお話。
家元の三世・井上八千代こと春子と内弟子・愛子を軸に、芸への執念を描いた傑作です。
実は、十七世勘三郎がこの春子を演じる企画が持ち上がり、大いにはりきっていたところ、初日直前に病気で倒れてしまい、当時水谷良重を名乗っていた二代目水谷八重子さんが代役を勤めました。その時愛子は十七世の娘・波乃久里子さんが演じています。
そんな縁もあり今回の追善興行の演目に選ばれたのだとか。
今月は、春子を八重子さん、愛子を久里子さんが勤めます。
さらに、愛子の夫・博通を勘九郎さんが演じます。
『京舞』左より片山愛子:波乃久里子、片山春子:水谷八重子
物語のベースは京舞一筋に生きた女たちの激しくも感動的なお話ですが、随所で披露される京舞もみどころのひとつ。
『京舞』左より片山愛子:波乃久里子、片山春子:水谷八重子
さらに、特別企画として、劇中に"追善ご挨拶"があり、勘三郎さん縁の著名人が舞台上に登場します。明石家さんまさん、江川卓さんなど各界から超豪華メンバーが、全41ステージすべて異なるゲストですよ!
贅沢ですよね〜。
それだけ勘三郎さんが多くの方々に愛されていたのだと、あらためて思いました。
「『京舞』劇中追善ご挨拶」
「『京舞』劇中追善ご挨拶」右から中村勘九郎、石井ふく子、波乃久里子、中村七之助
「『京舞』劇中追善ご挨拶」左から水谷八重子、中村七之助、波乃久里子、石井ふく子、中村勘九郎
そんなわけで、新派を堪能した一日でした。
公演は11/25(火)まで上演しています。
新派が初めての方もこの機会にぜひご覧になってみてください。
◆公演情報◆
十一月新派特別公演
十七世中村勘三郎二十七回忌追善/十八世中村勘三郎三回忌追善
「鶴八鶴次郎」「京舞-劇中追善ご挨拶申し上げます-」
2014/11/1(土) ~ 11/25(火)
新橋演舞場 (東京都)
出演:中村勘九郎 / 中村七之助 / 柄本明 / 近藤正臣 / 波乃久里子 / 水谷八重子 / 他